※この作品はR-18です。

ヤン・デ・レ・エロス   作:ヤン・デ・レェ

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真心 カレン・ロウ

「一晩、貴方を買いたい。」

 

空港で会うなり彼女はそう言った。潤んだ瞳を視れば、何かがあったのだと容易く理解できた。腕を広げると嗚咽を隠すこともなく、勢いよく抱き着かれた。胸がどんどん温かく湿っていく。

 

人目があるからと場所を移すことを提案すると、彼女は小さく頷き、私の手を優しく、それから強く握った。決して放してしまわぬ様にと。

 

 

◇

 

 

カレン・ロウとの関係は決して疚しいものではない。彼女の上司とココの仕事は何かとかち合う部分が多かったが、商売敵に知られると不味いことをココが僕に話すわけがなかったし、何より僕と彼女は互いの仕事だとか、そういう他の何処でもなくその精神と肉体に今も昔も首ったけだからだ。

 

最近の僕は本業がCIAのヒモの様なものだし、それは公然のことだからなんら問題はなくって、寧ろこの副業は推奨されてまでいた。彼女の思惑がからかい半分、実益半分であることは理解していたが、それでも今日まで消されずに…というか、彼女さえ私を買いに来るのだから…上手くやってきているのだから問題はないのだろう。

 

話が逸れたが、カレンとの付き合いはそこそこ長くて、彼女がアフリカに来る前からのものである。アフリカに来てからは寧ろ頻度がガクッと減って、もう会わないものかと考えていたほどだった。

 

仕事堅気な部分は昔からあったし、或いは職場の上司の陳さんと結婚でも考えているのかと思っていたが…どうやら事情が変わったらしい。昨日、国際電話が掛かって来てそのまま夜の便で飛び、こうして指示された空港で合流した次第だ。

 

彼女の身に何が起こったのか、どうして今日は何時もみたいに左乳の脇に銃の固い感触がしないのか。その理由も何もかも、語るか語るまいかは彼女次第だ。私は単なるシステムに過ぎない。常に本気さ。でも、だからこそシステムに徹さざるを得ない。愛ゆえにと言うには、少し重過ぎる想いかもしれないが。

 

 

◇

 

 

彼女の家は職場のパイプラインから程近かった。車で十分もすれば着くだろう。母国から呼び出した人数だけでこうして町が出来ると言うのだから、中華のマンパワーには古代から現代まで翳りが見えないことに驚きもする。

 

変なトコロに感心しつつ、彼女の部屋に招かれた。部屋の中に閉じ込めるように、急く気持ちを隠すつもりのない彼女に圧されて殺風景な部屋に入り、促されるままに「座って待っていて」と言われたベッドの上で待機する。

 

女の子の部屋は余りじろじろ見るものでは…とは昔から言われているが、その程度で嫌われる間柄ではないので普通に見回すと、ベッドの脇に上司の写真…ではなく、何故か撮られた記憶の無い私の写真が飾ってあった。

 

スーツ姿の私は幾分常より凛々しく見えたが、やはりスーツに着られている感があった。しかし、どうしてこの写真を?この写真は確か…そうだ、バルメに着てくれとせがまれて着たんだった。でも、そんな写真をどうしてカレンが?

 

疑問が膨らみ始めた頃合に、カレンが戻ってきた。どうやらシャワーを浴びに言っていたようだ。思考の波にさらわれて、気がつかなかったよ。

 

「その写真に、覚えはありますか?」

 

髪を乾かす間も惜しい、そう顔に書いてあった。バスタオルをその場に落した彼女に正面から抱き締められる。眼を真直ぐ見られながら、尋ねられた。

 

調子は詰問そのものでも、カレンの目はうるうると情けなく揺れている。否定してくれる期待以上に、悲壮さを感じる眼貌だった。

 

僕が心当たりがあると頷くと、カレンはその水の滴る髪を振り乱した。息を殺して泣きながら、喘鳴混じりに僕の耳元で言葉を紡ぎ始める。小ぶりな母性の象徴が胸板で潰れていた。柔らかい。温かい。身を捩って乳房の先で蹲る桜色の蕾が擦れると、彼女の声に色が乗った。泣きながら喘ぎながら蕩けた表情で花開く様に微笑むと言う…カレンは意外と器用だった。

 

「あの、あの女がこの写真を、うぅ…私、何に怒っていいのか分からなくなってしまって…ぐずッ、その悔しかったんです。最初はあの女に戦場で負けて剰え見逃されたことがッ…でも、そのあとで直ぐに貴方のことが浮かんでしまって。」

 

カレンの吐息がくすぐったい。湿度が高く、緩慢な吐息が彼女の意識とは別に蠢く舌に掻き混ぜられて螺旋を描いた。耳の奥に注がれる言葉に載せられるものが変わり始めた、それは怒りや不安から次第に艶っぽさと欲情へと。

