※この作品はR-18です。

四重奏に溺れる   作:あとらすR

3 / 8
第三話:小さくとも山は山、舐めると死ぬ

 

「違う。この音符はここをこうやって抑えるんだ。力を入れると手首を痛めやすいから注意してね」

「は、はい!」

 

 喜多さんのギターレッスン、彼女が放課後STARRYに来て俺が教える形のそれは思いのほか順調だった。

 要因としては喜多さんがリョウに迷惑を掛けまいと奮起していることと、彼女自身とても素直で呑み込みが早いことだろうか。

 俺が教えることをちゃんと聞いて実践していくから、同じところで何度も躓くことがない。そして日に日に上達しているから、恐らく家での自主練も欠かしていない。

 

 優秀な生徒だ。きっとこの子は素直でまっすぐな音色を奏でる。

 しかしまあレッスン中に困るのは彼女との距離の近さだ。ギターを演奏する際の指の使い方を説明するとき、細かいところを修正するためにはどうしても彼女の指に触れる必要がある。もちろん喜多さんに許可は取った上でのことだがそれにしてもだ。

 

 流石は今を華やぐ女子高生、近寄れば嫌にはならない程度に香水の甘い香りがする。ふわりと鼻孔をくすぐるそれは男の本能というものを刺激してやまない。手は俺のものより一回り小さく、触れた時には壊してしまわないかひやひやするし、その滑らかさに驚く。近づいた時に見える首筋や鎖骨なんかは目に毒だ。

 

 俺は音楽にすべてを投げ込んだような人種だが、どうしても男であることに変わりはない。そして古来より世界的に有名なミュージシャンは酒、女、ドラッグに溺れてその身を崩すものだと相場が決まっている。

 俺が有名なミュージシャンというわけではないが、それらはやはり音楽とは切って離せない。切り離してしまえばつまらない讃美歌しか作れなくなるだろう。ロックを描くためには、むしろそれらの味を知らなくてはならないとさえ思う。

 

 流石に現代日本でドラッグに手を出すつもりはないが。伊地知家にあまりにも迷惑が掛かりすぎる。

 酒はまだ年齢が足りない。しかし女は別だ。今どき高校生でも性の味を知っている奴は珍しくもない。俺は高校に通っていないが。

 

 何が言いたいのかというと、俺は音楽のために異性に興味がある。異性の味を知れば、俺の音楽は一つ壁を乗り越えられるような、そんな気がしている。

 

 喜多さんはとても可愛らしい子だ。多分クラスでも一番か二番目にはモテるくらいには容姿も性格もいい。おしゃれもかなりの上級者で女性に疎いおれでも何となくわかるほどには気を遣っているのだろう。

 

 そんな子に何も下心を抱かずに接するというのは流石に無理がある。

 だからまあ、演奏中に無防備にさらけ出されるうなじを目で追ったり、ギターの下で白く輝く太ももを撫でたくなってしまうのは仕方がないことだろう。

 

 流石に俺の欲望で結束バンドのメンバーがいなくなるとかそんな事態は避けたいので理性を働かせているが。

 それでもやはり、フラストレーションは溜まるものだ。

 

 *

 

 性的に興奮した後に思いつくフレーズはいつもよりエネルギーに満ち溢れていた。しかし何かが足りない。今目の前にある壁を乗り越えるには、あまりにも乱暴だ。ただ欲望を発散しようと荒々しく音が散るだけのフレーズではこの壁は壊せもしない。

 

「くそっ!」

 

 乱暴にスティックを床に叩きつける。こんなんじゃ俺の心は満たされない。己の多くの物を音楽に注いで、それでもなおこの行き詰まり一つ壊せない、その正体すらつかめない自分の無才ぶりに神経がいらだってしょうがない。この程度の音楽しか作り出せないなら、俺はいっそ潔く死(・)ん(・)で(・)し(・)ま(・)っ(・)た(・)方(・)が(・)ま(・)し(・)だ。俺の価値は音楽にしかないのだから。音楽に溺れたというのに音楽をわからないなら、さっさと溺れ死んでしまえ。

 はるか遠くに両親や星歌さん、自分が心を芯から震わされた理想の音楽が見えているというのに、その足元にすら手が届かない自分に心底嫌気が差す。何が足りない、何が違う?

