朝陽が当主の寝室にも差し込んでくる。
昨夜、仮初めの愛を交わした娼婦と共寝をしたエリオットはその女性を優しく起こす。
「起きて……もう朝だよ」
「エリオット様……おはようございます」
「昨夜は気持ち良かった……一夜を共にしてくれた代金だ。とっておきなさい」
「あ、ありがとうございます」
朝食を作るシェフ達はちょっとした噂話に花を咲かせる。
「なあ、昨夜も当主様、女遊びに興じたらしいよ」
「昨夜も仕事だったらしいけどその足で遊ぶとは大したお方だよな」
マスクをしているので唾は飛ばないが、盛り付けの時は下卑た話は流石にしない。
彼らはゾディアック家の専属シェフであり、上司となるのは執事リーダーのフェネクスでもある。
朝食は7時半と決まっている。
今朝の朝食はトーストに、スクランブルエッグにピーマンとコーンとピクルスと人参をオリーブオイルで炒めた野菜炒めに、鶏のローズマリー焼き、ミネストローネである。
その頃、子供達もベッドから起きて身支度をしている。
「ふわ〜っ、ねみい」
「エル様、寝不足気味ですか?」
「仕方ないだろ。オレ、まだロンドンに引っ越してきたばかりだし」
「今日からセントマリアンネ学院に姉さんと行くのか〜」
「憂鬱そうですね」
エリアス担当の執事、カトリーナがセントマリアンネ学院の制服を渡しながら言葉にする。
「憂鬱も憂鬱だよ。家で散々教育されているのに学ぶ事はあるのかよ?」
「学力だけではないですよ。エリオットの考えは勉強よりも人間関係の学びじゃないですか?」
「人間関係は広い方が後々から良い効果を感じる事はできます」
制服に着替えたエリアスは「ふーん」と流して食堂に集まった。
ゾディアック家は揃って家族で食事を摂る。
食事中の何気ない会話で体調管理も兼ねていたりしている。
「おはよう、ケイト」
「お父様、おはよー!」
「相変わらず元気そうだな。時差ボケも治ったか?」
「全然余裕だったよ」
「エル、おはよう」
「あ、おはよう、親父」
「あんたはまだ時差ボケは治ってなさそうね」
「ほっとけ。オレはオレなりの時間があるの!」
「二人とも今日からセントマリアンネ学院に転校するが、正直、授業はつまらないかもしれん。でも、人間関係を作るには最適な所かもしれんから気を抜きつつ行きなさい」
「はーい」
「はいよ、親父」
そうして朝食が終わる。
その間、他の部屋ではマイクとワトソンが昨夜当主が仕留めたノスフェラート一家のデータの解析をしている。
昨夜仕留めたノスフェラート一家の男は幹部クラスの男で、ナンバー5くらいの立場の男だった。仕留めた標的にバツ印を付けて次の標的を誰にするのか話していた。
「ノスフェラート一家の構成員は下っ端まで数えて100人近くいる。それ以外の末端まで数えると腐る程いるらしいけど」
「でも、既に10人近くは仕留めましたね。この分だと意外と早く本拠地に戻ってしまいますかね」
「こういう機会はあんまり無いから、ちょっと長めに仕事してくれると嬉しいかな」
彼らはパソコンに向かいながら、少し薄暗い部屋でノスフェラート一家の動向を観ている情報処理班だった。二人共に元警察官である。元警察官なら何故暗殺一家に協力なんかしているのかと説明するなら、世の中の暗部を観る事は警察官の仕事よりも楽しい。それだけだった。
伝説の暗部一家と畏怖されるが彼らは快楽殺人者ではなくて、仕事だから殺している。
暗殺を頼む奴らの動機を探るような事はしない。仕事として殺しが来たなら殺すまで。それで日々の糧を得られるならそうする。ゾディアック家は生粋の暗殺一家でもある。
暗殺を頼まれたからには必ず成し遂げるし、その為に暗殺に関係ない人達には傷を負わせないのがプロの暗殺者としての矜持だろう。
殺しに関わりのない時間は、彼らは優雅に時を過ごす。
彼らの本拠地はルクセンブルクであるが、ノスフェラート一家の活動拠点はイギリスだった。それで当主はカモフラージュの為に一部の家族と執事を連れてイギリスに拠点を構える事にして、本日からイギリス暮らしが始まるようなものだった。
エリオットの子供達は元気よくセントマリアンネ学院へと徒歩で向かうのであった。