 

「貴方が、あなたが好かれる質なのは何も今に始まった話じゃありません。貴方は別の女の話なんかしない。けれど、こうして見せつけられたのは初めてでした…私の知らない貴方が居る。そんな貴方を隈なく知る女が居る。私以外の女が…。」

 

カレンは体勢を変えたいようだった。腰が頻りに膨らんだズボン越しに押し付けられていた。一つ肯じてから、私はベッドに仰向けに寝た。するとカレンは小さく口角を上げて、仄暗い笑みを浮かべた。優越感と、それから寂しさが自分の思うままに埋められていく充足の笑みだった。直ぐに私の下を脱がせて、そそり立った野蛮の塔を、躊躇も趣もなくその熱烈の扉へと招き入れた。

 

 

◇

 

 

余程興奮していたのか、男の自尊心の形見はカレンの切欠へとすんなり納まった。少し動かすとカレンがか細く啼いた。心地良い低音だ。鼻に掛かった彼女の声は、軍人らしい厳格さや忍耐強さの内に明確な甘さと慈愛と、それから媚びを秘めていて、まるで男の脳天に沈み込んだ原始の欲望を力づくで喚起するようだった。

 

ずぶずぶと女の溝へと入り込むのは窯で煮たてた底なしの沼に浸かるようだった。温もりに満ちたねっとりとした体液と媚びるように吸い付く肉の感触は一種、極楽と呼ぶに足る快感を男の霊槍にあたえることだろう。しかし、少なくとも快楽の追及などというものは自慰で事足りるのだ。殊、私と彼女たちの交合に纏わる性の根源とは、生の実感であり、艶めかしくも率直な愛であり、それから互いへの回帰願望であると断じざるを得ない。

 

一端のゴールを迎えてから、二人の人間は一度その後の方針を決める為に向かい合った。が…

 

 

◇

 

 

「くふぅぅ…」と、まるで温泉に浸かった時の様な声を上げながら、カレンは忽ち体を私に預けた。

 

てっきり自分でガツガツ動くものかと思ってたが…忘れていた、そうだった、カレンは異様に弱いんだった。

 

「ふふ…久しぶりです、ね…こうして二人で一緒になるのは。」

 

酔ったような口調、酔ったような赤く上気した顔…いや、これは間違いないな。

 

カレンは正しく酔っていた。

 

「うぅ…あの女ぁ~、よくもわらしに自慢したなぁ~!視ろぉッ!彼は今、私のだぞぉ!みてろぉ~、これからこうしてちゅーしてやるんだからなぁ~!」

 

「んちゅ~」っとわざわざ口に出す人は初めて見たぞ。

 

カレンに口づけられた。んぶ…なんたる芳醇な酒の香り…さては秘蔵の蒸留酒でも一気飲みしたのか?

 

彼女の上気した顔が、何の比喩でもなく酒に依るものだったと判明した今、変に刺激することは不味いことが分かった。彼女は何か仕事で失敗したようで、更にはあのバルメとの間に確執があるようだった。新しい情報を記憶しつつ、彼女の心身を癒せるように、少しづつ高めるように腰を下から突き上げた。

 

「あぅ…もぅやんちゃさんめ~!視ろぉ!ばるめぇ!彼は私に夢中だぞぉい!」

 

私が腰を動かすたびにカレンは小躍りしそうなほど、喜んでいた。この場には居ないバルメに余程腹を据えかねていたらしい。出来れば私を視て欲しいものだが…。

 

そういう思いが通じたのか、カレンは手を繋いでくれた。少し酔いが覚めて来たか?

 

「ふふ…優しい顔。」

 

そうかな?

 

「あんっ…少しペースを緩めて下さい、もう少し、味わってたいんです。この瞬間を…。」

 

可愛いこと言うなぁ。

 

「でも、ちょっぴりクサイ台詞ですよね。あっ…う…ふふ、優しい腰つきになりましたね。なんというか、味わう感じ。」

 

コース料理みたいな例えだ。

 

「私は一品物ですッ…から、ねっ…ふッ…ふぅッ…残さず食べてください…。」

 

…そろそろ?

 

「うッ…は、はい…もう少しで、あぁ、でも勿体ない…本当に久しぶりだったのに…。」

 

もう一回すればいいよ。

 

「でもっ…あぁ、速くしないで…あぁ、寂しかったんです、よっ?」

 

忘れられたかと思ってた。

 

「忘れてたわけじゃっ、ひっ、いぅ…ないんですっ!」

 

じゃあどうして、またいきなり?