 

「奏―、髪乾かしてー」

 

 そんなところに虹夏が扉から顔を覗かせてきた。そういえばもう風呂の時間だったか、音楽は時間を忘れさせてくれるがそれも善し悪しだ。

 いったん休憩を入れるのにちょうどいいタイミングだろう。

 

「ふぃー、あーごくらくごくらくー」

 

 虹夏の長い金髪に優しく櫛を通しながらドライヤーで乾かしていく。いつもサイドテールにまとめられているそれは、いまはすべてまっすぐ腰まで降ろされてしっとりと濡れていた。水分を含んで束になったそれを塊にならないよう、櫛で引っ張らないように丁寧に作業を進める。

 虹夏の母親が亡くなってから、彼女が虹夏に行っていた身の世話の一部を俺がするようになった。例えば虹夏の朝のリボンであったり、髪を乾かすことだったり。今思えばそれは俺たちが孤独を紛らわすための儀式だったのだろう。二人でいることが多くなった家で、孤独を抱える俺たちが身を寄せ合って生きるためのささやかなコミュニケーション。

 

 今でもなおそれが続いているのは、その時間を通じて俺たちがお互いに特別な仲間意識を持ったからだと思う。最も、その関係に何と名付ければいいのかはわからない。

 ただ距離を表すならば、それは多分実の兄弟よりも近しいところにはあるのだろう。

 だから俺は虹夏には特別気を許して接せる。というよりも、ほとんど気を許しているのは虹夏だけだ。

 

 虹夏の背後からその長く、絹糸のように滑らかな髪に櫛を通していく。虹夏は椅子に座っていて、俺はその背後に立っているから自然と後ろから見下ろす形になる。丁度暑い季節に向けて衣替えをして薄着になる時期だから、パジャマは薄着で首元に余裕のあるものだった。だからまあ、それは必然だったのだろう。

 

 彼女の髪の側面を乾かそうと下を見た時に、虹夏の双丘が見えてしまった。服の上からではあまり目立たなかったけれど、確かにある掌に収まりそうなほどの大きさのふくらみ。そしてその頂上につんと乗せられたさくらんぼのような果実。

 別にそれを見たのは初めてではない。こうして髪を乾かしてきた中で、何度か見てきたものだ。ただ、喜多さんという同年代の中でも女性の可愛さを前面に出した人に興奮を覚えた後で見るとどうしても別の見方が首をもたげる。ごくりと生唾を飲んだ。

 

 人の気も知らずに、虹夏は鼻歌なんか歌いながら足をぶらぶらしていてずいぶんとご機嫌そうだ。ただ、俺の手が不自然に止まったことを不思議に思ったのだろう。下から見上げてくるような形で俺を見る。

 

「奏、どうしたの?」

 

 瞬きをして不思議そうに見上げる虹夏は俺の中の肉欲になど気づいていないだろう。ある程度知ってはいるかもしてないが、俺からそれを向けられるとは多分思っていない。俺たちは家族みたいなものだからだ。血は繋がっていなくとも、積み重ねた時間がそうさせた。

 だからフラストレーションが腹の奥底で煮えていようとも、理性を働かせようといけない、そう思った。

 

「いや、虹夏お前ほんと成長してないよな」

 

 努めて茶化す。視線は今もふくらみを覗かせる首元から逸らさない。俺はそんな色でお前を見ていないんだと主張するために。

 けれど虹夏は。

 

「……? あっ、や……!」

 

 俺の目線がどこに向いているのか、自分で目を落として確かめると急に赤面した。風呂上がりでもともと血色がよくなっていた肌に、一気に朱の色が差す。顔が特に顕著で、一瞬で熟れたトマトのようになっていた。

 それは本気の恥じらいのように見えた。家族に見られたからと言って、そこまで反応するものではないはずなのに。今虹夏が見せた反応は、家族に対してではなく自分の恥ずかしいところを見られた男に見せるものだった。

 

 どくんと心臓が高鳴る。全身に、特に下半身に血の気が巡る。俺が茶化したのに、どうしてお前はそんな反応を見せるんだ。それはあまりにもずるい。そんな無防備な反応をして、男が何もせずにいられるとでも思っているのか。

