メタモン娼館経営記録 作:支配人バントウ
『出遅れフシギソウ』
ポケモンの意思・意見は尊重されて然るべきもの。
それはこの世界において覆ることの許されない無二の概念である。
ゆえに、対象のポケモンからの許可なき手術や、ポケモンたちが望んだ静止を振り切ることは人として大変宜しくないことだと、人間たちは幼いころに理解するのだ。
「ふっしー!! ふぅぅぅー!!」
「泣くなよ……ほら、ティッシュ」
「ふぅぅぅっしー……(ぶびー)」
森の近い街の公園にて、大粒の涙と鼻水を流すフシギソウと、その涙をふき取るポケモントレーナーの少年がいた。
…いや、正確には彼は元ポケモントレーナーだ。彼は意気揚々とフシギダネと共にジムバッジを手に入れてポケモンリーグに挑もうと試みた挑戦者だった。
ジムバッジを3個ほど、手に入れた頃合いで萎えてしまったのだ。そのころにフシギダネから進化したフシギソウと共に。
なんというのだろうか、燃え尽きてしまったのだ。あるいは、ポケモンリーグに挑むこと以上にやりたいことに目覚めた、とでもいうのだろうか。
序盤の駆け出しは好調だった。
一つ目のジムバッジ、ここまでは良かった。
二つ目のジムバッジ、相性不利なジムだったが何とか勝てた。そのころに心に何かモヤがかかり始めた。
三つ目のジムバッジ、今まで以上の猛者とのバトルに限界寸前のフシギダネがフシギソウに進化して勝利を得られたが、そのころになってようやく少年は理解した。
フシギソウに怪我をしてほしくなかったのだと、気が付いたのだ。
少年は根っ子はかなり真面目な心優しい男だ。
幼いころの少年は傷ついたポケモンには傷薬を躊躇なく使うほどには、怪我をした人/ポケモン問わず傍にいてほしくない人間として生きていたのだ。
“一目でわかったわ。あの時私を助けてくれたのは、兄さんだったんだって”
そんな少年がまだ幼いころに見たポケモンリーグの放送。白熱のバトル。
それによって少年はポケモントレーナーになりたいと両親に夢を語った。
すると。
――そんなにポケモンに構っていたら、強くなれないわよ。
――ポケモントレーナーたるもの、エリートを目指すんだぞ。
――時には見捨てる決心も必要よ。
――技はこれとこれ、そしてこういったものをクドクドクドクド…………
それは、両親が元エリートトレーナーだったが故のポケモントレーナーのための英才教育。
ポケモントレーナーになりたいといった少年の夢を応援する形で両親はこの教育を実施したのだが、少年からしてみれば酷い詰め込み教育だったと言える。
いきなり詰め込まれ始めたその教育により、少年の生来の大量の優しさは封印され、自分の手持ちのポケモンにしか向けられなくなってしまった上に、さらにポケモンのことも強くなるための戦力・武器であり、見捨てても構わない存在であるという風に捉えてしまうようになってしまったのだ。
“兄さん……正気に戻って! そんなに冷たい顔をしないでよ……”
そんな冷たい心を持ってしまった少年だったが、傷つくフシギソウの姿を見るうちに少年は幼いころの自分を取り戻したのだった。
そしてつい先日、少年はポケモントレーナーをやめる決心をした。
ポケモントレーナーは両親の教育内容のように冷酷にならないとダメなのだと思ったためである。
“良かった……やっと、兄さんが怖い顔をしなくなってくれたよお…”
まあ、そんなこんなでポケモントレーナーをやめた少年であったが、今は大号泣のフシギソウを落ち着かせていた。
どうしてフシギソウが号泣しているのかというと、少し前に散歩で通った森の中でのことになる。
元ポケモントレーナーの少年は、今後どうやって生計を立てていこうかと計画を考えながら、フシギソウと共に森の中を歩いていた。
ポケモントレーナーを辞めると言ったらかなりうるさそうな親の援助は打ち切ることにしたため、今後の費用は全部自分の懐から算出しなければいけないのだ。
バイトをすることは確定事項なため、どのバイトを選ぶのかの話となるのだが……バイト情報誌にはいまいちいいバイトが見当たらなかった。
フレンドリィショップの店員バイトは人数オーバー、そのほかの有名店などで働ける主要なバイトも全滅だった。
どうしたものかと悩んでいると、とあるポケモンと出会った。
「コモリー?」
「ハハコモリか。珍しいな…」
「…ふっしー?」
「コモー!」
「ふっし!」
「…旧友か?」
ハハコモリ。
どうやらこのポケモンはフシギソウの旧友のようで、フシギソウ出会うや否やすぐに仲良く談笑していた。
その光景を間近で見ていた少年の心には温かいものが灯ったようだった。
それが何なのかは少年にはわからなかったが、感じているととても心地よくなる。
これを求めて旅をするのも悪くないかなと思ったとき、近くの茂みからなにか物音がした。
“あの人、まさか………そう、元に戻ったんですね”
“ええ、よかったでしょ?”
