眠っている朱里の吐息を首筋に受けながら、一刀は歩いた。背負っている身体の位置を軽く直す。尻に触れてしまったせいか、朱里がちょっと艶かしい声を洩らした。
じっと正面を向いて歩く思春のことを、風は観察しているようだった。正直に言って、あまり反りが合いそうな二人ではない。思春からしてみれば、風は余計な部外者でしかないはずだ。
「お兄さんを絡め取った先ほどの動き、なんともお見事でした。お近づきの印に、おいしい飴でもいかがですか? あっ。風としたことが、ちょうど手持ちを切らしていたので、舐めかけのものしかありませんねぇ。それならば仕方がありません。普段は簡単に呼ばせたりしないんですけど、今日だけは特別大特価なのですよ。風の真名をお預けいたしますので、よろしくどう……」
「いらん。それから、眼にしたことはすべて忘れろ。面倒事に巻き込まれたくなければ、われらの存在もきれいさっぱりとな」
風のだした提案を、思春が食い気味に拒絶していく。
飴がないというのは、おそらく嘘だ。風ほどの愛好家が、街をふらつく時間があったのに、予備を補充していないはずがない。
「くふふっ。組紐のお姉さんは、見事なツンツン気質をお持ちのようで。これは、攻略のし甲斐がありそうです。ね、一刀さん?」
「むっ……。おい、一刀。まさかとは思うが、貴様この女に始末の話を」
「なにも。ただ、長沙までの道案内の礼として、私の置かれた特異な状況については、隠さず教えた」
「ああ……? まったく、貴様という男は」
一刀さんは痴れ者です、という糾弾する声が、寝ている朱里の口から流れてくる。
いったい、どのような夢を見ているのだろうか。こうして無事に再会するまで、随分と心配もかけてしまった。世間知らずの自分であっても、その埋め合わせをする必要があることくらい、なんとなく理解できる。
「いいんですよ、こそこそ内緒話をしていただかなくても。始末屋さんの評判は、風の噂で耳にしていますから。あっ、とってもややこしい字面になってしまいましたけど、
殺気を放ちかけた思春の肩を、一度手でたたく。
別に、裏で受けている仕事をひた隠しにしてきたわけではない。近隣で風の噂が立つ程度には、始末屋も働いてきた、というだけの話だ。
風の口に含まれていた飴が、ちゅぽんと勢いよく外に抜け出る。表面は唾液に塗れていて、妖しげな輝きを放っていた。
「これもなにかの御縁ですし、風にも一枚噛ませてもらえませんか。お兄さんが、長沙まで追手から逃れてきたこと。それに、孫堅さんの軍に潜入したことを照らし合わせますと」
飴を再びうまそうにねぶってから、大仕事の匂いがぷんぷんしてきますねぇ、と風が笑った。
†
宿でひと息つける暇すらもらえずに、城外の森まで歩いた。
久しぶりに剣を振りたいから、付き合え。そうやって、一刀は思春に連れ出されている。
熟睡したままの朱里を寝台に寝かせてから、風に朝帰りになりそうなことだけは伝えた。もちろん、思春には勘付かれていない。
青草の匂いが鼻につく。月光に照らされて、鋭さのある思春の目元が浮かび上がっていた。日中、情けない姿を傍観させているだけだった刀の柄に手をかける。抜くことに迷いはなかった。やはりこれだという感覚が、手のひらから拡がる。
「斬られたくなかったら、手は抜くな。いくぞ、一刀」
低い態勢。そこから繰り出される思春の一撃は、さながら強弓から放たれた一矢だった。
眼で追えたところで、反応できなければ意味がない。音もなく、時をかけずに標的を始末するための必殺剣。そういうものを、思春は練り上げようとしているのか。
いつもの仕事道具ではなく、剣を使うのは一種の意地。武人として、錦帆賊の元頭領として、黄祖の仕掛けた謀略にけりをつけるつもりなのだ。
殺気迸る切っ先をいなす。浴びせるように土を蹴り上げると、思春がちょっと顔をしかめた。
「ちっ……。だったら、今度は」
しなやかな四肢を駆使した連撃。体幹を崩さないことを意識しながら、すべて捌く。宣言通り、手加減は一切なしの果たし合いだ。
今度の始末は、
「くっ、おおっ……!」
攻め一辺倒になりかけている思春の刃を押し返す。さすがに、バランスを大きく取り崩すことはしない。だったら、これならどうだ、と即座に剣を握っている腕を手繰り寄せた。
「はあっ、はあっ……。ぐっ、くそっ……」
地面に倒れた思春の首を、肘から先を使って押さえつける。
絞め落とす。あるいは、へし折るのもこちらの自由。全身を被せて、足を使った反撃もできないようにしている。思春が悔しそうに洩らす吐息が、肌を撫でていた。
「感謝するぞ、一刀。いまここで、私は貴様に殺された。いくら黄祖であろうと、死人は簡単に殺せまい。なあ、そうだろう。ふっ、あはははっ」
吹っ切れたような笑顔を、思春が見せる。
