ニューは学園の美しい庭園を一望できるベンチから行き交う生徒達を眺めながら羨望と自嘲を滲ませる笑みを浮かべた。
本来ならニューはこの学園の2年生として通っているはずだった。それを<悪魔憑き>となったことで全て失い、『シャドウガーデン』に救われて新しい居場所と同じ志を持つ仲間達を得たというのに、彼女は未練がましく学園に訪れた。
滑稽な話だ。かつての自分は意志というものが薄く決められた道、決められた相手、決められた将来を親から与えられて、周囲の言葉と価値観になんとなく合わせながら生きてきた。今の自分が手に入れたものとは比べることも烏滸がましいと理解しているのに、何故か愚かな夢を見たいと思ってしまった。
それでも上司であるガンマに責を受けることを覚悟しつつ、日中の学園に潜入してよかったとニューは思う。自分の隣には敬愛する主がいて、手を伸ばせば触れられるのだから。
彼と初めて出会ったのはつい昨日のこと。シャドウの存在は『シャドウガーデン』のメンバーであれば必ず知っている。あらゆる分野で突出した才能を持つ七人の幹部、『七陰』が敬意と忠誠を捧げる者。ナンバーズと呼ばれる準幹部になった時、初めてシャドウの表の正体が明かされる。
一見した時の感想は平凡の一言に尽きる。『シャドウガーデン』の名を騙る愚者の報告をするため部外者のいない場所へ案内すべく表の女性を装いながら誘ってみれば、まるで普通の男の子のように動揺する。
本当にこの方が組織の主なのか? そんな疑問を後悔する光景をニューは見せつけられる。
(なんて美しく……優しい魔力)
天井から降り注ぐ青紫の光の雨。その魔力に込められた癒しの力と、それ以上の慈愛と慈悲を彼女は本能で理解した。理解した時、彼女は自然と涙を零していた。
これほどの巨大組織となれば構成員は末端であるほどただの数字としてしか見られなくなる。ニューもナンバーズであり唯一の人間の<悪魔憑き>であるものの、『七陰』と比べれば代わりの利く駒でしかない。シャドウの代わりに組織の運営をしているアルファはとても優しいが、『シャドウガーデン』とメンバーを切り捨てる選択を迫られれば躊躇なく後者を選ぶだろう。貴族として教育を受けたニューも至極当然であると思っていた。
そうなるとトップであるシャドウは『七陰』ですら捨て駒にする冷酷さを持っている。そんな人物が自分を駒以外の何だと思うだろうか。ニューは仮にそうだとしても怒りを抱くことはなかっただろう。弱い自分にとって、縋りたくなる絶対的存在として君臨してくれるだけで十分なのだから。
無礼な想像をしていた自分が恥ずかしくなる。彼は常軌を逸したガンマが転びそうになると素早く駆け寄って受け止めてやり、雑用兼連絡員として紹介された自分に
<悪魔憑き>の治療から始まり、魔力の譲渡も魔力で癒すことも誰かの為の優しさを持たぬ者が習得できる技術ではない。他者に合わせて魔力を譲るより自分の強化に使った方が遥かに効率的であり、自分の怪我であれば魔力を傷に集めるだけで回復力を高められる。『七陰』ですら実現できる者は限られる。
これまでは『七陰』に倣って忠誠を捧げていたニューは、全てを彼に捧げると誓った。彼を疑ったことに対する謝罪であり、一人きりでも戦いを始めて進み続けた敬意。
そんな彼に近付きたいと思ってしまった。身の程を知れと自分でも思うが想像してしまった。
もしも<悪魔憑き>にならず学園に通えていたら貴族のパーティーで彼と知り合い、学園での生活を楽しみながら、今のように二人で恋人みたいにおしゃべりをしていたのではないか。彼の表の顔に過ぎずとも、アルファのように彼の隣にいられたのではないか……と。
わかっている。昔の自分であれば、正体を知らなければ凡人として見向きもしなかっただろう。それでも求めてしまうのだ。
夕日が地平線の向こう側に落ちていく。放課後だし学生はもう寮に戻る時間だ。こうして主と二人きりでいられる機会はしばらくないだろうな……そう考えながら少し汗ばんだ首筋を扇ぎながらニューは立ち上がる。
