ヒトには戦う理由がある。それは様々だ。けれど同様に、戦わない理由もある。そして、それもまた様々だ。
そんな戦わないヒトを男は一人知っていた。彼女の名前は天田南…人呼んでドクター・マイアミ。ドイツのメルヒェン社に所属する天才科学者にして発明家。あと非人間マニアで尚且つ変人だ。
結びに、ココ・ヘクマティアルの盟友でもある。
◇
天田南はメルヒェン社の南アフリカの工場支部で働いている。業務内容は、彼女の言葉を信じれば蝶々を捕まえに行ったり、潮干狩りに行くことらしい。
彼女が暮らす家…と呼ぶには機器類が集まりすぎた要塞のようなおもちゃ工場で何が起こっているのか…そのことを男は知らず、聞くつもりもなかった。例え、この場所が歴史の転換点になろうとも。例え、この場所が台風の目であったとしてもだ。
だが、そんな男の考えとは裏腹に、当の南は知ってほしいようだった。これまでだってそうだった、聞いても理解できない量子力学やら機械工学やらの理論を滔々と…それこそ三日三晩かけて語り聞かせてくれたこともある。それが彼女の意志ならばと、男は喜んで聞いたものだが、その内容は最後まで理解できようはずもなく、疲労困憊して熱を出すという散々な結果だった。
この時、珍しく看病をしてくれた南の心配そうな姿の方が余程記憶に鮮明だった。…その道のプロ垂涎の科学合宿だったかもしれないが。
ともかく、南は殊、彼には色々なことを話して聞かせた。仕事をしながら、食事をしながら、頭の中身をすっかり吐き出してしまうみたいに、彼女は語って語って語ったのだ。不定期にココ経由で渡される南アフリカへの招待状は、そんな彼女の語り時を示す暗黙の了解になっていた。
極秘でもなんでも、人払いは済ませてあると言っても話していいのか、聞いてていいものか疑問を隠せない情報まで…男が覚えていないとはいえ…聞かせてくる始末だった。この点、ココはそれでいいのかと聞いたこともあったが、彼女も南の行動を制限することはできないと頭を悩ませている様子だった。
かくして、男の元に南からの招待状が届いた。葉書の絵やら、材質やら、色やらで細かい南なりのシグナルが隠されている…基本的に工場内の部屋の壁の色に符合する…のだが、今回は無色の一番味気ない葉書だった。例え部外者がその仕組みをあらかじめ知っていても解読は難しいだろう。だが、男は知っている。この素っ気ない葉書が一番重要だということを。
白一色の葉書の意味、それは白いシーツとベッドルーム。南の口ぶりに直せば「抱きにおいで」だ。
◇
「いらっしゃい!はいコレ、虫網ね!長袖持ってる?こっちの虫には食われない方がいいよ!虫よけスプレーは無しだけど、私が調合したコレなら問題ないよ。掛けた?OK、よっしさぁ行っくぞぉ~!」
古風な葉書に誘われてアフリカに到着早々、男は南に誘われて蝶々を捕りに行った。果たして天才は虫取りから何を得るのか、是非聞いてみたい気もしたが、いざやってみると男の方が余程単純だったようで、思いのほか熱中していた。
「結構とれたね。ふふふ…これで研究がはかどるよ。モチベーションアップと実益を兼ねた重要な任務、お疲れさんでした。そろそろ帰ろっか。」
目いっぱい汗をかいてから二人は帰宅した。工場に隣接する彼女の家に入ると、順番にシャワーを浴びることになった。南はやることがあるからと男を先に送り出し、男は従順に彼女の言葉に従った。
◇
シャワーを上がると、別の場所で既に浴びてきた様子の南が机の上で何やらペンを走らせていた。PCにも何やら打ち込んでいる。素晴らしく早いタイピングに見とれていると、彼女が顔を上げた。
「あぁ~ちょうどいいところに、そこのPC、そう黒いヤツ。それそれ、取ってくんない?ありがと。」
