エリアスとケイトが朝食を摂っている時に当主エリオットがフェネクスと共に仕事から帰ってきた。随分と手こずった仕事だったのか、珍しくエリオットはため息をついた。
一体、親父程の暗殺者を追い込んだ奴らは何者だろうか?
朝食を食べ終わったエリアスは当主エリオットにも話したい事があったのでついでに聞いてみた。
「お疲れ様、親父。今回の相手はどうだった?」
「奴ら、暗殺されている人間達がそれなりに増えてきたのを察知して、同業者の力を借りてきたよ」
「その同業者に今回の仕事は邪魔をされたな。対象の処理は成功はしたがね……」
「お父様の邪魔をしたきた奴がいたのね」
「ああ、同業者とは言え関係ない奴を殺してしまった。──全く」
「親父。今日は仕事はあるの?」
「流石に昨日の仕事で疲れた、今日は休むよ。家で留守番している」
「学院が終わったら親父に相談したい事があるんだ」
「相談か。後で聞かせて貰うよ。ほら、早く学院に行きなさい」
「じゃあ、行ってくるわねー!」
ケイトは学院の制服を着て元気よく家から飛び出すように走っていった。
エリアスは通学鞄を脇に挟みながらポケットに手を突っ込み、のんびりと通学路を歩く。
道すがらにジョニーとアリシアに出会うと三人一緒に学院の門を潜り、そしてエリアスにとっては退屈な授業の時間がきた。
腕枕をしながらタブレットの画面を見つめるエリアスは、授業で使うタブレットにメッセージが送られている事に気付く。内容は昼休み、暇だったら体育館の裏手にこいという腹ただしい命令が添えられていた。
やれやれ、とうとう実力行使の事態になってしまったのか……そんな気分だった。
昼休みの時間がきた。
エリアスは腹ただしい命令の通りに体育館の裏手に姿を見せている。
そこには陰険そうな男子が三人に、それを顎で使う女子が腕組みをして男子達の背後にいる。
時代は変わったもんだ……とエリアスは思った。こういうのは男子のみの専売特許かと思っていたが、ついに女子までこんな真似をするようになったのか……と感慨にふける。
すると、傲慢に腕組みする女子が口を開いた。
「あなたが最近、生意気な態度で私達に毒を吐くエリアス君ね?」
「生意気ねえ。ああ、そうだよ。──で、何の用? こんな所に呼び出すくらいだから暴力かなぁ。何せ体育館の裏手は暴力するには絶好の場所だしさ」
「私達の忠告を素直に聞くなら暴力はしないわ」
「じゃあ、さっさと忠告とやら言ってくれない? 時間がもったいないからさ」
「あなた、ジョニー・バートン様の側にいるわよね。それで彼の代わりに文句言ってるわよね?」
「しつこい女は嫌われるよ」
「ジョニー様から離れてくれないかしら? 私達のジョニー様をこれ以上、汚さないでくれないかしら? 穢らわしい……!」
「ふーん。そういうこと。嫌だって言ったら?」
「こいつらがぶん殴って修正させるわ、その態度」
「へへへ、覚悟するんだな」
「ボコボコにしてやるよ」
「できる? あんた達に? あんた達が殴ってきたらオレも同じことをするよ、もっと酷く」
「キャシー姐さん! こいつ、やっちまってよろしいですか!?」
「減らず口を塞いてやりな!」
「へへへ……」
ゆっくり近づいてくるが、どうやら喧嘩の素人だな。全く気合いが入ってねえや。
それにユルユルのパンチだ。とりあえず受けてやるか。
ボコッ! エリアスの顔にパンチが入る。
男子は「ざまあみろ」と歪んだ笑みを浮かべたが、エリアスの冷たい青い瞳を観て背筋の凍らせる。
殴った男子は心底怯えて、足があっという間に竦んでしまった。
「何だ、このパンチ。姉ちゃんの平手打ちの方が余程痛いや」
「男の癖に腰抜けパンチをしやがって……一発、お見舞いしてやるか!?」
「ヒエ〜〜っ!」
「こら! 逃げるな! 戦いなさいよ!」
「おい……あんたこそ、逃げるなよ……!」
そこでエリアスはちょっとした気迫にて女子を精神的にその場に縛りつけた。余りの恐怖を感じると足が竦んで動けない心理を体感として与えているのだ。
その彼の青い瞳は光が一切無く、殺気のみ込めて睨みつけている。
「ヒッ……ヒッ……」
(何……あの冷たい目は……人を人とは思っていない冷酷な目……あんなのがセントマリアンネ学院にいるなんて……!)
「おい……」
「ヒィィ……」
(叫び声も出ないよ……た、助けて……パパ、ママ……っ!)
エリアスはそっと近寄ると、見下した表情で冷徹に命令する──。
「今度、妙な動きをしたら……殺すから。文句言っても殺す……睨みつけても殺す……先生に告げ口しても殺す……分かったか?」
「殺すなんて事は、あんたが糞してようが、飯を食っていようが、いつでもできるからな……分かったなら一回、目を閉じろ……」
キャシーはその日、恐怖というものを体験した。奈落のように底が知れない絶望的な瞳が頭に焼き付いている──。
学院が終わり、帰り道を歩くエリアス。
ちょっと本気になりすぎちまったかな──。
昼休みの忠告の事を思い出しながら、帰り道を歩いた。
そして屋敷に帰ってくる。
「ただいまー」
「おかえりなさいませ、エル様」
「フェネクスじゃないか? 珍しいな」
「旦那様がエル様が帰ってきたら部屋へ寄越すように言伝を貰っております」
「話したい事があるんですよね?」
「ああ、今すぐ行くよ」
当主の私室に入るエリアスはアンティークチェアーにゆったりと座る父の姿を観る。どっかりと寛いで椅子に座っていた。
「親父。ちょっと相談があるんだ」
「何だ?」
「実はバートン家の御曹司にパーティーに来ないかと誘われているんだ。親父も連れて来れば? って誘われてさ」
「いつにパーティーがあるんだ?」
「今日から約二週間後の金曜日の夜だってさ」
「ふむ……その日は仕事は入れてないな……」
「どうする? パーティーに行く?」
エリオットは軽く腕を組むと、頷いて言葉を発した。
「いいだろう。パーティーに行くか。数ヶ月はこの国にいるんだ。親交を深めるのも大事なことだしな」
意外とあっさり決断を下す父に、エリアスは親父は何か心当たりでもあるのかなと感じていた。