今回エッチに行く予定だったのに準備で終わってしまいました。
でも次は行きます。
日刊ランキング三位…? やっぱみんな結束バンドのエッチがみたいということですね
ぼざろは偉大です
「奏、覚悟はいい?」
「俺はできてる。虹夏こそ負けて泣くなよ」
「言ったなー! 絶対に勝ってやる!」
土曜日の昼間、街に多くの人が繰り出すその時間に俺と虹夏はカラオケに来ていた。理由はぼっちちゃんがSTARRYに来た日に売り言葉に買い言葉でカラオケ勝負が決まってしまったから。
負けたら罰ゲームをすると虹夏は勢いで決めていたけど、性的なことをされる可能性があることに気付いてすぐ気まずそうに目を逸らしていたくせに。今日の朝いきなり連れ出された。
虹夏も実はそういうことに興味があるという年頃だと納得していいのか? 誘ってるのか?
ともあれ勝負は始まった。今更手加減とか忖度が必要な関係でもなし、全力で行かせてもらう。罰ゲームは後で考えることとしよう。
*
「うがー! 一点差なんて納得いかないー!」
「六十九点と六十八点、いい勝負だったな」
「なに強者の余裕みたいなもの出してるのさ。大差ないくせに」
「負け犬が何か言ってるなあ」
「うあー!」
二人きりのカラオケで勝負をすれば時間を忘れてあっという間に夜が来る。四時間ほどぶっ通しで歌い続けた俺たちは満身創痍で、風呂に入ってお互い疲れを癒したばかりだ。
恒例となっている虹夏の髪を乾かす時間。この間のことを気にしているのか、ボタンを一番上まで止めてガードを固めているようだ。……それでも見えるときは見えるんだけどな。
結局勝負は俺が一点差で勝った。最近のカラオケ採点で七十点以下を争っているあたり、どちらも驚くほどの音痴には違いないのだが勝ちは勝ちだ。悔しそうに虹夏が唸っているものの痛くもかゆくもない。
というか長い髪にドライヤーを当てて乾かしている最中なんだから暴れるのはやめろ。手元が狂っても知らんぞ。
「それで、気は晴れたか?」
「……何の話?」
「誤魔化すなよ、そういうの下手くそなくせに」
「まあ、奏にはばれちゃうかー。……ううん、あんまり」
ぼっちちゃんが来た日以降、時折虹夏は暗い顔をするようになった。思うにそれは結束バンドに関することで、特にぼっちちゃんが関係することだろうけれど俺はこれまで聞かなかった。
話す気になったら向こうから言うだろうし、俺から聞いたところで虹夏はなんでもなさそうに逃げるだろうから。
でも流石に今日カラオケ対決をしてきたのは、ストレスを発散したくなるほど悩んできたということなのだろう。今日の虹夏の歌は胸の中にある鬱憤を叫び散らすような荒々しいもので、いつもより精彩を欠いていた。まあいつも精彩以前のレベルなのは間違いないが、さらに一段と酷ければ勝負に勝てるはずもないだろう。
そんな遠回りなことをするくらいなら、さっさと話せばいいのに。お互い隠し事ができるような間柄でもないことは今更だろう。何でわざわざ心の内を隠してわけのわからないことをするのか。
……何故かわからないけれど、目の前で揺れるドリトスに少し腹が立ってきた。
虹夏は俯いたまま、訥々と言葉を落とし始めた。
「ちょっとね、不安になってたの。ほんとに結束バンドのリーダーが私でいいのかなって」
「なんだそりゃ」
「だってさ、ぼっちちゃんが凄い上手なことを奏は初めの演奏でわかってたでしょ? ……私はドヘタだなんて言っちゃってさ、音楽の才能ないのかなーなんて。それに奏は私に演奏変わらせてリョウは残したじゃん? ああ、奏から見ても私があの中で一番「はいストップ」あいだぁ! 人が真剣に話してるのに!」
どんどん暗くなっていく声音に聞いてて嫌気が差したのでドリトスに手刀をかました。トン、といい音が鳴ったそれは上手い具合に虹夏の思考を中断させたようで、頭を抑えながら涙目で訴えてくる虹夏を見ると少し胸がすく。
ああ、でもまだこの胸の中にわだかまるイライラは消えない。なんなんだろうな、本当に。一つだけわかるのは、このイライラの原因は虹夏だということ。だから虹夏にぶつけさせてもらおうか。
「続きは部屋で聞く。来い」
「え? 何急にあちょっと手首掴んだら痛く……ない?」
「ドラマーの手首を無茶な握り方するバカがいるかよ」
「あ、うん。ちなみにどっちの部屋?」
「俺の部屋」
「ぴえっ」
*
俺の部屋に虹夏を連れて入る。ベッドとパソコンの他には楽器ばかりが置いてある殺風景なそこは防音設備がある程度整えられている。虹夏もドラムを一緒に練習するときによく入っている……のだが。
虹夏の顔は風呂上りということもあってか桃色に染まり、目線はあちこちに泳いでいる。俺が握っていない方の腕はその両胸を隠すようにぎゅっと反対の二の腕を握っていた。
……なんで?
