「……幹也さん。すみませんが、神社に戻ったらわたしが声を掛けに行くまで、そのまま自分のお部屋で待っていて頂けますか? ……初花も幹也さんに今の自分の姿をあまり見られたくないでしょうし……」
「……わかった。俺もちょっとナツ様に用事があるから、それが終わったら部屋で待ってるよ」
姉としての意地なのだろう。
桂香さん自身も今回の件は相当堪えているだろうに、それでも初花ちゃんのお姉さんとして必死にその責務を果たそうとしているのが痛いほど伝わって来た。
神社に着くと、ナツ様と葉子さんがすぐに出迎えてくれたが、二人も沈痛な面持ちをしていた。
おそらくナツ様を通じて凡その事情は把握していたのだろう。
葉子さんが桂香さんに初花ちゃんの身を清めるのを自分も手伝うと言っていたが、桂香さんは一度それを断った。
それでも葉子さんの「二人が私の事を大切な家族と言ってくれたように、私もあなた達の事を家族だと思ってるのよ。こんなに辛そうな二人をただ見ているだけなんてできるわけないでしょ」という言葉を聞き、桂香さんはその場で泣き崩れてしまった。
その後葉子さんに優しく寄り添い励まされながら、未だにショックから立ち直れていない初花ちゃんを連れて湯浴み場へと向かって行くのを見送る。
――そして俺は無理を言ってナツ様と一緒に境内に来てもらっていた。
「ナツさま、我儘を言ってしまい申し訳ありません。ナツ様も二人が心配なのは重々承知なのですが……」
「……ううん。二人にはようこがついてるから、だいじょうぶ。ナツはみきやの方もしんぱい」
「そうですね……正直かなり堪えてますが、でも、へこたれてるわけにもいかないんで無理にでも大丈夫にします」
「だめ。みきやもちゃんと休む」
いつもは子犬の様に甘えてばかりなのに、こういう時には人の心の機微を読み取って真剣に向き合ってくれるあたり、本当に神様なんだな。と大層失礼な考えを抱きつつ、掛けられた言葉に嬉しさと自分の不甲斐なさを感じる。
「わかってますって。さすがに今日は色々ショッキングな事がありすぎて疲れましたので、ゆっくり休ませて頂きます」
「わかった。それでみきやはナツに何して欲しいの?」
「ナツ様のお力でこっちの方は浄化をお願いします。それで、こっちはお焚き上げをして供養してください」
妖怪の体内に長時間取り込まれ、初花ちゃんの霊弓も衣服も妖気を帯びてしまい呪いを受けてしまっていた。
そこで装備の方は浄化をしてもらい、回収した衣類はそのまま供養してもらおう。というのが俺の考えだった。
替えの効かない大切な霊弓は、今回の苦い経験を糧に再び音羽家の家宝でもあるこの霊弓を手に、しっかりと立ち直って欲しいという俺の願いでもある。
衣服に関しては言うまでもない。そもそも妖怪なんぞが触りまくって穢れた物なんぞ、いくら綺麗に洗い流したところで誰が着たがるものか。
回収した理由も服や下着を通じて、間接的に初花ちゃんが穢された気になるのを防ぐために他ならない。
「……ん。わかった。こっちは……綺麗になれ。こっちは……さようなら」
ナツ様が念を込めると、その想いに包まれたそれぞれの物品が青白い輝きを放ち始めた。
片方はより強く輝きを増し、本来のあるべき姿を取り戻していく。もう一方はより淡い輝きとなった炎に包まれ少しずつ天へと還って行き、やがて完全に消える。
「ん。終わった」
「ありがとうございます」
その後、霊弓装備一式は本人が自分から取りに来るまでの間、ナツ様に大切に預かって頂く事に。「みきやも早くげんきになってね」という言葉をもらい別れ、俺は割り当てられている自分の部屋へと大人しく引っ込むのだった。
しばらくして約束通り桂香さんが俺に声を掛けに来てくれて、そのタイミングで俺も湯浴みを済ませる。そうして俺が再び部屋に戻る頃か、もしかすると更に時間を置くかもしれないが、いずれ初花ちゃんが俺の部屋に来るという手筈になったそうだ。
