やっぱり午後の授業もつまらないな。
エリアスは午後の授業もタブレットを観ているだけで実際は気が抜けた状態で適当に聞き流している。
昔の授業はそうしただらしない生徒に対してチョークが飛んできたり、廊下に立たせたりがあったらしいが、今ではとんだハラスメントとされてすっかり先生と呼ばれる存在の牙は抜かれてしまっている。
まるで牙を抜かれた狼のように、気の抜けた先生は無力そのもので、逆に生徒側の横暴もエスカレーションするばかり。学校の崩壊は目に見えて明らかだった。それはセントマリアンネ学院だけではなく他の国も同様である。
顕著なのは日本だろう。最早、モンスターペアレントと呼ばれる新手の怪物に対して学校側も戦々恐々するばかりの腰抜けばかりになったのだ。
そんな退屈な小学校も終わり、後は帰ってパーッとゲームにでも耽けようかと思っていたがそこで昼休みの時に助けた女の子から誘いがあったのを思い出す。
(あ〜、そうだった。オレ、あの子に知り合いを紹介するって約束したんだっけな。退屈だし行ってあげるか)
セントマリアンネ学院の制服は濃いめの灰色の上下のスーツみたいなイメージだ。エリアスは脇に通学鞄を挟んでズボンのポケットに手を突っ込み、待ち合わせ場所に向かった。
学院の噴水広場だった。目の前には学院の建物と門が建っている。よく生徒たちが噂話にたむろしている所として有名な場所だった。
そこにエリアス・ゾディアックとは質が違うが銀髪の少年が昼休みの時に助けた女の子と一緒に話している光景が見えた。雰囲気はなかなかお似合いだった。端から観ると活発で利発的な感じの少年だ。放たれる空気は軽いし、とても友好的なオーラを出している。
「あ、エル君! こっち、こっち!」
「この人が昼休み、アリシアを助けてくれた人?」
「うん、今日、転校して来たばかりの転校生だよ」
「やあ! 昼休みはこの子を助けてくれてありがとな。オレはジョニー。ジョニー・バートンっていうんだ、よろしくな」
エリアスはその名前を記憶の片隅に置いておいた。何かとても気になる名前だったので片隅に刻んでおいたのだ。
(昼休みの時にノスフェラート家のお嬢様が言ってたやつか)
心の中では「ふーん、こいつがねぇ」という感じだ。確かに好青年ではある。だが、押しの強い感じはない。そつなく誰とでも仲良くなれそうな雰囲気だ。
つまりオレとも仲良くできるかも知れないって事かな。
フランクに挨拶するジョニーにエリアスも努めて明るく挨拶する。
「宜しく。オレはエリアス。エルって呼んでいいよ」
「エルか。エルって頭の髪の毛俺と同じ銀髪なんだな」
「あ? そう言えばそうだな〜、親父がさ、銀髪なんだよ」
「うちも親父は銀髪だよ。母親は金髪だけど」
「うちは母親は黒髪かなぁ」
そうして帰り道を共に歩いた。
どうやら方角は一緒らしい。
三人とも同じ方向に歩いていた。
すると、あからさまなリムジンが彼らの目の前に止まると、昼休みのお嬢様が窓から顔を出してジョニーを誘ってきた。
「あら。ジョニー様。わざわざそんな下世話な方たちと帰るならわたくしのリムジンに乗って御帰りになった方がよろしくなくて?」
周りのアリシア、エリアスは反感が湧いてムッとした顔になり、そっぽを向く。
ジョニーはお嬢様の誘いを丁重に断って自らの足で帰る事を話した。
「俺はリムジンなんかでは帰らないよ。マリーナ。今日はアリシアとエルと適当なお喋りをしながら帰りたいんだ」
「相変わらず品のある断り方だこと。何故、そのような人達と帰るのですか?」
「おい、いちいちうるせーよ。ジョニーが誰と帰っても構わないだろう!?」
「あらあら……相変わらず汚い口の利き方ですこと。品性の欠片もありませんわ」
「私、あなたの方が品が無いと思う……」
「貧乏人が利いていい口ではありませんことよ……!」
「さっさと尻まくって帰れよ」
「ふん……! セントマリアンネ学院もいつの間にこんな奴らを入学させたのかしら?」
捨て台詞を吐いてリムジンは彼らの帰る方向とは逆に走っていった。
「めんどくさ! 何だよ、あれ!」
「エルもそう思う? 俺もそうなんだよ。ああやって俺に取り入ろうとしているんだよ。俺がバートン家の御曹司と聞いてさ」
「御曹司なのか。お前」
「でも、そんなにセレブだからって特別な暮らしはしてないよ」
「でも、バートン家ってイギリスでは泣く子も黙るセレブなんだよ。何せ、バートン財団の社長一族だから」
「……マジかよ」
親のエリオットもそのバートン財団の事は小耳に挟む程度には知っている。蛇の道は蛇の要領で彼らも裏の世界とはかなりの関わりがあると言っていた。
その御曹司に会うなんてな。
帰り道を歩き、分かれ道になると、エリアスは
「オレの家、こっちだからここでお別れだな」
「また明日、会おうなー」
「じゃあねー、エル君! 今日はありがとうー!」
太陽の陽は徐々に西に傾く頃合いだった。
そうして転校初日を終えたエリアスは、爽やかな笑顔で帰り道を歩き屋敷へと戻るのであった。