言われるがままに物を取り彼女に渡すことに始まり、南の要求は少しづつエスカレートしていく。
「PCを取って。」「お茶を淹れてきて。」「やっぱりシュワシュワするヤツがいい。暑いから。」「クーラーの温度を一度下げて。」「あ、ちょっと寒い、一度上げて。」「…まだだね、もう一度上げて。うん、好い感じ。」「肩揉んで欲しいな。うん、凝っちゃって。」「あ、背中と腰もお願い。座ってばかりだから、最近痛くって…。」「髪、梳いてよ。櫛ってあったっけ…多分そこらへんに…。」「櫛なかった?じゃぁ、コレ!耳かきしてよ。うん、膝枕してさ。」「…頭撫でてよ。うん。気持ちいよ。」「…手ぇ握って欲しい。うん、今すぐ。耳かきはもういいや。ティッシュでこしこしして、それでおしまい。」「暑いね…あっ…離れるのは嫌だ。なんとかして~。」「ふふ、微妙~だね。ぬるーいよ、風が。でも、離れずにすんだからごうかーく。」「…暑い。もはや熱い。だから…」
矢継ぎ早だったお願いの数々は遂に止んだ。空白行のように、その沈黙は目についた。
南は言葉を一度呑み込んでいるようだった。それから、自分が言おうとしている言葉の意味や、価値について静かに検討したのだ。
そうして彼女の中で厳正な選考の上で、その言葉は男の耳に入ることを許された。
「だから、服脱がしてよ。」
男の手が汗ばんでいくのを南は感じた。可愛らしい反応だと思った。そして、ここまで引き伸ばしたのは自分のくせに、男の背を押してやる度量を一杯に、自分から繋いでいた手を離した。
「うん。もういいよ。そと、暗いし。」
窓の外を見ると夕焼けの思い出も残っていなかった。アフリカの夜は暗い。特に、男がメルヒェン社に来るときは。南の指示で社員も何もかもが活動を止めるのだ。ガードマンさえ最低限で、工場の敷地内、南の家の周囲数百メートルは完全な空白地帯になる。彼女が望んだことだ。二人きりになる一日のために、この天才は社をも動かしていた。
「ありがとう。今日も付き合ってくれて。疲れた?疲れてないんだ…そりゃぁ、これからだもんね。」
卒倒しそうな程大がかりな舞台装置のことなど露知らず、男は南の問いに「楽しかった」と素直に答えた。面白みのない返答。ありきたりな反応。しかし、南は満足げに微笑み言った。
「うれしい、よ?…そろそろアッチ、行こっか。」
脱がしてといった手前、しかし南は何の気負いもなく自分で服を脱いだ。完全にラフな格好だったから、身軽な彼女を縛るものは青い半袖のシャツとハーフパンツ、それから彼女にしては布面積の少ない飾り気のない下着だけだった。
シャツのボタンを手早くプチプチやってシャツを観音開きにお披露目すると、そこにはスリムな体型に花を添えるような御椀型のふくらみを湛えた胸元、それからすべすべしていてくの字を描く虚空が眩しいお腹回りが…健康的な肉付きの不健康な肉体を惜しげもなく晒してから、南は誘うようにシャツの袖から腕を引き抜き、右の手で重力を図るみたいにシャツを床に優しく落とした。
男はと言えば舞い落ちるシャツに一瞥もしてやれなかった。それほどまでに、南の体は前会った時から変わらずに美しく、そしてアンバランスに見えた。淫靡の中に弱さが、南の本質が見え隠れするようだった。天才の儚さが、南の肉体には刻まれているようだと、男は感じていた。
「じろじろ見ちゃって…もぅっと凄いの、見慣れてるんじゃないの?」
南はニマニマと意地の悪い笑みを浮かべて言った。
彼女の言葉で男は久しく忘れていたことを思い出した。
「あぁ、そうだった…南は比べる女だった」ことを。
◇
天田南は天才だ。だから常に比べられてきた。彼女の望むと望まざるに関わらず、南は常に他者との比較対象だった。
