火の国。木の葉の里。
俺の故郷。
俺は2年間の修行を終え、里に戻ってきたばかりだった。
俺の名前はうずまきナルト。
忍だ。
「ふう……やっと到着したってばよ」
里に足を踏み入れると、火影岩が里中を見渡す位置にある。
その岩に彫られた顔を見て笑みが溢れる。
師匠は先に帰里したせいで、俺は一人だ。
急な理由だとか言ってさっさと行ってしまったことに、俺はむくれていた。
この2年で体も大人になり里を出た時からはだいぶ見た目も変わっている。
俺だと分かる里の人間はいるだろうか。
一度地面に下ろした荷を再び背負うと、帰還の報を知らせに火影岩が見下ろす赤いアカデミーへと、足取り軽く向かっていた。
「早く会いたいってばよ」
俺はふと2年前のことを思い出した。
それまで大切だったものを失い、そして得た大切な出会いのことを。
-----------2年前--------------
上を見上げると、空は雲ひとつない快晴だった。
人によって色の見え方は変わるという。
この雲ひとつない大空は俺にとって灰色に見えるのは気のせいだろうか。
サスケ奪還任務が失敗し、サスケが大蛇丸の元へ行った後、俺は胸に深い空虚感を感じていた。
この時の俺は、里に帰還してから、体の傷は治ってはいたが療養という形で任務にも行かずに里をフラフラとしていた。
人通りもまばらな道沿いにあるベンチに座って、過去の苦い記憶を思い出しては目を背けていた。
そこに一人の見知った忍びが近づいてきた。
「イルカ先生!」
「…!! あ、ああ、ナルトか……」
イルカ先生は、終末の谷で倒れていた俺を救助してくれたらしい。その時は本当に嬉しかった。アカデミー時代から、俺を認めてくれた唯一の大人だったからだ。
だが、今は違う。
「ねえねえ!今度ラーメンおごってくれってばよぉ!」
「あ、悪い……最近都合が悪くてな……しばらくは無理だから、誘わないでくれ……」
後で聞いた話だが、イルカ先生は俺とサスケの戦いを見ていたらしい。巨岩が砕け、閃光が辺りを照らし、爆発音が鳴り響く空間で俺が九尾の衣を纏って戦う光景を。その光景を見て、イルカ先生は恐怖を感じていたと周囲に漏らしていたと後から聞いた。
それ以来、イルカ先生は俺の顔を見ると怯えた表情を浮かべ、冷や汗をかいて俺を避けるようになった。
俺からイルカ先生のところにいけば、向こうも気を許してくれると思ったが、こうして俺がイルカ先生のもとへ行っても、逃げるように俺から距離を取るのだ。
俺はショックだった。
里の連中は俺を腫物扱いしてきたが、イルカ先生はアカデミーの頃から俺を一人の人間として扱ってくれた。
イルカ先生も、奴らと同じだった。
辛かった。
最初から冷たくしていてくれれば、こんな気持ちにならなかったのにと、俺は思った。
しばらく俺は自室に引きこもった。
それでも、俺に優しくしてくれる人はいた。
自来也だ。
伝説の三忍として名高い忍である彼は、なぜか俺に対して親しみを感じてくれ、孫のような目で可愛がってくれた。これからもっと強くならなければならないと思っていた俺は、自来也に改めて師事を申し込んだ。もちろん快く承諾され、今思い出すと素晴らしい瞬間だった。
ある爽やかな日差しの中、神社の境内で腰かけていた自来也が口を開いた。
爽やかな風が髪をなびかせ、これから始まる物語の幕開けを予感させる瞬間だった事を今でも思い出せる。
「お前は予言の……」
「予言?予言のなんだってばよ?」
自来也は目を閉じて静かに笑った。
「いや、なんでもない。さあ!早く修行に取り掛かるぞ!」
しかし、ある日の修行で、俺は九尾を暴走させた。
自来也は俺が九尾の人柱力として力のコントロールをさせるために、俺の九尾の封印を一部緩めた。
結果は失敗。
他里の小さな村の人気のない場所だったため死人はいなかったが、それでもダムを破壊し、インフラに多大な被害が出たのだ。
目が覚めると大地は荒れ果て、俺一人がポツンと地面に残されていた。
自来也は胸部が陥没する重傷を負った。
意識が戻った自来也に、俺は泣きながら自来也に謝った。何度も、何度も。
だが自来也は下を向いたままだった。
大丈夫だ、と言ってはいたが、明らかに態度が変わり、自来也の申し出で師弟関係はあっさりと解消された。
あの時の自来也の表情は忘れられない。
恐怖と、こんなはずではなかった、と言う途方の表情が浮かんでいた。
風の噂で、自来也はサクラちゃんの師匠として楽しそうに修行を見ているらしい。
サクラちゃんは既に螺旋丸を覚え、ガマの幻術方面で才能を発揮し、日夜修行に励んでいるとのことだ。
俺は空を見上げた。
何故だ。俺が何をした。
親もいない。教育もない。金もない。友達もいなくなった。
頼れる大人なんてどこにもいない。
俺が何をしたって言うんだ。
俺は自分の生を呪った。
俺の親も、里も、何もかも。
いつもそうだ。
一度も望んだことのない九尾の力が、俺の人生を台無しにしてくれる。
空は青いままだが、俺の胸は泥水でも啜ったかのようにどんよりと沈んでいた。
「どうしたんだい?そんな辛気臭い顔して」
突然かけられたその声に、俺は顔を上げた。
そこには、快活で気の強そうな金髪の美女が俺を見下ろしていた。
今思えば、その時から俺の空は金色に輝き始めていたのかもしれない。