エリアスが転校してきてそれから一週間が経過した。その間に彼はジョニー・バートンと彼のガールフレンドのアリシアと共にいる事が多くなってきた。
このセントマリアンネ学院はバートン家の苗字は大変に意義のある名前だ。何せ代々のバートン家の人間がこの学院の卒業生として名前を連ねている。
ジョニーの父親、レンブラント・バートンもセントマリアンネ学院の経済学部の卒業だし、その前の先代、カイアス・バートンもセントマリアンネ学院の卒業生。
レンブラント・バートンの娘たち、バートン三姉妹もセントマリアンネ学院の卒業生。まさにバートンの血脈がこの学院に脈々と受け継がれている。それに対してやっかみの対象にされるのも彼らだったが、流石にジョニーの代まで来ると血脈云々の話はされなくなる。
西暦2030年まで来ると古臭い血脈の話は最早カビの生えた話となり、この時代はいかに個人の力やスキルが問われるかの時代だ。年功序列や血脈など古臭い慣習も意味は無い。というより保証にはならなくなった。
それでもバートン家のネームバリューはかなりの影響がある。ジョニー・バートンはその名前に恥じないように人としての在り方や頭脳を両親の英才教育により鍛えられる。
既に姉達はバートン財団の要職に就いて働きに出ている。レイスも近いうちにバートン財団の代表取締役社長として就任は間近だし、アリスもアメリカ支社統括ジョンに次ぐ発言力を持つに至る。イリーナはバートン財団の裏の役人として彼女らのサポートをしつつ、父の後継者としてハニートラップ要員として活動も開始している。
年齢がかなり離れた姉弟だったが彼女らはジョニーの事を男性として扱っている。だからといって男らしくしろという言葉は吐かず、常にジョニーに自分自身で答えを考えさせるように仕向けた。
ジョニーはそんな姉に対して暗い感情は持っていない。むしろ、誇りに思う。このような女性がバートン家を支えている事に誇らしく感じた。
だからこそ、だ。
「ジョニー樣。次のパーティーはいつなさるの? わたくし、ジョニー樣の為にシャネルのドレスを購入しましたのよ!」
「私はルイ・ヴィトンのドレスを。ジョニー樣の好きなブランドは何ですか?」
どいつもこいつもブランド品を身に纏い自分自身を売ろうとしている光景に嫌気がさしてきていた。頭の中身のない女の考えそうな事だ。ジョニーにとっては一番嫌いな部類の生き物である。
彼女らが付き纏うようにしつこく声をかけるとエリアスがその度に嫌味の一つを言って追い払っている。
気の弱いアリシアは彼女らとの衝突を避けて袖を引っ張り、彼らはいつしか三人一組で学院内を行動するようになった。
ジョニーにとってはアリシアは素朴でけして派手さは無いが一歩引いた視線は、ブランド品に目が眩んだ女子よりも、余程、大人に見える。多少、泣き虫ではあるがツンケンしている女の子よりは年齢相応で親しみが湧く。
エリアスは多少、大人過ぎるきらいはあるが冷徹さに於いてはこの年齢の男子には持ち得ない境地だ。彼の全て急所を狙う言動は頭の悪い女達の神経を逆撫でする。つまりは自分達がそういう頭の悪い女とアピールしていると言う事。そんな女は要らない。
バートン家の方は近い日付にパーティーがあるらしい。いわゆる社交パーティーでジョニーも同年代の男子や女子を誘えばいいと父親から言われていた。
(だったら、アリシアとエリアスを誘おうかな)
その前に確認は取らないとならない。特にエリアスは何かと確認はしておいた方がいい空気がある。
「どうした? ジョニー。さっきからブランド品に目が眩んだ女子ばかり観て、滅入っているのか?」
「それもあるけどさ。なあ、エル」
「何だよ、改まって」
「お前さ、このロンドンに来たのってどうしてなんだ?」
「親父の仕事の都合。親父が数ヶ月くらいかかる仕事がこの国にあってさ、それで、じゃあ思い切って移住しようか? って来たんだよね」
「へえー」
「エル君の実家って何処にあるの?」
「ルクセンブルクって知ってる? そこに暮らしていたんだ〜」
「結構、離れているんだね」
「あのさ、エル。近い日付にバートン家でパーティーがあるんだよ。親父から友人も誘ってきて良いって言われてさ」
「オレにそのパーティーに来いって事か?」
「来てほしいって頼み」
「パーティーねえ……」
エリアスは遠い目をして呟く。そんなものとは無縁だった家庭のゾディアック家。しかし、親のエリオットはそれではまずいと割とパーティーの席には出席している。
顔が広いと暗殺者としての売り上げも上がるし、伝手を貰って助かる事も多い。
こりゃあ、親父に相談だな。
エリアスはジョニーに言った。
「親父の都合次第だけど相談していいかな。もしかしたら親父も興味あるかも知れないし」
「わかった。パーティーは今から二週間後の金曜日の夜からな」
「お、おう」
「ジョニー。私は出ていいの?」
「アリシアはもう顔パスだよ。だって小さい頃から遊びに来ているだろう?」
「う、うん。そうだね、ありがとう、ジョニー」
そうして学院の1日を終えたエリアスは、帰り道も三人で帰って、帰宅した。
「おかえりなさいませ、エル樣」
「カトリーナ。親父はいる? 相談したい事があるんだ」
「エリオット様は仕事に向かっています。明日には帰るそうですが」
「そっか。それじゃ、今日はゲームでもしようかな」
その頃。
エリオットはバーミンガムの外れの酒場にてたむろしているノスフェラートファミリーを殺そうと闇夜に紛れて行動していた。