※この作品はR-18です。

剣聖外史始末旅   作:KKS

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四(思春)

 男の案内に従い、一刀は始末屋を捜しているという女のもとに向かった。

 腕の中。小さく鳴いた子犬の頭をやんわりと撫でる。嫌な予感というのは、得てしてあたるものである。道の端。うずくまる女の相貌には、やはり見覚えがあったのだ。

 

「おまえは、あの時の」

 

 この街に来てからのはじめての仕事。傾とこなした、あの情事絡みの女がそこにいる。

 乱れた黒髪。やつれた表情。ほとんど消えかかってしまいそうな声を発しながらすがりつく女を、一刀は受け止めた。

 

「始末屋さん。うっ、んぐっ……。あの人、あの人が。私もう、どうしていいかわからないの。私の馬鹿なお願いを聞いてくれた始末屋さんなら、なにか力になってくれるんじゃないかって、それで」

「無理に落ち着けとは言わないが、まずは呼吸を整えることからだ。朱里、できれば水を」

「あっ、は、はい、一刀さん」

 

 憔悴した様子の女に深呼吸をさせてから、水を差し出す。

 一瞬だけ触れた指。怯えたようなふるえがあり、これは心して話を聞いてやる必要があると思った。場の重々しい雰囲気がわかるのか、子犬は自分と思春の腕の中で大人しくしている。

 筒の中の水をひとしきり飲み終え、女が大きく息を吐いた。虚ろな瞳。それでも懸命に呼吸を整え、女は始末屋を求めていたわけを話しだした。

 

「昨日の晩、郊外の森にあの人と出かけたんです。もう少し大胆なことがしたくなって、あそこならたぶん誰も来ないし、ちょうどいいだろうって」

「ふん……。二人だけで秘密の遊びをするはずが、目論見が外れたのだな。夜間の山林は、悪党どもの格好の狩り場となる。貴様も、知らないはずはなかったろうに。……それで死んだのか、男の方は」

 

 容赦のない質問を思春がぶつける。あっ、と朱里が声を発した時にはもう遅く、女は泣き崩れてしまっていた。

 遠回りをしたところで、結論が変わるわけではない。だから、手順としては正しいといえるのかもしれなかった。

 黄祖の件が控えているせいで、思春は少し気が立っている。本人は否定したがるのだろうが、影響は間違いなくあるはずだと思った。仇敵を消す。胸に秘めていたものを外にさらけ出した以上、それが止まることはない。そして、大小様々な縁が絡んでいるだけに、自分としても手を引くことはない、と一刀は気持ちをかためつつあった。

 

「私、私が、いけなかったんです。調子に乗って羽目を外したりしなければ、あの人が殺されることはなかった。私もあの男たちに好き放題にされて、もうどうしていいか……」

「おい、いいか。起きたことを悔やんでいても、前には進めやしない。それで、貴様はどうして始末屋を捜していたんだ。依頼があったのだろう、私たちに」

 

 地面に両手をつき、女が涙を零す。相変わらず厳しい言葉をかける思春だったが、そこには奮起を促すような意図があるようにも思えた。

 この世は乱世。踏みつけられることを是とすれば、死ぬまで這いつくばることになる。大事な人を失ったのに、泣いているばかりでは現状は少しも変わらない。

 それを打開するために、自分たち始末屋がいる。堂々とした思春の立ち姿に勇気を与えられたのか、女が顔をあげた。

 

「そ、そう、そう……なんです。こんな依頼、始末屋さんにしていいのかどうかもわからない。勝手なことを言っているって、自覚もあるんです。だけど、あのクズどもに、どうにか思い知らせてやりたいんです。お金はいくらかかっても構いません。だから、この恨みをどうか」

「万事始末請負の文言に偽りはない。受けよう、その仕事」

 

 女の眼を正面から見つめて、一刀が言った。

 朱里と思春が静かに頷く。子犬が示し合わせたかのように、二匹同時に鳴き声をあげた。

 

 

