SGO/スローターゲイル・オンライン-情報非対称性のモラルハザード- 作:BaSH.sh
愚かな人間が断罪される様子を楽しんでください。
───AM 05:48───
私は起床する。
ボイスチャットが行えるWebサイトに接続したまま寝落ちをしていた。
しかし、その寝落ちは意図的である。
それは何故かと言えば、相手が望んだからだ。
「おはよう、雪姫。」
「んん……んぁ……ぁ」
「うーん……?お兄ちゃん、おはよ……」
「眠かったら寝てていいよ」
「んー……?うーん?ぁ、ありがと」
少しの舌っ足らず、そして照れ屋な妹が私に甘える。
「お兄ちゃん……すき、ぎゅーして……?」
「いいよ、ぎゅー」
私は選択した。
暖かく。
優しく。
囁く。
そうすることで最愛の妹が救えるのなら、私は幾らでも抱きしめよう。
「えへへ……お兄ちゃん、しゅき……!!」
「俺も好きだよ、だから……ずっとずっと一緒に居るからね」
「やったーっ!!お兄ちゃん、すきすきーっ!!だいすきっ!!」
「可愛すぎる、結婚してくれ」
「いいよ、お兄ちゃんのお嫁さんになるもん!!」
ずっと、こうやって愛しい時間を過ごしていたい。
だからこそ、私は昨日の出来事に目をつぶらない。
私は男性の怒号を手慣れた様子で録音し、ノイズ除去まで行っていた。
現在、録音された音声は保存されているフォルダからメールに添付されようとしている。
身動きひとつ、それは添付されてしまった。
宛先は至極、全く単純であり生活安全課だ。
メールには添付ファイルについての詳細として、それが証拠であること、そして被害者の家の住所が記載されており、最後には「今回も白瀬課長に期待しているよ」と添えられている。
「そうだよ、雪姫ちゃんは俺の嫁だからね」
───AM 06:03───
インターホンが鳴る。
扉が開き男性が苛立ちを隠さず乱暴に振る舞う。
「朝からなんだよ、うるせえなぁ!!さっさと消えろや!!」
「朝方に申し訳ないのですが生活安全課の者です。先ほど通報がありまして、よろしければ……お話を聞かせてもらえないでしょうか?」
「は?意味わかんねえよ、だから何だよ!!消えろって俺が言ったら失せろよ!!」
「そうですか、では……これに覚えはありませんか?」
ボイスチャットしている向こう側から聞こえてくるのは私がメールで送った録音データだった。
「ふざけんな!!!!んだよこれ!!!!こんなもの誰が録ったんだよ……!!!なぁ……答えろよ?てめぇが録ったのか?警察もゴミだな、ささっと消えろよ、殺すぞ!!!死にてぇのか?いいのか?」
振りかざされる拳、いまにも悲鳴が貫きそうな瞬間だった。
振動が空気を伝う。
人体は案外、力の関係を示していた。
───公務執行妨害、傷害の現行犯である。
怒号を浴びせた男性の暴力は無残にも通用せず、有段者である白瀬課長の近接格闘の技能が勝り、雪姫の父親は為す術など一切に無く平伏している。
そこで気付く、それまで私との会話に夢中だった雪姫の耳に音がねじ込まれる。
それはパトカーが有事の際に発するサイレンであり、家庭崩壊と救済措置を示すラッパとも言える。
そう、そして私に一本のプライベートナンバーから電話が掛かってくる。
「よくやった、いつもありがとう。君のおかげで理不尽な暴力をへし折ることが出来た。」
「こちらこそだよ、白瀬君。これからもよろしく頼むよ。」
「あぁ、助かるよ。国民を守るためにね。」
ここで電話での通話は終了する。
「お兄ちゃん、誰と話してたの?」
「俺の優しい友達だよ、正義の味方で良い人だよ」
「ほんとに?」
「ホントだよ」
「それなら、よかった」
「うん、ありがとう」
突然にボイスチャットの向こう側から電話機の音が響く。
「ちょっと待っててね、電話……出てくるね。」
「いいよ、焦らなくていいよ」
「ありがと、待っててね」
「どいたま、ちゃんと待ってるよ」
雪姫は電話の受話器を取る。
「もしもし、誰ですか?」
「生活安全課の白瀬です、ごめんね……お母さんとかいるかな?」
「い、い……いないです」
「そっか、じゃあ……とりあえずだけど、カズくんのお家に住めるようしたから安心してね」
「は……はい?それって、どういうことですか?」
「さっき、お父さんは捕まってしまってね。それにどうせなら、ということでカズにところに住めるようにしておいたんだ。」
「そうなんですね、ありがとうございます。」
「たぶん、カズくんが迎えに来てくれるから案して良いよ。」
「は、はい。じゃあ……その、ええと……ありがとうございました。」
電話機での通話が終了する。
「ねえ……?お兄ちゃん、何かした?」
「お父さんのDVが酷かったからポリスマンに証拠付きでチクってみた」
「え……?お兄ちゃん、証拠ってなに?」
「昨日、怒鳴ってたのはお父さんでしょ」
「そうだけれど、でも……」
「だから、通報しただけだよ。」
結局、この後は一緒に昼寝をして心を落ち着かせた。
ちょっと強引な主人公も良いかもしれない、私はそう思っています。