「ほら君、女性をエスコートしなさい」
「えっと、こんな感じ?」
差し出される彼の左腕に自分の腕を搦め、二人で寄り添って歩き出す。ただ学園から出るなら一人で行けばいい。その方が目立たない。だがそれを知っているだろうに付き合ってくれるシャドウの優しさにニューは申し訳なく感じながら微笑んだ。
「ウンコ野郎ーーーー!!」
ニューは舌打ちした。空気を台無しにした男子生徒を必ず叩きのめすと決めた。耳が穢れるような品のない大きな声のせいで人が集まって来るのが感じ取れる。主といられる時間が減った悔しさで彼の腕をより強く抱きしめる。
「ニュー」
「何かな?」
今の彼は一般人を装っている。それに合わせて普通の先輩のような返事をするニューだが、次の言葉を耳にして頭が真っ白になる。
「昨日は急ごしらえで魔力を与えたから大分減っているでしょ? 今度はしっかりと定着させたいからこの後時間あるなら部屋まで来てくれない?」
「是非とも」
断る選択肢はなかった。彼女の脳みそが高速で回転を始める。
魔力の譲渡には絶対的な条件がある。それは渡す者と渡される者が接触すること。接触場所は魔力を集める時に意識がしやすい、手、心臓の近く、腹部であること。布一枚でも譲渡率が下がってしまうため、服を脱いで肌か粘膜での接触が望ましい。
研究者である『七陰』のイータの実験で最も効率の良い方法は知っている。布もなく、推奨箇所に接触できて、大きな範囲で肌や粘膜を密着させられる……セックスである。自然と全身を絡め合うアレが最も効率的なのだ。行為と一緒に魔力を与えられたアルファはつやつやになってた。
偶然耳にしただけだがアルファから聞いたことがある。シャドウは超然としているが無欲ではないし、感性も人並みであると。酒の匂いや味が苦手で、甘い物や子供っぽい食べ物が好きで……夜の方が凄い、と。
よく考えてみれば主は思春期である。最も性に興味津々な時期である。というかあの『シャドウガーデン』とシャドウへの貢献にしか興味ないみたいな『七陰』も恋愛関連には力を注いでいる。なんならやることやってできてもいる、ニューより年下なのに。
きっとこのまま部屋に行ってもエッチな展開にはならない。恋人でもなく先日会ったばかりの自分を主は抱こうとしない。胸を押し当ててる今はドギマギしているがエッチなことはしない。恐らく上の服だけ脱いで背中に触れられながら魔力を与えられるだけになる。
(千載一遇のチャンス……逃がす訳にはいかない!)
更に強く彼の腕を抱きしめながら口を開く。
「シャドウ様はどのように魔力を与えてくださるおつもりですか?」
「あれ、口調……えっと、ちょっと上だけ脱いでもらって背中からあげようと思ってるけど」
「お言葉ですがシャドウ様、それは非効率的と言わざるを得ません。最も効率的な方法がイータ様の研究より明らかになっているはずです。あの方法に比べれば背中越しに心臓部に魔力を注ぐ方法も効率は雲泥の差です」
「え゛……いや、でも、あれは……」
「シャドウ様、私を抱いていただけませんか?」
まるで平凡な男子生徒のように挙動不審になるシドにニューは畳みかけた。ゴファッ、と咽るシド。
「シャドウ様が私を気遣ったやり方で力を与えようとしてくださっているのは理解しております。ならばこそ、私に配慮する必要はございません。身も心も『シャドウガーデン』に、ひいてはシャドウ様に捧げております。アルファ様もここのところお忙しいようですし、代わりが務まるとは思いませんが欲望をぶつけてくださっても構いません……!」
なので自分が抱いてほしいからではない、断じて!
ニューはじっと主を見つめる。しばらくの間、顔色を変えたり意味のない言葉を漏らしていた主だったが……諦めたように本当にいいんだね? と尋ねてきた。
(ッシャア!)
