女の発する熱気がすぐそこにある。
単純な膂力では、相手の方が上回っているのか。しかし、自分の剣は遅れを取ってはいない。刃と刃がぶつかるほど、感覚が研ぎ澄まされていくようだった。肌を焼かれるような命の奪り合い。静かな呼吸で激しい斬撃を打ち払い、一刀は戦局を冷静に見つめていた。
強引につけようとすれば、決着はつく。だが、この場合それでいいとは思わなかった。そもそも、この女は誰なのか。どうして、自分を街に出没する辻斬りだと決めつけて、襲撃してきているのか。
「いいぞ、もっとだ、もっとオレを愉しませろ。ハハハッ。貴様と剣を交えていると、全身の血が沸騰してきやがる。こんな手合との勝負、そう簡単に終わらせてたまるか」
「狂っているのか、女。そんな愉悦に付き合わされている方は、いい迷惑なのだよ。それに、私は旅の人間で、この街を訪れたのは今日がはじめてなのだ。いい加減、それをわかれ」
「ああん? 貴様が殺しの下手人かと尋ねられて、はいそうですかと答えるやつがいるものか。身なりのいい若い男。それにこの剣と、まともではない肝のすわり方。これで見逃せと言われて、誰が引き下がるってんだ」
街の役人というには、この女はなにもかも荒ぶりすぎているのではないか。
領主からの依頼を受けた武芸者。それとも先の自分のように、被害にあった住人から、辻斬りの始末を懇願されている可能性も考慮するべきなのか。
ふたつの刃がぶつり火花を散らす。女の顔が間近に見えている。遥か先まで見通せるような深い色をした碧眼。瞬きもせず、覇気の宿った視線を向けてくる。
「この血の匂い。いや、しかしな……」
女の鼻が小刻みに動く。鍔迫り合いの最中に、どうして嗅覚を働かせる必要があるのかと一刀は思った。
多少ではあったが、剣圧が弱くなっているような感じがする。ここまで嫌というほど豪剣を浴びせられてきたのだが、ようやく人違いだということが伝わったのかもしれない。
「貴様がくそったれの悪党なら、もっとひねた野良犬のような匂いがするはずだ。どう繕おうと、染み付いたものは洗い落とせやしねえ。心の腐った連中には、そうした残り香が絶対にあるのでな。貴様からは、それをちっとも感じられん。許せよ。どうにも、人違いだったようだ」
距離を取り、女が自分なりの理論を話しはじめた。辻斬りでないと理解してもらえたのなら、別にあとのことは構わない。自分にしても、していることは不用意といえば否定しきれなかった。
感覚的には、女の言っていることがわからなくもない。心にやましい部分がかすかにでもあれば、それは剣にあらわれる。人の在り方にしても、きっと同様なのだと思うことにした。
「人を斬ったことを、否定はしない。それで覚醒めたなにかがあったのも、確かなのだろう。だが私は、快楽のために殺しをやるような、人でなしになるつもりはない」
「ハハッ。殺しの味は、格別だ。貴様もそのうち、忘れられんようになってしまうかもなぁ」
低い声で笑い、女が直剣を鞘に納めた。
闘いは終わった。鍔と打ち合った鯉口が小さく鳴る。橋の欄干に背中を預け、一刀は女に眼をやった。
「北郷一刀だ。辻斬りの下手人が、どんな人間なのか確かめてみたくてな。それで、夜の街を出歩いていた」
「ああ? なんだ、若いくせにジジイみてえな達観した眼つきをしやがって。おかしな男を辻斬りと間違えたもんだぜ、ったくよぉ……」
女がバツが悪そうに頭をかいている。言い得て妙だと思いはしたが、話がこじれても面倒だから実際にそうだとは教えなかった。
優れた直感を持ち合わせている。だったら、はじめからその力を発揮していれば、自分が下手人ではないと見抜くことができたのではないか。そうやって文句をつけるのは、たぶん野暮なことなのだろう。