“はい。とても、嬉しいですね。助けられた身として、あんな姿の彼は見ていて辛かったですから――”
「見ていて飽きないなあ……――」
ガサガサ…
「うわっ、なんだ…?」
驚きながらも警戒して、出てくるものを少年は確認すると、そこにいたのはコロトックだった。
「コロコロ?」
「コモリリ…」
「…ふっし?」
「…コロトック、お前の友達か?」
「
どうやらフシギソウの友達ではないようだった。
いでは、普通の野生のポケモンかと思えば、コロトックはハハコモリの傍に近づき、その手を取った。
コロトックはそのまま少年の前に立ちはだかるような――彼女を守ろうとする体勢をとり威嚇していた。
一体どういうことなのかと少年以上に頭をひねるフシギソウに対し、ハハコモリは威嚇するコロトックを止めながら笑顔でフシギソウに告げた。
「
「………ふっしー!!?」
コロトックとハハコモリが仲良く手をつないでいる様子を見るに、恐らく二匹はつがいの関係だと少年は理解した。
フシギソウは驚愕し、唖然とした表情のまま固まっていた。
これは少年にはわからないことだが、ハハコモリはフシギソウよりも年下、妹分だったのだ。
フシギソウは少年の相棒になるためにフシギダネだった時に当時まだ小さいクルミルだったハハコモリと別れてそれっきりだったのだが、再び出会ったらとっくのとうに乙女としての先を越されていたとは……と、フシギソウはショックを抱いたのだった。
しかも話を続けてみれば、とっくにヤることを済ませていて、おなかの中にこれから出てくるタマゴがあるというのだから、さらにフシギソウは開いた口がふさがらなかった。
“行き遅れ……私、行き遅れポケモン……”
“そんなことないですよ、お姉さん……! 私たちは一目ぼれで結婚したようなものでしたし――うっ!”
「ふしっ!?」
“お、おなかが、う、産まれるぅ……”
“ハニー!?”
“だ、大丈夫ですけど……これはたぶん、出てきそうなので……名残惜しいですけど、いったんここで失礼しますねー……”
“え、ええ……”
「…ハハコモリ、まさか今破水してたんじゃあ…」
「……ふしゃ」
「ん、どうした」
「ふっしゃああああああっ!!!!」
フシギソウは、乙女として完敗した気分だった。
幼い時にフシギソウ(当時フシギダネ)はハハコモリ(当時クルミル)ととある約束を誓っていたのだ。
内容はいたってシンプルで、将来のフシギダネの姿を見てクルミルは幸せな家庭を築いてほしいというもの。
当時のフシギダネは少年と会う前の、人間と生きるだなんて思ってなかった時期だった。
あの頃の想像とは大きく違う生き方を今しているが、それでもクルミルよりは乙女として前にいるとフシギソウは思っていたのだ。
しかし実際はどうか。
バトル三昧だったフシギソウに比べ、ハハコモリは幸せな家庭を築こうとしているではないか。
――もしかしなくても、私、全然乙女じゃない…!?
フシギソウは泣いた。
そうして今に至る。
「ふうううっしぃぃ」
「うーん……」
少年の膝上で涙を流すフシギソウを見ていて、少年は今までの行動を省みた。
あの頭がおかしかった時期の自分は、ポケモンたちの意見を尊重できていただろうか。
少年は、今までの旅路を振り返る。
傷ついた仲間のポケモンを最低限治療し、再びバトルに出させた。
極限の状態で戦わせることにより、ポケモンに鋭い戦闘センスを植え付けることが目的だった。
それによって自分のポケモンたちはどうなった。傷つき、倒れ、それに動じることなく淡々と治療を行う自分を少年は思い出した。
絶対尊重したことはなかったと言える。
「ごめんな、俺、お前たちにひどいことばかりしちまってた……」
「ふしゃ!? ふーしー」
そんなことないよと言いたげなフシギソウだが、少年は自分の過去をどうあがいてもそんな風にしか見てしまう。
清算がしたい。少年はそう思った。
せめてこれからは、自分の仲間の意見を最大限尊重してやろう――そう決心した矢先、とあるチラシが風に舞い、少年の頭上をくるくると回っていた。
フシギソウが気になったのか、蔓の鞭で器用につかみ取り、少年に見せた。
「ポケモン性処理サービス…?」
「ふーしゃぁ?」
「どうやら腕利きのメタモンがポケモンをエッチにスッキリしてくれるみたいだな……風俗ってポケモンにもあるんだな……」
「ふしゃあ…!」
少年がチラシを読んで驚いていると、眩しい視線を膝元から感じた。
チラシから目を離すと、フシギソウが行きたいと言わんばかりの眼差しを少年に向けていたようだった。
「行きたいのか? エッチなお店だぞ?」
「ふーしゃ」
「お前、エッチなことされちゃうんだぞ? お前はメスなんだぞ? いくらオスメス構わず行けるったって――」
「ふしゃ、ふしゃ!」
“エッチなお店! そこで私も早くオトナの階段を上らないと――!”
フシギソウはひょっとしたら混乱しているかもしれない。
オトナとして一歩先を行ってしまったハハコモリに触発されて、暴走しているのかもしれない。
少年はそう思ったが、同時にここまでやる気の高いフシギソウを見るのは初めてで――
「――そこまで乗り気じゃ、仕方ないか」
「…ふー」
「ポケモンセンターで手続きできるみたいだ。…行こう!」
「しゃー!」
そうして、少年はフシギソウをメタモンのナワバリであるかつて村だった場所へと送ることにしたのだった。
2023年9月から10月は投稿速度のみでは飽き足らず執筆速度も遅くなりますがご容赦いただけると幸いです。
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