勇×一つ目入道(敗北)
「某としたことが……まさか妖怪如きに不覚を取るとは……っ」
新堂勇は自分の身体をがっしりと押さえつける巨躯の妖怪を睨みつける。
身体を拘束され体力も霊力も消耗しきっている彼女には、この程度のことしかできなかった。
組み伏した獲物の悔し気な表情に『一つ目入道』は、勝ち誇る様ににやりと不気味な笑みを浮かべると、それが一層、勇の屈辱感を煽る。
「くそ、くそぅ……やめろっ、やめろっ!! 汚らわしい手で触れるなっ!!」
捕らえた獲物の品定めをするかの様に伸ばされた不躾な腕を必死に振り払おうとするが、一つ目入道には抵抗とすら見なされていなかった。
乱暴に衣服を引き裂きながら晒された勇の裸身に歓喜したかの様に、その一つしかない目を大きく見開く。
「見るなっ! 見るなあっ!! ……み、みないで、くれ……」
鍛え上げられ引き締まりながらも女性らしい丸みを帯び、均整のとれた白く美しい柔肌。
大きさも形も良い乳房と、その頂点を彩る鮮やかな突起。
細くくびれた腰と丁度いい肉付きの尻と太股。
恐怖と羞恥に晒され、ひくつかせながらも、狭く閉じられた異性を知らぬ女陰。
その全てを初めて晒すことになった相手が、よりにもよって忌むべき下劣な妖怪になってしまった事が勇には悔しかった。
しかし満足に動くこともままならず、逃げることも叶わない勇には、ただ羞恥と屈辱感に歪めた表情で一つ目入道を睨むことしかできなかった。
そんな視線を受けてもなお、彼女を組み伏している一つ目入道は動じた様子もなく、ただじっくりと勇の裸身を眺めている。
すると不意に一つ目入道は自分の懐から一冊の本の様な物を取り出す。
その仕草に勇は『一つ目入道』の特徴の一つをぼんやりと思い返し始めていた。
(……確か一つ目入道は――っ!?)
思い出してしまった瞬間、勇はさらに激しい憎悪の感情を燃え上がらせていた。
「貴様はっ!! 貴様ら妖怪は、どこまで人を愚弄すれば……辱めれば気が済むというんだっ!!」
写経がしたいのならば、好きにすればいい。だがそれを捕らえた女を犯しながら行うというのが勇には許し難い行為だった。
抵抗できない女をまるで物の様に扱いながら、その身体を犯すという悪逆非道を目の前の妖怪は今まさに自分に行おうとしている。
せめて一握りでも力が残っていれば……。すでに手元を離れ遠くへ投げ捨てられてしまっている愛刀があれば……。
沸き上がる憎悪と殺意の衝動のままに、目の前の妖怪にその刃を突き立てていただろう。
しかし、現実は違った。
長年の修行によって培ってきた力も技術もこの妖怪を討伐するには至らなかったから、今こうして勇は妖怪の下にいるのだった。
自身の修行不足と自覚しつつも、だからといってその代償として甘んじて受け入れられるわけがなかった。
目尻に浮かびかける涙を流すまいと必死に堪えながら、勇は必死にもがき脱出を試みる。
そんな勇の懸命な抵抗を気に掛ける様子もなく、一つ目入道は手にした本の頁をめくりつつ、彼女の方を見てはまた本へと。視線を行き来させていた。
「くっ……。おい、貴様っ。そんなに読書がしたいのなら、さっさと某を解放して勝手に一人でしていろっ!!」
直後、勇は自身の失策を呪った。
自分を捕らえるだけで捕らえて、それで気が済んでしまったのかいつまでも行動を起こそうとしないどころか、完全に自分を無視して読書を始めてしまった一つ目入道の行動に、気づくと怒声を上げてしまっていた。
怒りを抑え少しでも体力の回復に努めていれば、その力を振り絞って脱出できた未来もあったかも知れなかったが、その可能性を自らの手で潰してしまったことに気づくのだった。