「……わたしでは初花を立ち直らせる事はできませんでした。幹也さん、お願いします。どうか初花を救ってくださいっ。わたしの大切な妹なんですっ!」
桂香さんは流れ出る涙を拭わずに、俺の手を強く掴みただただ縋りつく様に懇願してきた。
その姿に俺は改めて初花ちゃんが穢されてしまったという事実を突きつけられてしまった気がしていた。
これまでにも何度か穢されてしまった女性相手に浄化を行ったことはあるが、ここまで身近に感じていた存在相手に行う事になるとは考えてもいなかった。
霊障を被った女性の関係者の方達にも、桂香さんが発した言葉の様に、俺に『救って欲しい』や『立ち直らせて欲しい』という言葉を何度も向けられてきた。
だが、その度に俺の回答は決まって「やれることはやります。ですが、彼女が再び立ち上がれるか、どうかは彼女自身の意志が必要不可欠なんです」という弱気な物だった。
そんな俺の言葉を聞いた人達はみな、無念そうな表情を浮かべたり、今度は神や仏に祈る様な行動を取り始める。口には出していないが、救って見せると言えなかった俺に少なからず落胆や失望の念を抱かせてしまったことに、俺自身もただただ自分の無力を感じていた。
――だからこそ、俺は桂香さんに弱気な自分を見せてしまい、彼女をこれ以上がっかりさせたくなかった。
「わかっているよ。俺にとっても初花ちゃんは妹みたいな……って言えば、本人に怒られそうだな。気の合う友達というか、もう家族同然みたいなもんだしね。初花ちゃんにはいつも明るく笑っていてもらわないと。悪戯は程々にだけどね」
「……くすっ。そうですね。あの子がいつまでも暗いままじゃ、わたしも張り合いが出ません」
他人様が聞いたら身内贔屓バリバリの言葉に不平を思われてしまうかもしれないが、吐いた言葉を戻すつもりはない。
その言葉のおかげでようやく桂香さんがわずかにだが笑顔を見せてくれたんだ。
「……はぁ。なんか妹に先越されたみたいで悔しいですけど、程々にしてくださいね。うっかりデキちゃったら、お父さんに本気で斬られちゃいますからね?」
大切な妹を委ねてくれた桂香さんは去り際になんかすごく不吉な言葉を残していってくれやがった。
浄化したら、互いに相殺し合って生殖能力失うって最初の戦闘の時に話したよね。
まるで浄化が終わった後を心配している様な、そんな言葉に一抹の不安を覚えつつ、俺は念入りに身を清め終えてから自室へと戻った。
***
俺の部屋には、すでに初花ちゃんが待機していた。ある程度待っても来なければ、さすがにこちらから出向かざるを得ないとも考えていただけに少し予想外だったりする。
「もしかして、だいぶ待たせちゃってたりする?」
「……ううん。そんなには。自分の部屋でずっと一人でいると、余計な事ばっかり考えちゃいそうだったから、早めには来ちゃったかも」
口を聞いてはくれているものの、やはり気落ちしている様子が伺える。
「肝心な時に初花ちゃんの側にいることができなくて……護ってあげられなくて本当にごめん」
「ちがうよっ。お兄ちゃんのせいじゃないっ。あたしが、お兄ちゃんの指示を無視して勝手な行動をしたから……」
「それを含めて俺の責任だよ。俺が二人を指揮していたんだから。先を行こうとした初花ちゃんを止めるなり、せめて桂香さんを一緒に行かせてあげてたら――」
「それ以上言わないでっ!! お願いだから……言わないで」
ほんの僅かな油断。甘い考えが初花ちゃんの身に取り返しのつかない結果を招いてしまった。そんな俺の後悔と罪悪感のあまり『もし』を語りそうになった俺の言葉は彼女自身に遮られた。
「……お兄ちゃんのせいにして逃げたくないから」
「初花ちゃん……」
「………………ごめん、お兄ちゃん。胸貸して、思いっきり泣くから」
