エリオットはその頃、バーミンガムというイギリスの都市にて闇夜に紛れてノスフェラートファミリーの暗殺を実行しようと、気配を殺して静かに待っていた。
とある酒場にノスフェラートファミリーの連中が集会に使う酒場があり、それを突き止めたので周囲に網を張って数日間、監視をしていた。
確かにノスフェラートファミリーの連中が集会に使っている。
標的はノスフェラートファミリーのナンバー6に値する幹部クラスの男性。名前は通称ゲイル。その他も幹部クラスでは無いが殺せと言われた奴らばかりだった。
しかし、警戒もしている。
何だか自分をあからさまに誘っていないか? という素朴な疑問だ。奴等も勘付き始めているならあの集会は罠……。
暗殺者を炙り出す作戦だ。
エリオットは闇夜に紛れて、さてどうしたものかと頭をフル回転させている。
(奴らの今夜の集会。どうも引っかかる。ノスフェラートファミリーと言えどそんなに頻繁に集会を開くものなのか?)
彼は今は漆黒のコートに漆黒のスーツを纏い、お洒落なサラリーマンのように装っている。この格好ならば万が一、警察官に問い詰められてもサラリーマンと誤魔化す事ができる。
漆黒の手袋に包まれた手は汗で濡れていた。
ここは退くべきか? いや、気の所為だったならチャンスを不意にした事になる。
しばらく静観している事にしよう。
闇夜の中でノスフェラートファミリーと暗殺者エリオットの静かな戦いは続く。
一方、ノスフェラートファミリーの方は、頭目のライアン・ノスフェラートが
「よりによって、シュトリゴンの出動を要請しやがって、ライアンの野郎の肝っ玉は小さいな」
「それもお前達が暗殺者如きに15人以上の死者を出しているからだろうが」
「ジョーが殺られたのはオレのせいじゃねー!」
「いつの間にか殺されていたんだ!」
「そうだ。奴らというより奴は常人の目では判らない速さで殺しているんだ。それも素手でな」
「素手だと!?」
「同じ暗殺者として敬意に値する。奴は一般人には絶対に危害を及ばせない。その上、確実に処理する。暗殺者業界では伝説の暗殺一家が出張っていると噂されているぜ」
「そりゃあデマに決まっている。そもそもそんな奴、いる訳ねぇだろ」
「歴史の闇には必ずそいつらはいるさ。表街道を歩く奴らには一生、縁のない。そんな奴だよ」
ゲイルが話している相手はシュトリゴンのリーダー、イレーザー。意味はそのまま【削除】という意味のエリオットの同業者である。
同業者である故に伝説の暗殺一家は一目でも観たいものだと思う。しかも伝説の暗殺一家は顔写真だけでも懸賞金がかけられている。エリオットの顔写真に至っては5億ドルと破格だ。
これでは何時まで経っても事態は動かない。ここは炙り出す為にゲイルには捨て駒になって貰うか──。
「ゲイル。お前さんには捨て駒になって貰うぜ。今後のノスフェラートファミリーの為にな」
酒場の照明が消えた。
集会は終わりという事か?
それとも、これは罠か……。
ゲイルが部下を連れて、何かを罵倒しながら暗い路地を歩き出した。
尾行するエリオットは視線をゲイルに移しながらも、極力気配を殺して歩く。
街灯が全くない路地に来た。
そこから100メートルは街灯がない。殺るならここだ……!
そこに、同業者の
ゲイルには全くわからなかった。
その時、何が起きたかは。
まるで暴風のように訪れた死神が無情に己の命を狩った事に。
手品のように命を刈り取った事に。
恐るべき速さの手刀が首に一撃入れられ、重い一撃により骨が折れて再起不能になった事に。
周囲の人間もわからなかった。
何が起きたのか、わからなかった。
ゲイルがいつの間にか倒れている。
命を刈り取った死神は夜陰に紛れて気配を消している。
仕事を終えたエリオットはそのまま先で待つ車まで闇に紛れて帰る道すがらの事だ。
彼は足を止めた。
……いるな。俺を狙っている奴らが。
仲間を犠牲にして、俺の微かな殺気に気付いて後をつけている。
周囲には多数の民家。
しかもこの時間は一般人は寝ている。
仕方ない。予定変更、適当な広場にまで誘導するか。
コートのポケットに忍ばせたスマホの電話をフェネクスにかけた。
車で待つフェネクスは
「予定変更!? 気付かれたと言うのか」
フェネクスはスマホから発信されるエリオットのGPSを頼りに車を走らせた。
適当な広場に来たエリオットは周囲を囲う暗殺者に声をかけた。
「いい加減、姿を見せたらどうだ? 周囲には民家は無いからここでなら喧嘩の一つはできるぞ」
「いい肝の据わり方だ。殺されるなら正々堂々と闘って死ぬか」
「……同業者か」
「と、だけ答えておくか」
「野暮を承知で訊くが何者なのかな」
「ノスフェラートファミリーに属する暗殺者。望むものはお前の命、十分過ぎる説明かな」
「だな。野暮に付き合ってくれて助かるよ」
「貴様はどうするつもりだ。ここで戦うか?」
「広場まで誘導したんだから殺るつもりなんだろう?」
「──やれやれ」
深呼吸をするとエリオットは闇に紛れる暗殺者の生命を刈り取る為に一気に距離を詰めた。
「ヒッ……っ!!」
怯える隊員の一人の首を腕の力で折る。
ボキリと嫌な音が聴こえた。
背後に回ると直ぐ様、隣の隊員の首を折る。
その時にイレーザーが間髪入れずにエリオットにナイフで斬り裂きにかかる。
エリオットが一瞬の判断で回避する。
丁度その時だった。
けたたましい車のクラクションが鳴った。
同時に突っ込んでくる車がある!
フェネクスが一気に
「流石に単独では動いてなかったか……」
イレーザーは仲間が車に轢かれても動じないで軽くため息をついて車が去った方向を観ていた。
「今回の仕事はヤバかったですね」
「対象の処理は完了したが、メインディッシュは他にあったな──やれやれ」
そのまま車はロンドンへ向かって行った。