休日の喧騒に包まれる王都の城下町。行き交う人々の隙間を縫うように彼女は歩いていた。
注目を浴びないための装いと人の意識の死角へ入り込む歩法によって気付く者はまるでいないが、偶然にもその姿を捉えてしまった者は呆けて通行人にぶつかりぶつかられ、足元を疎かにして転倒する。
彼女はとても美しいエルフであった。腰まで伸びる陽光に煌めく金の髪。艶やかでありながら美しさも際立たせる均整の取れたプロポーション。全てのパーツが絶妙なバランスで配置された相貌は女神の如し。
そんな彼女の慈愛の込められた碧眼を向けられるのは両腕に抱かれる一人の赤子。黒髪のハーフエルフはまだ生まれて半年も経っていないらしく、もし彼女を確実に視認できる者がいれば母親か親戚の代わりに赤子の面倒を見ていると勘違いしたことだろう。
今年、十六歳になる彼女自身が抱いている赤子の産みの親であり、二児の母であるとは夢にも思うまい。
「貴方にも会ったら名前を付けてもらいましょうか」
そう語りかける彼女にハーフエルフの赤子は応えない。
代わりに赤子のおくるみの隙間から覗いた金色の輝きが肯定するように瞬いた。
♦♦♦
――出産後のケアはイータに任せる。
全裸で寝台に横たわり黄金に透ける長い髪を雑に広げ、幼くも美しく可憐な細面を汗と涙の痕で汚し、霞む意識と同調するように焦点の合わない青い瞳で天井を見上げるアルファは天井のシミを数えながら今日のために決めていたことを思い出していた。
シャドウの優しさに漬け込むようにして肉体関係を持った時、溜まりに溜まった欲望を解き放つように愛しい男の身体を貪り、妊娠が発覚したその日からアルファはあることを考えていた。
(……子供を産んだら子育てはともかく、身体の調子を取り戻すのに時間がかかり過ぎる)
幼かろうが成熟していようが、子供を妊娠して産むという行為は命がけ。魔力によってある程度の治療ができるのは常識だが、調べた限りでは魔剣士の経産婦が出産後の不調を魔力で癒せたという話は聞いたことがない。
それもそのはず。魔力による止血や治療は想像できる治療効果を魔力で再現し、治癒速度を魔力で高めているだけ。出産による身体の不具合の具体的な治し方なんてわからないし、治癒速度を高めて無理に治そうとすればガタが出る。だから魔剣士は骨折なんかの重症は自然に治るのを待つし、擦り傷なんかは気にせず治す。
(シャドウなら治せるでしょう。でも、それは駄目)
腐った肉塊同然のアルファを後遺症なしで元の姿に戻し、失った手足も再生できるシャドウであれば恐らく可能だ。しかし、貴族の身分に縛られる彼の時間を奪うのは気が引けるし、シャドウを支えたいアルファはおんぶに抱っことなるのが嫌なのだ。
それにこれから先は他の『七陰』やナンバーズからもシャドウの子を産む者が出てくるだろう。彼ほどの男を独り占めできるとは欠片も思ってないし、その度に上官が使い物にならなくなって組織運営が停滞し、シャドウを呼び出していては彼のサポートをする『シャドウガーデン』として本末転倒だ。
だからイータに任せた。シャドウに次ぐ人体や魔力に詳しい研究者である彼女に。
「それじゃあ始めるよ、アルファ様」
殺菌処理が施された部屋でゴム手袋や白衣に身を包み、様々な道具を準備したイータが動き始める。万が一とサイコパスなイータが変な真似をした時に備えて待機する
「注射器?」
針が付いていない液体を吸ったり吐いたりするタイプの注射器。それの中には白みがかった透明な何かが詰まっており、先端に結合されたカテーテルを通じて胸や腹部をタオルで隠しているアルファの膣内に注入されていく。
怪しげな薬とかではなさそうだったから止めなかったけど、念のため確認する
「使っているのはスライム?」
「うん。すぐに効果が出ると思う」
イータの言う通り、効果はすぐに現れた。スライムを注入される時以外は身じろぎもしないで苦しそうに息を荒げていたアルファの呼吸が変わった。
息遣いが浅くなったり深くなったり、時折途切れて甲高い声を漏らす。我慢するように手で押さえた口から洩れる息は艶っぽい。……気のせいでなければ、アルファは喘ぎ声を出しそうになるのを堪えていた。
