風呂屋の裏口に、ひとりの男が立っていた。通行人の眼がないことを確認してから、隙間からぬるりと身体を通す。秘密にしなければならない遊び。だからこそ、気分も高まるというわけだ。
風呂屋の手代と短く言葉を交わす。この日も、女風呂の客入りは好調そうだった。そのお零れの端くれを、餓えた男どもがいただく。ちょっと前かがみになりながら、男は袋の中にある銭を握りしめた。
料金こそ少々高くつくが、楼閣では知り合えないような綺麗所の裸体を拝むことができるのが、ここのよさだった。女に直接手を出せないからこそ、できる遊びなのである。それに、自分たちのようなクズが金を積んでいなければ、タダ同然の価格で湯を使えるはずがない。互いの利益になることをしているのだから、良心に傷がつくこともない。
「珍しく、席が空いているな。どれ、まずは……」
普段なら早いもの勝ちになるところを、今日は余裕を持って覗き見られそうなのである。
まずは、脱衣場からじっくり見定めさせてもらおうか。着物の帯を緩めながら、男が椅子に腰を落ち着けた。
壁の覗き穴に顔を近づける。相変わらずよく見えないが、数人の女が着替えをしているようだった。上背のあるひとりが、胸に巻いたさらしを解いている。背中を向けているが、突き出た尻の曲線に男根が熱くなった。
「ふう、ふうぅ。落ち着け、落ち着け」
興奮しすぎるわけにはいかなかった。深呼吸をしてから、男があらためて穴から女体を凝視する。
どんな行為をしてもいいが、発覚だけは絶対に避けること。それが、風呂屋との約定だった。
覗きがばれて役人にしょっぴかれようものなら、どんな扱いを受けるかわからない。
風呂屋の主人は役人との付き合いがあるそうだが、守るのはおのれの身と店の看板だけなのだろう。だからこそ、クズはクズなりに一線を飛び越えないように気を引き締める必要がある。
「おっ、おおっ……。尻だけじゃなく、乳もでっけぇ……」
くぐもるような声で、男が呟いた。
思わず発してしまった声なのである。瞬きを忘れて、男根を握った手を動かす。一発目は湯の方に移動してからにするつもりだったが、どうしても扱く手が止まらなかった。
着物を籠に入れながら、女が仲間と話している。子どもにしか見えないのが二人と、もうひとり。細身で全身よく引き締まっていて、胸は薄いが芸術的な美しさがある。子どもっぽい二人は、見るからにやわらかそうな身体つきをしていて、こちらもたまらない。
「はあっ、はっ……。すっ、すげぇ。今日は、間違いなく大当たりだ」
精液を押し上げながら、女たちの会話に耳を傾ける。
なにやら匂いが気になっているようだが、それもそうだ。この壁裏の密室は、男の欲望で満ちあふれている。
はしゃいでいる小さな口を、汚いチンポで塞いでみたい。肉々しい尻をぶっ叩きながら、後ろから気の済むまで犯してみたい。
薄汚い妄想が頭の中で駆け巡る。もう出る。子種を、こき捨ててしまう。恋焦がれた女の尻が、覗き穴の真ん前にやってくる。このまま、いくところまでまで気持ちよく。男が、腰をがくりとふるわせた。
「ひ、ひいっ」
飛び出しそうになった声を、どうにか飲み込む。なにかの拍子で、女の拳が壁を強かに捉えたようだった。きつく握りしめたせいで、白濁が情けなく床にこぼれ落ちていく。
精液でなければ、小便を撒き散らしていたかもしれない。まさしく、クズにお似合いの最後だった。
「みなさん、調子はどうですか。今日は、上客が多いでしょう」
番頭が様子を確認しにやってくる。
確かに、極上の女だった。ただし、踏み込んだ先に命はない。そう感じてしまうくらい、危険な匂いのする女でもあったのだ。
常連のひとりが、番頭を手招きしてなにか内密の相談をしていた。ちょっと話をしたことがあるが、かなり羽振りのよさそうな男である。自分にはそこまでの金はないし、無理をするつもりもない。
たとえ儲けになるとしても、どこの馬の骨かわからない人間を、裏口に通すことはない。風呂屋の主人には、そうした慎重さがあるようだった。
だからこそ、客側としてもある程度安心して使うことができる。綱渡りのような商売だからこそ、信頼関係を欠くことはできなかった。
「さて、と」
欲望を滾らせたまま、男が座る位置を変える。
女に磨きをかけていく瞬間。つまり、洗い場の様子を見るために、再び眼を凝らす。
ちょうど、あの女が正面で身体を洗っているようだった。緊張で喉が渇く。それでも、下腹部の熱が冷めることはない。
「ああ、たまらねぇ……」
重そうな乳房を片方ずつ持ち上げ、あの女が身体を擦っている。
うまそうな色をした乳首。今にも、むしゃぶりつきたくなる。燃えるように広がる陰毛にも、視線を奪われる。出したばかりだというのに、ガキだった頃のように、チンポを扱いてしまう。
「ああっ、くそっ……」
女が、念入りに股の間に指を通している。
このあと、誰かに抱かれる予定でもあるのか。あの乳も、隠された秘裂の奥も、知らない男の色で染められる。言葉を交わしたことすらないのに、悔しくてチンポを根本まで擦り上げた。亀頭の先端に
二度目の射精に向けて、感覚が高まってくる。いきなりこれだけの当たりを引いてしまうと、しばらくどんな女を見ても物足りなくなってしまうのではないか。洗い場から立ち去ろうとする女の後ろ姿を、片眼で食い入るように見つめる。
男を欲情させるいやらしい尻肉。ぶっかけるところを妄想して、自分自身を追い込んでいく。まだだ。まだ、どこにもいかないでくれ。
結局、男の虚しい願いが、女に届くことはなかった。
「おっ、おおっ、くうっ……」
ぐちゃぐちゃになった感情が、白濁と一緒になって流れ出ていく。
男はしばらく立ち上がることなく、体力の限界まで快楽を貪った。