バートン家の大広間にて今宵の社交パーティーの挨拶がされた。
その音頭を取ったのはバートン家の当主、レンブラント・バートン。今や巨大企業の金融事業財団法人【バートン財団】の理事長として、裏から後継者の補佐をする役目を負うことになった。
近い日付には新しい代表取締役社長に娘のレイス・バートンが就任する。レイスは鮮やかな金髪のロングヘアーの女性で年齢は弱冠29歳。結婚相手にはアルベルトという名前の男性がいる。
そのアルベルトも仲間の一人のジョンと呼ばれる男性と共に今宵のパーティーに参加していた。彼らも朗らかにパーティーの夜を満喫している。
そしてエリオット、ケイト、エリアスのゾディアック家の面々はジョニーの紹介でバートン三姉妹に紹介された。
バートン三姉妹は密かに驚く。このパーティー会場で今、一番気になる男性がこの目の前の漆黒のスーツのナイスミドルなのだ。彼とレンブラント・バートンは雰囲気どころか顔立ちもかなり似ている。出される空気はレンブラントの方が軽いが、こちらの男性は重厚感みたいな貫禄があった。
エリオットの方も若干、戸惑っていた。確かあの銀髪の女性とは一度、関係を持った事があった。自らの夜の相手として一夜を共寝した女性だ。
まさかその女性に会うとは……意外と世界は狭いのかと考えてしまう。
確か彼女は自らの名前を『イリーナ・レンブラント』と名乗っていた。そして先程、乾杯の音頭を取った当主の名前はレンブラント・バートン。これはこの女性の何かの覚悟の印なのかな……と考えていた。
イリーナはすかさず彼に挨拶をする。
「また、お会いする事が出来ましたね。こんばんは。エリオット様」
「やあ、こんばんは。まさかバートン家のお嬢様だったのか。ならあの気品は納得ですかな」
「イリーナ、この方と会った事があるの?」
「アリス姉さん。実はね……」
イリーナは小声で言う。
『この間のビジネスの相手がこの人だったんだよね』
『本当!? こういう事って本当にあるのね』
ちょっと不審に思うゾディアック家の面々に慌ててジョニーが話の続きをさせた。
「ちょっと姉さん達。思う所があるのは判るけど皆さんの前だよ。話は後でしようよ」
「そうね。弟がお世話になっておりますわ。何でもジョニーの学友と伺っております」
「ついでにそこの銀髪の方には私も一度、世話になっているよ」
「セントマリアンネ学院に通っているんですよね。あの学院、今はどうなっているのかしら?」
「あ、それなら私が教えてあげる事ができるわ。私はケイト、よろしくね!」
「アリスと気が合いそうね」
「私はアリス・バートンよ。あなたと同じセントマリアンネ学院に通っていたの」
「そうなんだ〜。ねえ、あっちで二人で話さない?」
「良いよ!」
二人は意気投合してパーティー会場のビュッフェスタイルで飲食を共にしながら奥へ向かう。
レイスは弟ジョニーに促した。
「堅苦しい挨拶は終わり。ジョニーもエリアス君と遊んできなさい。アリシアさんも待ってるわ」
「行こうか? エル!」
「おう! それじゃ親父、遊んでくるー」
「くれぐれも粗相のないようにな」
当主エリオットは、レイスとイリーナと共にカクテルを傾けながら談笑する。
彼女の口から出るのはやはりエリオットは実の父親に雰囲気が似ている趣旨の話だった。
エリオットからすれば、そのレンブラント・バートンに直に会ってみたいものだと感じる。
「そんなに似ているという話を聞くとここの当主のレンブラント・バートンに会ってみたいものですな。私もとある一家の当主をする身ですし……」
「ゾディアック家ってかなりの由緒正しい一家ですよね」
「バートン家のネームバリューには些か劣るかも知れませんが……」
「……そんな事はありませんわ」
レイスは人気のない所へエリオットを連れていく。深い青色のイブニングドレスの女性は長い廊下の隅で足を止める。
彼も同時に足を止めて、彼女の目を見つめた。
「お父様が言ってました。この世には歴史の闇を生きる一家がいる。その一族は普段は闇の世界に住んでいるがたまに表の世界に出て、会うべき人に会いにくる……と」
「……ゾディアック家の事をご存知か?」
「私の祖父にあたる人物もゾディアック家とは関わっていたそうです。確か交友を持っていた人物はラファエル・ゾディアックと言う名前だ、とか」
ラファエル・ゾディアック。参ったね、俺の親父の名前で、存命人物じゃないか。
エリオットは笑みを浮かべると言った。
「私の親父の名前だ」
「ご案内します。父の下へ」
「……頼むよ。我々も君達と会うべき時だったらしい」
その場所は到底、パーティー参加者には入る事はない場所だった。バートン家の応接間。それも近しい相手とする為の応接間だったのだ。
床のカーペットは深い赤色、壁の色はベージュで統率されていて、窓の格子も細かいデザインがなかなか粋に感じる。
窓硝子はかなり大きい。割と廊下も長い。ゾディアックの屋敷は漆黒の城みたいなものだが、バートン家の屋敷はゴシック様式の屋敷だった。なかなか良い屋敷に住んでいる……この雰囲気は悪くない。
「お父様。今夜のお客様がお見えになりました」
「──中へ入れてくれ」
「はい」
扉を開けるレイスは「どうぞ」と頭を下げた。イリーナも黙って頷いている。
その応接間にいたのは……
(──! な、何だと……? こんな事が──)
姿こそ多少の差異はある。しかし一目では自分自身に余りにも似ている……! 丹精な髭も、頭髪の銀髪も……纏う空気も……!
「初めまして、バートン家の当主、レンブラント・バートンです。ようこそ、エリオット・ゾディアック様」
「──初めまして、エリオット・ゾディアックだ。お会いできて光栄の至りだよ、レンブラント・バートン様」
二人は形式的な挨拶の後に大笑いした。
「何か変な感じだよな……! まさか、自分自身にそっくりの男に改まって挨拶するのってさ……!」
「本当にそう思うね!」
「まあ、何だ。酒でも傾けながら話をしようか」
「付き合うよ」
そして、二人の出会いから華麗なる一族と華麗なる暗殺一家の交友が始まる──。