勇の怒声に反応したのか、それともようやく『どれがいいか』決まったのか、頁を開いたままの本を片手に、もう一方の利き腕を再び自身の懐に入れると大きな筆を取り出した。
まるで準備ができたと言わんばかりの一つ目入道の姿に勇は全身が強張る。
しかし、筆を手にしたものの一つ目入道はまたしても視線を本に移していた。
「――っ!!」
勇も思わず声を上げそうになってしまったが、二度もの愚行は冒さなかった。
ここまで注意力が散漫な奴ならば、或いは……。
まだ撤退できるだけの体力も霊力も回復してはいないが、隙をついて後生大事にしているあの本を払い落とすなり、奪い取って遠くへ放り投げてしまえば、少なくともこの危機的状況から脱することができるかもしれない。
そう思い、勇は一つ目入道の本に視線を向けると、不意に妖怪の手の隙間からわずかに覗けたその表紙と裏表紙に意識が向いてしまう。
(……なんだ、あれは? 経典とは違う。外の国の文字か? 文字の様にも怪しげな紋様の様にも見えるが……いったい)
――直後、勇の思考は強制的に中断される。
「んあっ!? ああぁんっ!? なっ!? な、き、貴様っ!! いきなり何をするっ!?」
突然下腹部をなぞられる刺激に勇は自分でも驚くほどの艶めかし気な声を上げてしまい、動揺しながらもその元凶となった存在を糾弾する。
快感と認めたくない刺激を受けた下腹部に視線を下すと、その光景に勇は絶句した。
一つ目入道が筆を走らせたままに見慣れない紋様が描かれていた。
「くぅっ!? や、やめろっ、ひゃああんっ!? そ、某の身体は和紙や画用紙などではないのだっ!! ん、あぁ、んっ……ひ、人の身体にそんな無意味な落書きなど、す、するなっ!! ……っ」
おそらく手にしている本の模様を練習しているのだろうが、あまりにも細かく緻密なのだろう。
筆先が強弱やリズムを変えて身体を走りなぞられる感触に身体がどんどんと敏感に反応し快感を覚え始めていく。
それと同時に、勇は何か猛烈に嫌な予感に襲われる。
……もしこれが、得体のしれない呪術の類だとしたら…………。
それが完成してしまったら自分はどうなってしまうのか……?
「くっ……させるかぁっ!!」
突然頭を過った直感のままに、勇は思いきり身体をよじらせた。
緻密な動きを続けていた一つ目入道の筆先が自分の腹を大きく滑っていくのを感じ、勇は妖怪に一矢報いる事ができた手応えに不敵に笑う。
「ふっ。そうなんでも貴様の思い通りになると思うなっ」
勇の下腹部から脇腹にかけて走った一本の黒い線が、直前まで一つ目入道が必死になって描き上げようとしていた紋様の一部を大きく塗り潰してしまっていた。
その光景に一つ目入道は一瞬呆然としたかと思うと、全身を小刻みに震わせ、その目はさらに鋭さを増していた。
もしかしたら描きかけの作品を台無しにされた事に、相当の怒りを感じているのかもしれない。
勇は一つ目にギロリと睨みつけられると、その迫力に気圧されそうになるのを必死に堪え、負けじと自分の方からも妖怪を睨みつけた。
彼女の反抗的な視線と態度に一層苛立ちを覚えたのか、作業を中断すると一つ目入道は勇の身体を力強く押さえつける。
「あぐっ。ふ、ふん。意のままにできなければ、力づくで無理やりという手段しか思いつかないとは、やはり妖怪など下衆だな……だが、そんな方法では某は決して屈することなど――」
勇は最後まで言葉を言い切ることができなかった。
身体を引き裂かれたような衝撃に、息が止まる。
「――い、痛いっ!? いたいっ! ひぐっ! い、痛いっ!? いたいいたいいたい……っ」
感じた衝撃が下腹部の激痛に一瞬で変わる。
経験したことのない痛みと身体を圧し潰されそうな苦しさに涙を流しながら泣き喚く様に何度も痛みを訴え、勇は視線を下の方に向けた直後固まった。
