ちゃぷちゃぷと、生温く気持ち良いものに身体を委ねている感覚。本当なら、もっとこのままが良い。そう感じていたけど、少しづつ微睡みの中から浮き上がるようにボクは……。
「……ん、ぅ」
「あっ、起きたんだ。おかーさん」
目を開くと、そこに広がるのは一面に存在する空色の粘体。スライムに覆われた部屋だった。
そしてボクもスライムの中で漂っていたわけだけど、どうやら拘束はされてないみたい。事実、腕は粘液から離すことができたし、足も――まぁ、床どころか壁も含めて粘液で覆われてるからあまり意味ないけど、上げることができた。それでも、さっきまで全身が粘液に浸かってた影響で、身体中ヌメヌメしててちょっと気持ち悪いけど……。
それよりも、意識が覚醒した。周りを把握できるようになったことでとある問題が見えてきた。
「ここ、なに……?」
きっと部屋を覆っているスライムもこの子の一部なのだということは分かる。……正直、1ヶ月でここまで増殖するのは予想外だったけど。それはまだ良い。ボクが問題としたのは、部屋を、そして下水道に漂っていた甘ったるい、性欲を刺激する匂い。そして――。
――あっ、は……ぁ! またぁ……!
――もう、やめっ! いやぁ……!
――おまたムズムズして……。さわっちゃ、やぁ……。
部屋中で犯されている上は熟女と呼ばれそうな年齢から、下はまだ初潮を迎えていないだろう年齢の幅広い女性たち。
それらの人々がスライムに犯され、部屋中に矯声のコーラスを奏でている。しかも、その内の一部は臨月の妊婦のようにお腹が膨れていた。
「なに、って……。あたしの実験場だよ?」
……そういえば、ボク。誰と話してるの?
疑問に思ったボクは声が聞こえた方へ顔を向ける。そこにはボクが意識を失う前、散々に犯し抜いたスライムが擬態した女の子の姿。
彼女――と呼ぶべきなのか分からないけど、ともかく彼女がにこにこ、と笑顔を浮かべてこちらを見つめている。
「キミは、もしかして――」
「あっ、もしかして気付いてなかったの?」
ひっどーい、と言ってぷくぅ、と頬を膨らませてるこの子。その言いぐさからボクの予想は外れていなかったようだ。
「やっぱり、ボクが産んだスライム、なんだね」
「そうだよ、あたしはおかーさんに産んでもらったスライム」
けらけら、と笑っているスライム。
……正直、ボクとしてはあくまで実験目的で産み落とした子で、ここまで成長――というか知能を獲得するとは思ってなかったから困惑している。
そんな困惑が透けてみたのかもしれない。楽しそうに笑いながら、なぜ自らが知恵を獲得するに至ったかを語りはじめた。
「本当にイムちゃん。いや、イムおばちゃんって言うべきなのかな? ともかく、あの娘に感謝だよ。あの娘と一緒にセレナおばあちゃんを犯したからこそ、今のあたしがあるわけだし」
「……あの時の?」
確かにこの娘はイムねえさまと同じく、ママがしばらくまともに行動できなくなった元凶だ。でも、それがどうして……?
「んふふ、あの時。あたしはセレナおばあちゃんを犯しながら、あの人の細胞を、遺伝情報を取り込んだんだよ。まぁ、取り込んだのは結果論なんだけど、ね」
「それがどうし――」
――たの。と、口から漏れそうになった。が、そういえば前例がある。イムねえさまだ。
彼女も元はホワイトスライム。知能があるか、と問われると怪しい存在。そんな彼女も今は人化の術を使用できるまでの知能を備え、実際にママやボクたちと暮らしている。
おそらく、この娘もイムねえさまと同じことが起きたんだ。そう考えれば色々と辻褄が合う。
「とは言っても、ちゃんとした理性を獲得したのは、それから一週間後くらいだけどね」
「……そう、なんだ」
正直、本当に驚きだ。もはや進化と言って良いほどの速度で知性と理性を獲得したこともそうだけど、それ以上に彼女の身体。イムねえさまとは違って人化の術なんかじゃなくて……。
「この身体だって、色々と試行錯誤したからねぇ。少なくない数の人間を
「キミ、ねぇ……」
この娘の言いぐさに呆れてしまう。いくらなんでも無防備すぎた。派遣されたのがイムねえさまじゃなかったらどうするつもりだったのか。
ボクの心配を察したのだろう。けらけら笑って、無用な心配だったことを語る。
「イムちゃんにも色々手伝ってもらったよ。ギルドのクエストだってそう。何てったってギルドに情報を渡したのも擬態したあたしだしね」
「うわぁ……」
この依頼自体、完全なマッチポンプだったらしい。そんなことまでする? という疑問と、用心深いこと、という感心が同時に沸き起こる。
「ま、おかーさんまでここに来るのは予想外だったけど」
「だから、キミが直接歓迎しに来たの?」
「そーだよ。気持ち良かったでしょ?」
悪びれもなく、にへら、と笑う。そんな様子に毒気が抜かれる。
「それはそうだけどね……」
言い分はわかるけど、それでも色々やり過ぎだよ。まさか、実の子供に種付けされる、なんて思わなかったし…………?