 夜の森を、一刀は思春と二人で歩いていた。

 衛兵のいる城郭の内側がどれだけ平穏だったとしても、一歩外に踏み出した途端。凶賊の餌食となる。世情の不安定さがそのまま表に出たような事件で、自分も迂闊なことをしたという気分になっていた。

 首に巻いた布を、思春が鼻のあたりにまであげている。そのせいか、鋭い光を放つ二つの眼だけが、闇夜に浮かんでいるように見えていた。

 

「よかったのか、あんなはした金で依頼を受けて。きっと、相手は一人や二人ではないぞ」

「私のやった不始末だ。尻拭いをするのだから、これでも十分すぎるくらいではないかな」

「なにも、貴様が負い目に感じる必要はあるまい。度の過ぎた行いに、しっぺ返しはつきものではないか」

「ははっ。まさか慰めてくれているのか、思春?」

「ぐっ……。か、一刀、貴様ぁ」

 

 指摘されて恥ずかしくなったのか、思春が語気を荒げている。口もとを隠していた布。ずり落ちたせいで、赤くなった顔がはっきりと見えた。

 付近に、まだ賊徒の気配はなかった。女の記憶が確かであれば、敵は二十人ほどで徒党を組んでいる。連中の頭目は唇に傷がある男で、それを目印に恨みの的を探すつもりだった。

 篝火を置き、自分たちの存在をわざと周囲に知らしめる。敵は昨晩の成果に気を良くして、連日の狩りに打って出るという予測があった。

 

「お、おい、一刀?」

 

 思春の背中を近くの大木に押しつける。的を誘き寄せる囮になるなら、徹底してやるだけだと一刀は思った。

 状況を飲み込めていない思春の唇を吸う。二本の腕が抵抗をみせるが、気にせずやわらかさを味わった。

 

「んぷっ、んっ、れおっ、ふうっ……。こ、こんなことをして、あっ、んぐっ。な、なにを考えている、痴れ者め……っ」

「いいから、おまえもこの雰囲気を愉しめ。餌が餌らしい真似をしなくて、どうする」

「あっ、んんっ……。し、舌が、ぬるぬるって、んっ、んあっ、むうぅ……」

 

 強引に閉じた唇を割り、舌を口内に侵入させていく。同時に緊張の残る思春の身体を撫でていき、気持ちを昂らせようとした。

 冷え切っていた体温。それが、徐々に熱くなっている。互いに唾液を行き来させ、何度も喉を鳴らした。少しは乗り気になってきたのか、思春が背中に触れてくる。ズボンの中でふくらんだもの。思春の鍛えられた腹に押しあてると、それだけでも気持ちよさがあった。

 深い口づけを続ける。少し苦しそうに息をしているが、離れるつもりはなさそうだった。思いに応えるように、服の上から乳房に触れる。かわいらしい声が、思春の口から洩れ聞こえる。気持ちが、さらに昂ぶった。

 

「はあぅ、あっ、んっ……。そ、そんな、胸ばかりさわってぇ、あうっ……。あむっ、んっ、んっ。ああっ、うっ、んうっ。だ、だめだ、一刀。そんなにされたら、あぐっ、あっ、こんなの……ぉ♡」

 

 思春のか細い嬌声が、木々に吸いこまれていく。

 二人も、こうして際どい情事を愉しんでいたのだろうか。篝火がぱちんと弾ける。それを合図に、思春の股の間に手を差し入れた。

 指にふれる布地。かすかだが、湿り気があるように思えた。中心を押すように刺激し、思春の雌を開花させていく。声がふるえている。唇を噛み抵抗の姿勢は見せているものの、身体は確実に熱を帯びていた。

 

「くんっ、お、おお……っ♡ ちょ……っ、ど、どうして、そこまで、んくっ、ああっ……!」

「本気でやらなければ、囮の意味があるまい。しかし、身体の反応は正直だとよく言うものだが」

「うぐっ……。い、言うな、一刀。ああっ、んっ、あっ、はあっ……。そ、そんなに、強くこするな、んあっ、あっ……♡」

 