「あぁ。桂香さんの前では我慢してたんだよね。俺にならいくらでも構わないから、全部吐き出していいよ」
俺の返事を聞くや否や、悲しみに染まった表情に変えながら胸に飛び込んできた初花ちゃんを強く受け止める。
胸に顔を埋めて啜り泣き始めた声が徐々に大きくなってきて、溜め込んでいた感情が一気に弾けた。
「うぅ……ぐすっ……ひぐっ……う、うわぁぁぁああぁぁぁぁん!! すごく怖かったっ!! 痛かった!! 今もずっと気持ち悪いのが全身にこびり付いて離れないよぅ!! すぐにお姉ちゃんとお兄ちゃんが来てくれるって信じてたのにっ、全然来てくれなくて!!、その間もずっとずっと乱暴に身体を汚されて……終わったと思ったら終わってなくて、他の所を汚されそうになって……気持ち悪い、気持ち悪いよぉ……っ」
俺と桂香さんへの信頼と希望を挫かれながら妖怪の餌食となってしまった初花ちゃんの絶望は計り知れないものだったのだろう。
絶望の中、まさに生き地獄とも言える所業をその身に受け憔悴し切った心身で、それでもなお、俺や桂香さんの心を気遣おうとしてくれていたのだ。
「ぐすっ……ひっく、ひっく……」
初花ちゃんはしばらく俺の胸の中で泣き続けいたが、やがて嗚咽が収まると顔を上げ、涙で泣き腫らした目を俺に向ける。
「……あたしの汚れた身体、綺麗にしてくれるんだよね?」
「もちろん。妖気の欠片一つ残さず、しっかり浄化する」
俺の言葉に初花ちゃんは一瞬訝し気な表情を浮かべた。
「はぁ……。まさかあたしが最初に脱落かぁ」
「脱落?」
「お兄ちゃんの恋人争奪戦」
「いやいや、それはおかしいだろ?」
「……お兄ちゃん、さすがにそういう心にも無い慰めは酷いよ」
何故か俺を糾弾するような言葉と苛立たしそうな顔をする初花ちゃんの様子により一層困惑を深めてしまう。
自分の言葉の意味を理解できない俺を見たためか、言いずらそうにその理由を告げる。
「……だって、あたしはもう妖怪に汚されちゃったんだよ。お兄ちゃんはそんな人を恋人にできる? したいって思えるの?」
「あーそういうことか。おーけい理解した。とりあえず結論から言おう。俺が優柔不断な最低野郎なのはわかってるが、今回の件で初花ちゃんを候補から外すつもりは微塵もない」
「???」
今度は初花ちゃんが困惑する番になったようだ。
どうやら俺が浄化という言葉で若干濁し気味に回答してしまった事で、わずかな齟齬を生んでしまったのだろう。
「正直、男の俺には被害者である女性の、妖怪に孕まされる恐怖や苦しみを同情はできても理解してあげられることができないのはわかってる。いくら妖怪に犯された後の治療のためとはいえ、男にまで抱かれないといけないんだ。苦痛なんて言葉じゃ言い表せない程の事をしているとは思ってる。でも、その人を救うためにはそれしかないんだって、毎回自分に言い聞かせたり、あまり考えないようにしてるってのが治療を行う側の、少なくとも俺自身の実情だ」
繁殖のために犯す妖怪と、それを浄化するために犯す俺。やられる側からしたら、死体蹴りに等しい扱いを受けている様なものだろう。
「でも、それは仕方ない事なんじゃ」
「そうだね。初花ちゃんみたいに必要な事だと理解して割り切ってくれたり、恋人や夫みたいに行為を行うこと自体にほとんど抵抗のない相手がいる場合はともかく、そうじゃない場合は?」
「…………無理やりしちゃうの?」
「事実上、究極の二択だからね。妖怪の仔を産み落とすか、俺の浄化を受け入れるか。どちらを取っても最悪な二択を強制的に選ばせてるようなもんだよな……」
過去には遠方に恋人がいて、連絡を受けた相手がどんなに急いでも間に合わない状況だったり、泣きながら必死に耐えて俺を受け入れはしたものの、いざ霊力を込めた精を放つ直前になって、遂に心の均衡が崩れ、取り乱し暴れる女性に彼女のそれまでの頑張りを無駄にさせないために……。と言うこともあった。