「なあ虹夏」
「うん!?」
「……とりあえずそこ座れ」
「う、うん」
ぽふんとベッドに虹夏が腰を落とす。黄色と白色のストライプ模様が入ったパジャマにショートパンツを着た虹夏は、内股になった膝の間でぎゅっと手を握っている。目線は下を向いておりその表情はうかがい知れない。
こうしてみると俺は自分の部屋に風呂上がりの女の子を連れ込んだ男というわけか。そこまでするつもりはなかったのだけれど。
まあ、虹夏はそう勘違いしたみたいだし、そのせいで俺も意識せざるを得なくなったから仕方がない。
虹夏が悪いんだぞ。
俺は虹夏の細い両手首を掴むと、そっとベッドに押し倒した。
「え? え? え? か、奏?」
突然の事態に混乱している虹夏の顔は全身の血が集まっているんじゃないかってくらいに真っ赤だ。彼女の白い肌になおさら赤は映える。
「まずさっきの話」
「え、うん」
「初めの演奏のぼっちちゃんは間違いなく下手だった。お前は別に間違ってない。で、音楽の才能? リーダーならそんなの他のメンバーに任せとけ。音楽の才能はリーダーに必要不可欠ではないし、お前はそのままでいいんだよ。頼むから、俺みたいに狂った人間になってくれるな」
「……うん」
「音楽は残酷なんだ。才能があれば、なんて人は言うけどそんないいもんじゃない。いつだってもっと才能あるやつが前にいるし、才能があるから成功するわけじゃない。それでも才能は一生をかけて音楽に尽くすことを要求するんだ。どれだけ苦しくても、どれだけ絶望しても。俺は虹夏にそんな目にあってほしくない」
「…………うん」
「俺があの時虹夏に代わるよう言ったのは別に虹夏の実力の問題じゃないんだ。ぼっちちゃんについていくなら俺はドラムが一番いい、そう判断しただけだ」
「……そうなんだ」
虹夏がほっと優しく息を漏らした。わかってくれただろうか。
「だからそんな「でもさ」」
まっすぐ、彼女の目が俺を見つめている。目と鼻の先の距離、ごまかしは許さないという強い目。
「もし私がベースだったら、奏はベースを選んだでしょ?」
……痛いところを衝かれた。確かにもしそういう場面であったなら、俺はドラムではなくベースを演奏していただろう。虹夏に代わることを要求して。
言わなきゃダメなんだろうか。言いたくないんだが。
「あーそれはだな」
「それは?」
「言いたくないんだけど」
「言ってよ。じゃないと奏に襲われたってお姉ちゃんに言うから」
「それはずるいだろ! いい加減独り立ちしろこのシスコン」
「シスコンでいいもんねーだ。で、それは?」
誤魔化しきれないか、くそ。その勝ち誇った面後で泣かせてやるからな。
「……虹夏にはへこたれて欲しくないんだよ。お前は笑ってる方が似合う」
「……へ?」
「これでいいだろ、もう言わんからな」
薄い唇をまん丸に開き、大きな目をしきりにぱちぱちと瞬きさせる虹夏は、やがてその口元を愉しそうに歪めた。
「それってつまりさ、奏が私の事大切に「黙れ、キスするぞ」っき、きす?」
あまり調子に乗るなよ。今お前は俺に抵抗できない状態なんだから。
「そういえば、罰ゲームまだ決めてなかったよな」
「そうだっけ? ……この相談させられたってことじゃ、ダメ?」
「ダメに決まってんだろ。で、俺が我慢できなくなったらお前が何とかしてくれるんだったよな」
「ソ、ソウイエバ、ソンナハナシモシタヨウナ?」
「いいのか? 俺が喜多さんを襲っても」
「それはだめだよ」
「なら答えは一つだ」
楽しみだなあ、思わず口元が歪んでこの苛立ちと興奮がないまぜになった気持ちが剝き出しになるようだよ。今更そんな口元をひくつかせてももう遅い。虹夏、お前は獣の前でその欲望を刺激するように振舞って、さらに挑発までしたんだから。
言質もある、状況もよし、お前は
だからこうなるのも当然なんだよ。
「今からお前を襲って、苛める。泣いても許してやらん」
虹夏が喉を鳴らして息を呑む。けれどその瞳の奥に、一瞬だけ期待するような色が覗いた。