 秘部をしたたかに濡らし、思春があられもない声で鳴く。

 抱きしめてくる腕。そこから、切なさが伝わってくるようだった。どちらからともなく、唇をついばむ。切なさが頂点に達したのか、思春が隙間なく身体を密着させてくる。腿の間で締め上げられる手首。立ち昇る雌の香り。それとは別の気配を感じながらも、一刀は思春との睦言だけを愉しんでいた。

 

「はふっ、はっ、はあっ……。こ、このぉ、んっ……♡ しれもの、めぇ……♡ いっ、あっ、あうっ。んっ、ふうっ、んっ、ちゅぅぅ」

 

 果てしなく甘い声で思春が鳴いている。下腹部でいきり立つ得物がやかましいくらいだったが、いまはそちらの柄を扱いている場合ではなかった。

 あやすくらいの気持ちで、艶のある髪を撫でつける。思春はまだ身体を小刻みにふるわせていて、無意識にしているのだろうが、差し入れた手首に秘部を擦りつけていた。

 

「思春」

「んっ、ふえ……? な、なんだ、一刀」

「なんだ、ではないだろう。そろそろ気合を入れ直す時間ではないかな、思春」

「むっ……。わ、わかっている、そのくらい。だいたい、貴様が悪いのだからな、痴れ者めっ……」

 

 落ち葉を踏みしめるいくつかの足音。どうやら、すでに自分たちは囲まれているようだった。

 闇の中から、男がひとり近づいてくる。ぎらついた視線。荒々しい出で立ち。そして、その男の唇には、女の言っていた傷があった。

 

「おう、お二人さん。こんな寂しいだけの場所で、なにか愉しいことでもしているのかい? へへっ。よければ、俺たちも仲間に入れてもらいたいものだぜ」

 

 二日連続で、最高の獲物を見つけたとでも思っているのだろうか。右肩を回しながら、男がさらに接近してくる。同時に配下が包囲の輪を狭めてきて、自分たちの逃げ場をなくす。

 荒くなった息を整える傍ら、ずり落ちていた布を思春が再び引き上げた。あたたかな腿の間から腕を抜く。ちょっと寂しい気分にさせられたが、これも始末屋の仕事のためだから仕方がない。

 

「愉しいこと、か。どういう遊びが好みなのかな、そちらは」

「ああ、そうだなあ。昨日の女もそれなりによかったが、よく見りゃとんでもない上玉を連れているじゃねえか、若い兄さん。大人しくしていてくれりゃあ、荒事もやらずに済むんだ。俺たちだって、なにも進んで殺しをしたくはねえのさ、ふへへっ」

 

 男が欲望まみれの声でそう話すと、配下たちから歓声があがった。視線を浴びているだけでも吐き気を催しそうになるのか、思春は身体を腕で隠して横を向いてしまっている。

 始末の的は、確かに二十ほどなのか。逃さず、騒がず、すべてをここで終わらせる。思春に目配せをし、一刀は得物の柄に手をかけた。

 

「お、なんだなんだ? まずは兄さんが、俺たちの遊び相手になってくれるのかい? はははっ。こっちは別に、どっちでも構わないんだがなあ、みんな」

「しばらく暇してたもんで、こちとら身体が鈍って仕方なかったんだ。なあ、親分。こいつをいたぶるのは、俺に任せてくれないか?」

 

 配下のひとりが名乗りをあげる。

 多少腕に自信があるのか、仕草には余裕がある。心底、くだらないことを考えるものだと思った。静かで神秘的な気配すら漂う森に、似つかわしくない男たちだ。早々に排除してやるのが、最後の情けと言えるのかもしれない。

 

「おう、やれやれ。俺は遊ぶなら、女とだって決めてるんだ」

「よっしゃ。それじゃまあ、愉しませてもらおうじゃねえか……あ?」

 

 なにかがくる。そう感じた瞬間に、名乗りをあげたひとりは血を噴き出して地面に突っ伏していた。肉切り包丁にしか見えないものが、後頭部を見事に断ち割っている。

 動揺が拡がる。なにかがおかしいと瞬時に気がついたのか、唇に傷のある男は武器を抜いて配下たちに守りをかためるよう命じていた。そのあたりの嗅覚があるから、ここまで生き延びてこられたのだとは思う。だが、それも今日までのことだ。