剣を交えていた時にあった、猛獣のような気配は薄れている。普通にしていれば、気のいい相手になるのではないか、と一刀は感じていた。
「とまあ、面倒をかけた相手には、こちらが礼を尽くさねばならんか。オレの名は孫堅。長沙太守をやっている女だ」
「孫堅? おまえが、あの孫堅だったのか」
「なんだ、その含みのある言い方は。ククッ……。オレの身分を知って首を狙いたくなったというのなら、先に抜かせてやってもよいのだぞ? 非礼の詫びに、そのくらいの加減はしてやらんこともない」
江東の虎。そして、のちの孫呉の礎を築いた乱世の勇将。
女の正体を知っても、頷けるような部分が多かった。単純な剣の強さ。それに、全身にぶつかってくる荒々しい覇気。諸葛亮、甘寧と続き、こうした出逢いはこれからもあっておかしくはない。この孫堅の他にも、曹操や劉備。この時代を彩る英傑たちが、実際にこの地で生きているはずなのだ。
「今夜は月がきれいすぎる。それで、辻斬りの野郎も鳴りを潜めているのかもしれんな。奢ってやるから少し付き合え、北郷」
答えも聞かずに、孫堅が歩きだす。
問答無用。広い背中が、そう語っているようだった。
†
見つけた屋台で、孫堅と盃を交わした。
カウンターのようなつくりをしていて、台の前に椅子が五つ用意してある。客は自分たちだけで、近くに人の気配はない。店主もそのせいで店じまいを考えていたらしく、タイミングとしてはちょうどよかった。
夜に危険があると知っていても、商売をせざるを得ない状況にある人々が確かにいる。そこに安心をもたらすためにも、下手人は早々に排除されなくてはならない。一杯目を瞬時に飲み干し、孫堅は為政者らしい面をのぞかせた。
「しかし、なにも炎蓮自身がでてくることはなかったのではないか。麾下の誰かに任せる、というのが普通のように思えるが」
「口うるさい目付役のようなことを言うのだな、貴様は。だいたい、そんなつまらんことを、このオレがしてどうする。辻斬りの下手人は、中央から流れてきた貴族の跡継ぎだと噂されている。このあたりの役人は、すっかりその話にふるえあがっていやがるせいで、正直使い物にならんのでな。ゆえに面倒事をすっ飛ばしてやろうと、太守さまがぶっ殺しにきてやったというわけよ。どうだ、実にオレ向きの案件であろう?」
「高貴な人間の起こした癇癪が、この有様か。しかし、その太守さまが跡取り息子を斬り捨てたことが知れれば、また面倒が増えそうなものだ」
外であまり孫堅と呼ばれて面倒が起きては嫌だからと、着席の時に真名で呼ぶように頼まれている。炎蓮。まさしく、燃え盛る炎のごとき熱量をもつ女だった。
空いた盃を置いていると、炎蓮が手づから酒を注いでくれる。意外というと失礼になるかもしれないが、その所作には繊細さを感じさせられた。
剛柔の使い分けくらい、いつでもすることができる。不敵な笑みが、そう言っているようでもある。
不意に炎蓮の放つ雰囲気が鋭くなる。口に含んだ酒を飲みこんで、一刀は台の上に手を戻した。
炎蓮が顔を寄せ、小さな声で話しかけてくる。
「そこでだ。辻斬りの始末、やってみる気はないか、北郷。おまえの剣は信ずるに値する、とこのオレの直感が告げているのよ。でなければ、こんな阿呆な頼み事をしようとは思わん」
「正式な依頼ならば、受けよう。始末屋稼業。どうせしばらく、続けるつもりではいたからな。外道の剣、のさばらせていいものではあるまい。」
「始末屋か。なるほど、いい響きじゃねえか。となると、銭が入り用になってくるのだな。チッ……。飛び出してきたせいで、酒代でほとんど消えちまうな、こいつは」
腰に下げた布袋に手を突っこみ、炎蓮が舌打ちする。
