紫苑の手料理で腹を満たし、一刀たちは食後の茶まで堪能していた。最初乗り気ではなかった思春も、珍しく寛いでいる様子である。いくら気持ちを尖らせようとしていても、それを凌ぐ母性があると思い知らされた。
屋台のオヤジが作ってくれる飯が、よくないと言うつもりは決してない。ただ、璃々の嬉しそうな顔を見ながら茶をすすっていると、格別の味がすることも確かだった。自分のあらぬ趣味を疑っているのか、朱里の視線がちょっと冷たくなっている。
腹いっぱいで眠くなってきたのか、璃々が椅子の上で目を擦っていた。娘の変化に気づいた紫苑が立ち上がると、薄手の衣に包まれた大きなふくらみが艶めかしくふるえた。
「まだ寝てはだめよ、璃々。先に、お風呂を済ませなくちゃいけないでしょう?」
荊州在住の弓の使い手。それも、どこにでもいるような半端な腕前ではなかった。あるいは、本気で立ち合ってみたいと感じさせる領域にある武人なのだ。
黄忠。おそらく、紫苑こそがかの名高き五虎将軍のひとりなのだろう。といっても、自分の知る範囲には劉備の影も形もないのが現状ではあるのだが。そうなると、紫苑が仕えているのは劉表ということになるのか。劉表の麾下には、ほかでもない、思春が命をつけ狙う黄祖がいる。孫家との戦になれば、紫苑も戦場に駆り出される可能性がかなり高い。
稀有な出会いがもたらすのは、なにも幸運だけではない。残った茶を音を立ててすすると、口の中にいい塩梅のほろ苦さが拡がった。
「んう……。璃々、みんなで一緒にお風呂入りたい。だめ、お母さん?」
「り、璃々ったら、またそんな無理を言って……。あの、一刀さん……?」
表情こそ困った感じをしているが、紫苑が娘のおねだりを撥ねつけることはなかった。
周囲の注目が自分ひとりに集まっている。最後の決断を託す相手を間違っているような気もするが、それならそれで構わなかった。大きな風呂で身体をあたためられる期待から、朱里はすでにそわそわしているようである。思春は相変わらず素っ気ない態度を装っているのだが、誘えば断られることはないだろう。
「璃々ちゃんの依頼、引き受けた。ただし、始末料は高くつくぞ」
それらしく言い放つと、璃々がわっと声をあげた。
†
どこかの温泉宿かと見紛うような景色が眼前に拡がっている。
そういうことがあるかもしれない、と事前に想像はしていたのだが、いざ現実として直面してみると、おのれの認識の窮屈さに思考が軋む感覚があるのだった。紫苑は璃々を連れて先に入っているから、脱衣所で一緒になるようなことはなかった。無駄に睨みを効かせてくる思春を無視して、着ている制服を脱いでいく。
「一応忠告しておいてやるが、璃々の前で粗相をしでかすんじゃないぞ、痴れ者。貴様の存在そのものが、子供にとっては毒なんだ」
「ははっ。優しいのだな、思春は。あの子と出会って、お姉さんの血でも騒いだのか」
「ぐぬぬっ……。ば、馬鹿にしてぇ……!」
「し、思春さん。はい、どうどう。どうどう……」
半裸で牙を剥く思春を、朱里が後ろから宥めている。
どこにいようが、自分たちは自分たちでしかない。これまでしてきたことを取り繕う意味など、どこにもありはしない。
「これで文句はないだろう? 私も、いい大人だ。物事の分別くらい、つけられるつもりでいる」
タオル代わりの白い布を、さっと腰に巻く。特に意識をすることがなければ、なにも問題はないはずだった。倣って、ふたりも胸から下を布で隠している。
「なんだか愉しいですね、こういうのも。あっ、思春さん。大変でしょうし、私が髪洗ってあげましょうか」
「むっ……。これも、始末屋の仕事なんだろう。あまりはしゃいでくれるなよ、痴れ者どもめ」
たしなめるような口調だった。その思春の足取りが最も軽やかなのだから、まるで説得力がない。
「わあ……。すごく立派なお風呂ですね、一刀さん。傾さんと瑞姫さんも、あんな商売さえしていなければ、一緒に入れたかもしれないのに」
「恥知らずの名をここで出すな。耳が腐る」
思春の言葉がいつになく手厳しい。
