「ふっ、ぁ……、にッ、二百円の、お返し、になります……っ」
僅かに揺れ動く声を発しながら、硬貨を客に手渡す高町桃子の柔らかな掌には、じっとりとした熱い汗が噴き出していた。
いや、それは何も掌に限った話では無く、彼女の全身に余す所無く蓄えられた熱気は、平常時のそれを遥かに上回るものである。
一児の娘を持つ身であるというのに未だ若々しく張りと艶を保持する美しい女の肌は、その火照りによってすっかりと赤みを帯びており、特に頬などはまるで食べごろの林檎を想像させるような鮮やかな朱に染まっていた。
小さく、細かく、時折急に激しくなる彼女の吐息にもまた、過分なまでの熱と湿り気が含まれており、唯でさえ人目を集める桃子の美しさを一際艶やかに彩るかのようだ。
「は……ぁ、ふ……ッ……はぁ………」
細やかに身体を震わせながら、退店した客の使用した食器を片付けていく彼女の姿からは、どことなく病的な雰囲気を感じられるようにも思える。
しかし、決して桃子は病を押して店に立っている、という訳ではない
それどころかむしろ、ここ最近の彼女の身体は、まるで一回りも二回りも若返ったかのような気力と体力に満ちているのを、本人も自覚している程だ。
では果たして、彼女の身体を苛んでいるその熱は、如何なる理由によって生じているというのか。
空になった皿を手に厨房の方へ足を運ぶ桃子は、そのぷっくりと肉厚な唇からひっきりなしに甘い吐息めいた物を零し続ける。
一歩、一歩と歩を進める度に、黒いエプロンとスカートに隠された小さな空間の中で、特にカウンターの中でグラスを磨く夫には感付かれないようにと、こっそりとすり合わせられる彼女の大腿部。
その両の足の付根を覆い隠す黒いショーツの中からは、すぐ側に耳を寄せてみなければ分からないほどに極めて小さく、小刻みな振動音が響いていた。
――――驚くことに。
高町桃子は、普段通りに店を切り盛りするその最中であるというのにも関わらず、衣服の下に卑猥な玩具を忍ばせ、その身に咥え込んでいたのである。
彼女の女として爛熟しきった股間と臀部の淫穴には、そのどちらともに、夫のそれよりも長大なバイブと巨大なアナルビーズが根本までズッポリと挿し込まれ、充血した肉の襞を震わせ、掻き回し続けているのだ。
無機質な機械に与えられる快感に広がりきった秘部の上部、完全に勃起している紅い真珠もまた同じように、丁寧に配置された幾つもの小さな卵型のローターによって囲まれ、覆われている。
それらは一時として休むこと無く、延々とその身を震わせ続け、そして時折無秩序な回転を繰り返しながら、桃子の身体の中に劣情の炎の源となる快感を送り込み続けていた。
既に、両の穴は蕾を通り越して大輪の花と言っても良い状態にあり、しとどに湧きだす蜜によって下着の中はこれ以上無いほど卑猥な湿度に浸されている。
彼女の感じている快楽の強さを物語るように、大量に湧き出し続ける、白濁し粘ついた淫液。
けれども不思議な事に、そうした溢れんばかりの雫が、ショーツの外部にその姿を現わしている様子は全く見受けられなかった。
「はぁ、ふっ、………は、――んんッ♡」
シンクの中に皿を置き、己の姿が客にも、そして夫からも死角となっていることを確認した桃子は、絶え間なく刺激され続ける劣情に突き動かされるように、その指先をスカートの上から股ぐらにそっと触れさせる。
外部からやって来た新たな圧感は、玩具の動きを更に濃密に感じさせる結果となり、彼女の口からは抑えきれぬ喘ぎがはっきりと漏れ出てしまう事となった。
他人にそれが届かぬようにと慌てて手を抑えつつ、しかしもう片方の指先は更なる快感を求めるように暫くの間幾度も股間を擦り続ける。
数枚の布を通してその指が触れる秘部を覆い隠しているのは、柔らかく、それでいて単なる布などよりも摩擦の少ないつるりとした感触。
彼女の下腹部の淫口がいくら貪欲に淫具を咥え込んでいようとも、一般的な薄い下着だけでそれら一つ一つを固定しきれる筈も無いのは自明の理である。
その為、現在桃子がその衣服の下に身に着けているのは、エナメルやラテックスにも似た質感と光沢を持つ、奇妙な肌触りの特別な肌着だった。
一見すれば水着の様にも見える、艶めく黒色に染まったショーツ。
それを手渡された時には既に内側に備え付けられていた卑猥な玩具の数々に、思わず生唾を飲み込んだ事を桃子は思い出す。
それらの位置や太さ、長さといったものも、まるで一流の仕立屋が誂えたものであるかのように、桃子の秘部のつくりと一切の違和感無く吸い付くようにフィットし、深い快感を生み出す。
加えて如何なる仕掛けが施されているのか、彼女の内側から溢れる劣情の証を、寸分足りとも外に漏らす事も無いという、信じられない逸品である。
(ふ、ふふ……、あの人は一体、どんな所からこんなものを調達してくるのかしら?)
暫くの間、厨房にてままならぬ快感を甘受した後で再び店内に姿を現す桃子。
冷めることの無い熱に浮かされ続けている頭の中に、己が身に着けている淫具の詳細を今日何度目か思いかべる。
不思議と愉快な気分が湧いてきて、快感によって潤んだ彼女の瞳が店内のとある席へと視線を向けた。
その目の先、窓際の小さな座席に腰を下ろし、本を片手に優雅にカップを傾けていたのは、美形が多いと言われる彼女の周りに於いても尚、ゾッとするほどの美貌を持つ一人の女性だった。
ルビーを思わせる光を湛えた切れ長の鋭い瞳や、艶やかに光を反射する濡羽色のロングヘア、そして何よりも人目を引く褐色の肌という目立つ容姿。
暫く前に下の娘が『恩人』だと言って家に招いてきた、ヴァネッサと名乗る女である。
桃子の熱の篭った視線に気が付いたのだろう。
彼女は目を落としていた文庫本から顔を上げると、桃子に向かって小さく笑いかけた。
まるで冷えきった夜の砂漠に咲く青い薔薇のような、鋭利に澄み切った、そしてとろけるような淫らさを感じる微笑み。
それを目にした瞬間、桃子は己の身体の奥底で震える女の部分が、キュン、と一際強く締め付けられ、白濁した淫汁がどろりと吐き出されるのを感じた。
「…………ッ♡」
思わず腰砕けになってしまいそうな身体を何とか操り、平常を装うことに成功する。
精神そのものが沸き立つようなこの感覚にも、ようやく慣れることが出来るようになってきた。
けれども、それを初めて味わったあの日の事は、自分にとって今後一生忘れ得ぬだろう至高の記憶として残るだろう、と彼女は確信していた。
あれは、そう。
一ヶ月近くも帰ってこなかった娘が戻ってきて、一週間程経った頃だ。
『恩人』を紹介したいのだ、と嬉しそうに言ってなのはが連れてきた相手こそが、ヴァネッサだったのだ。
娘に案内されてやってきた彼女と初めて玄関で顔を合わせ、その美貌に浮かべられる笑みを目にした、正にその瞬間。