ふっかけるつもりはないが、報酬が安すぎても受ける意味がないと思った。炎蓮が袋の中身を台にぶちまける。いったいなにがはじまるのかと思ったのか、煮物の相手をしていた店主が手を止めている。
銭の管理は現状朱里に任せてあるから、眺めていても単位などはよくわからない。それでも炎蓮の苛立つ様子から、それが始末の依頼をするのに不十分であることくらい読み取れる。
「はーっ。もういい、細かいことを考えるのはやめだ、やめ。おい北郷、ちょっとじっとしていろよ」
銭の枚数を数えていた炎蓮が、すっと顔を寄せてくる。かすかに漂う酒気。どちらもそれほど飲んでいるわけではないから、酔っている状態には程遠い。
唇が触れる。そう感じたのはほんとうに一瞬のことで、すぐに熱い舌による愛撫がはじまった。焼けるような唾液が流れこんでくる。それを舌の腹ですくい、炎蓮と吸いあった。
この一週間ほどで、あらゆる倫理観の壁を崩しているのではないか。殺しからはじまり、朱里や思春に情念を思うさまぶつけた。そしていま、出逢ったばかりの女と、剣についで唾液を交わらせている。しかも、堂々と公衆の面前でだ。
「んっ、ぷはぁ……。フフッ……。どうだ、北郷。始末料の埋め合わせに、オレが直々に相手をしてやる。それで、手打ちにしてくれるな」
妖艶なほほえみ。正直、見ていて心を奪われそうになった。
危険な女だ。だからこそ、惹かれるものがある。天賦の豪剣の使い手。そして、女としても極上の素質を備えている。
臨戦態勢は、すでに出来上がっている。近頃出番が多いせいか、下腹部のものは欲情でふくれあがっていた。
「こ、困りますってば、お客さん。やるなら、他の場所でお願いしますよ」
「おう。迷惑をかけたな、親父。これはその詫びだ。少し多めに、とっておいてくれ」
店主に銭を握らせ、炎蓮が立ち上がる。
あたりに、人気のない暗がりはいくらでもある。辻斬りの影響で、出歩いている人間もかなり少なくなっていた。怪我の功名というか、いまなら外で情事をしても平気だという気分になってくる。
「おうおう。随分とやる気になっているなぁ、北郷? んっ、おっ、おおっ……。ハハッ。活きのいいチンポが、マンコにぶっ挿さってきやがる……ぅ」
暗闇の中、一刀は炎蓮と抱き合っていた。
互いに着のみ着のまま局部だけをさらけ出し、すぐさま挿入に移る。いつから興奮していたのか、炎蓮の膣内は愛液で濡れそぼっていた。
「すごい締めつけだな。なにもかも、おまえに持っていかれそうになる」
「まだまだ、ガキには負けていられんのでなぁ。おい、ぼさっとしていないで、もっと動け。それとも、オレの中がよすぎて腰も振れないか、ああ?」
炎蓮が肌の密着を強めてくる。
規格外な乳房は服の隙間から放り出されていて、自在にかたちを変化させている。うねる膣肉。男根の表面を削り取るような動きをしていて、甘い痺れが絶え間なく駆け抜けていく。
「んっ、お゙っ、んあっ……♡ そ、そうだ、気合を入れて、マンコの奥を突け。んぐっ、あっ、ハハハッ。う……んぅ……。最高のチンポだぞ、北郷。かたさも太さも、合格点をくれてやる」
そう言って、炎蓮が唇に吸い付いてくる。
舌と舌での交合。これが抜群に気持よく、全身に麻薬が回っているような感覚になる。
腰を押し出す。かなりの締まりがあるのに、男根の動きが阻害されることはない。子宮の入り口に亀頭がぶつかる。擦り合わせると、表現できないほどの快楽に包まれた。
「逃げられるなんて思うなよ? んぅ、あはぁ……♡ 射精するなら、一番気持ちのいい場所でしてもらう。なんせこれは、始末料の埋め合わせなのだからなぁ?」
締めあげるような膣肉の動き。ここまで快楽を与えられては、そもそも腰を引く気など失せてしまう。