 気づけば、その秘部に手を伸ばしていた。薄着のパジャマ一枚の上から、俺のタコであちこち固くなった手がその胸を包み込んだ。

 

「え、奏、え、何してるの……?」

 

 手に伝わる感触は想像以上に柔らかかった。見た目にはそれほどの大きさはなくとも、確かに女性の胸には違いないのだ。異性を狂わせるセックスシンボルの一つ。母性の象徴としても使われるもの。

 この期に及んで虹夏はまだ状況が掴めていないのか、フリーズしたまま抵抗する素振りはない。あるいは、脳が理解を拒んでいるのか。

 

 抵抗してくれれば、まだ俺は二人のいつもの戯れでごまかせるのに。温かい時間の延長線上で済ませられるのに。女の味に魅せられた俺はもう自分一人で止まる術を知らない。

 

「あっ、んふっ!」

 

 丁寧に、芸術品を扱うように撫で、揉む。掌だけで十分収められてしまうそれはしかし手放せないほどの魅惑の感触を持ち合わせていた。優しく撫でるたびに、虹夏が艶めいた鼻息を漏らす。その中に込められた熱がさらに俺を駆り立てる。

 

「小さいとばかり思ってたんだけど、ちゃんと柔らかいんだな」

「やっ、んあ、きゅうになんなの……?」

 

 虹夏が胸を突き出して背を逸らすような格好になる。俺を見上げるその目は戸惑いながらも情欲に潤んでいた。

 

「いや、やっぱり虹夏も女の子なんだなって」

 

 そう言いながら俺は手をパジャマの内側に滑り込ませた。ふわふわとしたパジャマの手触りから、すべすべとしたみずみずしい肌の感触に掌が包まれる。胸に辿り着けば、その小さな山とその上に芽吹く蕾の存在がよりはっきりと感じ取れた。

 

「そりゃ、んっ、私だって女の子だよ! 胸がないから男だと思ってたとか、んはあっ、言わないでよ」

「別にそうじゃないけどさ。今まであまり女として見れてなかったなって」

「すっごい失礼!ふあっ」

 

 小さくても手放すことがためらわれる感触。魔性のそれは俺の手に吸いついて離れない。乳房を撫でまわしてその柔らかさを堪能しながら、時折小さな乳輪の周りを爪先でくすぐるようになぞる。

 

「急に一体なんなのさあ」

「ロックに女の味は必要不可欠だろ?」

「意味わかんなああっ、いんだけど!?」

 

 少しずつ膨らんで存在感を主張し始めたその蕾をつまむ。

 

「や、こりこりやめ、て」

 

 指ではじいて弄ぶ。

 

「や、それ、だめ! 胸、敏感だから!」

 

 そして強く摘まみ上げた。

 

「や、イっちゃ、イっちゃう! ん~~~!」

 

 ピンと足先まで体を張り詰めさせて顔を歪めた虹夏は、絶頂に達してしまったことを如実に伝えていた。真っ赤に染まった頬、荒く整わない呼吸、潤んだ瞳。どれもが普段見ない虹夏の女の姿だ。

 

 それをみて、ふと我に返る。

 ひょっとするとこれは、かなりまずいことをしたのではないのだろうか。それも社会的に殺されてもおかしくないレベルの。

 

 虹夏の胸元から手を抜き、俺は何もしていませんよとでもいう体を装って髪を乾かす作業の続きに取り掛かった。

 そしてそんな現実逃避が終わる頃、放心していた虹夏が立ち上がる。

 

「そこで正座して待ってて。崩すの禁止」

「……はい」

 

 酷く冷たい声だった。

 そして虹夏は再び風呂場へと向かった。多分汚れた下半身を洗うためだろう。

 しかしただ洗うには十分な時間が経っても虹夏は帰ってこない。

 そろそろ帰ってきてくれないだろうか。足がしびれて辛くなってきた。

 

 まあ、いきなり俺に性的なことをされたのだから気持ちを整理する時間も必要だろう。

 今更になって、罪悪感がふつふつと沸いてきた。

 やはり俺は死んだ方がいいのではないだろうか。

 