 

「ぐちゃぐちゃとやかましいんだよ、貴様らは。むさくるしい男の声がしていては、おちおち寝てもいられないではないか。余……じゃなかった。私の眠りを妨げて、ただで帰れるとは思わないことだな」

 

 女の声が響いている。肉切り包丁を投擲したのは、どうやら安眠を阻害されたかららしい。

 見覚えのある輪郭があらわれる。一度結んだ奇縁は、そう簡単に解けてはくれないようだった。

 

「うげっ……。誰かと思えば、どうして貴様がここにいるんだ、始末屋」

「仔細の説明はあとにしろ、傾。掃き溜めのごみを取り除く。銭は払うから、まずは手伝え」

「おおっ。金がでるなら、喜んで付き合うぞ。よしよし、この豚どもを葬り去ればよいのだな。あははっ。それなら、お安い御用だ」

 

 斬りかかってくる数人を殴り飛ばし、傾が肉切り包丁を拾い上げる。

 思春は早くも闇に紛れていて、時々首を締め上げる鈴の音だけが耳に届く。

 

「はははっ。いい気分ではないか、これは。ごみ掃除をするだけで、金がもらえる。こんなに楽な仕事があるならさっさと紹介しないか、始末屋め」

「まともな判断とは思えんぞ、一刀。このような半分いかれた女を引き込んだ責任、どう取るつもりでいる」

「おい。聴こえているからな、陰険女。私の不意討ちを食らいたくなければ、さっさと豚を豚らしく屠殺してやることだ……なあっ!」

 

 あろうことか、傾が思春に向けて肉切り包丁を投げつける。

 相手がすんでのところで避けるのを想定していたのか、包丁は後ろに迫っていた配下のひとりに突き立っている。冷徹でいようとする思春と、ひたすらに傍若無人な振る舞いをする傾。これで意外と、二人はいいコンビになるような気がしていた。

 ひとりの剣を打ち払い、返しざまに胴を薙ぎ払う。続けて三人を斬り捨てて、一刀は逃げをうつ唇に傷のある男を追った。

 

「あとの始末は任せていいな、二人とも」

「ちっ……。こんな痴れ者以下のおかしな女と、どうして私が」

「ああ? 貴様、ばらされたくなければ、その口を少し閉じていろ。それとも、この豚どものようにぶひぶひ鳴いてみせてくれるとでもいうのか?」

「……いつか素っ首落としてやるから覚悟しておけよ、この殺人狂者め。とにかく、一刀」

 

 組紐と肉切り包丁が飛び交う。この場に朱里がいたら、顔を青ざめてしまいそうな険悪な雰囲気だな、と一刀は苦笑するしかなかった。

 木々の間を抜け、標的である男を追う。配下の死は、すなわち立場の喪失に直結する。それでもなお、男は生き延びようとするのか。

 生への執着を捨てた先。一度死を体験しているから、感覚的には以前よりもずっとそこに近づけているはずだった。軽くなった身体を扱い、倒木を飛び越える。わざわざ眼で捉えるようなことをせずとも、気配だけで男を追うことができている。

 先回りし、木の陰から一刀は姿をあらわした。男は目を剥き、地面に尻餅をついている。

 黒塗りの鞘から刀身が姿を覗かせる。抵抗すら忘れて慄く男の首もとに、狙いをつけた。

 

「おのれの欲望に対する執着を、悪だと断じるつもりはない。ただ、おまえはやり過ぎた」

「い、いったいなんだってんだ、てめえは。いかれてる。俺たちなんかより、遥かにいかれてるぞ、お、おぐっ……」

「なんとでも言えばいい。私は、私の信念に従い剣を振るうだけだ」

 