比較検証は重要なことだ。科学の道を選んだ南はそのことを誰よりも理解していると言ってもいい。しかし、一方で常に比較にさらされてきた彼女自身は、自分の専攻すること…つまりは自分がしたいことや自分が好きなこと…に関する比較については全くと言っていいほど無頓着だった。
これは彼女の天才性の片鱗であると同時に、一種彼女自身も気が付かぬ間に内面化されたトラウマに対する抑圧機構だったともいえる。
南は今やその道の大家と呼んで差し支えないほどの名声を手にしていた。実績もある。金もある。美貌もある。
だが、南は知っている。自分自身の専攻する科学では、愛する男を振り向かせることはできないことを。
南は理解していた。自分という女がほかの女よりも劣っている部分があることを。自分は完璧ではないことを。
南の思い人は南のことを大切にしてくれる。誰よりも理解しようと努力もしていることだろう。しかし、彼に問題があるわけではないが故に、男の努力は半ば徒労と言うべきだった。その徒労が愛おしい所以であっても、南自身が抱え、自問自答する悩みに答えが無いように、男の力では南が生まれて初めて感じた劣等感を満たすことはできないのだ。
南は比べる女だった。自分よりも美しい女、金を持ってる女、肉付きのいい女、強くてかっこいい女。そういう比較対象を研究し、そのうえでニッチを見つけることでしか、彼女は安心できなかった。男がほかの女を抱くからだとか、そういう外部的要因はどうでもよかった。南は南にとって、南が考えうる最も理想的な鍵穴に合致しなければ気が済まないのだ。肉体であれ何であれ、南は比較し研究する女だった。
◇
「はい、脱いだよ?どうかな?」
ベッドルームに着くなり、南は男の見ていない内にブラジャーを剥ぎ取り、ハーフパンツごとパンツも脱いでしまっていた。
「ねぇ、どうかな?最近抱いた女とどこがどう違う?」
ベッドの脇の椅子に裸で座るや、足を組んで、腕を頭の後ろで畳み込むように、薄ら汗ばんだ脇の窪みまでよく見えるような体勢になった南が男に問いかける。いつものことだった。
「まずは足からイこっか。」
南がそう言うと、男も服を脱ぎ、そのいきり立った勇壮のトーテムを顕わにしたまま、彼女の組んだ足元にしゃがみこんだ。
「さぁ、私に教えてよ。んっ…ぅんん……君から、見たときにどう違うのかとか、何が魅力的なのかとかさ。」
男は南に促されるままに優しい手つきで彼女のほっそりとした足を胸に抱え込むようにして抱いた。
まじまじと眺め、膝裏やふくらはぎを愛撫し、彼女の耳だけに届くように仄かにリップ音を匂わせながら唇を落とした。
「くすぐったい、かな…ふふ。で?誰とどんなところが違った?」
南の追及が始まると、男は目を伏せてやや考えてから、今度は彼女の太ももの付け根に口付け、それから答え始めた。
男は言った。
「ふとももはココより少し太くて柔らかい。ふくらはぎはカレンより柔らかい。足の指はヘックスよりも細くて揃って見える。」
太ももは天才科学者らしい偏食により、仄かな贅肉に恵まれて盟友のココよりも太くて柔らかいらしい。
ふくらはぎは非戦闘員という職業柄、軍人であるカレンよりも彼の指を楽しませる質感らしい。
足の指はココとも因縁のある過酷な訓練を積んだパラミリのヘックスよりも綺麗で揃って見えるらしい。
「そっかそっか…いやぁ~不健康な体も偶には役立つもんだね。」
男は客観的事実を述べただけだったが、それだけでも南には十分だった。重要なのは彼女自身による解釈だった。南の中で、少しでも他の女とは違う魅力を各パーツが放っているという事実は重要なことだからだ。自分を許せるデッドラインなのだ。
嬉しそうに惚気てから、南は言った。
