リアン・ウォルター。彼はルーファスの弟で、探偵として活動している。レンブラントが若いも若い、20代前半頃からの知り合いで、その頃も探偵として活動していた。
その探偵事務所は規模を大きくなり、リアン・ウォルターは探偵会社の社長としての側面も持つようになった。
だが、やはり自らの手で事件の解決を望む彼は現場至上主義として今でも自らの足で事件の調査をしている。
西暦2030年の現在、探偵の需要は増えた。物騒な輩が多くなり、ストーカーからセクハラ親父、パワハラ上司の排除、会社の不正の暴露など、枚挙に
リアンはそれらの解決の為に若手の弁護士や40代くらいの弁護士も雇っている。
そんな彼らの事務所『アリアンロッド』にルーファスが16時頃に訪れた。
「いらっしゃいませ。どのような要件でしょうか?」
「リアン・ウォルターはここにいるかな? ルーファス・ウォルターという者だが……」
「ルーファス様ですね? 只今、リアンは事件の調査の為に出ております。17時には戻りますが……」
「後、1時間くらいか……。リアンに私がいつものバーで待っていると伝えてくれませんか?」
「判りました。お伝えしておきますね」
いつものバーとは彼ら兄弟が密な話し合いをする為に寄る個人経営のバーである。大変なお酒好きが経営している
店主は女性で皆は彼女を【マダム・リリーナ】と呼んでいる。風貌は貫禄を感じさせる大人の女性特有の魅惑的なマダムである。
ルーファスはそのバー【エルシオン】に向かう。
「こんばんは。マダム」
「あら、ルーファスじゃない? 今夜もリアンと待ち合わせ?」
「ああ、マダム。リアンは相変わらず忙しそうだな」
「でも元気にしているわよ、あの子」
マダム・リリーナはルーファスのボトルを棚から降ろしている。そしてグラスを出していつもの確認を入れる。
「アイスはどうする?」
「今夜は入れてくれよ」
「はい……夕食も頂くでしょう?」
「もちろん。マダムの料理は最高だよ」
「今夜のオススメはビーフストロガノフよ」
「良いね〜。凄く柔らかいんだろうなぁ」
「付け合わせにジャーマンポテトも付けてあげるわ」
「ありがとう、マダム」
談笑に興じていると、バーのドアの鈴が鳴った。チリンチリンと小気味よい音が聴こえると、鮮やかなオレンジ色の長髪の男性が、漆黒のコートを羽織って店内へと入る。
「兄貴。お待たせ」
「リアン、待っていたぞ」
「こんばんは、マダム!」
「元気ね〜、リアン」
「マダムもお元気そうでなりより」
マダム・リリーナはリアンのボトルも棚から降ろして、グラスも用意する。
その間にリアンは兄ルーファスに尋ねた。
「ここに俺を呼び出すなんて、調べて欲しい事があるのか?」
「ああ。しかも珍しい物の調査だ」
「へぇ〜」
「お前は【レンズナイフ】ってやつを知っているか?」
するとリアンは物珍しい物の名前を出してきたな……と意外そうな声をあげる。
「へぇ〜……まさか兄貴の口から【レンズナイフ】の名前が出てくるとはねえ……」
「知っているような口振りだな」
「俺も少し、その【レンズナイフ】の事は知っている」
彼らの話の最中にマダム・リリーナはおつまみのビーフストロガノフやジャーマンポテトなどをお皿に盛り付け、そして馴染みの客人も続々と入店してくるので応対していた。
「レンズナイフ。無銘の刀鍛冶が打った暗殺者用のナイフ。現在、取り引き価格は相場としては約3億から5億ドル。シリアルナンバーが若い程に価値の高いナイフとして高値で取り引きされている。確認できるだけで現在は60本程、発見されている。最も価値の高いレンズナイフはシリアルナンバー13番のレンズナイフ。理由は高名な暗殺者が愛用していたとされている」
「……シリアルナンバー13番のレンズナイフは存在するのか?」
「それが見つかっていない。あまりにも伝説の存在過ぎて、その価値はシリアルナンバー1番よりも価値が高い。シリアルナンバーによって、ナイフの刃の形にも差異があるらしいね」
「凄いな、何処からその情報を仕入れた?」
「言えないなぁ、兄貴でもそれは言えない」
「……でも、レンズナイフが何故、高値で取り引きされるかの理由は推察できるよ」
「……どう言った理由なんだ?」
「一つは歴史的価値が高いから。レンズナイフの猛毒は興味深いんだ。一つ一つのナイフでも成分に差異があるという話だし。もう一つの理由は単純にデザインが人気なのもある」
「刀剣マニアが好きそうだな」
「まさに伝説のナイフって訳だ」
「錆とかは無いのか? そのレンズナイフ?」
「それが発見されたナイフには錆は全く無い。よく鍛造されたナイフだよな。血による錆も、時間経過による劣化も見受けられない。そこまでのナイフを造れるのに無銘で終わったのはもったいないよね……」
彼らはおつまみを食べながら、ボトルの酒をグラスに注ぎながら、レンズナイフの話を続ける。
「オークションで見つけるのはシリアルナンバー13番のナイフなら神懸かり的に難しいぞ。今まで存在そのものが伝説になっている物だから、それこそ世紀の発見になるね」
食後のデザートにラズベリーのケーキが出てくる。
彼らはバー【エルシオン】のカウンター席にてそれを食べる。ラズベリーのケーキは甘酸っぱく大人の味わいがする。
生クリームとラズベリーのバランスは抜群に良い。
ルーファスは思う。
レンブラントが、そして彼に接触してきたゾディアック家の当主は、どうやら、とんでもない物を捜している。
もし見つけたら世紀の大発見とまで、リアンに言わせるとは。
そこまで見つからない物をどうやって探せば良いのか……。
リアンはルーファスに面白い研究者がいる事を話した。
「そのレンズナイフを研究する変わり者がいるよ。様々なレンズナイフをオークションで手に入れたらしい。一応、バートン財団の株式も所有しているらしいから、とりあえず接触してみたらどうだい?」
と、とある名刺をルーファスに手渡すリアン。
ルーファスはその名刺を見つめる。
「わかった。情報ありがとうな、リアン」
「今夜は兄貴の奢りな!」
「わかったよ!」
とりあえず手掛かりは見つかった。
だが、それでも、まだまだナイフの道程は遠い……。