あのふたりは今頃、どこかで寂しく野宿をしているのだろうか。軽い騒ぎを起こしてしまったのだから、しばらく近くで商売をすることはできないはずだ。役人には目をつけられたくないようだし、ひとまず山野のもので糊口を凌ぐしかなかった。
石組みの半露天風呂。さすがに湯を循環させる機能まではついていないだろうから、入浴前に身体はしっかり洗っておくべきだ。紫苑と璃々は手早くそこまで済ませていたようで、湯けむりの中に母娘の影が見えている。
「お兄ちゃんたちも、はやくはやく。璃々、泳ぐのすっごく上手なんだよ。こっちにきたら、見せてあげるね」
ばしゃばしゃと水面を手で打ち、璃々が自分たちを呼んでいる。
無邪気な願いには、いち早く応えてやる必要があるのだろう。近くにあった見覚えのある椅子に腰かけ、一刀は桶ですくった湯を頭からかぶった。
†
心地よい温もり。湯の中に足を踏み入れると、懐かしい感覚が一気に拡がった。
ひとしきり全身をきれいにしてから、再び腰に布をつけてある。朱里と思春まで同様にしているのが目についたのか、璃々が不思議そうに首を捻っていた。
「おかーさん。お兄ちゃんたち、ほんとは恥ずかしがり屋さんなのかな? どうしよ。璃々、悪いことしちゃったのかも」
「あはは……。そ、そうねえ……?」
顔を半分ほど沈ませて、璃々は意気消沈気味だ。どうやら、自分たちの格好がよくない勘違いを誘発したらしい。
透明な湯を通して、ぼんやりと肌色が見えている。当然ながら、璃々はなにも身につけていない。隣の紫苑に眼を移す。水面に浮かぶ見事な小島がふたつ。完全に確認できたわけではなかったが、こちらも裸のようである。
それもそうか、と一刀は心中で頷いていた。母娘で家の風呂に入るのに、どうして身体を隠す必要がある。特に、璃々にとってはそれが当たり前のこと。異質なのは、妙によそよそしい自分たちの方だった。
紫苑の顔が、腰の布に向いている。かすかに、羞恥心がある。ただし、それ以上の興味があるようにも、一刀には思えていた。
観念して、まず思春が褐色の肌をさらした。
引き締まった肉体。母のようなふくよかさはないが、各部の芸術的な造形に璃々が驚きの声を発している。続いて、朱里も。今となっては、見慣れた幼い裸体だった。つい先日、自分が女にしたばかりの未成熟な箇所まで、あらわになっている。嫌な予感でもしているのか、思春が横目で睨みつけてきた。
布の結び目をほどく。抑圧からの解放だった。血流の良化で活気を得たモノが、都合八つの眼にじっくり見つめられている。
「はっ、はわわっ……♡ おちんちん、大きくしたらいけませんよぉ」
「うぉいっ……!? こ、この痴れ者めがぁ……♡ やはり、向こうで去勢しておくべきだったのだ。いや、今ならまだ間に合うかもしれんッ……!」
脱衣所での宣言も虚しく、五分ほどかたくなった男根が、威容を放っていた。
やはり、どこかで一度くらい処理をしておくべきだったのだ。初見であるはずの璃々以上に、紫苑の表情がかたい。困惑するのも当然のことだ。弓を引くしなやかな指。唇をそっと撫でている。押し黙っていた紫苑が、ごくりと唾を飲む音がした。
「一刀さんだって、立派な殿方ですもの。こうなってしまうのも、ねっ……?」
少しして、身体を湯に浸したまま移動してきた紫苑が、そっと腰に手を伸ばしてくる。そのまま、隣に座れと視線が言っているようだった。
「璃々。男の人はね、元気が有り余るとおちんちんがああして大きくなってしまうの。だから、あれは一刀さんの肉体が、健全な証拠なのよ」
「ふえ……、そうなんだ? おにーちゃん、元気いっぱいなんだね!」
紫苑のなにかに、きっと火がついた。というより、自分がつけてしまったと言うべきなのか。
肩が寄り添う。間近で観察する胸の谷間は、吸い込まれそうなほどの奥行きがあった。しなやかな指が、腿にふれてくる。自然な動きで、璃々には気取られていないようだった。流れるように、指が男根に絡みつく。璃々の興味は泳ぎの披露に移行したようで、それに朱里と思春がつき合わされている。