「なっ!? あ……う、うそ……そ、それがしの……某の初めてが……」
あまりにも呆気なく、雑に散らされてしまった自身の純潔を目の当たりにして勇は呆然としてしまう。
しかし、彼女はすぐに破瓜の痛みによって意識を現実に引き戻される。
膣内に無理やり収められてしまっている不釣り合いな程に大きな異物に勇はただただ恐怖を感じる事しかできなかった。
今も引き裂かれ強引に押し広げられ、ジクジクと痛みを伴う強い圧迫感に加え、下手に動くと傷口がさらに広がり先ほど以上の鋭い痛みが走るどころか、本当に裂けてしまうのでは、という恐怖に動けずにいた。
目論見通り大人しくなった勇の姿に一つ目入道は、じっとしていろと言っているかの様に彼女に一睨み効かせると、繋がった状態のまま中断していた作業を再開し始める。
勇の妨害によって真っ黒に塗り潰されてしまった部分の墨を舐め取る様に舌を這わせていく。
「き、貴様っ、やめろっ、そんなところ舐めるなっ!?」
生暖かくヌメる舌が際どい部分を舐め上げていく。
妖怪に身体を舐められる。その行為は間違いなく彼女にとって許されざる不快極まりない行為のはずだった。
しかし、戦闘による興奮や高揚。敗北や凌辱によって齎された屈辱と恐怖という様々な感情によって経験したことのない未知の感覚に身体は敏感に反応を示し始めていた。
「ひゃうっ!? や、やめっ、く、くすぐった……ぁ、ぅ、あ、だ、だめ……っ」
舐められるくすぐったさと、羞恥心にわずかに腰が浮くと、無意識に余計な力が入ってしまう。
そして、その力の行き場は彼女の膣内に我が物顔で居座っている物へと向けられてしまっていた。
「……っ、く、ぁ、た、たの、頼むっ、や、やめっ、んっ、あ、んぁ……っ」
筆が大きく逸れていった一本のラインをなぞる様に下腹部から脇腹へと舌が動くと、勇は今まで以上のくすぐったさと、もどかしさに襲われる。
その刺激に耐えるように、あるいは縋りつく様に自身の女陰を深々と貫いている一つ目入道の魔羅を強く強く締め上げてしまう。
自分の意志と関係なく何度も収縮と弛緩を繰り返し、初めて受け入れ繋がっている雄を否応なく意識させられてしまっていた。
「――っ、くっ……ぁ、ん……ちがう、某は感じてなどいない……妖怪相手に気持ちよくなど、なっているものか……ぁ」
膣奥から滲み出るように流れて来たものが結合部から零れ始めてくると、徐々に破瓜の血の朱が薄れていく。
大人しくなった雌が、まるでせがむ様に魔羅を締め付けてきた事に気を良くした一つ目入道は、一瞬性欲に流されてしまいそうになった自身の気を引き締め直したのか、墨がほとんど舐め取られ唾液塗れになった勇の白い肌に再び筆を走らせる。
丹田の辺りを重点的に筆先になぞられる感触に勇は、身をよじらせることなくじっと耐え続ける。
彼女自身は快楽に溺れることなく必死に妖怪相手に抗い抵抗しているつもりだったが、実際は違っていた。
本人が望もうとも望まずとも彼女の膣内は湿り気を帯びつつあるが、それでもなお一つ目入道の魔羅を受け入れるにはまだ早急過ぎたことには変わりない。
下手に自分や相手が動くだけでも、激しい痛みが生じることに無意識に勇は恐れを抱いてしまっていたのだった。
やがて自分の身体をなぞり続けていた筆の感触が離れ、それを一つ目入道が懐にしまうのを見て、勇はようやく終わったのだと安堵する。
「おいっ! 下らないお絵描きはもう済んだのだろう! ならさっさと某を解放しろっ!!」
目的を果たしたのだから、これ以上自分に用はないだろと苛立たし気に捲し立てる。
その時、不意に視界に書き記されてしまった自身の下腹部の模様が目に入ると同時に、違和感を覚えた。