「じゃぁ、今度は上半身を見てよ。さぁさぁ、こうやって…んしょっと、ぎゅぅ~~っと抱き着いてさ。あんッ♡…ふふ、髪の毛が胸に擦れてこちょびたいなぁ~。」
すべすべで、どこに内臓が詰まっているのか心配になるようなお腹と、慎ましやかだがもちもちと弾力に富む母性の象徴が男のすぐ目の前にあった。口にくわえ損ねて、彼女の鳩尾に頭を抱えられると、頭の上から声が降ってくる。
ドクンドクンと鼓動が早くなっていた。体も心なしか熱い。
南は興奮を隠す様子もなく、何時ものような調子で言った。
「ねぇねぇ、さっきのカレンちゃんって子、私知ってるかも。…どうだったの?好かった?お胸は私と同じくらいだったと思うけど…実際はどうなのさ?」
男は白い砂時計のようなくびれた腹の肉をはみながら、もごもごと答えた。
曰く、「おんなじくらい」だと。
しかしそれは南にとっては禁句である。
「じゃぁさ、どっちがいい?おっきいのと小さいの。どっちの私が君は好きなのさ。」
南の言葉に対して、男はこう答えざるを得なかった。
「胸もお腹も今のままの南が好い」と。
南は「へへへ…そっかぁ、可愛いこというねぇ君も。」と満足げに笑った。
知らぬ間に後頭部を固定されていた男は、解放されるや否やその腕を南の首に、その首に南の腕が巻き付けられた。
「じゃぁ、今度は腕と首にしよっか。」
男は思った。「南は比べる女だった」と。
◇
あれから一時間近く、南の比較検証は続いた。具体的な数値まで…それが男の主観的な推測値であったとしても…聞き出しながら、南の追及は続いた。
「ふむふむ…なるほど、ありがとう。もう大丈夫。それじゃぁそろそろ、突っ込みますか。」
最終的に首はバルメよりも儚く、デコルテはショコラーデよりもすっきりとしていて、腕はミルドより頼りないという結論に達した。
「残るはナカの具合だけだね。」
南は悪戯っぽく微笑み、男の首を解放した。
ベッドの上にころりと寝そべった彼女は恥ずかしげもなく股を開いた。両の、その器用で繊細な、手入れの行き届いた中指と薬指で自身の秘裂を見せつけるように押し広げて見せた。
彼女の果肉は、その堂々とした口ぶりとは裏腹にしとどに濡れており、今に至るまでの言葉の応酬が、確かに彼女の性愛の枢を温め、性への感受性を高めていたことを示していた。
余人には知りえない、理解し得ない、天田南にだけ通じる快楽の理論式通りに、彼女の肉体は反応していた。
「あ、ははは…そんなにじっくりみられると、流石に照れちゃうなぁ…ねぇ、もう挿れちゃってよ。ソコ、ずっと泣いてるみたいだよ?」
瑞々しい肌の上に玉の汗を浮かべながら、南は赤い顔を隠さずに言った。彼女の視線は男の逞しくも幽玄な兵に吸い寄せられるようだった。
「さぁ、おいで。」
頷いた男が南の頭の両脇に手をやり、覆いかぶさるように体を動かすと、南は男を迎え入れやすいようにと、腰を僅かに持ち上げた。
申し訳程度に花弁を囲む羞恥の繁茂に擦れたこそばゆさに、男の充溢は並々ならぬ様子である。堪らずに濡れた先立つものを、彼女の貪婪な序章に腰と共に沈めてゆくと、にゅぐにゅぐと咀嚼するように、弾力的な肉に迎えられた。快楽の虜となるにはまだ早い、トーテムの幹をその根元まで深く突きこんで、初めて二人は一人になれるのだ。
深々と突き刺さった肉欲の節はぬらぬらと妖しく誘うようにてかり輝いていた。引き抜き、再び最奥への探検に勤しめば、か細くも嫋やかに彼女が啼いた。
「ふふ…おっきぃ…ねぇ…。私は、これしか知らない、けど…。」
南が試すように言った。ぐつぐつと煮詰めた欲が芯に募ってゆく重苦しく滲むような感覚が腰に伸し掛かった。些細な素振りでさえ、男を惑わすのだから、南は自分で思っている以上に魔性である。