視覚から脳へと、脳から全身へと瞬く間に走り抜けた、あまりにも甘美な感覚に腰砕けになり、桃子は力無く玄関に尻をついてしまったのである。
それは、夫である士郎と出会った時に感じたものと似ている―――けれども、比べることすら烏滸がましい位に遥かに強烈で鮮烈な衝撃。
自分が既に夫を持つ身であるとか、子持ちであるとか、そもそも相手は同性であるとか、そういった壁すらも些細なものとして飛び越えてしまえるくらいの、天に届かんばかりに激しく燃え上がる感情だった。
玄関口で礼儀正しく礼をする彼女に、どうにか壁に手をついて挨拶を返しながら、明確な欲情の証がショーツを越えてじゅわりと外気に滲み出つつあるのを、何の疑問も抱かずに当然の事であると受け止めてしまえるまでに。
この感情を押さえつけることは、きっと不可能であると結論付けてしまえるほど、彼女に惹かれている己を自覚してしまった、その日の夜である。
気が付けば桃子は、皆が寝静まり人気の無くなったキッチンで、ヴァネッサと身体を重ねてしまっていた。
随分と、酔っていたからなのだろう。
彼女を誘ったのが自分であるのか、それとも向こうの方からなのか、それすらも記憶に霞がかったようにぼんやりとしていて思い出せない。
しかしながら、その折に彼女に与えられた快感が、今まで桃子が知っていたそれとは明らかに一線を画するものであった事だけは、朦朧していた意識の中においても明確に感じ取る事が出来ていた。
今まで夫との生活で与えられてきたそれが、気が付くことも不可能な程の地平の向こうへ追いやられてしまう程に。
そんな未曾有の快感によって幾度と無く果てた後で呆気無く気を失ってしまい、朝の光が差し込み始めるリビングのソファの上で再び目覚めた時に、桃子は妙にあっさりと納得してしまった。
もはや自分は、ヴァネッサから、そして彼女に与えられる快感から、離れることは出来そうにないだろう、と。
不思議と、ほんの一日前まであれほど愛していた筈の夫に対して不貞を働いてしまった事にも、何一つ罪悪感など感じなかった。
未だに彼に対する愛情は残っていたし、求められれば身体を開くことにも躊躇は無い。
しかしそれを遥かに凌駕する途方も無い想いが、まるでたった一晩の逢瀬の内に己が少女に戻ってしまったかのように、彼女の胸を熱く焦がしていたのである。
それ以来、桃子は事あるごとにヴァネッサを誘惑し、また誘惑され、幾度と無く交わった。
その状況はまだ乙女であった頃、初めて性の在り方と言うものを自覚した時のそれとよく似ていると、彼女は過去の記憶を思い返して、そしてまた当時を今へと再び投影した。
ほんの僅かな余暇を見つけては愛しあい、時には夫や子供達を謀って朝から晩まで、ヴァネッサと宿で互いの境界が溶け合ってしまうのでは無いかと言うほどに互いを貪り合う。
子を育て終えてからというもの、すっかりと全盛の頃の潤いを失ってしまっていた桃子の蕾は、瞬く間に熟しきった花を再び咲き誇らせる事になった。
ヴァネッサの凄まじいとしか言い様がない手練手管によって、既に十分開発されている筈だと思っていた彼女の身体は、更に女としての本性を露わにされ、淫らな感覚を覚えこまされる。
弄ばれ、新たな性感を切り拓かれるという事それ自体が、桃子にとってはこの上なく幸せな時間だった。
過去に愛した相手に対する思いを、そのしなやかな指先が容易く上書きしていくような感覚は、まるでどこまでも堕ちていくかのように、その背徳感から彼女の心を熱く燃え盛らせる最高のスパイスとなっていたのである。
そして今朝のこと。
いつもの様に店を開く前にこっそりと事を為した後で、ヴァネッサは懐から件の装備を取り出して桃子に手渡したのだ。
彼女の心を瞬時に支配するような、鋭く嗜虐的で蠱惑的な笑みを浮かべて、想い人は楽しそうに言ったのである。
『今日一日、それを付けて店に立ち続けるように』
と。
「あッ……ふ、ぅ―――、いらっ、しゃいませ、ッ、え……!」
店の扉が開かれ、来客に彼女が声を上げようとした瞬間、それまでとろ火で煮こむようだった振動が一気に強められる。
不意を突かれた形となったその口からは、嬌声にも似た声が飛び出し、店内に響き渡った。
扉を開いたままきょとんとした女性を始めとして、客の視線を集めてしまった事に気が付いた桃子は、慌てて身振りで謝罪しながらどうにかその場を取り繕う。
一瞬だけ強くなった淫具の動きは、それが気のせいであったかのように、再び焦れったさに身悶えしてしまいそうなほどのゆっくりとしたものとなっていた。
跳ね上がった吐息を必死で抑えつつ、その悪戯の張本人であるヴァネッサへと恨みがましい、けれども蕩けきった目を向ける桃子。
黒髪の女は唇を歪めてと愉快そうな笑みを浮かべながら、そんな彼女に向けて手の中の小さなリモコンの様なものを振るってみせた
恐らくそれが、この淫具の動きを支配するものなのだろうとは察するものの、かと言って出来ることはただそれを受け入れる事だけだ。
(………皆にバレてしまったら、どうしましょうかしら)
二人組みの女性を席へと案内し、オーダーを取る間にも、脳裏には先ほどの危うい一時が思い返されている。
もし、あの振動の激しさがそのまま続いていたとしたら。
(私、我慢できる自信なんて、全然無いわ……)
いつも通りに店を開けてからこれまで、途絶えること無く与えられ続けているこの快楽の中で、しかし桃子は一度足りとも達することが出来ていない。
ヴァネッサの意のままに操られている淫具は、常に緩やかで生暖かい刺激を生み出すだけで、オルガズムを極めるには今ひとつ不十分なものだ。
かと言って、己でその快感の先へと踏み込もうとすれば、間違いなくその後店に立ち続けるだけの体力を残すことは不可能な程に、行為に耽溺してしまうだろう。
それに、たとえ自分一人で慰めたとした所で、肉体的にはともかくとして、精神的には決して満たされぬ事もわかっていた。
何故ならば、桃子にとってはヴァネッサの意思によって快楽を与えられるという事実が、最も己を昂ぶらせるものであるからである。
その為、彼女はただ只管その爪の先で肌をくすぐられるようなもどかしい快感に耐え続ける他無い。
満たされぬ熱量は刻一刻とその身体に蓄積されていき、ただでさえヴァネッサによって淫らな悦びを教えこまされた桃子の肉体の感度を、より一層高めていた。
例え数秒程の振動だったとしても、己の口から独りでに飛び出していくだろう声を抑えるのは不可能だと自覚している。
そんな風に感じてしまう自分は、何と淫らな女になってしまったことか。
そんな自嘲も、しかし今の彼女にとっては自身の性感を高める要素の一つ。
(もし、いきなり私が喘ぎ始めたら、お客さんはどう思うのかしら、ね)