心の中でガッツポーズを決めるニュー。もし学園にいたら交際して婚約して若さに任せて婚前交渉の未来とかあったはず! ニューは今だけ上司や『七陰』の筆頭を忘れることにした。
報復しようと考えていた男子生徒の存在は意識するまでもなく忘却していた。
♦♦♦
昨日、ミツゴシ商会でセクハラして泣かせてしまったと思ってて謝ったら笑って許してくれた優しいお姉さんのニューが僕の部屋にいる。『ディアボロス教団』の報告をしに学園に潜入した彼女を観察したら彼女を守るために与えた魔力が半分以上減っていたので、今からしっかりと与えた魔力が定着するように譲渡を行う。
一言で纏めるとセックスする。僕が端に腰かけているベッドで準備をしているニューと。僕はもう全部脱ぎ終わってる。
……いや、うん、魔力を渡すのに一番いいのがそれなんだよ。一番魔力について研究してるイータが沢山の実験と結果から出した結論だ。僕自身も実験に付き合ったから嘘じゃない。
でもさ、昨日会ったばかりの女の人に「抱かせろ」とか言えないじゃん。ゾンビがあふれた世界で僕だけが襲われない世界でもあるまいし。ニューはゾンビという名のディアボロス・チルドレンに襲われても返り討ちに出来る。僕のやっている保険も必要ないくらい強い。
だが昨日のは一番弱いチルドレン3rd。僕やニューにとっては雑魚だが、そこらの騎士よりは遥かに強かった。これが2ndやネームドの1stになるとニューでは危ないかもしれない。もしかしたら一定以下の魔力を使えなくさせるアーティファクトなんてものもあるかもしれない。部屋に入ってそれとなく断ろうとした僕に対するニューの話を聞くと、保険をかけずにはいられなかった。
思い切りが良すぎるというかなんというか。美人なのに男前すぎる。
「用意ができました、シャドウ様」
後ろから呼ばれて振り返る。
先程までの団子にまとめた髪と野暮ったい眼鏡でも隠しきれない色気があった女子生徒はおらず、そこにはダークブラウンの長髪を下ろし、同色の瞳を潤ませながら恥ずかしそうにこちらを見つめている美人なお姉さんがいた。
近くの椅子に借り物だから汚せないと畳まれた学術学園の制服があり、ベッドの棚には眼鏡が置かれている。彼女が身に纏っているのは黒のブラジャーとTバックのみであり、それ以外はなにも着ていなかった。
しっかりと豊かさを主張する胸、美しいラインを引くくびれに目を離せなくなる綺麗な脚、シミ一つない透き通るような肌を閉じたカーテンの隙間から差し込む残照が茜色に染め上げ、どこか神秘的に見えて息を呑む。
「そ、それでは始めましょう……ン……」
同じように僕の身体を見ていたニューがおずおずと近付き、僕の首に抱き着きながらキスをする。ちゅ、ちゅ……と当たってはすぐに離れる唇の感触と彼女の匂いで下半身に血が集まるのを感じながら、僕も彼女の腰を抱きしめる。
静かな部屋の中に響くリップ音とふーっ、ふーっという息遣い。それらに変化が生じる。唇同士の触れ合う音はじゅるじゅる、ぴちゃぴちゃと激しい水音になり、息遣いの音もまるで口で息をすることを惜しむような荒い鼻息だけになる。
しばらく後に壁に映りこんでいた影は二つに分かれた。
「こんなに大きくなって……今から楽にしてあげます」
キスの最中もいきり立って彼女のお腹に当たっていた陰茎をニューは手で扱き始める。亀頭を包む皮を優しく剥きながら上下に手を動かし、僕の反応を窺いながら握る力を強めたり弱めたり。次第に彼女の手淫は早くなり、漏れ出した先走り汁によってくちゅくちゅと音がし始める。ふーっと息を吹きかけられた陰茎がびくびくと震えた。
僕もニューを手で気持ち良くしようと頑張った。下着に浮き出る秘部のラインに沿うように指先でなぞり、太腿の付け根を触れているのかわからない加減で撫でる。下着の上から秘部を包み込むように手を当て、中指を強く沈めると、くちゅりと湿った感触が指先に伝わった。
やがてどちらが言うまでもなく手を止めた。ニューは残りの下着を脱ぎ捨てて生まれたままの姿になり、そんな彼女を押し倒しながら僕は股の間に入り込む。痛いくらいに勃起した剛直が秘部に押し当てられ、そして――
「ヒゥ……フゥゥ……ッ」
頭の上でベッドシーツを掴みながらニューは破瓜の痛みに耐える。目を閉じ歯を食いしばる彼女の額には大粒の汗が浮き、掴んでいる腰にも冷や汗が滲んでいた。
