「とうとう馬脚を……いいえ、サキュバス脚をあらわしんす」
ぽんとアルベドに向かって置かれる雑誌。アルベドのヌード写真の掲載された雑誌。
喫茶店で対面に座って珈琲を上品に飲むのはシャルティア。
「ぬしは悟様にふさわしくありゃんせん。身を引きなんまし」
シャルティアは冷たい眼差しでアルベドを一瞥すると、そういい捨てた。
「ええ……『悟さん』にはもう未練はないわ」
アルベドがそう答えると、シャルティアは声を出して笑う。
「そうでありんしょう。サキュバスごときが、売女のサキュバス風情がちょっと絵画でちやほやされたからと言って勘違いされては困るのでありんす」
「勘違い……?」
「勘違いでありんしょう。サキュバスは所詮、星の数ほどいる庶民。悟様の様な才能に溢れる方とはそもそもつり合いが取れんせん」
「つり合い……」
「サキュバスはサキュバスらしく、精を貪っていれば幸せなのではありゃんせんか?悟様に固執する必要もありゃんせんでしょう」
「……」
アルベドの脳裏に、撮影後の痴態がよぎる。あれがサキュバスとしての本能と言われれば、そうなのだろう。
しかし、悟への想いは本当に肉欲だけだっただろうか?今まで何度も自問自答してきた。
アルベドの結論はいつも『それでも悟が愛おしい』だった。
そこだけは譲れない。それだけは譲らない。
「まぁ、ぬしがなんと言おうと、悟様も今回の事は相当のショックを受けておられんした。別れ話をするならすっきりとしてくんなまし」
「そうね……悟さんに伝えて。明朝に丘の上の公園でお会いしましょうと……」
「それで終わってくれるなら、こちらとしては伝えるしかありゃんせんね」
そういってシャルティアは伝票を持って支払いに向かう。
「あっ、こちらの支払いは……」
「御馳走させてもらいんす。お金は必要でありんしょう」
シャルティアの去った後、アルベドのアイスコーヒーの氷が溶けてからんと鳴った。
アルベドはこの選択が本当に正しかったのかと再び自問自答をするのだった。
その後、いつも通りに店を開けると雑誌を見たお客がどっと押し寄せた。
座る席がないと断っても立ち飲みでも構わない、チークタイムのみでも構わないと店内はごった返した。
これ以上は営業が続けられないと、ニグレドの判断で一方的に今日は営業を終了する旨を伝え怒号と罵声の飛び交う中営業を打ち切った。
雑誌掲載の影響力がここまで強いとはアルベドの想定以上だった。
アルベドは常連客にひたすら謝り倒し、ニグレドはそのフォローに回り、ルベドは新規のお客に対して腹を立てていた。
「しばらく休業することも視野に入れないとまずいわね……」
そんなことを言い出したのはニグレドだった。
「しばらくってどのくらい?お金がないのはきついよ」
ルベドは不満を口にする。
「姉さん、ルベド。ごめんなさい。私のせいで……」
「アルベドの事だから、何か考えがあるのでしょう?」
優しくニグレドがアルベドに語り掛ける。
「ごめんなさい……どうしても、どうしてもやり遂げたいことがあったの」
そんなアルベドの必死な姿をニグレドは優しく見つめる。
「いいわ、アルベドを信じるわ」
「ニグレド姉さんがそういうなら、ルベドもアルベド姉さんを信じる」
そういってニグレドもルベドもアルベドの手を優しく包んでくれた。
そう、まだ計画は始まったばかり。こんな事で諦めてはいられない。
そして閉店作業を終えたアルベドはタブラのもとへと向かうのだった。