朝になって目を覚ますと、何事もなかったかのように一刀さんは隣で眠っていた。穏やかな呼吸。刀は、手を少し伸ばせば届く距離に置かれている。
背中を丸めて、朱里はちょっと身体を寄せてみる。雰囲気から察するに、辻斬りと遭遇するような事態にはならなかったのではないか。そもそも、いまは調査段階であり、始末の依頼を誰からも受けていなかった。進んで殺しをするのは、報酬を受け取った場合だけ。圧倒的な武力を無闇に振るえば、かえって世の中を乱すことになる。だから、これでいいのかもしれない、と胸に頭を擦りつけながら朱里は思った。
「んっ……。知らない女の人の匂い。夜の街で、いったいなにをされてきたんですか、一刀さん」
思春さんが相手だったのなら、まだ文句はない。二人が惹かれ合っていることなんて最初からわかっていたし、あの夜の出来事だってある。
嫉妬心が湧いている、と認識するべきなのだろうか。はじめての口づけを捧げた人。あの日から、自分の運命はまったく別の方向に転がりだしているのだった。
早く、なにもかも奪ってくれたっていいのに。いまでは、そんなことを時々考える。出逢った当初に比べれば、子供扱いされる場面は極端に減っている。始末をするにしたって、その気になればあの人だけですべてどうにかなるはずだった。なのに、自分を巻き込むことを一刀さんは良しとした。まっとうな道ではない。だからこそ、運命をともにする誰かが必要だと感じているのだろうか。それで自分を選んでくれたのだとしたら、ちょっと誇らしいなんて思ってしまう。
「はむっ、んっ……。ちゅっ、あっ、んくっ……」
あの夜の出来事を、朱里は思い出していた。
身体での触れ合いは、確かにあった。大事な部分を相手に晒し、口を使っての奉仕までやってみせた。あんなこと、子供扱いをされていたら、やらせてもらえるはずがない。しかも最後は、濃厚すぎる精液を口で受けている。あの思春さんですら、身体で浴びただけで終わったものをだ。
「ちゅ、はうっ、んーっ、むぅ……。わ、私だって、立派な女の子なんですから。嫉妬だって、する時はするんです。それにこの前だって、思春さんとはしたのに、私だけ」
夢中になって唇に吸い付いた。寝ている一刀さんを相手に、卑怯な立ち回りをしていると思われても構わない。朝駆けで強敵の不意を打つのは、戦の常道だった。
反応がなくったっていい。独りよがりな愛情表現でも、満たされるものは確かにあるのだ。ゆっくりと舌を挿しこんでみる。未踏の領域。これが、ほんとうの大人の味。一刀さんの大きなものを咥えた時よりも、正直興奮が強かった。それだけ、口と口との接触には大きななにかがある。粘膜同士の触れ合いという意味ではなんら変わらないのに、この胸の高鳴りはなんなのだろうか。
「ふえっ……? あむっ、れっ、んくっ、んっ……♡」
少し満足しかかっていたところに、奇襲を受けた。いきなりの抱擁。口から伝播してくる痺れはかぎりなく甘く、そして切なかった。
自分の中にある思いを、少しはわかってもらえたのだろうか。あたたかな手のひらが、やさしく頭を撫でてくる。全身が茹で上がったように熱い。懸命に舌を動かしていると、一刀さんがちょっと笑ったような気がしていた。
「あの。どこから、起きていらしていたのでしょうか」
「知ってなんになる、そのようなこと。だが、こんなかたちで口づけをしてしまって、よかったのか」
「んっ……。だって私、これがはじめての口づけではありませんから。実は卒業、とっくに終えているんです。あっ、んっ、んむっ……」
いじわるをしてみたくなって、煽るような口調を使ってみる。
抱擁の力が強くなった、気がしていた。口内を舌で蹂躙されている。たまにはこうして、荒々しい愛撫を受けるのもいいのかもしれない。呼吸すら忘れて、しばらく朱里は一刀の唾液を飲み続けた。
「はあ、はっ、はふっ……。えへへっ。少しは、動揺してくれましたか、一刀さん。なにを隠そう、私のはじめては、光と一緒にあらわれたあなたに差し上げたんですよ? 躊躇っている場合じゃないと思ったんです。絶対、この人を助けないと、ってあの時の私は、それだけを考えていて……」
「ずっとおまえに助けられているのだな、私は。いい出逢いをくれた天には、感謝するべきなのだろうが」