黒い墨汁で書かれていたはずの紋様は、まるでその存在を主張するかのようにどこか妖艶さを感じさせる赤とも桜色とも取れる妖しげな輝きを放ち始める。
「な……な、ん、だ……? きさま……そ、某に、な……なに……を………………」
勇は紋様が放つ輝きに魅入られていた。
どんどん意識が現実から遠ざかっていく感覚に必死に抗おうとするが、視界も意識もその大部分が紋様へと奪われていく。
そして朦朧とする意識の中で唯一感じた飢餓の様な感覚。自分の中から餓えた何かを必死に求めるように手を伸ばしながら勇は完全に意識を飛ばしてしまうのだった。
***
一つ目入道は作品を描き上げる事ができたという達成感に浸っていた。
経典の代わりに自身でもいつ手に入れたのか全く見に覚えのない本を持ってしまっていたが、そんなのは些細な事だった。
むしろ描き慣れない細かく緻密かつ幾何学的な模様をこれと決めた女体に刻む込む。というある種の使命感とも執着心とも言える感情に捕われ、そして見事完遂を果たしたのだから。
途中で何度も女体が身を捩らせ、作業の妨害をしてくるからと大人しくさせるために魔羅で女陰を貫いてやったが、あろうことか今度はその女陰で魔羅を締め付けてくるとはなんと淫靡な雌か。
改めて、自身の仕事振りをじっくり鑑賞しようと視線を落とし、そのまま自らが描き上げた『淫紋』の魔力の虜になってしまうのだった――
「う、うぁああぁぁぁっ……はぁっ、はぁっ……ぁ……っ」
『――っ。う、お、おぉぉぉ……っ』
勇は自分の上に覆い被さっている雄の腰に両手を回すと力いっぱい自分の方へと引き寄せる。
それに応えるかのように一つ目入道も腰を大きく突き出し、魔羅を更に硬く肥大化させながら膣道の奥へ奥へと押し広げ突き進んでいく。
一分一秒でも早く雌の子宮に雄の精液を注ぎ込まなくてはいけない。そんな強迫観念に捕われながらも、二人は互いを意識していなかった。
「ぁ、は、はやくっ……はやく射精してくれぇ……っ」
『……っ、ぉ……ぅ、ぅぅ……っ』
それぞれがそれぞれの性衝動のままに腰を振り魔羅を扱き、膣襞を擦り、膣内を締め上げる。
性欲を強引に増幅され、倍以上に肥大化させられた一つ目入道の魔羅が大量に作り出した精液を暴発させるのに、そう時間は掛からなかった。
『――っ!!』
「あっ、はあっ……あ、熱いのがいっぱい、な、なか、に……」
一つ目入道の身体が一際大きくビクリと跳ねると、魔羅だけが彼の制御を離れてビクビクと膣内で激しく痙攣し、何度も何度も精を吐き出し続ける。
「あ、あぁ……んっ、あ、温かい……」
子宮に初めて雄の熱い精を受け止める感覚が、先ほどまで感じていた強烈な飢餓感を打ち消していく。
勇の中の餓えた何かが満たされていく感覚は、一つ目入道の射精が収まるまで続いた。
だが――
「はぁ……はぁ……まだ、だ……まだ足りない……っ」
勇は初めて知った雄の味に酔いしれ溺れ始めていく。
子宮には注がれたばかりの雄の精液の熱さが残っているが、まだ自分の餓えを満たすには全然足りない。
自分の膣内で硬さも大きさも衰えることなく収まっている魔羅から新たな精をねだるように膣を締め上げる。
『…………ぉぉ……っ』
彼女の様子に気を良くした一つ目入道が二度目の交尾に応えるように腰を突き出す。
「っ、くぁ……い、いいっ……いいぞ……もっ、と……もっと、はげしく……」
勇は四肢を絡め、強く一つ目入道の身体にしがみつく。
膣は深々と魔羅を根元まで咥え込み、膣襞を絡みつかせながら締め上げていく。
華奢な女の身体からは到底想像もできない程の強い力で、一つ目入道は完全に拘束されてしまっていたが、彼自身はまだその事実には気づいていなかった。
すっかり発情し、自分に欲情している厭らしい雌との交尾に自信も夢中になっていたからだった。