ふと、連想してしまったその光景は、桃子の内なる想像力を刺激するには十分過ぎる程に魅力的なものだった。
弄ばれ続け、決して満足出来ない生殺しの状態の中で、新たな火種の存在に気がついてしまった彼女の情動は、現実の肉悦の代わりであると言わんばかりに、脳内の自分自身を激しく責め立てる事を選択する。
(士郎さんは、きっと私を心配してくれるでしょうね。………でも、私が今までこんな卑猥な物を身に着けていたと知ったら。―――あぁ)
厚い桃色の霧に覆われた妄想の中。
桃子は、驚愕に目を見開く人々を前にしながら、激しく揺れ動く股間の淫具に責め立てられ、この上ない歓喜の嬌声を上げる。
慌てて駆け寄る夫を静止し、果たして己が今どのような状態にあるのかを、店の客全員に見せつけなくてはいけない。
そんな衝動に襲われる。
そう。
己に視線を注ぐ人々を焦らすようにゆっくりと、エプロンとスカートをたくし上げ、傍目でもはっきりと内部に何かが挿入されている事が伺えるショーツを、むわりと汗ばんで淫臭に満ち満ちたその聖域を、衆目に晒すのだ。
見せつけてしまえばもう、快感を我慢する必要など無くなるのだから。
何も考えずに手をその中に潜り込ませ、もう随分と長い間お預けされているあの甘美な絶頂の感覚を求めても良いのだから。
そしてきっと、そんな浅ましい自分に容赦無く突き刺さるであろう、侮蔑や嫌悪といった冷たく泣きだしてしまいそうな視線。
まるでそれらが現実の質量を帯びたかのように、身体のそこかしこに容赦なく打ち込まれる筈だ。
けれども恐らく自分は、それすらも快感として受け止めてしまうだろう、という確信があった。
人間としての尊厳すらも地に投げ捨てるような、あまりにも堕落しきった己の姿に、桃子はほぅ、と熱帯の湿度を帯びた吐息を吐き出す。
ヴァネッサの手によって、底知れぬ愛欲の闇に堕落し続けるという喩えようもなく甘美なその妄想に、彼女の胎は今日一番かも知れない激しい疼きを主張していた。
しかし、である。
その禁断の果実への誘惑に身を委ねてしまえば、これから先も継続して彼女との逢瀬を続ける為に必要な地盤の一つが崩れてしまう、という恐れが、桃子の砂糖菓子のように脆くなってしまった理性を支える最後の要素だった。
確たる生活の基盤としての、または仮の姿としての、高町士郎の配偶者である高町桃子が存在していなければいけないのだ。
そうしなければきっと己は、完全に性愛の虜となり、想い人に依存しきるだけの存在になってしまう。
全ての面でヴァネッサの負担と成り果ててしまう自分だけは、彼女にとって許せるものではなかった。
(だから、我慢、しないと……ッ。あぁ、でも、気持ちいいの……。とっても、でも、もっと、気持ち良くなりたいのに。いじわるな、ひと)
駄々をこねる幼子の様に唇を尖らせながら(無論他人にはそうとは悟らせぬ様にではあるが)、自身を悶々とさせている張本人に対して、たっぷりとした愛を込めた文句を脳裏で呟く桃子。
その、刹那だった。
『あら、いいじゃない。私は好きよ、そういう貴女が』
「――――――ぇ?」
心の中の独白へと被せるように、不意に脳裏に言葉が響く。
それは聞き間違えようも無い、彼女の最愛の人物の声色。
理性と言う名の軛をいとも容易く腐食させる、甘い毒の囁きだ。
『だから、ねぇ。折角だもの。貴女の望むまま、その淫らな欲望を開放してみせて頂戴な、桃子』
「ぁ、ぁ、あぁ………、で、でも………」
違和感の一つも感じること無く、脳裏の声に答えるように呟きながら、桃子はきゅうっとに腕を回して抱きしめた。
『いいかしら。私は、許す、と言っているのよ?』
「―――ッ!」
ドクン、と。
まるで別の物へと変わってしまったかのように、桃子の心臓が今までとは異なるリズムで激しく脈を打ち始めた。
脳裏に響いたその言葉が、全身の細胞という細胞を揺らす波となったかの様に身体を駆け抜けていく。
その個々の震えの集合がやがて、ひとつの大きなうねりとなって彼女を包み込んでいくと、先程まで感じていた躊躇も、恐れも、その何もかもが暖かな世界の中に呆気無く崩れ去っていった。
自分は、何を恐れていたのだろうか。
彼女の心に沸々と沸き上がっていく、本心からの言葉。
何一つ迷うことは無いと、ただその快楽への欲求に素直になればいいのだと。
何故ならば。
(――――あの人に、許して頂けたのだから)
それは、彼女の支配者から与えられる揺るぎなき肯定の言葉だったから。
頭の中に直接声が送られてくるという、明らかに尋常では無い現象も、瑣末な事としか捉えられない。
愛情とも似て非なる絶対的な服従心が身体の内側で爆発したかの様に広がっていき、そこから来る絶大な歓喜の渦に打ち震える桃子。
そんな彼女を祝福するかのように、ショーツの中の淫具達が一斉に激しくその身を震わせはじめる。
「はぁッ! あ、ぁひぅ、あぁん………ッ♡」
その快感から半ば強制的に生じてしまう喘ぎを抑えこむ意思は、桃子の心からすっかりと消え失せてしまっていた。
心地良い音楽と、小さな談笑に満たされた静かな店内に突如として響き渡った、女そのものと言わんばかりの盛大な嬌声。
あまりにも場違いなその響きに、店内に居た殆どの者が凍り付いたかのように動きを止め、次いでその声の発信源を探すように首を振り始めた。
「だめッ……! ぁあ、きもちい……ッ♡ すご、い、やっぱ、りぃッ…! く、ふぅん……っ♡!」
その真っ只中で桃子は、待ち焦がれた快感に完全に顔を蕩かせる。
ぎゅっと彼女の両の腿が閉じて、両手はエプロンの上から秘部を力強く押し付けていく。
その膝は端から見てもわかるほどに小刻みに震え、今すぐにでも崩れ落ちてしまいそうなほど。
しかし、けれども、ここで膝を地に着ける訳にはいかないと、完全に快楽に迎合した理性が辛うじて肉体の反応を抑えこんでいた。
何故ならば彼女はまだ、己が本当に望む事を成している訳では無いのだから。
「あっ、あぁぁっ♡ ――もっと、もっとぉっ!」
やがて、その嬌声の発信源を特定した人々の目が、悶え続ける桃子を捉え始める。
驚きと戸惑いが色濃く渦巻く。
それでいて、数少ない男性客からは好色な熱を帯びた、女性客からは侮蔑や嫌悪感に満ちた、幾つもの視線。
桃子の身体と精神はその視線からさらなる快感を生成して、熟しきったその肉体の性感を更に高めていく。
己の夫が向ける驚愕の視線もまた同様に、いや、むしろそれこそが最も彼女の背筋を震わせる快感であるのかも知れなかった。
『ふふ、皆が貴女を見ているわ。こんなにも注目されて、嬉しいでしょう?』
「はひっ……、はぃいッ…!」
『それじゃあ、この視線を更に釘付けにするためには、どうすればいいのか。桃子なら、分かるわよねぇ?』
「ひぅッ……♡ わ、わかりま、ふぅ……ッ♡!」