勝負はここまで。互いに刃を納めると、合図をするまでもなく唇がふれあった。自分はきっと、思春を欲している。強い衝動。これも、ごく自然な流れの中で生じた感情なのではないか。
「あっ、その……。始末料の足しとでも、思ってくれていい。肉体も魂も、私の全部を、貴様にくれてやる。だから、一刀。んっ、はんっ、んっ……」
たどたどしく言葉を紡ぐ唇。舌を侵入させて、強く絡め合わせた。気持ちよさそうな声を、思春が洩らす。粘膜同士の繋がりを保ったまま、脱いだ上着を背中の下に敷いてやる。初めてくらい、少しでも楽な状態で。
昂揚でモノを大きくしている自分に言えた台詞ではないから、しばらく黙っていた。
「んうっ、あっ、んあっ……。一刀、くふぅ……」
思春が好んで着用している褌を、緩めてやる。それが恥ずかしかったのか、唇を吸う力が明らかに強くなった。
「不思議なものだな。水浴びを覗かれた男と、よもやこんな」
「これも、旅のひとつの結果なのだろう。私も、始末屋なんてものをやることになるとは思わなかった。思春や朱里との出会いにしても、そうだ」
少し汗ばんだ思春の肌に、秘部からすくい上げた粘液を塗り広げる。吸い付いて、指を離してくれない。切なさが強くなっているのか、思春の声がずっと艶っぽくなっていた。
ズボンの中から、勃起した男根を取り出す。普段気になることはなくとも、臨戦態勢になると猛りの凄まじさが手から伝わってくる。なにもかも、しばらくお預けだった。早くも先端に汁が浮いているのは、そのせいなのか。
「むっ……。じっと見ているだけとは、どういうつもりだ。準備なら、ほら」
焦らされているとでも思ったのか、思春が自らの指で秘部を開く。暗がりで細部まで確認することはできないが、なによりその気持だけで獣欲を刺激される。
「思春」
「一刀。はっ、ああっ、うっ、あぐっ……!」
張り詰めた亀頭で、狭い門を突き破る。手加減はしてやらない。そういうことを、思春も望んでいないと思ったからだ。
締めつけがかなりきつい。初手から全力で精液を搾り取ろうとする肉襞をくぐり抜けて、思春の奥を突く。いまここで、私たちは繋がっている。その事実を、念入りに教えた。
「これが、うあっ……。男に、抱かれる感覚なのか。ひどく痺れる。それに、思考まで白く滲んでしまうようだ」
「苦しめるようなことがなくて、よかった。思春も、感じてくれているのだな」
「うっ……。は、恥ずかしくなるようなことを言うんじゃない、この……痴れ者ッ……♡ はーっ、んっ、はうっ」
肉の詰まった太腿を撫でながら、しばらく思春の弱点を探った。
奥。手前。どこを、どう責められるのが心地いいのか。着衣越しに、勃ち上がった胸の先を同時に愛してみる。反応がいい。そのまま奥をしつこく擦ると、思春が軽く背中をのけ反らせた。
「あっ……!? な、なんだ、これっ……♡ 気持ちいいのが、どんどん奥からあふれて。一刀、あっ……、はひ……っ♡」
自身に訪れた感覚の変化に、思春はまだついていけていないようだ。
ただ一度しか訪れることのない感動なのである。それを、充分に引き出してやれるのも、自分だけだった。
「な、なにか、くる……ぅ♡ 一刀、あっ、ああっ。貴様は、どうなんだ」
「もちろん、いいに決まっている。思春のかわいい顔を、こうして間近で見られているだけでも、感涙ものだ」
「なんだ、そのちょっと気に障る言い草……、あっ、あーっ、んっ、ふうっ……♡ おっ……、このっ……♡」
思春の呼吸が、乱れに乱れている。ひとまずこれが最後だと思い、唇を塞いだ。文句を発する代わりに、甘く切なく舌が絡んでくる。
切なく締め上げられているのは、男根も同様だった。精液を、早く奥で吐き出せ。急かされているのは、たぶん気の所為ではないはずだ。
「いいな、思春。このまま、おまえの奥で」
「んふぅ……? んれっ、んっ、んーっ……♡」
全身夢見心地でいる思春の中に、欲望のすべてを打ち付ける。
「ふーっ、ふぐっ……♡ ふっ、んっ、ふう……ぅ♡」
絶頂にふるえる思春の身体を、抱きしめた。
種を注ぐ勢いは少しも衰えない。むしろ、思春の中が無意識に行う要望に応じて、次々と新鮮な精液を作り出している感じですらあった。
「少し、やりすぎてしまったかな。平気か、思春」
「全部くれてやる、と宣言したのは私のほうだ。その気持ちに、嘘偽りはない。いまも、これからも」
ひとまず休憩する流れとなり、並んで夜空に浮かぶ月を見上げた。なんとなく返す気になれないのか、思春は背中に敷いていた上着を纏ったままでいる。
思春のほうから、肩を触れ合わせてくる。抱き寄せてやると、満足そうに頭が乗りかかってきた。
「こういうのも、たまには悪くない。らしくないことをしてみるのも、一興ではあるな」
余計な口を挟む必要はない。
穏やかな吐息が、隣から流れてくる。更けていく夜を愉しむには、それだけで充分だった。