何より初花ちゃん自身が懸念した様に、浄化を求めた相手に裏切られ失意のどん底に落とされてしまった者も……。
さすがにそこまで生々しい話はしなかったが、おそらく初花ちゃんも自身で考え得る限りで最悪な状況を想像していることだろう。
「俺にできるのは妖怪に孕まされた妖気を浄化することだけなんだ」
「そっか。じゃあ、あたしはラッキーだったんだね。お兄ちゃんなら、しっかりと妖気の浄化もできるし、汚れた身体も綺麗にしてくれるしね」
その言葉と共に初花ちゃんが微笑みを向けてくれた。
とても弱々しく儚い物だったが、それでも今の俺には十分過ぎるものだった。
「……それとさ。これは初花ちゃん相手だから言えること……っていうか、お願いなんだけどさ。妖怪に襲われて本当に辛いのはわかる。でもさ、それで自分は汚れた存在だから、もう俺や今後誰かを好きになる資格なんてない、なんて思わないで欲しいんだ」
今の初花ちゃんに聞き入れてもらうのはかなり酷なお願いを言ってるのは自分でもわかっている。
俺だって体内に妖怪の卵なり妖気なりを流し込まれたら、あまりのおぞましさに気が狂ってもおかしくだろう。いや、下手するとそのまま自決しようとするかもしれない。
「そうだよね。お姉ちゃんも汚れちゃうからいいって言ってるのに、ずっとあたしの身体を綺麗にしようと洗ってくれてた。あとでちゃんとお礼言わないと……」
穢れと恐怖によって凍り付いてしまっていた初花ちゃんの心が少しずつ熱を持ち始めて行くのを感じ、俺は確信した。
この子は必ず立ち上がってくれる。また元気な姿を見せてくれると。
「それじゃ、初花ちゃん。そろそろ始めようか」
「……うん。えっと、全部脱がないと、ダメ、なんだよね?」
ちらりと部屋の真ん中に敷かれている布団に視線を向け、恥ずかしそうに頬を染めている。
その仕草が俺にまるで恋人同士の初夜の様な雰囲気を彷彿とさせてしまい、慌てて被りを振る。
これは治療行為なんだと、妙な興奮で高鳴りそうな胸中を必死に抑えつける。
好意を持ってくれている相手への治療という俺自身にとっても初めてのケースになるのだと今更ながらに気づき、必死に冷静に平常心を保ち続ける努力をする。
「ね、お兄ちゃん。あたしが自分で脱ぐのと、お兄ちゃんが脱がせるのとどっちがいい?」
……が、そんな俺の努力を粉々にぶち壊そうとしてくれる言葉を投げかけてくれて、がくりと頭を抱える羽目になる。
もし仮にこの場に桂香さんがいたら「真面目にやりなさい」と頭の一つでもはたいてくれたことだろう。
「あはは……。ごめんね、お兄ちゃん。ちょっとふざけすぎちゃったよね」
直前までの俺をからかうようなニヤニヤした笑顔を浮かべていた表情が一転し、申し訳なさそうに困り顔になる。
考えてみれば、当然だ。いくら必要に駆られているとはいえ、年頃の少女が男に肌を晒すなど簡単にできる行為ではない。
「ちゃんと自分で脱ぐから、その、あ、あたしが良いって言うまで、向こう向いててくれる?」
「わかった」
短い返事と共に素早く初花ちゃんから背を向ける。
少しの間、俺の様子を覗っているのであろう初花ちゃんの視線を背中に感じる。
やがて意を決した様に服を脱ぎ始めたのであろう、衣擦れの音が聞こえ出してきた。
服を脱ぎ終えたのか、今度は布団があった辺りの位置から、もぞもぞと動く音が聞こえてくる。おそらく体勢を調整しているのだろう。
布が動くような音が止み、溜め息とは違う、深呼吸の様などこか熱が籠り乱れた少女の深い呼吸音だけが部屋に響く。
「……ん。いいよ。お兄ちゃん」
初花ちゃんからの許可が出たところで振り返ると概ね予想通りだったようだ。
布団の上に仰向けになり、恥ずかしそうにしながらも、どこか俺の動きに警戒するような視線を向けている。