「……し、しゃどおぉ……きてぇっ」
理由を知っているイータに詰め寄るよりも先にアルファの泣きそうな声が聞こえてしまい、どーぞどーぞと手で示すイータを後で説教だと決めながらアルファの下へ駆け寄る。
近寄るとアルファは泣きそうな笑みを浮かべながら僕の手を握り、お腹にかけられていたタオルをめくる。宿していた赤子を産み落としたお腹は伸びた皮がたるんで皴だらけ。秘部も覗けば子宮が見えてしまいそうなほど開ききっていた。
そんなボロボロの身体を見せながらアルファは信じられないことを口にする。
「わたしをだいて……はひぃ……いますぐ、んぁ……おかしくなっちゃう……ぃい!?」
蕩けた瞳からぽろぽろと宝石のような雫を流し、股を開いて腰を下品にひくつかせる彼女は明らかに正気じゃない。イータへの罰に説教だけでなく折檻も加わった瞬間であった。
体内にあるスライムという異物が魔力にどんな反応を示すか見通しがつかないので治療を諦め、アルファの言うとおりにする。すぐに服を脱いで彼女に覆いかぶさり、僕の子供がいた子宮に繋がる膣内に肉棒を挿し込んだ。
「ふぁぁぁっ♡ シャドウのおちんちん、きたぁぁぁ……♡」
子供を産んで間もない少女の膣内は緩かった。負担をかけないようゆっくり挿入していたのに腰を脚でホールドしてきたアルファによって腹部が密着し、あっという間に陰茎は子宮口に辿り着き……まだ元の大きさに戻れていない子宮口を素通りして、子宮内に入ってしまう。
そこで僕が感じたのは、
(冷たい?)
竿から亀頭まで包まれているのはアルファの淫肉のはずだ。なのに竿に絡みつくのは膣壁ではなくゲル状の何かで、亀頭で感じるのは波打つ粘液。
スライムだとしても量がおかしい。イータの持っていた注射器に入っていたスライムは膣内全体に塗せるほどでは――。
「 ぷひゅっ」
――ここで僕の記憶は途切れている。
――イータは研究者である。それも頭にマッドが付くタイプのサイエンティストだ。仲間を新薬の実験台に躊躇なくする上に、命の恩人であるシャドウにも竜殺しの毒薬や媚薬を平然と盛ったりする。
そんな彼女がただ人の身体を治療するスライムを作る訳がなかった。
今回、イータが創り出したのは『スライムの精液』のような代物である。真の目的は『スライムの効率的な増殖』であり、人の治療はそれの副産物だ。アルファの要望には応えているから問題ないの精神で使った。
『シャドウガーデン』の研究者としてイータはある問題の解決に当たっていた。それはずばり『スライム不足』。
陰の叡智によって齎された代物の中で最高傑作であるスライムボディースーツ。ミスリルの剣を超える魔力伝導率に加え、装備者の魔力によって剣に槍に鎧にとあらゆる形状に変えられる。それでいてあらゆる金属を上回る防御力を有しながらとても軽い。それだけスライムは万能なのだ。
そんなスライムボディースーツを増える『シャドウガーデン』の構成員に渡し、イータの研究を始めとした様々な物事に使っているとどうなるか。当然のようにスライムが不足した。
現在は遠出する団員にスライムを見つけ次第確保するように伝達しているが、いつかスライムの供給が需要に対して追いつかなくなるかもしれない。イータがスライムの繁殖に動き出すのに時間はかからなかった。
「スライムは単細胞生物で単為生殖。雌雄の概念がないから繁殖させられない。新しく発生したスライムが大きくなるのには魔力がいる。マスターならスライムごとに適切な魔力の波長に変えて増やしたりできるけど、スライムスーツ一人分に足りるサイズに成長するのに必要な時間は二年……ちょっと、長すぎ」
だから人の卵子の細胞分裂の回数をスライムの繁殖に適応させる方法を考えた。魔力を多く保有する母体ならスライムの繁殖速度や繁殖量も増やせる予定。例えば<悪魔憑き>のエルフとか。
「お゛ほっ、お゛おお゛お゛ぉぉお゛おおぉ!? あへっ♡ あ゛っ、あ゛あ゛ああぁあぁっ♡♡!?!?」
「あふっ!? あっ、あっ? あぁぁ!? あひっ、がっ、お゛へぇ……!?」