腰を動かさずとも、活発に蠱惑的に蠢く雌穴が絶妙な緩急と強弱をつけ巧みに射精へと導いてくる。
「はぁ……、んぁっ……あぁん…………んぶっ……。じゅるっ、じゅるるぅ……じゅぷっ」
だらしくなく開いて涎を垂らしながら熱い吐息を漏らしている口元から覗く彼女の小さな舌に一つ目入道はむしゃぶりつく。
互いの舌を絡め合わせ唾液を啜りながら、手持無沙汰だった大きな両手が彼女の大きく形の整った綺麗な乳房を荒々しく揉み抱く。
乳房全体を捏ねくり回す様に、或いは硬く尖った鮮やかな登頂部を抓り上げる様に、まるでそうするように求められている刺激をその通りに与える事ができると褒美の様に膣が魔羅に更なる快感を与えてくる。
「ぷはっ……いいっ、いいっ……このまま、全部……ぜんぶ、だしてくれぇぇぇっ」
「――っ、……っ!?」
やがて二度目の絶頂に至るその寸前で、一つ目入道は本能的な恐怖を感じた。
このまま再びこの雌の中で果てる事に命の危険を予感したが、すでに彼女の身体の虜になってしまっている雄の本能は生命の危険よりも極限状態にまで昂っている性欲の開放を優先してしまうのだった。
***
「――はっ!? ええいっ。貴様いつまで某を組み伏せているのだっ! さっさと離れんかっ!!」」
二度目の精液と妖気を子宮で受け止めるのと同時に勇の意識は突然覚醒する。
それと同時に込み上げてきた怒りの衝動のままに、力なくぐったりとしている様子の一つ目入道を勇は思いきり蹴り飛ばした。
蹴られた勢いそのままに一つ目入道は地面をゴロゴロと転がると、蹴られた衝撃で彼も目を覚ましたのか、よろよろと起き上がる。
『――っ!? ……っ』
「なっ!? こらっ! 逃げるなっ!!」
直後、鋭い目つきで自分を睨む勇の視線に気づくや否や森の奥へと一目散に逃げ出してしまった。
すっかり精気も妖気も根こそぎ奪われた瀕死の妖怪に、もはや戦闘の意志はなかったのだろう。
予想外の行動に勇も慌てて起き上がり、その後姿を追い掛けようとしたが……辞めざるを得なかった。
「くっ……卑怯な上に臆病な奴め……」
勇は自分が一糸纏わぬ裸身を晒してしまっている事に気づくと、周囲に散らばっていた衣服をかき集め始めた。
一流の退魔士ではあるが、うら若き乙女である某が全裸で森を駆け回るなどと言う破廉恥な行いなどできるわけがない。
「……っ。ぅ、うぅ……うぐっ……ぁ、ぁぁ……」
まだ生暖かい精液が、ごぽりと膣口から溢れ太腿を伝い流れ落ちていく。
直後、どんどん思考がクリアになって行くにつれて、先ほどまでのおぞましい体験が鮮明に蘇ってくる感覚に勇はその場に蹲ってしまった。
身体も心もまるで自分から離れてしまったかのような、あるまじき行いだったのにも関わらず、その時の記憶はしっかりと自分の中に刻み込まれている。
「くそっ、くそぅ……なぜ、なぜ某が、下劣な妖怪なんかとあんな真似を……っ」
勇は怒りと悔しさに何度も地面を叩き続ける。
先ほどまでの行為を身体は快感として認識してしまっているのを認めたくなかった。
自分はそんな不埒な人間などでは決してないのだから……。
彼女が自己嫌悪に陥り囚われていると、近くの茂みが、がさりと揺れた。
「――ひっ」
不意に聞こえた物音に勇は短い悲鳴を上げその方向を見たが、たまたま風で揺れただけだったのか、すぐにその茂みから何かが現れることはなかった。
しかし、不穏な気配は確実に自分の元へと近づきつつある。
「……ダメだ。一度撤退だっ」
いかに熟練の退魔巫女とはいえ妖怪に敗れ精神的に弱っている状態の勇に新たな妖怪と戦闘するという選択が取れるわけがなかった。
散乱していた愛刀や荷物を急いで纏めると、その場から逃げるように『帰還の符』を使い脱出するのだった。