再び脳裏に響く声。
聞いているだけで、意識が飛んでしまいそうな程の幸福感。
促されるままに、彼女は震える手で自身のふわりと広がるスカートの両端を手に取った。
店中の視線を一点に集める中で、彼女は、尚も人々を焦らすかの様に、ゆっくりとそれをたくしあげていく。
低いデニールのストッキングに覆われたスラリとした足が外気に露わとなり、膝、太ももがそれに続いていく。
ごくり、と誰かが唾を飲む音が、桃子の耳にやけにはっきりと聞き取れた。
それがまた、より一層彼女の劣情を煽る。
静かに、丁寧に、その布の覆いが腰よりも高く引き上げられた時、透けるような薄い生地の向こう側の、漆黒のショーツがその姿を現した。
そこでは、激しく振動し、くねり続けるバイブの底部が、一時として休むこと無く生地の内側で動き続けているのが容易に見て取れる。
彼女が、下着の内部に何かを仕込んでいるという事実は、どうあがいても隠しようが無い程に明白だった。
「あっ、はぁッ♡ みせちゃっ、た……! わたし、つい、にぃッ……♡♡!」
感極まったように、一際大きな艶声を上げる桃子。
どうしようも無い程の開放感と被虐的な感情によって、全身が激しく打ち震えているのが分かった。
貞淑な喫茶店の女主人がいきなり見せた異常すぎる行動を前にして、客達は凍り付いたように動きを完全に止めている。
けれどもその目だけは、彼女の痴態から一瞬足りとも剥がれる様子が無い。
己の肉体に容赦なく突き刺さる視線は、妄想の中で浴びていたそれらとは比較にならぬほどに激しく、鋭く、そして途轍もない熱さと冷たさを同時に桃子へと与えてくれていた。
男達の荒い鼻息、血走った目、はちきれんばかりに膨らんだ股間の憤り。
女達の醜悪な物を見る目付き、嘲るような吐息、ショーツの中で静かに潤い始める蕾の香り。
本来であればわかるはずも無いそうした反応が、まるで零距離で目にしているかのようにはっきりと己の頭の中に像として浮かび上がり、それがますます彼女を盛りたてる。
「もっ、とぉ! み、て……ぇッ♡ わたしをっ、こんな、私を、みて、くださいッ………! はぁ、ああぁぁんッッ♡♡」
いつしか桃子の頭の中は、たった一つの事しか考えられなくなっていた。
己のことも、ヴァネッサとの関係も、困惑しながらも股間をいきり立たせるばかりな夫の事も、何もかもが脳内で弾け飛ぶピンクの光の中に消え去り、残るのはただ、この圧倒的な快感の果てを味わいたいという欲求だけ。
だからこそ、叫んだ。
このまま、店内の人間全てに見つめられ続けながら、絶頂に達したいと。
さらなる許しを請うように。
『衆人環視の中、その視線を感じて絶頂するのが良いだなんて。……貴女って、どうしようも無い女ね』
「ごめん、なさいぃッ…! わたし、そういうおんななのッ! はぁッ……♡ きもちよさに、さからえないっ……、だめな女、なんれすぅッッ♡♡」
『ホント、随分とご立派な趣味。旦那の前で機械相手によがり狂うなんて、恥ずかしいとは思わないの、全く。この、ド変態』
「ひぅううんッ……♡♡ いわないでッ、いわないでぇッ! でもだめッ、これきもちよすぎるのッ♡ だからしかたなひのしろうさ、ぁひぁッッ――――♡♡♡」
『まぁ、なんてだらしのない顔なのかしら。ふふ、とても素敵よ、高町桃子。さぁ、ほら、イキなさいな。夫の目の前で、客の目の前で、盛大に、ね』
「ふ、あ、ぁ、ぁあぁっぁッ―――!?」
変態。
そう、変態だ。
高町桃子は、紛うこと無き変態なのだ。
今の自分の状況を表現するのに、これほど合致する言葉などありはしないだろうと彼女は思った。
しかし、このような卑しい自分の願いを、この声の主は受け入れてくれているのだ。
何処から訪れているのかも知れぬ、しかし紛うこと無き己の支配者から与えられたその言葉は、まるで心臓を鷲掴みにされているかのような破滅的な衝撃となって、彼女の肉体を、そして精神を駆け抜けていく。
劣情の濁流に打ち続けられるその心奥に芽生えるのは、その表面上の激しさとは一線を隠すような、ひどく穏やかで、それでいて底が見えぬほどに深い、服従の陶酔。
快感とはまた違う、精神的な悦びによって更に高みへと追いやられる彼女へと追い討ちを掛けるように、股間を責め立てる淫具達が一斉にその有り様を変化させていった。
(なに、これぇッ! バイブ、じゃなくて、ぬるぬるして、蠢い、てる………ッ!?)
「これ、ダメぇッ♡! しゅごっ、すごいのぉッ……♡ はぁぁんッ♡ きもひぃッ、かきまわされてるぅ、ッ♡♡!!」
今までは人為的なランダム性こそあれども、機械的な一定の動き、振動を繰り返すだけだった筈の淫具。
けれどもその瞬間を境にして、まるで無数の舌に膣や尻穴の内部までをまとめて勢い良く舐め回されているような、信じられない感覚へと変貌していく。
挿入されていた二本の巨大な張り型は、まるで意思を持っているかのように上下に激しくピストンを繰り返し、ドロドロにほぐれたその膣と尻穴の内壁を容赦なくえぐり始めた。
突かれ、舐め回され、甘噛みされ、吸い付かれ、押し潰され、思い付く限りの全ての愛され方が、桃子の狭いデルタ地帯の内部で同時に繰り広げられているという理解不能な感覚。
もし彼女がたくし上げた布を透かしてその秘部を目にすることが出来たのならば、己が身に着けていたショーツがおぞましき肉の脈動を繰り返す異形の物体へと変化していたのを見ることが出来ただろう。
未だ嘗て経験したことのない、滑らかで、それでいて際限なく暴力的なその快感に、桃子は長い髪を振り乱しながら狂乱したかのように叫び声を上げた。
それでも尚踊る膝が床へと屈しなかったのは、己が絶頂する様を何よりも明確な形で他人に見せつけたいという彼女の欲望と、そう命じた相手に対する肉体を凌駕した服従心からに他ならない。
「いひぃッ……♡! イッちゃうぅッ♡♡ わ、らしぃッ! ん、はっぁあ♡♡!! イッちゃい、まふからッ……! みてッ、み、へえぇ―――ッッ!!!」
最早発音すらあやふやな言葉で、自身の痴態の果てを見ろと、店内の人間を促す。
無論、桃子がそう声を上げる前から、その場から動こうとする者は誰一人として存在せず、客の全ての意識は彼女の身体へと集中していた。
当初こそ驚きや嫌悪と言った激しい感情に射られ続けていた筈だったが、今の桃子が己の身体に注がれていると感じる殆どは、完全に発情した動物が纏う様な熱の篭った視線である。
男の側は兎も角として、比率的にはそちらのほうが圧倒的多数を占める女達からもまた、彼女の身体を遠慮なく性の玩具とするような、そんなゾクゾクとするような目が一心に向けられており、浅く呼吸を繰り返す空気の中にも、自分のものとは異なる甘い秘蜜の香りが刻一刻と強まってきている様な気すらしていた。