いかなる時も冷静に理知的に振る舞う『七陰』のリーダーと『シャドウガーデン』の主が獣の咆哮のような声を上げて絡み合っている。きっと獣の交尾の方が上品に見えるまぐわいにイータはちょっとだけ罪悪感を抱いた。他の『七陰』を遠ざけておいてよかったとも思った。他の皆が二人に抱いているだろう幻想を粉々にしただろうし、不敬罪でイータが殺されかねなかった。
――アルファの子宮に注入された『スライムの精液』は彼女の卵子に受精して一定数まで繁殖すると、環境を整えるために出産で傷ついた子宮を癒し始めた。自分達が増えるための下地を準備するためのスライムの本能であり、イータが治療に使えるだろうと考えた習性だ。
その際に分泌される特殊な体液が母体に『子宮に赤子がいる状態でなければ耐えられない』効果を齎す。これはこれから増殖するスライムに母体が拒絶反応を起こさせないための処置だが、男が側にいると発情と勘違いしてしまう効果でもある。
そして母体に引き寄せられた男の魔力が優れていたらどうなるのか? 男が離れられない未知の快楽を与えながら魔力と精子を搾り取り、二つの優れた魔力を餌に増えるのである。
「あひっ、いぎぎ、ふぐ、ひぎぁあぁぁっ!?」
シドを襲っているのは理性を焼き尽くす破滅の快楽である。
シドの魔力に目を付けたスライムは膣内から逃さないようまとわりつき、尿道からたっぷりと魔力を含んだ精巣へ侵入した。もちろん陰茎を傷つけないようにゆっくりと……尿道を押し広げながらたっぷりと。
射精の脈動が先端から始まるような違和感のある快感。敏感な精管を異物が通り抜けていく未知の快楽。子孫を残すための精子をため込む精巣に侵入者が張り付く恐怖を伴う心地よさ。
何度も何度も、陰茎は射精のための脈動を繰り返す。しかし鈴口から快楽の白濁液は一滴も漏れることはなく、スライムの侵入を防ぐこともできはしない。それでいて、スライムは竿を締め付け、亀頭にまとわりつき、陰嚢をもみほぐして快楽を与えてくる。
精巣にまとわりついたスライムはポンプのように精子を吸い上げ、それは精管から尿道を貫くスライムの管を通じて母体の子宮に運ばれる。とても遅い間隔で尿道を広げて出ていくスライムは、数十回分の射精の苦しみと心地よさを凝縮したような地獄の快感をシドに与え続けた。
「お゛お゛ぁっぁあっ、あ゛あ゛あ゛あぁあ♡ あ゛ーっ、あっ、ふひ、んぃ、んひいぃぃぃ!?」
アルファに与えられているのは母体を損傷しないための機能――苗床の気持ちよさだった。
彼女の子宮の中で魔力を吸収しながらスライムはどんどん育っていく。出産で傷ついていた子宮は癒されながらもスライムによって押し広げられていき、アルファのお腹は臨月と変わらないほど膨れ上がっている。
スライムがお腹の中で蠢いてもアルファは苦しさを感じない。自分の子供ではない異物が魔力を吸っているとわかっていても、決して陰茎や指では触れられない子宮口のふちをなぞられ、Gスポットを丹念に摺り上げられ、陰核を休みなく吸い上げられる快楽に抵抗できるはずがない。尿道に潜り込んだスライムによっていくら絶頂しようと失禁も潮吹きも許されない。
繁殖したスライムは子宮が限界になると外に出る。スライムの本能が知っているのだ。母体にはもう一つの穴があり、その中からでも魔力を吸い上げて増殖できると。お尻の中まで犯されると知ったアルファにできた抵抗はいやいやと首を振るだけで、スライムはそんな行為に迷いを見せることもなく犯しつくす。
腸の中をスライムが埋め尽くしていく。冷たいのか熱いのかわからない粘性の感触がお腹に広がり、スライムが蠢いているのが子宮なのか腸内なのかアルファにはわからなくなっていた。子宮内では卵管を通じて伸ばされたスライムの触手が卵巣から卵子を運び出し、スライムの精子とシャドウの精子を受精させ、二人の魔力に適合するスライムを増やしていく。
スライムの繁殖は止まらない。アルファの腸内はもう埋め尽くしてしまったのか、次第に膣内から這い出てくるスライムはシドの腸内にも入り始めた。前立腺を刺激されても空しく燻るだけの射精感が更にシドを苦しめる。