 十分ほど経って戻ってきた虹夏は見た目にさほど変わりはなかったものの、その目はひどくじっとりとしていた。虹夏がかなり冗談ぬきで怒っている時の目だ。

 

「奏君」

 

 呼び方も昔に戻っていて何とも言えぬ恐ろしさを感じる。

 

「はい」

「どうしてあんなことをしたの?」

「……先に正座「だめ」はい」

「ねえ、どうして?」

「……喜多さんに女の子を感じて、その後音楽で行き詰って、それで……」

「それで、何かな?」

「虹夏に初めて女を感じた。虹夏なら許してくれるかなって」

「サイッテー」

「……はい」

「クズ、ゴミ、音楽バカ」

「返す言葉もない」

「お姉ちゃんに言いつけようかな」

「待ってくれ、それは俺が物理的に殺される。冗談ぬきで、いや、ほんとに勘弁してください」

「……許してほしい?」

「はい。星歌さんに言うのだけは本当に、許して。俺が罪悪感で精神的に死ぬし、あの人にマジで殺される」

「ふーん、罪悪感はあるんだね」

「それは、まあ……。フラストレーションを抑えきれなかったし」

「喜多ちゃんに女の子を感じたって言ってたよね?」

「まあ、ギターの練習中にどうしても……手は出してない。俺のせいで結束バンドを壊したくないし」

「でも私に対して我慢できなかったんでしょう? なら喜多さんに対しても我慢できるとは言い切れないよね」

「それは、その……はい」

「ふーん、じゃあ条件を守ったら言わないであげる」

 

 ああ、言わないだけで許してくれるわけではないんだな。

 

「一つ、結束バンドの他のメンバーに手を出さないこと。もし奏のせいで結束バンド解散とかなったら一生恨むからね。奏を殺して私も死んでやる!って」

「それはちょっとちが「黙って」はい」

「二つ、私の世話は今まで通りして」

「いいのか?」

「……これだけで奏との関係を簡単に壊したくないの!」

 

 それは虹夏の本音の吐露だった。そして同時に俺と同じ考えだった。孤独な時期を一緒に過ごした俺たちの関係は、お互いにとってかけがえのないものなんだ。

 それを壊しかけたのは紛れもなく俺だが。

 

「……三つ目、どうしても抑えきれなくなったら私に言って。その、何とかしてあげるから、ね?」

「……は?」

 ……は?

 思わず心と言葉で聞き返してしまった。見れば虹夏の顔は真っ赤に染まっている。勇気を振り絞っていった言葉なのだろう。

「え、なんで……?」

「それは、その……ほら、奏も男の子だからさ、そういうのどうしても我慢できない時はあるんだなって思ったし……もし喜多ちゃんに毒牙を向けられたら私は責任取って奏を殺さなきゃいけなくなっちゃうから」

「おっも。ちなみにリョウはいいのか?」

「え? 奏ってリョウをそういう目で見れるの?」

「いやあ、厳しいかなあ」

「だよね! それにリョウならまあ何とかなるかなって」

「いやあ、信頼なのか辛辣なのか」

「さあ……だからその、私もちゃんと勉強するから、ね?」

 

 恥じらうような上目遣い、それは内容も相まって男の心を殺すには十分な仕草だ。

 一瞬心臓が止まったかのような錯覚を覚える。こうしてみると、虹夏はちゃんと魅力的な女の子なんだ。俺があまりにも近すぎて意識していなかっただけで。

 

「一応言っておくけど、俺と好きな人以外の前でその表情見せるなよ。死人が出る」

「死人が出るの!?」

 

 ツッコミの切れが戻ってきた。少しずつ、いつもの俺たちに戻っていく。

 

「条件はこれくらいかなあ。あ、ロイン来てる」

 

 虹夏がスマホを眺め、にっこりと笑いながらその画面を俺に見せてきた。

 

「条件、もう一つ追加ね!」

 

 喜多:ギター出来そうな女の子見つけました! 明日一緒にSTARRYに来てくれるそうです!




想像以上に筆が進んでびっくりした。
後虹夏ちゃんが想像以上に湿度高くなりそうで草

もしよければブクマ登録、感想、高評価頂けると嬉しいです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。