自分にはまだ、他人の目を惹く事が出来る、これほどの魅力があったのだと、この場に於いて酷く場違いな、けれども止められない女としての誇らしさが心中に湧きだす。
既に枯れ果てるのを待つだけだった自分に、再びこの様な悦びを教えてくれた相手―――愛おしき黒髪の彼女へと、桃子は最早ぼやけて碌な像も結ばぬ目を向けた。
相変わらず窓際の席に座ったまま優雅にカップを傾けている彼女の様子は、他の客が女店主の痴態を食い入る様に見入る中で一際異彩を放っていたが、その紅い瞳だけは楽しげな色を湛えて桃子を見据えている。
両者の視線が交わり、絡まり合う。
訪れた一瞬の空白の後、女は蠱惑的に膨れたその唇を微かに開き、桃子の耳には届かない声量で、何事かの言葉を呟いた。
「――――――ァ」
しかし、たとえ音として形にならずとも、彼女の心はその唇に乗せて吐き出されて言葉をはっきりと認識することが出来ていた。
その言葉へと、熱暴走した脳が言葉として形を与えた瞬間、桃子の身体は最後の栓を抜かれたかのように、溜め込まれた快感の全てを吐き出そうと全身の筋肉を、思考を、硬直させた。
『イキなさい』
全身を口腔内で舐め回されるかのような、甘く蕩けるようなその言葉によって。
「い、ぐぅッ……ッ♡! わらひっ、、ひぎまふッ♡♡!!、ぁ―――、あぁッ―――、はぁあああっっ!! ぁぁあああ――――――ッッッっっ♡♡♡!!! ~~~~~~ッ――――――ッ♡♡♡♡♡!!!!」
これまで上げてきた喘ぎすら霞む、ともすれば店外にまで届いているのでは無いかと言う凄まじい絶叫が桃子の喉から迸り、次の瞬間、ぷつりと途絶えた。
後方にそのまま倒れても可笑しくない程に全身を弓なりに逸らし、ぐるりと瞳を上向かせる彼女の股間から、ドロリと白濁し泡立った愛液が勢い良く垂れ落ちて店の美しい木目の床の上に染み込みながら広がっていく。
ある意味では我が子そのものと言っても過言ではない店の只中で、客や夫の目の前で味わう絶頂は、正に天上の、若しくは地獄の、果てしなく長く遠くへと持ち上げられる甘美な一時として桃子の身体を駆け抜けた。
「あひ………♡ ぁ……………はぁ……♡……ッ………♡♡」
長く、長く、その身体の硬直が解け、己が吐き出した愛液に塗れた床へとドサリと倒れ伏しても尚、その幸福は続いていく。
やがて訪れるのは、開放感の後の、心地良い気怠さ。
それは次第に桃子の意識を幕で覆い始め、涙と法悦でぼやけた視界も、徐々に狭められていった。
それが閉め切られる最後の瞬間に桃子が目にしたのは、まるで自身も絶頂を極めたかのような恍惚とした淫靡な表情を浮かべながら舌舐めずりをする、ヴァネッサの姿だった。
「子。―――桃子。大丈夫かい?」
「…………ぇ?」
何処か遠くから、己の名が呼ばれている。
桃子は、つい今しがた暗転した筈の意識が、呼びかける声に呼応するかのように再び光を感じ始めている事に気が付いた。
はっとして目を開くと、視界一杯に心配気な顔をした夫の姿が映り込む。
「ぼぅっとしているようだったけれど、具合でも悪いのかい?」
その声は心の底から彼女の事を気遣っているような優しさに満ち溢れていて、今の今まで自身が彼の前であられもない姿を晒したことなど、全く感じさせないものだった。
違和感を覚えた桃子が辺りを見回してみれば、そこに広がっていたのは何一つとして変わりが無い、何時もの翠屋の風景そのものである。
つい先程まで自分の痴態を見つめていた筈の見知った顔が、けれどもそんな雰囲気とは全く無縁の朗らかな空気で談笑に興じている。
全てが正常で、だからこそ感じざるを得ない違和感。
自分はつい今しがた、あまりにも浅まし過ぎる欲望を満たし切り、倒れ伏した筈では無かったのか。
身体を横たえた筈の床へと目を向けてみても、淫らな匂いを放つ愛液の溜まりなど何処にも見受けられない。
(夢………、だったの? 今のは、私の、妄想?)
あまりにも現実めいた、白昼夢を見ていたとでもいうのだろうか。
あり得ない、と思いながらも、そうとしか考えられない平穏な空気に、桃子は言葉を失ってしまう。
己が成してしまった筈の痴態は、思い返そうとしても既に輪郭が欠けていて、再び目を開いたその瞬間から記憶がどんどんと抜け落ち始めているようだった。
けれども自分は確かにあの中で、素晴らしい法悦を極める事が出来たのだと言う感覚だけは、確かにはっきりと脳裏に刻み込まれている。
瞬く間に記憶の向こう側へと消え去っていく夢の中の己を思い浮かべて、彼女はまたしても気が付く。
早朝からこのかた、延々と己の身体を弄んできた筈の淫具の感覚が、今では全く感じられない事に。
振動や回転が止められている、という様な話ではなく、単純に、自身の体内に何かが挿入されていという感覚すらも無くなっているのである。
訳が分からなかった。
もし、それすらも夢だったというのなら、一体自分は今まで――――――。
桃子は、半ば無意識にスカートの中で内ももをこすり合わせる。
幻の様に掻き消えてしまったあの絶頂感、精神が焼き切れるかのような快楽の残滓を追い求めるかのように。
「んんッ……!」
「……桃子?」
すると、常であれば信じられないほどの刺激が、足の付根から激しい電流となって彼女の身体を突き抜ける。
予想だにしないその刺激に思わず声を上げてしまった桃子に、夫はやはり心配そうな声色で問いかけた。
「―――いえ、ごめんなさい。なんでも無いの。ほ、ほら、今日は早めに出て仕込みをしていたから、少し眠くなってしまったみたい」
「そうか、それならいいんだ。無理はしないでいいんだよ、もう繁盛時も終わった」
「えぇ、ありがとう、士郎さん」
自分でも驚くほどにすんなりと仮面を被り、彼の疑念を解消しようと務める。
何事も無かったかのように振る舞う彼女のスカートの下ではしかし、そうして会話を交わしている最中も止まること無く内ももが擦り合わされ続けていた。
ほっとしたような表情でカウンターの中へと戻る夫の広い背中を眺めながら、桃子は熱の篭った婀娜っぽい吐息を零す。
全身を駆け巡る、狂おしいほどのもどかしさ。
白昼夢の中で体験した筈の快感を思い返す度に、彼女の情欲の火は際限なく勢いを強めていく。
今すぐにでも、この満たされぬ気持ちをどうにかしてしまいたい。
思わずトイレへと駆けこみそうになるその瞬間、彼女の目の前に差し出されたのは伝票と、褐色の美しい指先。
はっとして顔を上げると、そこにはテーブルの上に広げていた荷物を手にしたヴァネッサが、財布を片手に微笑みを浮かべて立っていた。
「お勘定、お願いしていいかしら」
「ッ……、えぇ、ヴァネッサ。いつもご贔屓にありがとう」
キュン、とした切ない感覚が桃子の背筋を貫き、一瞬言葉に詰まってしまう。