「おぉー、予想の三倍以上の繁殖速度と繁殖量……アルファ様もマスターもスライムの親としての素質があるみたい」
スライムに顔以外を包み込まれ、繁殖装置と化した二人をイータは研究者の目で観察し続けた。今はまだ豊満ではない未成熟な胸を上下左右から揉みしだき、吸い上げて引き延ばされた乳首から吐き出させた母乳を栄養補給のためかスライムが口に流し込もうと……遂に顔まで呑み込んで全ての体液まで餌にしようと、ずっと。
「……わたしも、こうなる?」
ぽっこりと膨れたお腹を撫で、股を期待で濡らしながら。
アルファとシドがスライムに捕らえられていたのは半日程度のことだった。イータの生み出したスライムには共存関係が本能に組み込まれているため、損傷している母体の修復が終わると繁殖をやめ、ゆっくりと子宮から出てくる。
ベッドに横たわるアルファの出産でボロボロになっていた身体は治っていた。たるんだ皮と妊娠線が目立っていたお腹はシミや皺が一つもないきめ細やかな元の肌になり、膣口もしっかりと閉じている。それでいて妊娠で大きくなった胸部と臀部は大きいままだ。
もうこの時点でアルファは再び妊娠できるようになっていた。本来は産後に妊娠前の体調やスタイルに戻るのに三か月から一年かかることと、すぐに子作りができるようになることを考えればどれだけスライムの治癒能力が優れているかがわかるだろう。そして産まれたスライムは母体となった人物が使えば部位欠損すら治せる。
『シャドウガーデン』にとってこれ以上ないほど適合している。
大きなバケツに詰め込まれた金色のスライムに顔を顰めながらもアルファがイータを叱責せずねぎらいの言葉をかけたのは次の日のことであった。
♦♦♦
どうしてこんなことになってしまったのだろうか。
寮のベッドに全裸で腰掛ける僕は自問自答を繰り返していた。
「苦しいの? 我慢できなくなったら遠慮なく出していいのよ」
同じように服を全て脱いだアルファが僕の後ろから抱き着きながら陰茎を手で扱いてくる。背中に押し当てられる豊満な胸の柔らかさ、耳をくすぐる吐息と彼女の香り、僕の弱点を知り尽くした手管はあっという間に限界まで追い詰め、陰茎に精液を吐き出させるための脈動を始めさせる。
だがしかし、甘い射精など始まらない。手コキを受けている間、我慢汁さえ零さなかった鈴口からは白濁液の代わりにアルファに似た金の色素のスライムが顔を覗かせる。陰茎の先端で震える金色の塊に僕を満たすのは絶望感と矛盾した期待だった。
自問自答なんてしていたけど、答えなんてわかり切ってる。
僕が『シャドウガーデン』以外の女性を妊娠させたからだ。
アレクシアから始まり、アイリス、ベアトリクス、果ては実の姉まで。アルファの叔母や実の姉を孕ませたと知った時、彼女はそれはもうブチキレた。孕ませたことではなく、事前に一言相談しろと。
それから僕の節操のない下半身を戒めるために貞操帯よりも確実な処理が施された。アルファが産んだスライムを僕の陰茎内に植え付けるのだ。子供を作るための精子や精液を貪って成長するスライムに僕は屈辱を覚えながらも、限界まで育ったこのスライムをアルファに取り出してもらわなければならない。
「それじゃあ抜くわね」
「――――――ッ!?」
鈴口から飛び出すスライムをアルファは指でつまみ、ゆっくりと絡めとっていく。猿轡をされていなければ言葉にもならない音を立てるか、衝動的に舌を噛んでしまいそうな快感だった。
ずるっ、ずるっ……にゅる、にゅる……と時折感触を変えながら尿道から引き出されるひも状のスライム。触感が変わるのがスライム自身の性質なのかアルファが変化させているのか、脳をかき回された様に真っ白になった頭では到底わかりそうにない。
子供を作るための精子を餌に育ったスライムが身体の奥から抜けていく喪失感。引き出されたスライムはアルファが持っている彼女の卵子から産まれたスライムと混ざって一つになっていく。その光景は筆舌し難いほど背徳的だった。
「三人目の子供はいつになるのかしらね」
そう囁きながらアルファは僕の陰茎にスライムを植え付けるのであった。
イプシロンはきっと子供沢山欲しがると思う。