最奥でつながる心地よさ。それを求めて、小刻みに腰を揺らした。炎蓮が愉悦にふるえる声を洩らす。溢れ出る愛液が、ぼたぼたと地面に垂れ落ちている。
「んお゙っ♡ お゙っ♡ ああっ、いいぞぉ、北郷。このままチンポ気持よくなって、マンコの奥に射精しろ♡ ふるえながら精液ぶちまけるチンポを、好きなだけ搾ってやる♡ フフッ……。どうだ、最高の気分だろう? 玉の中身が空になるまで、このマンコは貴様のものだ♡」
蠱惑的な囁きだった。
深入りするべきではないとわかっているのに、若々しい男根がどうしてもいきり立つ。女の子袋を、おのれの遺伝子で満たしたい。根源にあるのはくだらない征服欲だったが、動物の本能なんてものはそのくらいの単純なのだろう。
「お゙ぐっ♡ ん゙っ、う……あ゙あ゙っ……♡ び、びりびりきやがる、頭の奥にまで、えっ♡ 貴様、ほんとうに何者だ? 剣もチンポも、飛び抜けた一級品ではないか。こんなやつが在野で燻っていれば、嫌でも少しは噂になる。これでもそれなりに、情報網は持っているつもりなのだがな……ぁ♡」
「答えが知りたくば、天に聞け。それよりも、いまは」
「うお゙っ♡ あ゙ーっ、あ゙っ、んっ、お゙ぐっ♡ いっ、いいぞ、北郷。その調子でオレをいかせて、マンコに子種をコキ捨てろ♡ 北郷♡ ああっ……♡ こいっ、ほんご……お゙お゙……っ♡」
気力を振りしぼって、炎蓮の奥を攻めに攻めた。
愛液は時々間欠泉のように潮を吹き上げ、そうなると同時に強烈な締めつけがやってくる。限界は近い。それでも、炎蓮を絶頂させるまでは射精してやるものか、と全身に力をこめる。
「あっ、いっ、いぐっ♡ チンポに深い場所攻められて、マンコいくぅ♡ はーっ、んっ、おうっ、うっ……♡」
もうだめか、と思ったところで、炎蓮が猛獣のごとき叫びをあげた。
感じたことのない複雑さで、精液が搾り取られる。欲望はふくれあがっているだけに、耐えられるはずなどなかった。
子宮口に亀頭を密着させ、射精を開始した。この女は、最後に魂すら吸い取ろうとしているのではないか。そのくらいの衝撃を堪え、白濁を膣奥にぶつける。どれだけ無茶をしても、この肉体は受け止めてくれる。大きな尻を鷲掴みにしていると、そうした気分にさせられた。
「うお゙っ、おっ、お゙ーっ♡ はあっ、あっ、ははっ……♡ き、きてやがる。腹ン中に、とびきり活きのいいザーメンが、うっ、うお゙ぉ……お゙っ……♡」
嗚咽を洩らす炎蓮が、再び唇によるつながりを求めてくる。
息が苦しい。強く吸われすぎているせいで、身体が呼吸をどうやってしていいのか惑っているのかもしれなかった。
「んじゅっ、んじゅるる……っ♡ ああっ、んっ、むぐっ、んっ、ん゙ふっ♡」
羞恥のかけらもない、獣欲にまみれたセックスだった。
絡む膣肉はいつまでも男根を抱擁し続けていて、萎えることを少しも許してはくれなかった。上と下の口で、精力を吸い尽くすまで離してなどやるものか。言葉にしていなくとも、つながっていれば炎蓮が考えていることなどすぐにわかる。
「私自身、この肉体の限界を知っておくべきなのかもしれないな。約束通り、好きなだけ相手をしてもらうぞ、炎蓮」
「んっ、ああっ……? んお゙っ、あっ、くぅ゙っ、あ゙っ、ああぁぁあ、あ゙っ……♡」
相手がそのつもりなら、利用しない手はないと思った。
滑りのよくなった膣肉を使い、男根を前後に大きくしごく。予想していない攻めだったのか、炎蓮が嬌声を放っている。
結末の見えていない勝負には、やはり燃えるなにかがある。炎蓮の防御が崩れたのはほんの数秒であり、すぐさま強烈な一撃を見舞ってくる。
夜の街に流れる、湿り気を含んだ風。そこに切なさを感じるだけの余裕は、いまの一刀にはなかった。