「ふふっ。天の御遣いさまなんですよ、あなたは? その一挙一動のすべてに、天意が宿っている。そのくらい大きく構えていても、いいんじゃないでしょうか」
正真正銘、一刀さんが破顔する。
こんな早朝から、睦み合いの最中に話すような内容ではなかった。爽やかな朝陽が窓から差しこむ。そこで、違和感があることに朱里は気がついた。
窓から覗く無愛想な顔が、寝台にいる自分たちを見つめている。一刀さんが近くにいなければ、驚きで身体が跳び上がっていたことだろう。
「こんな朝っぱらからなにをやっている、この痴れ者どもが」
「し、思春さん……?」
身体をかがめて開けた窓をくぐり、思春が平然と室内に入ってくる。
部屋は二階だというのに、この人はいとも簡単に侵入をやってのけているのだ。なのに一刀さんは同じくらい冷静で、まだその手のひらは自分の頭を撫で続けている。
「入り用になるかと思って、この街を絵図にしたためておいた。いるのだろう、始末をつけなければならん手合が」
「あっ……。そ、それはすごく助かります。昨晩追加の情報収集を行って、つぎに辻斬りが出没しそうな位置は絞りこめていますから。具体的な絵図があると、説明の手間がすごく省けます」
「昨晩? 私が出払っている間に、そんなことをしていたのか。単独行動は避けるべきだと、強く忠告したはずなのだが」
「あう……。そ、それはですね……?」
様々な動揺が重なって、ついいらないことまで口から洩れてしまう。
辻斬りが殺しをするのは決まって夜。であれば、その時間帯に活動している人々からも情報を得る必要があると朱里は思った。危険はある。最悪の場合、下手人とばったり出くわす可能性もある。それでも、自分は始末の片棒をかつぐ参謀役なのだ。
「おい貴様。いかがわしい部分をふくらませたまま神妙な顔をして、まさか私をからかっているのではないだろうな。いいから、さっさと服を脱げ。痴れ者チンポの始末を先につけてしまわなければ、話を一向に進められんではないか」
「はわっ……? こ、この流れはいったい……?」
思春さんが、手にしていた絵図を備えつけの机に叩きつける。そうして、寝台の上に三人で並ぶまで、時間としてはほんの一瞬だった。
予想外の展開だった。腹を立ててどこかに去ってしまうのなら、まだわかる。それをほとんど言いがかりのようなかたちで、そうした行為にまで発展させてしまうとは。これを意識してやっているのだとしたら、おそろしい人だと思った。
腕を組んで動こうとしない思春さんに代わって、一刀さんの脱衣の手伝いをする。言葉にあったように、男根は果てしなく大きくそびえ立っている。あの時したような奉仕を、今度は思春さんと二人で。考えただけでも、腹の奥が熱くなった。
「朱里ではない。それに、私の匂いでもない。貴様、どこで女を引っかけてきた。よもや、遊び女ではないだろうな」
「そうではない。ちょっとした事情があって、知り合った女だ。始末屋の仕事をする代金の不足分を、身体で支払うと言ってきたのでな。それで昨晩、情を交わした」
「情を交わしたって、そんなにさらっと……!? あうう……。私、もっと強引に迫ってみるべきなんでしょうか、思春さん」
「痴れ者チンポの匂いを嗅ぎすぎたせいで、思考が狂ってしまったのではないか、朱里。んーっ、すうっ……♡ こんな男に本気で入れこむのはやめておけ。いつか必ず、痛い目に遭うぞ」
「だ、だったらどうして、思春さんはこんな真似を……」
「おかしな質問をするものだ。私はこの男に、土をつけられているのだぞ。その報復は、どんな手を使ってでも行う。その第一歩として、このチンポを打倒してだな……」
「ぜ、絶対変ですよ、それって……? まあでも、思春さんがそう仰るのでしたら」
「貴様はしばらく、幹の部分の相手でもしていればいい。醜悪な匂いを放つ先端の味など、朱里が知るべきでは……あっ、むぅ、んっ、れろっ」
口淫に励む思春さんの顔が悦びで歪む。この状況で横槍を入れるのはあまりにも危険なのではないか。そう思って、朱里はひとまず素直に幹を舌で舐めあげていった。
知らない女の人の匂いがするなら、自分たちの唾液で上書きしてしまえばいい。思春さんもそのつもりなのか、口内に溜めた唾液を亀頭に擦りつけるような音が聴こえている。