ようやく痛みに慣れたのかニューから動いていいと告げられ、僕は腰を動かし始める。まだ本当は痛いであろう彼女を労わるようにゆっくりと。
ニューの膣内は緩く包み込まれるようだった。じんわりと温かい膣壁が纏わりつき、ヒダが陰茎を優しく撫でてくる。気持ちいいですと微笑んできたニューの言葉が本当であると証明するように分泌されだした愛液で更に挿入がしやすくなる。
徐々に締め付けも強くなってきたが、前戯で昂っていたお互いの性器が限界を迎える。どくどくと脈動とともに吐き出される精液を子宮で受け止めながら、ニューは満足そうに笑った。
「ありがとうございましたシャドウ様……気持ち良かったですよ」
この時、僕は彼女の言葉を聞いていなかった。――物足りない。それだけが僕の頭を支配していた。
アルファやゼータのような本能のままに快楽を求めるような、達したところに畳みかけてくるようなセックスをする女性ばかり抱いていた僕には、ゆったりとリードするようなニューとの今の情事は物足りなかった。
ニューに彼女達と同等のものを求めるのは酷だと理解している。しかし、一度達したことで賢者になるどころか
「ニュー……ごめんね」
「へ――はぁあんっ!?」
謝罪をしながら僕はニューに覆い被さり、力任せに腰を叩き付けた。彼女の喉から迸った艶声が他の部屋にいるかもしれない生徒に聞こえないよう、唇で口を塞ぎながら舌を口内に捻じ込む。
それから僕はひたすらニューの身体を
僕の背中に彼女の爪が突き立てられようが、腰をのけぞらせながら潮を吹こうが、悲鳴らしき唸り声を漏らそうが何度も腰を打ち付ける。白い首筋を伝うあまじょっぱい汗を舐め取り、宝石のような涙を零す目尻に吸い付き、彼女の涎をも飲み干していく。
(なにこれっ、しらないっ、なにこれぇっっっ……!? こわれるぅ……こわされちゃう……!!)
貴族の丁寧なテンプレートセックスしか知識で知らなかったニュー。そんな彼女に俗に言う種付けプレスは刺激が強すぎた。上と下の同時攻めによる快楽にただひたすら翻弄される。
あまりの気持ち良さに怖くなり抱き着くようにシドの腰をスラリとした美脚でホールドする。その行為は男の嗜虐心をそそり、彼女の膣内を貫いている陰茎を膨らませる。怯えるニューの意思とは反対に悦ぶ身体は膣をぎゅうぎゅうと締め上げ、男の性器から子種を搾り取ろうとする。
ひと際強い打ち付けと一緒に始まる射精。一度目とは比べ物にならない勢いと量と熱さの白濁液注ぎ込まれ、結合部から収まりきらなかった分が滲み出る。陰茎が引き抜かれるとごぷっ……と更に白濁液が吐き出される。
(すごかった……なんか、すごかった……)
ようやく解放されたニューはなんとなく顔を見られるのが恥ずかしくなり腕で隠す。しかし、腕の間からは蕩けた瞳と濡れた唇が覗き、はぁはぁと喘ぐような呼吸に合わせて上下する胸が震え、内気味になった股から精液を垂れ流す淫らな姿は男を元気にするのに十分だった。
――まぐわいは完全に日が沈むまで続けられ、ニューはシャドウは平凡な少年を演じて、色んな一面を隠しているんだなぁ……と思いながら気を失った。
♦♦♦
あの日、朝起きたらニューは消えていた。夢かと思ったが情事で汚れたはずのシーツは新品になっていて、部屋には消そうとしたが消しきれなかったような淫臭が残っていた。
魔力を与えるという本来の目的を忘れてやったセックス。気まずくてミツゴシ商会には行けず、会ったとして何を話したいのかもわからないままずるずると生活していると、
「「……あ」」
よりによってテロリストに襲われた学園でニューと再会した。それも死体のある荒らされた研究室で。僕はそっと目を逸らし、彼女は何故か髪を整える。
咳ばらいをして空気を入れ替え彼女の話を聞く。『シャドウガーデン』は既に学園に潜伏し指示があれば動けるが、魔力を制限される状況で普段通りに動けるのは『七陰』のみであるらしい。王都にいる『七陰』はガンマのみ。張り切って動こうとして柵なり窓枠なりに引っかかり、頭から地面に突っ込む光景が目に浮かぶ。
「私も普段の半分ほどしか力を出せませんので……もっと魔力があれば、別ですが……」
「そっか……今、魔力の阻害をしているアーティファクトを一時的に無害化するアーティファクトを調整している生徒がいてね。調整には日が落ちるくらいまでかかりそうなんだ」
「そうなのですか」