「あれ……?」
そこで違和感に気付く。確かにボクは種付けされた筈。なのに、孕んだ様子もなく、それでいて身体の調子も良い。これはいったい……?
「えへへ、気付いた?」
「……これもキミのしわざ?」
嬉しそうに笑う彼女。ボクの身体にいったい何をしたのか。その答えを聞いて驚くことになる。
「これでもおかーさんの子だからね。特性なんかも知ってるよ。それでさっき、たくさん人間を喰らったって言ったでしょ。その中で獲得したスキルを精液に濃縮しておかーさんに転写したの」
「…………なっ?!」
「そもそも、一回中出しされただけで気絶するなんて、普通あり得ないでしょ。だから、さっきおかーさんが気絶した本当の理由は、転写されたスキルの多さに脳の処理が追い付かなかった結果だよ」
確かにそうだ。ソフィねえさまと致した時も、そしてスラムで男たちに輪姦された時も一回の性交で気絶するような無様はさらさなかった。
だけど、その理由がまさか、こんな――。
そんな混乱しているボクの耳に悲鳴に近い矯声が聞こえてきた。
「う、ぁぁぁぁぁぁぁぁ――――!」
驚いて声が聞こえてきた方を見る。すると、そこには……。
「産、まれる。また、ぁ――!」
ぶしゃあ、と破水するとともに腹が膨れていた女性から
「――――は?」
その子供がむくむく、と異常な速度で成長して、あっという間に成人男性の見た目に。そして、彼は付近に落ちていた服に、もそもそ、と着替えると、そのまま部屋の外へ向けて歩き出す。
「はーい、いってらっしゃい。おねがいねー」
それをどことなく、軽い調子で送り出す。その異常な光景に、ボクは思考が停止してしまう。
そんなボクにくすくす笑いながら、この娘は説明をはじめる。
「今産まれたのも含めて、あたしが喰らった人間を、あの子たちに置換させてるんだよ。見た目は人間のモンスターにね? ……だから、近々クエストの方も取り下げられると思うよ。行方不明者が次々と帰ってきてるんだからね」
その説明を受けて戦慄する。まさか、そんなことをしているなんて露にも思ってなかった。それだけじゃない。サァ、とボクの中で血の気が引く。
スラムの人間なんてどうでも良い。しかし、ステラの街内部で同じこと。特にママが気に入ってる人間がなっていた場合最悪だ。
こいつが処分されるだけならまだ良い。連帯責任でボクまで処分される可能性が出てきてしまった。
「ま、まさか……。街の内部でまでやってないよね?!」
「あははっ、まさかぁ。あくまで標的はスラムの中だけだよ」
「……なら良いけど」
ほっ、とため息をつく。本当にそうなのかまでは分からない。けど、今は信用するしかない。それに、イムねえさまも協力しているというのなら最低限の説明はしてる筈だ。
と、なると今ボクがすべきこと。それは――。
「そういえば、キミの名前をつけてなかったね」
どうにも、この娘。ボクが名前をつけなかったことで、捨てられたんじゃないか、と恐怖し、少し暴走しているきらいがある。
その考え自体間違いではない。実際、後始末だけを任せて捨てたようなもんだし。だけど、これ以降はそうもいかない。最悪、ボクの責任にもなるしね。だから、名前をつけて縛ろう。ボクのため、ママのために働く奴隷として。
「キミの名前はソラ。ソラだよ」
空色の髪だから、なんて安直な理由だけど。でも、名前をつけられたソラは感極まった様子で――。
「うん、分かった! あたしはソラ、ソラだね!」
ボクに抱きついて、胸元でぐりぐり、と頭をうずめている。そんな彼女の頭を撫でる。
頭を撫でながら、ボクはなんとかなったか。と、ソラに気付かれないよう、安堵のため息をつくのだった。