※この作品はR-18です。

剣聖外史始末旅   作:KKS

20 / 43
三(紫苑)

 紫苑の手料理で腹を満たし、一刀たちは食後の茶まで堪能していた。最初乗り気ではなかった思春も、珍しく寛いでいる様子である。いくら気持ちを尖らせようとしていても、それを凌ぐ母性があると思い知らされた。

 屋台のオヤジが作ってくれる飯が、よくないと言うつもりは決してない。ただ、璃々の嬉しそうな顔を見ながら茶をすすっていると、格別の味がすることも確かだった。自分のあらぬ趣味を疑っているのか、朱里の視線がちょっと冷たくなっている。

 腹いっぱいで眠くなってきたのか、璃々が椅子の上で目を擦っていた。娘の変化に気づいた紫苑が立ち上がると、薄手の衣に包まれた大きなふくらみが艶めかしくふるえた。

 

「まだ寝てはだめよ、璃々。先に、お風呂を済ませなくちゃいけないでしょう?」

 

 荊州在住の弓の使い手。それも、どこにでもいるような半端な腕前ではなかった。あるいは、本気で立ち合ってみたいと感じさせる領域にある武人なのだ。

 黄忠。おそらく、紫苑こそがかの名高き五虎将軍のひとりなのだろう。といっても、自分の知る範囲には劉備の影も形もないのが現状ではあるのだが。そうなると、紫苑が仕えているのは劉表ということになるのか。劉表の麾下には、ほかでもない、思春が命をつけ狙う黄祖がいる。孫家との戦になれば、紫苑も戦場に駆り出される可能性がかなり高い。

 稀有な出会いがもたらすのは、なにも幸運だけではない。残った茶を音を立ててすすると、口の中にいい塩梅のほろ苦さが拡がった。

 

「んう……。璃々、みんなで一緒にお風呂入りたい。だめ、お母さん?」

「り、璃々ったら、またそんな無理を言って……。あの、一刀さん……?」

 

 表情こそ困った感じをしているが、紫苑が娘のおねだりを撥ねつけることはなかった。

 周囲の注目が自分ひとりに集まっている。最後の決断を託す相手を間違っているような気もするが、それならそれで構わなかった。大きな風呂で身体をあたためられる期待から、朱里はすでにそわそわしているようである。思春は相変わらず素っ気ない態度を装っているのだが、誘えば断られることはないだろう。

 

「璃々ちゃんの依頼、引き受けた。ただし、始末料は高くつくぞ」

 

 それらしく言い放つと、璃々がわっと声をあげた。

 

 

 どこかの温泉宿かと見紛うような景色が眼前に拡がっている。

 そういうことがあるかもしれない、と事前に想像はしていたのだが、いざ現実として直面してみると、おのれの認識の窮屈さに思考が軋む感覚があるのだった。紫苑は璃々を連れて先に入っているから、脱衣所で一緒になるようなことはなかった。無駄に睨みを効かせてくる思春を無視して、着ている制服を脱いでいく。

 

「一応忠告しておいてやるが、璃々の前で粗相をしでかすんじゃないぞ、痴れ者。貴様の存在そのものが、子供にとっては毒なんだ」

「ははっ。優しいのだな、思春は。あの子と出会って、お姉さんの血でも騒いだのか」

「ぐぬぬっ……。ば、馬鹿にしてぇ……!」

「し、思春さん。はい、どうどう。どうどう……」

 

 半裸で牙を剥く思春を、朱里が後ろから宥めている。

 どこにいようが、自分たちは自分たちでしかない。これまでしてきたことを取り繕う意味など、どこにもありはしない。

 

「これで文句はないだろう? 私も、いい大人だ。物事の分別くらい、つけられるつもりでいる」

 

 タオル代わりの白い布を、さっと腰に巻く。特に意識をすることがなければ、なにも問題はないはずだった。倣って、ふたりも胸から下を布で隠している。

 

「なんだか愉しいですね、こういうのも。あっ、思春さん。大変でしょうし、私が髪洗ってあげましょうか」

「むっ……。これも、始末屋の仕事なんだろう。あまりはしゃいでくれるなよ、痴れ者どもめ」

 

 たしなめるような口調だった。その思春の足取りが最も軽やかなのだから、まるで説得力がない。

 

「わあ……。すごく立派なお風呂ですね、一刀さん。傾さんと瑞姫さんも、あんな商売さえしていなければ、一緒に入れたかもしれないのに」

「恥知らずの名をここで出すな。耳が腐る」

 