 

「…そ、それは…。」

 

 

◇

 

 

カレンが上に乗り、くねらせるように腰を振りながら…そのもどかしさが伝わるようだった…久しく逢っていなかった男を国際電話まで使って呼んだ理由を語り始めた。

 

「聴いてて、くれますか?」

 

男は頷いた。

 

「…上官、の陳少将のことはご存じですよね?誤解を絶対に招かぬよう先に断っておきますが、あの人とは何でもありません。職業柄、尊敬する上司があの方だったというだけです。私には貴方だけですよ、こんなことするの。でも…安心して下さい、貴方に強いる事はありませんから。ただ自分なりのけじめ?…いえ、こだわりに近いですね。ふふ、でも一番は貴方が全てを満たしてくれるからですよ。ですから、何も心配はいりません。」

 

カレンは背筋を伸ばすと、おもむろに肩を抱いた。よく見ればそこには、真新しい傷跡が残っていた。

 

「……これ、さっき話したバルメって女に付けられたんです。自慢するわけじゃないのですが、私なりに努力してきたつもりでした。けれど、上には上がいる。彼女のそれは、飢えに近い何かに駆られて鍛えた結果だったのかもしれませんが…少なくとも私より彼女は強かった。私は彼女より弱かった。」

 

「勘違いしないでください、貴方を抱けばあの女に並べるなんてことは考えてませんから…ふふ、そのお顔、見ましたよ?考えてたお顔です。でも…そう言う所も好きです。単純ですよね、貴方は。少なくとも嘘を平然と吐ける人じゃない。そういう人は信用できます。秘密の共有を除いて、ですが…でも、私と貴方に隠し事なんて初めから必要ありませんから、だから今のままで好いんです。今の儘が好いんです。貴方は貴方のまま、生きていて欲しい。そんな貴方に私を受け入れて欲しい。」

 

ほんのり目を細めて、口角を緩めた彼女は下から視線を送る男と目と目を重ねて、それから体を前に倒した。鼻先を擦り合わせて、ゆっくりと口は男の耳に近づく。

 

ふぅ、ふぅ…と甘い低音の吐息が耳に滲んで溶けた。

 

「不安定で儚い貴方は、きっと普通の人から見たら滑稽に映るのでしょうね…けれど、私は…私たちは普通じゃないんですから。だから安心して?っと話を戻しましょうか。」

 

「貴方を呼ばなかった理由は、単純に忙しかったからというのと、貴方を受け入れるのに時間がかかったからです。お恥ずかしい話、私は貴方の生き方や考え方を理解することは出来ても、どこかで納得できずにいた。しかし、あの女に負けて初めて納得できたんです。…いいえ、納得せざるを得なかった。バルメとの関係浅からぬ貴方なら、私をどう扱うんだろうって…試したんです。結果はご覧の通り、私は貴方に夢中で、貴方も負け犬の私をこれ以上ないほど優しく愛してくれる。望んでいた通りの答えでした。」

 

「だから、貴方はそのままでいて。きっと、そのようにしか貴方は生きられないんですね。私達が戦うことでしか生きられない様に…貴方は、少し大それた話ですけど、救いを担う宿命を背負っているのですね。」

 

「貴方を癒せる人はいますか?いるのですか?私は、その誰かになれる日を心待ちにしています。どうすればいいのかはこれから考えますけど。ふふ…もう癒されてるんですか?口がお上手ですね。好きですよ。この上なく。さ、そんなお口は塞いじゃいましょう。口が上手いと他の女に盗られてしまいますから。」

 

彼女の言葉は訥々としていたが、それ以上に熱がこもっていた。

 

その言葉を紡いだ舌は、細く長く感じた。隈なく男の口腔内をこそぎ取り、軟らかく打擲し、静かに這い廻った。歯肉を優しく愛で、歯と歯の隙間に至るまで潤いを全て彼女の甘露で満たしてしまう様に、味蕾も全て彼女の味しか感覚できなくなってしまう様に。

 

どう扱おうと自由だった。一種の儀式のための金銭での契約という、彼女らと彼だけが理解できる厳かなルールの上での情交だった。だから、カレンはとびきり優しく愛を注いだ。母親のように、宿敵に負けぬ様に…いや、勝ち負けではなく、己の憂いを剥ぎ取り、ただどこまでも澄み切った真心で愛しい男の心までもを満たせるようにと。

 

 

◇

 

 

カレンの真心に溶かされて男はいつの間にか彼女の奥深くに吐精していた。どこか他人事のように快楽が腰から背筋へと駆け昇った。

 

「気持ちよかったでしょうか?」

 

大変気持ちよかったに決まっている。だが、それ以上に照れた。男はぽかぽかしてしまったのだ。

 

ぬるりと彼女の真心の聖殿から引き抜いた優越の竿は未だ硬く漲っていた。濃密な生殖液に塗れて上掛けされたアイスキャンディーのような有様だった。

 

見かねた彼女が言った。

 

「今度は一緒にシャワーを浴びましょう。」

 

この誘惑に勝てる者は居ない。女を男が後ろから抱くようにして、二人は仲良く浴室に向かったのであった。

 

 

 

 

 

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