抱きしめる様に両腕で胸を覆い、秘処も固く閉じられた両足で隠されていた。
そんな少女の綺麗な裸身に一瞬見惚れてしまいそうになるも、雑念の一切を排除し向き合う。
俺の真剣な表情を見て、考えを改めたのか初花ちゃんも表情を引き締めるも、どこか気後れしている様な感じだ。
「そ、その、治療、するんだよね?」
「あぁ、でもその前にまずは検査からだけどね」
「検査?」
「うん。まずはそれぞれの場所を調べてみて、妖気や卵がないかを確認しないといけないんだ。見つかったら治療が必要だけど、幸いにも植え付けられてなければ必要ないからね。初花ちゃん、辛い事を思い出させてしまうのは心苦しいんだけど、ここだけは妖気を流し込まれてないって言える場所はない? そこだけは検査もしなくて済むから、教えて欲しい」
残念ながら発見状況的に最も大切な膣内や子宮の治療をする事は免れないだろう。
それならせめて他の場所だけでも、これ以上の苦行を強いる事だけは避けたいというのが俺の本心だった。
「……多分、お尻は大丈夫だったと思う」
「そうか」
直腸や肛門が手つかずで済んだ事だけは喜ぶべきだろう。しかし、口も犯されてしまっていた事に悔しみが込み上げて来くる。せめて治療せずに済む状況であってくれる事を願うばかりだ。
「……でも、検査して欲しい」
「初花ちゃん、それは……」
不要な行為で必要以上に初花ちゃんの身体を穢すような真似はしたくない。
「お兄ちゃんならいい……ううん。お兄ちゃんじゃないと嫌だ。だからして、お願い」
「……ふぅ。本来ならするべきではないんだけどね。わかった。とりあえず、順番に調べて行って、そこは最後にしよう」
「うん。変なお願いしちゃってごめんね」
初花ちゃんのどこか必死に縋る様な視線と懇願に根負けする形で了承してしまう。
万が一という可能性もある以上、決して無意味と言うわけではないしな。
「まずは口の中から調べよう。指を入れてかき混ぜたり、少しだけ奥へ入れるから苦しかったら教えてね。あと、くれぐれも噛まないように頼むよ」
「うん。わかったよ。あんまり奥まで入れちゃヤダからね」
最後の注意点を冗談っぽく言うと、初花ちゃんもわざとらしく頬を膨らませて返してくれる。
そして、大きく口を開けてくれた初花ちゃんの口腔内へ一本の指をゆっくりと入れ、可愛らしい薄桜色の小さな舌先に乗せる。
「このまま俺の指を軽く咥えてくれる?」
「ん……こう?」
初花ちゃんの口が小さく窄められる様に少しずつ閉じられ、彼女の舌に乗っている指が、生暖かく独特なぬめりと柔らかさに包まれていく。
「動かしていくからね」
咥えてみてもらった感じ、比較的浅い部分に特に妖気は感じられなかった。
確かめる様に指で円を描く感じに動してみるが、触れる口腔粘膜からも妖気の反応はなさそうだ。
爪を立てない様に気をつけながら、指先に神経を集中し、関節を曲げ丁寧になぞり上げて行く。
他と比べてハリのある口唇付近。硬い歯や歯茎、逆に柔らかい頬の内側。独特な弾力とザラつきのある舌の表面と滑らかな裏側。
「……ん、口の中、触られるの、なんか変な感じ」
初花ちゃんが声を発するたびに舌がわずかに動き、指を舐められる感触に妙な快感を覚えそうになるが、これは治療行為なんだと自身に必死に言い聞かせる。
「ちょっとだけ奥に入れるよ」
「んっ……」
一瞬初花ちゃんが身構える様な表情を見せたが、俺の指が舌の中程あたりで侵入を止めた事で安堵したようだ。
「よし。終わり。初花ちゃん、大丈夫だ。口からは妖気を流し込まれた痕跡はなかったよ」
「ぷはっ。良かったぁ。鼻を突っ込まれたから、正直ちょっと不安だったんだ」
「……鼻?」
「うん……その、あ、アレよりはマシだとは思ったんだけど、やっぱ気持ち悪かった」
かなり特殊な性癖を持った個体だったのだろうか?