「うん……学園の目ぼしい敵は片付けたし、今は暇だ。でも、ニューには働いてもらうかもしれないし……」
魔力譲渡……する? ニューは恥ずかしそうにこくりと頷いた。
(ギャップが凄いですシャドウ様……ズルいです)
場所を隣室に移したニューは心の中で悶えた。
前回は学術学園の生徒の制服を借りていたが、今回は状況が状況だ。故に制服の実物ではなくスライムスーツをそれらしく擬態させていたが、それを解除したニューは全裸になっていた。
今はソファーに座る主と繋がりながら彼に胸を吸われている。初めて抱かれた日の野獣のような態度から一転、甘えるように己の乳房をちゅうちゅうと吸い付く主が可愛らしく、母性をくすぐられた彼女はゆったりと彼の頭を撫でていた。
「ニュー……そろそろ出そう」
「はい、構いませんよ。お好きなように出して下さい」
自分の中で大きくなりながら震える主の分身。あの甘美な瞬間を今か今かと待ちわびていたその時だった。
「確か……この部屋!」
副学園長室でアーティファクトの解読と調整をしているはずのシェリーが入ってきた。彼女は棚から様々な器具や材料を取り出すと部屋から出て――行かず、机に広げて何やら作業を始める。
「調合器具が重くて一階の副学園長室には持っていけないからここで材料の調合をしないと……魔剣士の皆さんのためにも頑張らないと……!」
――何らかの作業をするシェリーの正面の棚の陰にニューとシドは隠れていた。そこは本来人一人しか隠れられそうにない場所。二人は性器を繋げたまま隠れていた。はみ出しそうになるニューの豊かな胸をシドが押さえ込み、声が漏れそうになる口を彼女自身が塞ぎながら。
数分後。作業を終えたらしいシェリーは棚に器具を戻し、部屋を出ようと扉に近寄った彼女はふと振り返る。
「あれ? 今、物音がしたような……それにこの匂い……イカ?」
「ニャ、ニャア~」
「なんだ、猫さんですか。猫さんはイカも好きなんですね。よしっ、トイレに行ったシド君も戻って来てるかもしれませんし、急がなくちゃ」
今度こそ部屋を出て行くシェリー。それを棚の陰から見届けたニューは、足を伝う液体の温かさを感じながら息を吐く。
「……猫の鳴き真似が通じるとは思いませんでした」
「……そうだね」
会話をしながら離れようとはしない二人。もちろん理由がある。
「ニュー。シェリーにびっくりして魔力を渡せなかったから……もう一回いい?」
「……どうぞ」
その後、十分な魔力を与えてくれた主が去っていくのを見送り、身だしなみを他の仲間が見ても大丈夫な程度に整えたニューは隣の研究室に戻る。部屋には騎士の死体があったが、もう一人息のある騎士がいた。美しい青髪と端正な顔立ちをした男はニューの元許嫁であった。
漆黒の刀を取り出して首筋に当てる。脈拍も呼吸も正常、どうやら命に別状はないが確実に意識は失っている。もし起きていれば先程まで漏らしていた声を聞かれた可能性を考慮して殺さなければならなかった。
「学園に通っていれば……貴方に身体を許していたのかもしれないわね」
そんな未来は永劫訪れることはないが。まだ熱の籠っている腹に手を当てる。
「沢山出されてしまいました……今日は危ない日なのに、あんなにいっぱい……フ、ウフフフフ」
ニューは笑い声を漏らした後姿を消した。
♦♦♦
「ヒョロ君ヒョロ君、本当にやるんですか?」
「あったりまえよ、朝から150分も並んで入ったんだ。ここまで来て帰れねぇだろ」
「ですね。最高級エリアのブランド物を買ってプレゼントすればあのお姉さんもイチコロですよ」
「おうよ。女はブランド物に弱いからな。俺達にはミツゴシリボ払いがあるから資金は無限だぜ」
また来やがった。店の中で困っている客がいないか見回っていたニューは近頃鬱陶しいノッポと坊主頭のガキどもを見つけて顔を顰めた。恐らく自分をまたナンパしに来たのだろう。店に来るたび声をかけてくるので間違いない。
聞こえてくる内容もこちらを馬鹿にしてるとしか思わない。ミツゴシに借金してミツゴシの商品買ってミツゴシの店員を口説くとか舐めてんのか。女を軽く見過ぎな上に、そう見られているのが自分であるのも腹立たしい。
主に無礼な真似を働きながら未だに友人面をする連中の厚かましさに殺意が湧いてくる。何か変なことをしでかしたら速攻で叩き出そう。そう考えながら監視をしていると、
