時間はあっという間に二週間が経過する。その間に父は依頼の暗殺をこなしてノスフェラートファミリーの頭数を減らしていった。
あれから同業者の襲撃には合っていない。気になる所ではあるが、ノスフェラートファミリーにとってはトップ10にも入らない組の男達は掃いて捨てる程にあるからどうでもいい事かも知れない。
そして金曜日の朝陽が昇る。
本日はバートン家の社交パーティー。
ジョニーから誘われたエリアスは、父エリオットと姉ケイトをパーティー参加者として連れてくる事をジョニーに話したら、姉さんが喜ぶと答えてくれた。ケイトの存在は姉たちに親近感を湧かせるのに一役買うから連れて来て欲しいと伝えた。
そのケイトはドレスの吟味をしている。鏡の前でウキウキとして、これがいいか、あれがいいかとクローゼットから出して吟味していた。専属執事デュースも共に吟味している。
「どれにしちゃうか迷っちゃうね! デュース」
「ケイト様にとっては久しぶりですもの。それに今夜のパーティーの主宰は由緒正しい一家との事ですよ」
「失礼のないようにしないとね〜」
彼女はカクテルドレスを二つ取り出して、鏡に映して比べている。
彼女は燃えるように赤い髪のショートカットに褐色に近い瞳の勝ち気な少女で、年齢は15歳。父親はエリオットで、既に暗殺者として活動もしている人物だ。
無邪気ゆえの残酷さが裏に潜む人物で、人を殺す事についての良心の呵責は無くなっている。
ただし一般人にその力を振るうなというゾディアック家の教育で、学院に入学しても彼女の持ち前の明るい性格は多くの友人をもたらした。
頭も実に切れる。でも他人を馬鹿にしたりしないで、勉強に悩む人にこうすれば良いんだよと気楽に教えている。
その姿からとても暗殺者とは思えない程の社交的な性格は父親エリオットから見れば、様々な伝手を彼女にも持たせる事がこの子の為になると、今夜のパーティーに参加させる事にした。
ケイトはオレンジ色のカクテルドレスに着替えて、デュースのチェックを受けた。
「こんな感じで良いかな〜?」
「とてもよくお似合いですよ、ケイト様」
一方。エリアスの方も黒系のタキシードに苦戦しつつ着替えていた。
エリアスにとってはパーティーは初めての経験である。
それまでは屋敷にて暗殺者としての修行に明け暮れていた。だが、父親エリオットはエリアスもそろそろ、そういう世界を観た方がいいと判断してパーティーの参加をあっさりと許可する。
多分、エリアス自身もそういう世界や同年代の少年と遊びたいと思っていたのだろう。なら、叶えてやるのが筋というものだ。
「カトリーナ、似合っているかな? この格好」
「しっくり来ていますよ、エル様」
「こういうのさ、オレ、初めてなんだよね〜」
「まずは失礼のないように言動には注意ですよ。エル様」
「そーだねぇ、オレは口が悪いからな〜」
道中の送迎はフェネクスがする。フェネクスは車にてバートン家の住所をカーナビゲーションに入力している。
近くには色々な雑務を担当するワトソンも確認の為に側にいた。
「ワトソン、この住所で間違いないな?」
傍からワトソンが招待状に書かれた住所と照らし合わせてカーナビゲーションの画面を観ている。
「合ってますよ。これでバートン家には行けますね」
「意外と我が屋敷の近くに住んでいるんだな、住所から察するに」
「同じロンドン市内ですね。しかも似たような住宅街に住んでますよ。こことは違う区画ですけど」
「さて、今の時間は16時。そろそろ出発の時間だな」
腕時計を観てフェネクスが呟く。
当主エリオットも礼服を纏い、きちんと髭の手入れを確認して、髪の毛の乱れも正した。
漆黒のパーティー用のスーツだ。身動きが封じられないように軽めの素材で作られている特注スーツだった。
ネクタイは深めの赤色。ワイシャツは黒系のシックな雰囲気。
身支度を終えた彼は玄関で待つ、ケイトとエリアスに合流して、留守番をするカトリーナとデュースに挨拶してから車に向かった。
「待たせた」
「では行きましょうか?」
彼らが車に乗るとフェネクスの運転でバートン家の屋敷へと走る。
レモン色の月が見える午後17時。
続々とパーティー参加者がバートン家の屋敷に集まってくる。
玄関の出迎えにアリスが招待客に対して招待状のチェックと挨拶をしていた。
彼女は品のあるドレスを纏い、笑顔で受け答えしている。その近くにはジョニーもバートン家の一員としてパーティー会場の案内をしていた。
すると。
「おーい! ジョニー!」
「エル! よう! きちんと来たな!」
エリアスが父親エリオットと姉のケイトを連れてバートン家の屋敷へと入ってきた。
ジョニーはエリアスの父親の存在に気付いて、襟を正すようになり歓迎の言葉を添えた。
「いらっしゃいませ、我がバートン家のパーティーへようこそおいでくださいました。ジョニー・バートンと申します。エリアス君の学友です」
「エルから色々と聞いているよ。初めまして、エリオット・ゾディアックだ」
「パーティー会場はこちらです。どうぞ」
バートン家の他の娘達は、ジョニーの学友が連れてきた紳士に、何故か自分の父と同じものを感じていた。
そして、イリーナには観たことがあるを通り越して抱かれた事のある男性だったのだ──。
「へえ、あの時の紳士じゃん。まさかパーティーでお目にかかる日が来るとはねえ」
「イリーナ、もしかして貴女のこの間のビジネスの相手は……?」
「あの紳士だよ」
「縁があったのかしらね」
同じくイブニングドレスを纏うバートン家の長女レイスと三女イリーナは、パーティーの準備へと戻る。
今夜のパーティーはもしかしたら一波乱あるかも知れない──そんな予感がした。