「ごめんなさい、一刀さん。追加の依頼だと思って、わたくしの我儘を聞き届けてもらえないかしら。あの子の母親として、こんなことはするべきじゃない。そんな当たり前のことはわかってる。だけど、もう……」
紫苑がさらに体重をかけてくる。静かだった湯が、ちゃぷりと波を立てた。
房事にはかなり長けているようで、男の快楽を引き出そうとする動きが朱里や思春とはまるで違う。それだけに、気持ちを引き締めてかかる必要があると思った。
「夫を亡くしてから、もう五年になるの。このあたりを荒らし回っていた、赤蜘蛛、青蜘蛛という兄弟の賊との争いだったわ。弟の青蜘蛛を捕らえることに成功したのだけれど、代わりにあの人は逝ってしまった」
うつむきながら、紫苑が声を搾り出す。死別した夫に対する申し訳のなさがある。それなのに、肉欲を求めて心は猛り叫んでいるのだ。そんな不安定な状態が、長く続いていたのかもしれない。璃々に悟られていないだけ、紫苑はうまくやっていたと言うべきだ。
ちゃぷ、ちゃぷっ、ちゃぷっ。
過去を語る間も、紫苑からの愛撫が止むことはない。黙っていれば、すなわち受け入れることになる。万事始末請負。それが、自分たち始末屋の本分なのである。本気で悩んでいる紫苑を、見捨てるわけにはいかない。そのまま、黙して耳を傾けた。
「ずっと、ずっとひとり悶々としていたの。夜になって身体を慰めてみても、根本的な解決には至らない。こんな悩み、誰かに打ち明けることもできなかった。ふふっ……。それなのに、どうしてかしら。始末屋さん。一刀さんには、頼ってもいいかもしれない、ってなぜだか思えたのでしょうね」
湯と手のひらの間で、分泌した先走りがかき混ぜられている。
張り詰めた亀頭。血管の浮いた竿。そして、温もりによって弛緩した玉袋まで。紫苑の奉仕は、どこまでも丁寧かつ丹念だった。熟れた女同士比較してみても、猛獣のようだった炎蓮とは別の魅力がある。
そっと尻にふれると、嬉しそうに紫苑がはにかんだ。
「わたくしのような子持ちの女の相手、一刀さんだってお嫌でしょうに。ああっ、んっ、だめっ……。そんなにおちんちん暴れさせたら、勘違いしてしまうじゃない……♡」
「そんなことは、少しも。私からしてみれば、紫苑さんは充分にお若い。まだまだ、魅力に満ち溢れていて女盛だ」
「そ、そう、なのかしら……? ふう、ふふっ……。知り合って間もないのに、おかしなことを言ってごめんなさい。でもね、一刀さんが近くにいてくれると、すごく心が落ち着くの。あなたこそお若いのに、どこで包容力を身に着けられたのでしょうね」
はしゃぎまわる璃々が、器用に手を振ってくる。密接な距離感を保ったまま、紫苑と同時に反応を示した。
「お母さんとお兄ちゃん、仲良しさんなんだ。お姉ちゃんたちとも、そうなの?」
「むうっ。そういうことは、だな……」
「あー? 思春さん、お顔が真っ赤です。とっても、かわいい」
ぐにゅぐにゅ、くちゅり。ぐちゅ、ぬちゅ、ちゅるっ。
紫苑の手の動きが、徐々に激しくなってくる。精液の熱さを欲するような手首の躍動。首筋にふれる吐息が、かなり荒くなっていた。
「ねっ、出して。このまま、射精してくださって構いませんから。全部、わたくしが受け止めます。一刀さんの子種の熱さ、感じさせて……♡」
ささやくような紫苑の声。
長い吐息が、興奮を奥底から揺さぶる。それで、男根が脈打つのを抑えられなかった。
「あっ、あんっ、んうっ……♡ お湯の中でいってるのに、精液とっても熱い、はあっ……。わたくしも、こんなの……。んあっ、うっ、はーっ、んんっ、お゙っ、おお゙っ……♡」
精液をかき出しながら、紫苑は絶頂を味わっている。
いやらしい女だ。娘の側近くで男根を扱き、欲望を満たすことに躊躇がない。だが、それが人なのだとも一刀は思う。
「あっ、ああっ……♡ 一刀さん、んあっ、んふっ……。これっ、さいこ……うっ、ンンッ……♡」
生まれた熱さが、さらなる温もりのなかで希釈され、分散していく。
顔に当たる外の風が、たまらなく気持ちよかった。