まぁおかげで治療せずに済んだのが幸いだったと言う事にしておこう。妖怪の事なんぞ一々深く考えるだけ無駄だ。
「……それじゃ、初花ちゃん、次は」
「……うん」
ようやく少しばかりは明るさを取り戻していた初花ちゃんの表情が再び暗くなるが、無理もないだろう。
今まで大切に護っていた純潔を最も恐れていた存在に散らされてしまったのだから。
「ねぇ、お兄ちゃん。どうせここは植え付けられてるのわかってるんだからさ……さっさと治療して欲しいよ」
「そうしてあげたいのは山々なんだけどね。どこに妖気があるかしっかり確認しておかないといけないんだ。確認しないでできない事もないけど、あまり狙いが外れ過ぎてると意味がなくなっちゃうからね」
「そっか……。じゃあ場所わかったら、早くやって。いつまでも気持ち悪いの嫌だから」
「わかった」
そのまま足を広げる様に指示すると初花ちゃんは一瞬躊躇する様子を見せたが、意を決し大きく開き局部を露わにする。
羞恥心よりも今だに自身を穢し続けている体内の嫌悪感の方が強いのだ。早く取り除いてあげなくては。
両足を開いたことでわずかに開きかかっている秘裂。周辺よりもぷっくりと膨らんでいる柔らかな陰唇に指を当て、そっと割れ目を広げていく。
薄ピンク色の膣粘膜が俺の眼前に曝け出される。
「ひゃうっ!? う、うぅ……お、お兄ちゃんに見られちゃってるよぉ……」
「ごめん、初花ちゃん。手早く済ませるから、今だけ我慢して」
落ち着きなく腰が左右に揺らし、膣口がヒクヒクと開閉を繰り返していた。
先ほどの口内の検査で俺の指先は初花ちゃんの唾液がたっぷりと付着している。
それを秘処に丁寧に塗りつけて行く。
「んぅ、お、お兄ちゃん、そんなに、触られると、あ、あたし……っ」
「だいじょうぶだよ。これが自然な反応なんだ。ゆっくり入れていくからね」
指先の愛撫によってまだ挿入が為されていない膣口が収縮を繰り返すたびに蜜を垂らし始める。
指を入れるくらいなら、すでに十分な潤いがあると判断し、傷つけないよう細心の注意を払いながら膣内へと指を滑り込ませていく。
初花ちゃんの膣内は驚く程に熱を帯びていた。
侵入した俺の指に素早く絡みつき締め付ける膣襞が、外へ排出しようとするのではなく、逆にまるで俺に助けを求めているかのように奥へ奥へと引き込んで来ている様に感じられた。
膣襞に爪が当たらない様に気を付けながら、更に指を差し込む。
完全に指の根元までが膣内へと入ったところで、ゆっくりとかき混ぜる様に動かしていく。
意識を集中し、膣内の様子を探り続ける。
「……お、おにいちゃん、まだぁ? 恥ずかしいよぅ」
「ごめんね。まだどうしても見つからなくて。あともうちょっとだから、がんばって」
俺に散々膣内を刺激され続けて、すでに初花ちゃんがお尻を置いている辺りの場所には零れ続けた蜜が大きな染みを作り、なおも広がり続けている。
羞恥心に耐え切れずに初花ちゃんは泣きそうな表情になっている。さすがにかわいそうになってきてはいるのだが、妖気が発見できない以上まだ止めるわけにもいかないのも事実。
……ここまで入念に探しているにも関わらず見つからないのならば、本当にないのでは?
性器よりもまず鼻を突っ込むような特殊性癖を拗らせている様な個体だったくらいなのだから、もしかしたらとてつもなく下手糞な奴だったという可能性も。
そんな一縷の希望を頭に過らせながら、最後にもう一押しだけして検査を終えようと思っていると、
「……っ。見つけた」
さすがにそんな都合の良い展開はないと内心で舌打ちしつつ、すぐに気持ちを切り替える。
これで確実に初花ちゃんの治療ができるのだ。
直腸はまだ検査をしていないが、元々初花ちゃんの要望があっただけで、直接的に犯されたわけではないのだから、そこまで重要度は高くはない。後回しにしてもいいし、それこそ検査自体しなくても構わないだろう。
仮にわずかな妖気が残っていたとしても、これから行う治療の余波だけで十分だろう。
「――っ!? ほんとにっ! 嫌だよ、お兄ちゃんっ。早く取ってよっ!!」
「落ち着いて、初花ちゃん。だいじょうぶだ。場所がわかったんだから、すぐに治療できるよ」
妖気を見つけたという俺の言葉に安堵すると同時に恐怖が蘇ってしまったのだろう。
興奮し膣圧が高まり強く締め付けられた指をそこからゆっくり引き抜く。
安心させる様にもう一度「だいじょうぶだよ」と優しく語り掛けながら、初花ちゃんの震える肩を抱きしめた。