ほかの誰かと並んで、好きな男の人に奉仕を行う。正直、意外なくらい興奮がある。尖った剣先のような雰囲気のある思春さんが、雌の顔をして男根にむしゃぶりついている。その滴る唾液すら味わい、自分は浮いた血管に舌を這わせているのである。
「んぅ、じゅっ、じゅぅううぅう……♡ 貴様の情欲のすべてを吐きだせ、一刀。私の口でも顔でも、好きなところに……っ♡」
「抜け駆けはずるいですよぉ、思春さん。私だって一刀さんのせーえき、飲ませてもらいたいんですから」
こうなったら、いても立ってもいられない。このまま思春さんの好きにさせていたら、ほんとうに奉仕のご褒美を全部もっていかれてしまう。そんな危機感に背中を押されて、横から頭を割りこませた。
髪と頬が触れる。ついには、亀頭を奪い合って舌が触れる。すごく熱い。その熱量の分だけ、思春さんの胸には一刀さんへの思いがあるのか。負けない。ここで負けていられるかと、必死になって舌を伸ばす。
「んちゅ、はふっ、んっ、んぶっ……」
「ちっ……。朱里め、貴様がその気なら、私だって」
一番槍を巡って、思春さんと火花を散らす。
武力では絶対に敵わない人。そんな事実があったとしても、闘いの舞台を変えれば対等に打ち合うことができるのだ。
思春さんの唾液に混ざって、ひりつくような我慢汁が流れこんでくる。難攻不落のように見えて、一刀さんの突くべき弱点はここにあるのではないか。罠の中に誘われている。だとしても、進む以外の選択肢はなかった。
それは思春さんにしても同じなのだろう。濃厚な我慢汁の味に何度か咳きこみながらも、しゃぶりつくことだけは絶対にやめようとはしなかった。
「こ、このぉ♡ んじゅっ、んっ、んはっ、ずーっ♡ こ、この痴れ者めっ♡ いい加減射精しろっ♡ たまった精液、いますぐチンポの先からぶちまけてみせろ♡」
情緒を狂わせるような交わり。射精を補助しようと、指で太い幹を上下にしごいた。びくんと気持ちよさそうに全体がふるえる。それでまた、大量の我慢汁があふれでる。
「息が合うものだな、二人とも。そろそろ、一度いいか」
「いいですよ、いつでも……んぅ……♡ ちゅーってたくさん吸っていますから、お好きな時に、いって、いってくらふぁい……♡」
「んっ、ぷあ……っ♡ こ、このチンポ、まだふくらんで、んぁ……。それに、精液の匂いがこんなにも濃厚に漂って……。だせ、さっさと精液を吐きだせ、一刀♡」
限界が近づく。溶け合うくらい思春さんと顔をくっつけて、その時を待った。
「思春」
一刀さんが小さく呟いた。
幹が大きく脈打つ。手のひらが思春さんの後頭部をつかまえ、射精から逃げることを許さない。溺れるくらいの量であることを、自分は知っている。味も濃さも、想像よりも遥かに上をいっていて、ほんとうに窒息させられるのではないかと心配したものだ。
宙に浮いた両の手。都合十本の指をふるわせて、思春さんが強烈な射精に耐えている。少し残念ではあるものの、隣で観察するというのも経験としては悪くない。
「んぐっ、んっ、んふ……ぅ♡ はぷっ、あうっ、んっ、ふーっ♡」
普段やさしい人なのに、こういう部分では案外容赦がない。
長い射精。口から濃厚な汁を流しこまれながら、思春さんは下腹部を何度もひくつかせている。その気持もかなり理解できるのが、いまはなんだかおかしかった。
収縮する陰嚢に舌を伸ばす。ふくらみを弱い力で転がすと、一刀さんがちょっとほほえみを覗かせる。戯れのような愛撫ではあるが、いくらか快感を与えることができているのだろう。
「んふっ、はあっ、あっ……♡ こ、これが、あぐっ、むっ、んむっ……♡」
「思春さん。一刀さんの精液、私にも」
「むっ……? んっ、ちゅっ、んんっ、んうぅ……」
「はうっ、あっ、ちゅっ、んむっ……♡」
自然な流れで、思春さんと唇を合わせた。
唾液混じりの精液が流れてくる。少しだが濃厚さが薄れている分、喉を粘りが通過していく。
これ以上ない淫靡な交歓だった。頭の中がとろけて、どうにかなってしまいそうになる。思春さんの舌がやわらかい。自分たちは、すべての壁を取り払い、ひとつになれている気がしていた。