 思春の言葉がいつになく手厳しい。

 あのふたりは今頃、どこかで寂しく野宿をしているのだろうか。軽い騒ぎを起こしてしまったのだから、しばらく近くで商売をすることはできないはずだ。役人には目をつけられたくないようだし、ひとまず山野のもので糊口を凌ぐしかなかった。

 石組みの半露天風呂。さすがに湯を循環させる機能まではついていないだろうから、入浴前に身体はしっかり洗っておくべきだ。紫苑と璃々は手早くそこまで済ませていたようで、湯けむりの中に母娘の影が見えている。

 

「お兄ちゃんたちも、はやくはやく。璃々、泳ぐのすっごく上手なんだよ。こっちにきたら、見せてあげるね」

 

 ばしゃばしゃと水面を手で打ち、璃々が自分たちを呼んでいる。

 無邪気な願いには、いち早く応えてやる必要があるのだろう。近くにあった見覚えのある椅子に腰かけ、一刀は桶ですくった湯を頭からかぶった。

 

 

 心地よい温もり。湯の中に足を踏み入れると、懐かしい感覚が一気に拡がった。

 ひとしきり全身をきれいにしてから、再び腰に布をつけてある。朱里と思春まで同様にしているのが目についたのか、璃々が不思議そうに首を捻っていた。

 

「おかーさん。お兄ちゃんたち、ほんとは恥ずかしがり屋さんなのかな? どうしよ。璃々、悪いことしちゃったのかも」

「あはは……。そ、そうねえ……?」

 

 顔を半分ほど沈ませて、璃々は意気消沈気味だ。どうやら、自分たちの格好がよくない勘違いを誘発したらしい。

 透明な湯を通して、ぼんやりと肌色が見えている。当然ながら、璃々はなにも身につけていない。隣の紫苑に眼を移す。水面に浮かぶ見事な小島がふたつ。完全に確認できたわけではなかったが、こちらも裸のようである。

 それもそうか、と一刀は心中で頷いていた。母娘で家の風呂に入るのに、どうして身体を隠す必要がある。特に、璃々にとってはそれが当たり前のこと。異質なのは、妙によそよそしい自分たちの方だった。

 紫苑の顔が、腰の布に向いている。かすかに、羞恥心がある。ただし、それ以上の興味があるようにも、一刀には思えていた。

 観念して、まず思春が褐色の肌をさらした。

 引き締まった肉体。母のようなふくよかさはないが、各部の芸術的な造形に璃々が驚きの声を発している。続いて、朱里も。今となっては、見慣れた幼い裸体だった。つい先日、自分が女にしたばかりの未成熟な箇所まで、あらわになっている。嫌な予感でもしているのか、思春が横目で睨みつけてきた。

 布の結び目をほどく。抑圧からの解放だった。血流の良化で活気を得たモノが、都合八つの眼にじっくり見つめられている。

 

「はっ、はわわっ……♡ おちんちん、大きくしたらいけませんよぉ」

「うぉいっ……!? こ、この痴れ者めがぁ……♡ やはり、向こうで去勢しておくべきだったのだ。いや、今ならまだ間に合うかもしれんッ……!」

 

 脱衣所での宣言も虚しく、五分ほどかたくなった男根が、威容を放っていた。

 やはり、どこかで一度くらい処理をしておくべきだったのだ。初見であるはずの璃々以上に、紫苑の表情がかたい。困惑するのも当然のことだ。弓を引くしなやかな指。唇をそっと撫でている。押し黙っていた紫苑が、ごくりと唾を飲む音がした。

 

「一刀さんだって、立派な殿方ですもの。こうなってしまうのも、ねっ……?」

 

 少しして、身体を湯に浸したまま移動してきた紫苑が、そっと腰に手を伸ばしてくる。そのまま、隣に座れと視線が言っているようだった。

 

「璃々。男の人はね、元気が有り余るとおちんちんがああして大きくなってしまうの。だから、あれは一刀さんの肉体が、健全な証拠なのよ」

「ふえ……、そうなんだ? おにーちゃん、元気いっぱいなんだね!」

 

 紫苑のなにかに、きっと火がついた。というより、自分がつけてしまったと言うべきなのか。

 肩が寄り添う。間近で観察する胸の谷間は、吸い込まれそうなほどの奥行きがあった。しなやかな指が、腿にふれてくる。自然な動きで、璃々には気取られていないようだった。流れるように、指が男根に絡みつく。璃々の興味は泳ぎの披露に移行したようで、それに朱里と思春がつき合わされている。

 