夢の中と同じように、このもどかしさを今この場で、彼女の手で、舌で、足で、身体で、消し去って欲しいという強烈な衝動が飛来した。
抱きつき、浅ましく股を開いて懇願する己を想像するものの、自分一人の淫らな妄想ならば兎も角、流石にこの場で彼女にそれを強要するのは許されることではない。
必死でその衝動を押さえ込みながら会計を済ませようとしていると。
「ねぇ、桃子」
「ひぁッ!」
レジからお釣りを取り出し、差し出されたヴァネッサの掌へと受渡した瞬間。
女の身体がほんの半歩ほど桃子へと近づき、その耳のすぐ横で、彼女の脳髄を無条件で痺れさせるような甘い囁きが紡がれる。
「満たされない、のでしょう? 今夜、私の部屋に来なさい。素敵な選択を、させてあげるわ」
「――――――ッ!」
時間にして、ほんの僅か。
差し出された小銭を仕舞いこんだヴァネッサはニッコリと微笑んで、そのまま店を後にした。
残されたのは、耳朶を打つ囁きのあまりにもな甘美さに立ち竦む桃子と、微かな女の残り香。
――――彼女に、その誘いを断る理由など、あろう筈もなかった。
☆
下の娘二人は、仲良く友人の家へと泊りがけで遊びに行くようだった。
士郎、恭也と三人だけではあるが、それ以外はいつも通りの夕食を終えた桃子は、自分もまたヴァネッサと共に少しお酒を楽しんでくる、と夜の海鳴へと踏み出す。
両者の仲が良い事は、その場に残された家族二人にとっては最早承知の事実であったため、何時もの事だと疑われる様子など無かった。
無論、彼女にとってそれは方便以外の何者でもないのだが。
秋の夜の肌寒い空気を遮るコートの中、激しく燃えたぎる己の肉体を、この後訪れるだろう一時を枷として押さえ込みながら、桃子は道を急ぐ。
昼の一件から此の方、身体を苛む熱が冷める気配は欠片も無く、隙を見て自分で慰めてみたところでより一層それに油を注ぐだけでしかなかった。
しかしこの如何ともし難い欲求も、彼女の手に掛かれば間違い無く満たして貰える筈だという、根拠の無い確信が桃子の足を早めていく。
その瞬間を待ち侘びながら、頻繁に熱い息を零し、目を閉じていても通えてしまう程身体に刻み込まれた道を進んでいくと、目の前に現れるのは海鳴でも一二を争うほどに巨大な高級マンション。
その最上階が、ヴァネッサが現在の住まいとする場所だった。
エントランスでその部屋を呼び出してエレベーターに乗り込んだ先には、チリひとつ落ちていない白磁の廊下。
やがて辿り着いた玄関を開くと、広々とした玄関で靴を脱ぎ、一直線に伸びる長い廊下を胸を高鳴らせながら進んでいく。
その行き止まりに存在しているのは、悦楽の園へと続く、一枚の扉。
ここを潜れば、再び自分は彼女の手によって女ですら無い、獣に近しい何かへと変貌させられてしまうだろう。
その光景を思い描くと、それだけで桃子の内で開発されたマゾヒズムが踊りだし、下着にもう何度目とも知れぬ染みを作った。
ゴクリ、と一つ喉を鳴らして、ノブを捻る。
――――――けれども、その先に待ち受けていたのは、彼女の想像だにしない光景だった。
「あぁ、……そう、中々上手よ……。あなたの躾が上手だったのかしら。偉いわ、褒めてあげる、ふたりとも。んっ、そこ、もっと強く……」
巨大なガラスを通した海鳴の夜を背景として、豪奢な椅子に腰を下ろし、足を大きく広げているヴァネッサが居た。
遮るものの無い滑らかな褐色の肌は、室内を照らす怪しげな間接照明の中で怪しいてかりを帯び、その吐息は与えられる刺激によって微かに荒いものとなっている。
「んふ、ありがとうございます、御主人様。お姉ちゃん、剣の達人だからこっちの覚えも早かったの。体力もたっぷりだから、一晩中ずぅっと、一緒に遊んでても平気なんですよ」
その背後に立ち、褐色の首筋にしなだれかかるようにして微笑んでいる、高町なのはが居た。
未だ幼女としての面影を強く残すその顔立ちに浮かび上がる表情は、実の母である桃子とて一度たりとも目にしたことが無い、完全に色を覚えた女としてのもの。
言葉の合間を縫うようにして、自身の目の前にある首筋や耳元へと、舌や唇、吐息を這わせて、怪しい愛撫を繰り返している。
ヴァネッサと同じく一糸纏わぬ姿、その下半身は奉仕による興奮からか、まるで先の桃子自身と同じように忙しなく内ももを擦りあわせていた。
そして。
「んッ……は、ぁ……んん……ちゅ………」
開かれた褐色の両足の間に跪き、目の前の物以外は何一つとして見えていないと言わんばかりに瞳を濁らせた、高町美由希が居た。
まるで犬のように四つん這いになり、ただ一心不乱にヴァネッサのぱっくりと開いた淫裂に口付け、舐め回し、時折甘く噛み締める。
そこにもまた、桃子が普段から知る美由希の雰囲気は欠片も残されておらず、只管に堕落し、女体へと奉仕することへのあからさまな媚びと悦びだけがその裸体から立ち昇っているかのようだった。
「――――――――――」
何を、しているのか。
何秒か、何十秒か、目の前の光景を理解することが出来ずに硬直していた桃子は、それだけを問おうと口を開く。
しかし、唇は開けど言葉は全く生み出されてくれず、困惑と、そして熱の篭った吐息だけが吐き出されるのみである。
「あぁー、もぉ、お母さんやっと来たの。遅いよぅ」
扉を開け放ったまま、立ち竦む桃子にようやく気が付いたかのように。
ヴァネッサの首元に顔を埋めていたなのはが彼女の方へと目をやり、湿り気を帯び間延びした声を掛けた。
「お姉ちゃん、もうすっかり御主人様の虜だよ? ほら、お母さんも、早く早く」
「ぇ……、あ、…なの、は……?」
汚れ一つない豪奢な敷物の上を、裸のなのはに手を引かれるまま、彼女は促されるままに部屋を横切り残された二人の元へと辿り着く。
ヴァネッサの微かに上気して潤んだ瞳が、言葉を失ったまま呆然とする桃子を射すくめた。
己と肌を重ねている時と同じような熱い吐息と、それと共に浮かべられる、妖艶な笑み。
彼女の身体へと奉仕を続けている美由希は、すぐ側に母が居る事にすら気が付いていないのか、その開ききった花へと途絶えること無い愛撫を続けている。
桃子を両者の目の前まで連れてきたなのはは、これで自身の仕事は終わりだというように再びヴァネッサへとしなだれかかり、肌と肌を触れ合わせるように全身をくねらせた。
(どう……して? ヴァネッサ、に、みゆ、き。な、のは………?)
自分一人だけが、訳も分からずに取り残されている状況に目を白黒とさせながら棒立ちになる桃子。
思い描いていた二人きりの蜜月は、あろうことか己の娘達と言う存在によって掻き消された。
そしてその両者が、愛する女性と躊躇いなく肌を重ねてる姿を眺めている自分。
(何故……、私、と。おなじ………同じ? 二人も、私、と……ッ?)