◇
男が腰を使い始めて数十分、しっとりと積み上げるような交わりは二人の心身を深いところでつなぎ止め、改めて溶け合わせるのに十分な威力を発揮していた。
「あっ…いいよ、うん、そこ、そのままでシて?」
時折、切なげに南が声を上げる。上げると言っても、男の耳の中に閉じ込めるように、まずは頭をぎゅっと抱いて、痛いくらいに耳に吸い付き、口付け、それからじっくりと己の性のピントを合わせていく。快感の焦点に達するたびに、南はわかりやすく身をよじり、男の背中に爪を立てた。
柔らかく、それでいて熟れた色気を放つ愛しい女の声が、次第に男の理性を削っていく。
交わる干戈の様相はいよいよ、その香りを遠く二人の鼻腔と口腔にまで届けていた。舌のようにはいかない、ぞりぞりとこそぎ落とすように男のモノが動けば、そのたびにぽってりと充血して腫れた憂いの口から涎が一筋、また一筋と垂れた。どろりと蛇が滑ったパイプを伝うような卑猥さで、二人の奔放は静かに絶頂へと向かっていった。
「キス…して。なんか、やっとそういう気分になったの。」
「苦かったらゴメン」と付け足してから、南は男の返答を待たずにその唇を嚙むように押し付けた。
カルシウム分とタンパク質で構成された、湿っぽいジェリコーの壁をこじ開けて、女のぬくい舌が男のそれと絡まりあった。
ずるずると蠕動を繰り返す内臓のグロテスクな働きのように、二人の舌は境目が分からなくなるほどに、互いを消化液で溶かし合うみたいに絡めあった。ガラムを好む南の舌は、やけにスパイシーに感じられ、それは喉を降る唾液も一緒だった。
美しくも、どこかに影を帯びる南の美貌と至近距離で向き合うと優越感と歓喜に身を包まれた。だが、それは南も同じだった。互いの瞳の中に映る、狂おしいほどに好ましい異性、その生々しいペルソナに至るまでを独占しているという快感が、一体感が二人を狂わせていた。
段々と鼻息は荒く、吐息も間隔が狭まり、羹を吹くように余裕がなくなってきていた。きめ細やかな睫毛が太陽の暈のように、その怜悧と狂気の輝きを縁取っていた。南の瞳を舐めてみたいと、男は思った。
◇
男の腰の動きがさらに早くなり、南の声も次第に耳を撫でるようなものから、肩を打つようなものに変わっていた。互いの涙を啜りながら続いてきた交わりは、そろそろ終局に向かっていた。
「そろそろっ、だねッ…いいよ、そのままッ…そのまま出してッ!」
南の耳打ちと同時だった。男の奔放が一際大きく膨らみ、腰が南の肌理細かく柔らかいVに隙間なく押し付けられた。
ぐらぐらと煮込まれた退廃の量子は一寸の迷いもなく南の中枢に向けて放たれた。
どくどく、と音が聞こえてくるようだった。実際、受け止める南は自身の膏肓最深を埋め尽くす蘭奢の鼓動を、その断続的な脈動に耳を澄ませて感じ入っていた。
「ふふ…あぁ~、あったかいわぁ~…。」
気の抜けたような声と共に、何時もの南が戻ってきた。切り替えの早い彼女は、スイッチの言葉通りの性質を持つ。
腹の奥深くに粗相を許した直後だというのに、感慨も何もあったものではなかった。
だが、そんな南を好ましく思うからこそ男は彼女の隣にいる。
ゆっくりと、しかし淡々と自身の棒状のペルソナを引き払った男は、ごろりと南の横に仰向けに寝そべると、何も言わずにい腕を明け渡した。
「そうそう、そう来なくっちゃ!」
南は嬉々として男の腕枕に頭を預けると、今日まで語りたくて語りたくて仕方なかった近況、それから日々の素朴な疑問と気づきについて、その非凡っぷりを存分に振りまきながら男へ語って聞かせたのだった。
南の話がそれから二日間、昼夜を徹して続けられたのは男にとって、可愛い可愛い災難であった。