 始末の相手と、必要以上の問答をするつもりはない。

 あっさりと一撃で首を跳ね飛ばし、一刀は思春たちのもとへ駆け戻った。

 配下の亡骸があたりに散らばっている。そんな中でさえ距離をとって牽制し合う思春と傾の二人が、いまはほほえましいくらいだった。

 今回も、無事に依頼を完遂することができている。これで依頼人の心がどれだけ晴れるかはわからないが、自分たちは銭をもらった分の働きをするだけだった。

 

「ふわあ……。もう、姉さま? どうしたっていうのよ、こんな夜遅くに。って、ええ……? なによ、この大惨事は。いくらむしゃむしゃしていたからって、これはちょっと」

「殺しの文句なら、始末屋に言ってくれ。とにかく、面倒なことになる前に逃げるぞ、瑞姫。ほら、支度を手伝わないか、始末屋」

 

 姉と違い、騒ぎがあっても野営地で寝ていたのか、姿をみせた瑞姫は眠そうにあくびをする。どちらにしてもそうだが、肝が据わっていると思った。これだけの有様に直面しているというのに、顔色ひとつ変えずに姉を非難してみせるのである。ほんとうに、不思議な姉妹だった。

 

 

 あれから、依頼人の女が姿を見せることはなかった。どこか別の土地に移り、ひっそりと生きるつもりなのか。それとも、あるいは。

 その後の深追いをする意味はないし、はなからするつもりもない。ただ、すべては流れる雲のようであるべきなのである。

 

「はわっ……!? ま、待ってください。あっ、だ、だめですっ。そんなところに入って、はふっ、ぬ、抜け出せなくなっても知りませんよ……ぉ!」

 

 陽光の照らす原野を、子犬が走り回っている。前回のうけがよかったのか、また同じ依頼をもらっていたのだ。城郭をでるまえの小遣い稼ぎ。心がささくれ立つような始末のあとには、ちょうどいい仕事だった。

 先程から朱里はその元気さに翻弄されっぱなしで、時折膝に手をつきながら必死にあとを追っている。その様子を眺めるようなかたちで、一刀は昼食をとっていた。

 

「おい、いいのか。そろそろ、手助けをしてやってもいい頃合いだと思うのだが」

「構うばかりが、優しさではないだろう? 朱里がやると言ったのだから、音を上げるまでは放っておけばいい。それにしても、傾」

「なんだ、私のつくった料理に不満でもあるというのか、始末屋? 普通なら、土下座をして感謝を述べる場面なのだぞ。なあ、瑞姫?」

「ちっ……。あの包丁、まさかそのまま使っているのではなかろうな、いかれ女め。一刀も一刀だ。飯の準備くらいなら、頼んでもらえればいつでも……」

「あん? またなにか言ったか、この陰険女」

 

 両隣に座る二人が、自分を挟んで激しく火花を散らしている。

 傾はもともと肉屋を営んでいたようで、ちょっとした一品を用意するくらいならお手のものなのだという。実際、弁当の見た目はかなりそれらしく、食欲をそそられる色合いにはなっている。

 背中にやわらかなものを感じる。姉と思春の諍いにも飽きたのか、次なる標的を探しているようだった。

 しなやかな腕。首の後ろで自在にかたちを変化させる豊かな乳房。女の魅力をストレートに武器にしているのが瑞姫で、迂闊に足を踏み入れると破滅させられてしまいそうな危うさがある。

 

「うふふ。ねえ、一刀くん。あっちの静かな場所で、私がご飯を食べさせてあげましょうか。こんなやかましい二人が横にいたんじゃ、せっかくの味が台無しじゃない」

 

 殺しをしている時以上に、思春の視線が鋭くなっている。そんなことをするはずがない、と首を横に振ってみせたが、どうにも自分には信頼がないらしい。

 そうこうしている間に、朱里がどうにか子犬に追いつく。抱き上げられた茶色い塊。そこから覗く赤い舌には、心を和ませるだけの力があった。

 

「朱里。おまえもこちらにきて、飯にしよう。その子も、走り疲れたことだろう」

「えへへっ。はい、一刀さん」

 

 朱里が土で汚れた笑顔を向ける。一刀は、自然と口もとをほころばせていた。

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