そうした衝撃をどうにか受け止め、徐々に己を取り戻し始めた彼女には、娘二人が何故この場所に居るのか、驚くほどすんなりと理解できてしまっていた。
両者ともに、その顔に、纏う雰囲気に、どうしようも無く浮かび上がっている享楽の色。
自身がヴァネッサと相対している時に浮かべているであろうそれを、否が応なしにでも連想させるものを、血と思いで深く繋がり合っていた筈の子供達が浮かべている。
それは即ち、彼女の手が己のみならず娘達までにも及んでいたと言うことの証拠に他ならなかった。
既に女として相応の成長を遂げている美由希はまだしも、未だ児童期を終えたばかりと言っても差し支えないなのはにすらも。
己が彼女によって教えこまれた、喩えようも無い悦楽の境地を。
自身の与り知らぬところで、それが実の娘の幼い身体へも刻み込まれていた。
「ぁ、……あぁ……ッ!」
そのように、認識してしまった瞬間。
桃子の脳内に稲妻のように駆け抜けたのは、娘達の身体をこうして淫らに花開かせてしまった相手に対する憤り―――などと言うものとは全く異なる、心震わせる激しい感謝の念だった。
血の繋がりこそ無くとも紛うこと無き家族の一人である少女と、かつて愛した相手との間に設けた愛する実子。
その二人の娘達と共に、ヴァネッサへと傅くことだ出来るという、果てしない喜びと、それを与えてくれた
まるでそのようにするのが当然である、というかのように、桃子もまた身に着けていた衣服を瞬く間に脱ぎ捨て、それを何も言わずに眺めていたヴァネッサの柔らかな唇に、己のそれを重ねた。
「んッ……ちゅぅ――ッ、はぁ、んんッ…………、ぅ、ふぅうん、ん………ッッ♡」
唯でさえ熱くなっていた身体は、この場の空気によってより一層の熱を帯び、下着の堤防が消え失せた彼女の太ももをとろとろと溢れだした蜜が零れ落ちていく。
たっぷりと時間を掛けて行われた濃厚な口付けを示すように、離れていく唇の間を繋げる唾液の銀糸。
口腔内を触れ合わせるだけで何度もの軽い絶頂に至ってしまった桃子は、だらしなく緩みきった顔でヴァネッサと見つめ合う。
「いいわ、桃子。とても可愛らしい」
「あぁ……、ヴァネッサぁ………♡」
纏わりつくような甘い媚声が、ひとりでに彼女の口から飛び出し、想い人の名を呼ぶ。
それを聞いて、クスクスと楽しげに笑うヴァネッサは、余韻を楽しむかのように桃子の柔らかな栗色の髪を手櫛で静かに梳いた。
その暖かでやさしい手触りに、彼女は目を細めて身体の力を抜く。
「ねぇ、桃子」
「なぁに……?」
そしてやがて、その問いかけが、やってきた。
「貴女、私のペットになるつもりはないかしら?」
「ぺ……っと……?」
「そうよ。私を絶対の飼い主とし、常に服従し、どんな命令も受け入れ、只管に奉仕する。そんな、可愛い可愛い愛玩動物。とっても、素敵だと思わない?」
「――――――は、ぁッ♡」
歌うようにヴァネッサの口から放たれるその言葉の意味を、桃子は瞬時に理解し、自身の心に受け入れてしまう。
それはあまりにも、あまりにも刺激的で、心惹かれる、魔性の言葉。
ヴァネッサに、飼われる。
その姿を想像しただけで、彼女の身体はキュンと引き絞られたかのように甘美な絶頂を迎えた。
その問いかけに首を縦に振れば、更にその先の悦びを味わうことが出来るに違いないという確信に近い何かが彼女の心に飛来し、理性という名の大地に巨大過ぎる穴を穿つ。
「あのね、お母さん。そうしたら、とっても、とぉっても、素敵な気持ちになれるんだよ。ほら、お姉ちゃんも、ついさっきね、誓ってくれたんだぁ」
ヴァネッサの身体を挟み合うようにして、なのはの瞳が桃子を見据えながら言う。
その瞳の色は既に爛々と光る真紅へと変貌していたが、今の桃子にとっては些末事でしかなかった。
娘の言葉に促されるままに視線を僅かに下へと向けて、今の今まで一言も発することも無くその股間に顔を埋めていた美由希を見やる。
その視線を感じたのだろう、ここに訪れてから初めて、ようやく彼女は顔を上げ、桃子の目をじっと見据えた。
その顔に浮かび上がっていたのは、途轍もない悦び。
それ以外の感情など不要だと言わんばかりに削ぎ落とされた、幸福そのものといった表情である。
『早く、一緒になろうよ』
現実の言葉として告げる事は無く、けれども美由希の瞳は明確にそれだけを語って、ヴァネッサの秘部への愛撫が再開された。
あぁ、なんて素敵な事なのだろうか。
まるで夢の様な世界の在り方を受け入れてしまおうと、桃子は口を開き、その言葉を現実のものとしようとした。
「私は、…………、わたし、も………ッ?」
けれどもその言葉を、どうしても最後まで言い切れなかった。
愕然とした様子で、桃子は立ち竦む。
二人の娘からも後押しをされ、躊躇う理由など欠片も無い筈であるというのに。
しかし、それでも何故か、決定的な言葉だけはどうしても、音にすることが出来ない。
それを自分が口にしてしまえば、何か大切なものが終わってしまうという漠然とした不安が、胸中で渦巻いていた。
その”何か ”が、果たしてどのようなものであるのか、今の彼女には認識することが出来ないのだけれども。
奇しくも、彼女の幼い娘が、かつてそうであったかのように。
しかし。
「さぁ、桃子。返事を、して頂戴。貴女は、どう、なりたいの?」
「ひ、ゃあんッ……♡ あっ、あっ、はぁぅ………ッ♡」
毒蛇の指先が、桃子のぐしょぐしょになった秘部へと伸びると、そんな逡巡も瞬く間に何処かへと消え去っていく。
取り立てて激しい指使いでも無く、どちらかと言えば優しく撫であげるだけのゆっくりとした動き。
だが、その指先から生じる甘い快感は、まるで心の内全てをドロドロに溶かしてしまう溶剤であるかのように、桃子を繋ぎ止めていた最後の枷を容易く侵食していく。
「じゃあ、私はこっち。はぁ――、む……♡」
「ふぁああッ♡ なの、なのはッ、そこはぁ………っ!」
「んふ、おしりの穴もとろとろ。ちゃんと準備までしてきてるなんて、もう、お母さんってばえっちなんだからぁ」
「だ、だめへぇッ――♡ むすめにっ、むすめにされるなん、て………ッッ♡ こんなぁ――♡♡!」
それに追い打ちを掛けるように、いつの間にか背後に忍び寄ってきていたなのはが、彼女の無防備な臀部に顔をうずめた。
幼い少女の口が、人妻のむっちりとした尻肉をかきわけ、ひくひくと怪しく蠢き続けていた肛門へと密着させられる。
実の娘のものである小さく柔らかな舌に、チロチロと身体の内側を舐められるという異常な状況に、桃子の喘ぎ声はまた一段と激しい物になった。
どれほどの間、そうしていただろうか。
「ん、ぁ…………ッ♡」
彼女の感覚的には永遠にも近く、けれども実際にはほんの数分程度の時間。
どちらともなく愛撫を停止した二人に挟まれて、桃子は力無く膝をつく。
短い間に幾度と無く絶頂を極めさせられ、どろりとした淫液によって、豪奢な敷物の上には大きな染みが広がっていた。
「さぁ」
答えを促すように、ヴァネッサが言った。
先程よりも、更に心の奥深くに突き刺さるような声色で。
彼女は、目には見えない何かに撃ちぬかれたようにくらりとよろめき、物欲しげに両の頬に手を添えながら、ゴクリと、その白い喉を鳴らして。
「―――なり、ます。私、も」
その言葉を、口にした。
「私を、貴女の、ペットにして下さい……。私を、飼って下さい。……………御主人、様」
「はい、良く言えたわね。偉いわ、桃子」
「ぁはぁ………♡」
桃子のたどたどしい宣言を受け入れることを示すかのように、女は柔らかな微笑を浮かべ、彼女の頭へと静かに手を伸ばす。