「ごめんなさい、一刀さん。追加の依頼だと思って、わたくしの我儘を聞き届けてもらえないかしら。あの子の母親として、こんなことはするべきじゃない。そんな当たり前のことはわかってる。だけど、もう……」

 

 紫苑がさらに体重をかけてくる。静かだった湯が、ちゃぷりと波を立てた。

 房事にはかなり長けているようで、男の快楽を引き出そうとする動きが朱里や思春とはまるで違う。それだけに、気持ちを引き締めてかかる必要があると思った。

 

「夫を亡くしてから、もう五年になるの。このあたりを荒らし回っていた、赤蜘蛛、青蜘蛛という兄弟の賊との争いだったわ。弟の青蜘蛛を捕らえることに成功したのだけれど、代わりにあの人は逝ってしまった」

 

 うつむきながら、紫苑が声を搾り出す。死別した夫に対する申し訳のなさがある。それなのに、肉欲を求めて心は猛り叫んでいるのだ。そんな不安定な状態が、長く続いていたのかもしれない。璃々に悟られていないだけ、紫苑はうまくやっていたと言うべきだ。

 ちゃぷ、ちゃぷっ、ちゃぷっ。

 過去を語る間も、紫苑からの愛撫が止むことはない。黙っていれば、すなわち受け入れることになる。万事始末請負。それが、自分たち始末屋の本分なのである。本気で悩んでいる紫苑を、見捨てるわけにはいかない。そのまま、黙して耳を傾けた。

 

「ずっと、ずっとひとり悶々としていたの。夜になって身体を慰めてみても、根本的な解決には至らない。こんな悩み、誰かに打ち明けることもできなかった。ふふっ……。それなのに、どうしてかしら。始末屋さん。一刀さんには、頼ってもいいかもしれない、ってなぜだか思えたのでしょうね」

 

 湯と手のひらの間で、分泌した先走りがかき混ぜられている。

 張り詰めた亀頭。血管の浮いた竿。そして、温もりによって弛緩した玉袋まで。紫苑の奉仕は、どこまでも丁寧かつ丹念だった。熟れた女同士比較してみても、猛獣のようだった炎蓮とは別の魅力がある。

 そっと尻にふれると、嬉しそうに紫苑がはにかんだ。

 

「わたくしのような子持ちの女の相手、一刀さんだってお嫌でしょうに。ああっ、んっ、だめっ……。そんなにおちんちん暴れさせたら、勘違いしてしまうじゃない……♡」

「そんなことは、少しも。私からしてみれば、紫苑さんは充分にお若い。まだまだ、魅力に満ち溢れていて女盛だ」

「そ、そう、なのかしら……? ふう、ふふっ……。知り合って間もないのに、おかしなことを言ってごめんなさい。でもね、一刀さんが近くにいてくれると、すごく心が落ち着くの。あなたこそお若いのに、どこで包容力を身に着けられたのでしょうね」

 

 はしゃぎまわる璃々が、器用に手を振ってくる。密接な距離感を保ったまま、紫苑と同時に反応を示した。

 

「お母さんとお兄ちゃん、仲良しさんなんだ。お姉ちゃんたちとも、そうなの?」

「むうっ。そういうことは、だな……」

「あー? 思春さん、お顔が真っ赤です。とっても、かわいい」

 

 ぐにゅぐにゅ、くちゅり。ぐちゅ、ぬちゅ、ちゅるっ。

 紫苑の手の動きが、徐々に激しくなってくる。精液の熱さを欲するような手首の躍動。首筋にふれる吐息が、かなり荒くなっていた。

 

「ねっ、出して。このまま、射精してくださって構いませんから。全部、わたくしが受け止めます。一刀さんの子種の熱さ、感じさせて……♡」

 

 ささやくような紫苑の声。

 長い吐息が、興奮を奥底から揺さぶる。それで、男根が脈打つのを抑えられなかった。

 

「あっ、あんっ、んうっ……♡ お湯の中でいってるのに、精液とっても熱い、はあっ……。わたくしも、こんなの……。んあっ、うっ、はーっ、んんっ、お゙っ、おお゙っ……♡」

 

 精液をかき出しながら、紫苑は絶頂を味わっている。

 いやらしい女だ。娘の側近くで男根を扱き、欲望を満たすことに躊躇がない。だが、それが人なのだとも一刀は思う。

 

「あっ、ああっ……♡ 一刀さん、んあっ、んふっ……。これっ、さいこ……うっ、ンンッ……♡」

 

 生まれた熱さが、さらなる温もりのなかで希釈され、分散していく。

 顔に当たる外の風が、たまらなく気持ちよかった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。