霧の中で、人は狂う。
霧という、周りが見えない空間で、隣人が何時の間にか、操られている。
そんな出来事が多発している噂を聞いた際には、既に俺の元に、また依頼が来る事はどこか分かっていた。
「まぁ、予想をしていたとはいえ、こいつらが関わっているとはな」
そう言いながら、俺は既に死んでいる奴らの死体を見る。
互いに殺し合っている事は分かるが、それ以上の事は分からない。
「だからこそ、まさか、こういう奴がいるとは、思わなかった」
「ぐっ」
その言葉と共に、俺はそこにいた存在に目を向ける。
黒い影。
それが、そこに、確かに存在した。
「なぜ、お前を乗っ取る事は出来ないんだ」
「どんな事が起きるか分からないからな。
何時でも戦闘が出来るようにしている。
まぁいわゆる憑依だけど、まさか、それで対抗出来るとは思わなかった」
今回の1件で、どのような状況が起きるか分からなかった。
その為、直接な戦闘を行えるハリベルではなく、様々な状況に対応出来る黒歌に憑依して貰った。
だが、その結果というべきなのか、今回の1件の黒幕というべき存在と出会う事が出来た。
「それで、お前は一体、何者だ?」
「・・・私はただの霧だ」
「霧?」
それには、疑問に思った。
「この地は、お前達は知らないだろうが、長い間、戦いが行われた。
飽くことなく繰り返されて来た中で漂う死しても戦おうとする壮絶な思念が、まるで霧のようになった。
それが、私だ」
「まぁ、珍しくない話だな」
現代でも、様々な出来事で、簡単に幽霊などができる切っ掛けはある。
それを考えれば、目の前にいる霧が生まれたのは、珍しくない。
「それで、この状況は?」
「私自身は、肉体はない。
だから、戦う為の肉体を求めた。
奴らは、私を利用して、何かを企んでいるようだったが、私はそのような事には興味はない!だからこそ、奴らの実力を試したが、この通り」
「どうせ、変な事を考えていただけだろうな。
それで、お前の戦う訳は、なんだ?」
「・・・」
それと共に霧は、そのまま黙った。
「私の身体は、先程も言った通り、死しても戦おうとした者達の思念。
そして、それらはほとんどが忠義を持っていた者達ばかり。
だが」
それと共に、霧は僅かに動く。
「私の肉体は、霧。
何も触れられない。忠義を尽くす身体を手に入れても、それに見合うだけの成長はできない」
「・・・ふぅん」
それだけ、聞いて、俺は少し考えると共に、頷く。
「成長の実感は、なんで得られないんだ?」
「肉体がある者には、理解できない感情だろうな」
「かもな、けど、感情を共有する事は出来るんじゃないのか?」
「なに?」
その言葉に霧は、何か驚いた様子で、こちらを見ていた。
「俺の肉体を使って、鍛えるのは、どうだ?」
「何を言っているんだ、貴様は」
それには霧は何やら、困惑を隠せない様子だった。
「だから、俺の身体を使って、お前が鍛える。俺自身、お前を操る能力があるから、お前を操って、肉体の成長する感覚を共有できるかもしれない」
「なぜ、そのような提案をするんだ」
「んっ、それは、簡単だ」
俺は、そのまま単純な言葉を言う。
「お前が必要だから。
お前が、この地で長い間戦ってきた経験が欲しい。何よりも、意外と忠義に熱いタイプに見えるからな」
それに対して、霧は、呆然としていた。
「良いのか」
「別に、今更だ。
何よりも、俺はぶっ潰したい敵がいる。
その為に、お前が必要だ」
その言葉に、霧は黙った。
「にしても、霧って、お前自身の名前じゃないだろう。
だったら」
「えっ?」
「ミストバーンか?
なんとなくだけど」
「・・・ミストバーン、分かりました」
それと共に、その身体が徐々に形成されていく。
そこにいたのは全身が青黒く染まっている女性であり、まるで格闘家を思わせる姿であった。
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