「うわっヤッベ!? ヒビ入っちまった……」
「だ、大丈夫ですヒョロ君! 商品を壊してもミツゴシリボ払いで弁償すれば……」
「い、いやでもこの額はヤベェよ。ミツゴシリボの月2%の返済でもちょっとヤベェ」
「た、確かに……ならこっそり持ち帰って直してこっそり返しに来ましょう」
「だな。ついでにお姉さんにプレゼントする分も持って帰ろうぜ」
よしコロス。堂々と万引きの計画を暴露した間抜けどもは生きて帰れる保証のない漁船に乗ってもらおう。決して逃がさないように気配と足音を消してブタ野郎どもの背後に近付いていく。
だがニューが声をかける前に彼等に声をかけた者がいた。
「あれ、二人とも、何やってんの?」
「ひぃいいいっ!? し、してません、万引きなんてしてません……ってシドかよ――あ」
「うひょおおおっ!? か、考えてません、持ち帰ってバレなかったら有耶無耶にしようとか考えてません……ってシド君ですか――あ」
ミツゴシブランドの私服姿の主に声をかけられて挙動不審になった凡夫達の手から商品が滑り落ち、床に価値ある品だった物の破片が散らばる。顔面蒼白になりながら冷や汗を流して震える二人とそれを「あーあ」という風な顔で眺める主。
「お客様、いったい何事ですか?」
「あ、ニュ……じゃなくて。店員さん、実はこの二人が不注意で商品を――」
「――壊したシドが誤魔化そうとしたんで止めようとしてたんです! なっ、ジャガ!」
「そうです! まったくミツゴシのお姉さんにいい恰好したいからってダサいですよ! ねっ、ヒョロ君!」
「は?」
屑どもめ。主に罪を被せた愚物をニューは最早人として見なくなる。
「(ですが好都合)――わかりました。ではお客様、こちらの部屋に来ていただけますか?」
「え゛っ。いや、商品を壊したのは僕じゃ――」
「失礼ですが拒否権はございません」
「そうだぜシド! お姉さんは怒ると怖いからな。しっかり叱られて来いよ!」
「ですです。シド君だけお姉さんに怒られてなくてズル――じゃなくて、反省して戻るのをいつまでも待っていますよ」
困惑している主の腕を掴んで関係者以外立ち入り禁止のエリアへ連れて行く。スタッフルームと書かれた扉が閉まる時に聞こえたのは、シドを涙を流しながら汚い笑顔で見送っていた二人が別のスタッフに捕まる悲鳴だった。
今のシャドウ様はミツゴシの商品を破損させたお客ですので、たっぷりと絞らせていただきます――後ろ手に部屋の鍵を閉めながら宣告したニューに僕は犯されていた。
服をひん剥かれてほぼ全裸になった僕に対して、ニューが脱いだのはミニワンピースと商会の制服のみ。それらに隠されていた彼女の下着に僕は驚いた。
彼女のおみ足を包み込むストッキングとガーターベルトによって繋がるショーツは真ん中に裂け目があり、秘部を隠せていなかった。ブラジャーの方も同様で桜色の突起が丸見えである。落ち着いた上品なお姉さんのニューが僕のためにこんな格好をしていることに不覚にも興奮してしまった。
下着を脱ぐ手間が省けるので、肌を重ねる時間が増えますね――ソファーに押し倒した僕に覆い被さりながら腰を落とした彼女のセリフである。
「気持ちいいですか、シャドウ様?」
ゆさゆさと腰を揺さぶりながら上半身はぴったりと僕にくっつけるニューが尋ねる。柔らかい乳肉が僕の身体で形を変え、僕の胸板に舌を這わせながら乳首を爪先でカリカリと引っ掻きながら、彼女らしい攻めっ気のある冷笑を浮かべる頬を赤くしながらの上目遣いで。
まるで捕食者のような瞳。僕の精を根こそぎ搾り取ってやろうという目に身体を震わせながら返事代わりの精液を彼女の膣内に注ぎ込む。
陰茎の脈動が終わるとニューの腰振りも止まった。抜くとたっぷり出した精液が溢れてしまうのと、まだ結ばれていたいがために、お互いの生殖器は繋がったままだ。それでも身じろぎすると厭らしい音が響くが。
「いかがでした? ミツゴシのマタニティ下着は?」
「うん……よかった」
「ところで近頃、シド様の周囲に女性の影が増えているようですが、その自覚はおありでしょうか?」
「……はい」
「先に言っておきますが……シド様の傍に妾でもメイドでもいいので置いてもらいます。絶対に逃がしません。ここにはシド様との御子がいるのですから……」
瞳から光を消したニューに寮の門限ギリギリまで僕は色々搾り取られた。
正妻のアルファ、愛人のゼータ、妾のニュー。