破滅的な言葉を口にしてしまった瞬間に身体を包み込んだ、久しく味わったことの無い開放感と、幼子のように頭を撫でられる心地の良さ。
「ッ…………、ぁ、うぁああ――!?」
しかし、唐突にその穏やかな吐息は、激しいものへと変化していく。
それは、ヴァネッサの瞳が怪しい輝きを放った瞬間とほぼ同時だった。
「ひ――――ぁ――――ぅあ――――」
異変は、すぐに起こった。
突如として仰け反り、露わになった桃子の首元。
その白い肌の下に潜り込んでいたものが浮き上がって来るかのように、彼女の首周りの皮下から何かが姿を現したのだ。
身体の中に予め埋め込まれていたかのように首の周囲を盛り上げ後、しかしその皮膚を突き破ること無く透過して外気に姿を現したそれは、首全体を覆う、太い首輪のようにも見えた。
しかし、その表面は一般的な首輪やチョーカーのそれとは異なり、生々しく蠢く赤黒い肉の有機的な質感を感じさせるものだ。
その肉輪の内部からは、細い血管の様なものが幾重にも姿を現し、桃子の首の内側へと入り込んでいて、周辺の皮膚と同化しながら更に身体の奥へと入り込んでいるようである。
また、首輪を正面から見た中央部には、真紅の宝石とも、グロテスクな眼球とも付かない異様な物体が嵌めこまれているのが見て取れて、首輪の至る所に這いまわる太細様々な管はどうやらそれを中心として伸びているようだった。
「はぁッ、は、ぁ、は―――――」
身体の内側から巨大な何かがこみ上げてくるような奇妙な感覚と、突き上げられる様な快感に仰け反り続けていた桃子は、その異形の装飾品が首元に完全に現れてから暫くして、ようやく正面の女へと視線を向けることが出来るようになる。
しかし、再び像を結び始めた彼女の潤んだ視界に映り込む女の姿は、これ迄目にしていたものとは全く異なる容姿となっていた。
美しい艶めく黒髪はまるで銀糸の様な美しい色へと変わり、褐色の素肌の上に幾つも浮かび上がるのは幾何学的な漆黒の紋様。
その背後に控えていたなのはもまた、ヴァネッサと似た褐色の肌、白銀の頭髪、そして額や頬にはヴァネッサと同じような紋様がはっきりと刻み込まれている。
二組の極めて嗜虐的に細められた挑発的な瞳が、桃子の身体に注がれていた。
しかし、それを受ける桃子に一切の驚きは見られない。
むしろ、何故忘れてしまっていたのかという驚愕の思いが、その心の大半を占めていた。
そうだ、彼女と初めて出会った、あの日の夜から既に自分は―――。
「申し訳、ありません、御主人様。今まで、私は、恐れ多くも貴女様を恋人か何かであるかのように……ッ」
「気にしなくていいわよ、桃子。私も、中々楽しかったわ」
「あぁ、ありがとうございます! そのようなお言葉、私にはッ!」
全裸のまま跪き、苦しげに呟く桃子。
そのへりくだった姿を見下ろす二人は愉快そうに顔を見合わせて、クスリと微笑みあう
「これで、貴女の身も心も私のもの。さぁ、顔を上げて、桃子。そして、娘と共に私に奉仕なさい。これからも、ずっと、ね」
「は、はい! かしこまりました、御主人様!」
ヴァネッサ―――いや、ヴァイパーの言葉に促されるまま、その身体を寄せる彼女の瞳は、娘達のそれと同じ様な、昏く濁った色を湛えていた。
そこに浮かび上がるのはただ、魂に刻み込まれた、己が主に奉仕するという一途な悦びのみ。
完全なる愛玩物であるようにその在り方を歪められた親子は、先を争うようにしてヴァイパーの豊満な肉体を愛撫していく。
その心地良い感覚を享受しながら、彼女は自身の肩越しに母と姉の姿を眺めていたなのはへと声を掛けた。
「母娘揃って逸材揃い。本当に、あなたって素敵よ、なのは」
「ぇへへ、ありがとうございます、御主人様ぁ」
「魔に触れる者としての適正はあまり無いけれど、そんなもの、後からどうとでもなるわ」
ヴァイパーの紅い瞳、新たな二人の下僕が身に着けた首輪へと注がれる。
両者の心臓の鼓動に呼応して、微かに伸縮を繰り返す肉の管。
皮膚の向こう側へと潜り込むその半透明な血管を通じて、体内から汲み上げられた赤錆色の液体が中心の瞳石へと流れ込んでいるのが伺えた。
そしてそれと隣り合う別の管からは、群青に染め上がった液体がそれまでとは逆の順路を通って肉体へと注がれていく。
その様はまるで、身に着けた者の身体を走る血液を、別種のものへと置き換えようとしているかのようだった。
やがてその赤い血が完全に彼女達の体内から失われた時を思い描き、女は愉悦に浸りながら熱い吐息を零す。
「後で沢山、ご褒美を上げるわね」
「やったぁ!」
主人の身体にしがみつきながら、ぴょん、と飛び跳ねるように喜びを表すなのはの姿は、それだけを見れば歳相応の少女のようだった。
実の母と姉を、思考すら強制的に歪ませて他者の虜として差し出したばかりだと言うのに、その顔には翳りの一つとして浮かんではいない。
「そう言えば、あなたのお友達の方は、どうなのかしら」
もっと褒めてくれ、と言わんばかりに上目遣いで差し出された少女の頭を撫でながら、ふと思い出したかのようにヴァイパーは呟いた。
なのはは童女のように心地良さげな表情の中に、相反するような淫靡な色を浮かばせながらその問いかけに答える。
「アリサちゃんとすずかちゃんは、今日も二人でずぅっとエッチしてます。フェイトちゃんの方も、ふふっ、もうすっかり定着して、毎日夜遅くまで楽しんでいるみたいです。私も、お手伝いしてあげてるし」
「至って順調ねぇ。ベルカの騎士達も主で楽しむのに随分と慣れてきたようだし、そろそろ、頃合いかしら」
「わはぁ。ようやく皆揃って、御主人様にお仕え出来るんですね」
「嬉しい?」
「はい、とっても!」
星の数程の女を手中に収めてきた彼女をしても尚著しく劣情を催させる色香を纏いながら、無邪気にはしゃぐなのはの姿を眺め、ヴァイパーは満足気に微笑んだ。
そう、毒蛇の牙から滴る劇毒は、既に海鳴という街の至る所に浸潤し終えている。
そして、もう間もなく、全てが発現するであろう。
いや、それは何もこの街に限った話ではなく、遥か星の彼方、次元の壁の向こう側でさえも、だ。
以前の己と比べれば随分と緩慢な侵攻ではあるが、と苦笑しながら、相変わらず心地良さげに頭を撫でられ続けるなのはの顔を見やる。
その視線を感じ取り、ねだる様に唇をつき出して瞳を閉じる彼女へと自身のそれを重ねた。
くぐもった水音。
かつて家族であった三人が、己の身体とヴァイパーの身体で演奏する淫らな協奏曲が、夜景を一望する巨大な一室に響き渡る。
互いの口腔の境界すら曖昧になるような濃厚な口付けを楽しみながら、魔女の手に堕ちた魔法少女は母と姉の痴態を柔らかな目で見ていた。
これで、これから、ずっと一緒に、御主人様に仕えることが出来るのだから。
もう、二度と、寂しさなんて感じなくて良いのだ。
蕩けたその顔に浮かぶ、満ち足りた表情。
最後に残された、友と共に在りたい、という彼女の願いが叶えられる日も、もう、そう遠い未来の話では無い。
その時を思い描き、ぶるり、と身体を震わせて。
なのはは再び主の柔らかな肌に己の頬を擦りつけながら、それはそれは嬉しそうに、笑うのだった。
人妻NTRものってなんかいいよねって思ったんだと思います。
NTR(NTL?)感とか全然無いですねどうしようもないですね。
取り敢えず年内中に投稿出来ましたが、中身はいつもどおり悔しい内容です。
結構独自設定が多いですが、首輪の話や、姉のお話などは閑話で短めにまとめて投稿したいと思っています。
表現などについて、おかしなところがあったら申し訳ありません。
百合調教悪堕ちものがもっと増えるといいですね。
それでは、よろしくお願いします。