※この作品はR-18です。

錬金術のアトリエ M,Re 1   作:東京のぷるぷる

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始まり〜マナの柱の中 1


錬金術のアトリエ M RE 1

1

 

 

ジグザール王国の首都、ザールブルグ。

ここには1件の工房がある。

……350年程前から工房の姿をした、悪魔の釜がある。

毎年、1人の人間を生贄として捧げ、その代わりにその釜は、首都、ザールブルグを魔物から守ると言われている。

実際に、捧げなかった年には魔物の侵入が多く確認されており、誰にも知られる事なく、秘密裏に1人、この釜に放り込まれる。

 

また、魔力を発生させる釜でもあり、生贄を捧げた年は、魔力を用いて道具を作る、「錬金術」もこのザールブルグにおいて捗る事となった。

 

人々は錬金術に勤しみ、アカデミーを作り、そうしてザールブルグは賑やかな都市となっていった。

 

 

 

田舎から、アカデミーに人が集まり、いつしかそこのアカデミーの成績最下位の者が工房へと入る慣わしとなった。

 

そして今年8月、アカデミー創立以来最低という、ぶっ壊れた成績を残したマルローネという女が、工房送りとなった。

 

「え?こんな良い服、くれるんですか?」

そんな事を知らないマルローネは、いつになく優しいイングリド先生に明るい笑顔を向ける。

頭には、派手な玉を左右にあしらった帽子。

なんかエロく胸元の空いた布面積が少ないながらも、オシャレなシャツ、それでいて荘厳な感じもするコート(ド派手な袖!)

スポーティーなスパッツに、コートに合わせた前隠し……

「マルローネ、あなたはもういっそカタチから入ったら、きっと成績も上がるわ。この上に更にあの封印された工房を与えるわ」

イングリド先生は優しくマルローネに伝える。

死地に向かわせる者への、せめてもの優しさである。

 

なんか豪華な夕飯まで、アカデミーの秘密の食事部屋でご馳走になり、すっかり暗くなってしまった。

そうして……

特に噂も流れる事の無い、封印されし工房の鍵を受け取り、マルローネはイングリド先生に案内されて、工房へと入る。

「すっかり遅くなったわね……ベッドもあるし、手入れもされてる工房だから、ゆっくり休んでから、また頑張りなさい。私は帰るわね」

イングリド先生は工房に入る事なく、帰って行った。少しお酒が過ぎたのか、心なしふらついているような足取りを、マルローネは見送る。

 

「私も、もう寝る時間かなぁ……」

マルローネは工房のドアをパタンと閉める。

カチャッ、と勝手に鍵の掛かる音がした。

「………………?」

マルローネは振り返り、ドアを開けようと試みる。

ガチャガチャ……開かない。

「え?何?なんで……?」

部屋は赤い明かりが照らし、マルローネはそんな明かりに照らされたドアを見て、そして振り返る。

 

……部屋には巨大な錬金釜……

この部屋、あとはオマケみたいな感じで、中央に巨大な錬金釜が鎮座している。

この部屋の30%くらいかと思うけれど、中央にあるのだから、ほぼほぼこの釜の為の部屋、建物みたいな感じなのだ。

 

かっ……

釜の中から何者かが出てこようとしているのか、手が現れると、釜のフチを掴んだ。

「うぎゃあああああああ!!」

マルローネは叫び、飛び退くように後ずさりすると、ドアに背中と後頭部を強打して、気を失って倒れた。

「きゅううぅ……」

 

 

 

……目を覚ますと、見慣れない天井が見える。

ベッドに横になっているみたいで、マルローネは目を覚ました。

……やはりなんか、赤い景色。

「……ん?」

ハダカで仰向けに寝ていて、なんか青プニが乗っかっていて、その青プニは寝ている。

……どういう状況なのか。

 

……ぺちぺち。

とりあえず、青プニのほっぺたを叩いてみる。

「……んあ?」

青プニは目を覚ます。

「うわあ!魔物が目覚めた!」

自分で起こしておきながら、マルローネは驚き、飛び起きて素早く距離を取る。

青プニは転げて落ちた。

「……痛たたた……」

転げて逆さまになった青プニは、落ち着いてころん、と回転すると、下が下になった。

「喋るプニ?」

ハダカで、戦う構えのマルローネが言う。

「プニの姿をしているだけで、プニじゃないよ。僕はこの国の魔力となっている生き物だよ。人間の姿だと、気を失うくらい驚くみたいだから、こうしてプニの姿にしたんだけど」

青プニは、縦に伸びたり縮んだりしながら、そう話す。

話す時は、そういう動きになるのか……

マルローネは、そう思いながら話を聞いた。

「人間の姿もあるの?」

そう、尋ねてみる。

「あるよ。と、いうか中に入ってくれると話が早いんだよね」

青プニはそう言うと、錬金釜の方を向く。

 

……静かに鎮座する錬金釜は、相変わらずデカい。そして、階段が釜の入り口くらいまで伸びている。

「錬金釜の中に入るの?」

マルローネは尋ねる。

へっぽこ錬金術士として2年くらいアカデミーに在籍しているけれど、錬金釜の中に自分が入るなんて言うのは、聞いた事もない。

「僕の中に入れるよ。食事なんかも取れて、暫くはマルローネの話を聞こうかな。色々と為になる話とか、ありそうだもんね」

青プニは言う。

「ところで、ハダカじゃないとダメなの?貰った服、お気に入りなんだけど」

マルローネは、ベッドの壁に掛かっている衣装を見る。

イングリド先生に貰った、なんかオシャレ錬金術士っぽい衣装。

「着てもいいけど、布は、汚れちゃうよ?」

青プニは言う。

「ふーん。じゃあ、しょうがないか……」

マルローネは階段に足を乗せる。

巨大錬金釜の口へと続く階段……

巨大錬金釜の口には、虹色に輝く水面。

見慣れた水面ではある。

 

……少し手を入れてみる。

別に沸かしてる訳でもないから、今居る場所と、あまり変わりがない感覚。

水の中、という感じでもない。

「中に入ると、空を飛ぶ……みたいな感じになるよ」

青プニが、そう話す。

「空を!?それはちょっと飛んでみたいかも」

マルローネは目を輝かせる。

そして、大胆に錬金釜に飛び込んだ。

 

虹色の境界線を抜けると、少し落下して、そんな落下が一気に緩む。

「うおおぉ……!」

マルローネは下に目を向ける。

一面緑の地面に、木々が生い茂る平原。

幾筋も通る川。

錬金釜の中……「僕の中」……

全く別の世界が広がるのはいいのだけど、マルローネの住んでいた田舎よりも更に田舎……というか未開拓地だ。

都会に憧れてザールブルグに来て、都会の暮らしを満喫して約2年……

何が悲しくて、未開拓地に来なければならないのかと思うと……

マルローネはため息を吐く。

 

そんなこんな思いを巡らせても、まだ地面は遠い。

……これ、戻れるのだろうか。

目を輝かせるには充分な空中遊泳……

地上はまだ遠い……

マルローネは上を見上げてもみる。

空が広がっていて、どこがあの錬金釜の口だったのかは、もはや分からない。

……色んなポーズをとってみる。

足も自由に、手も自由に動かせるし、何も着てない、何も持ってない状態なのだから、身軽だ。

 

……30分程経っただろうか。

まだ地上は遠い。

これ、ゆっくり過ぎるんじゃないだろうか……

景色が近付いた感覚もない。

 

「おーい」

遠くから声が聞こえて、マルローネは、そちらを見る。

……少し上の方?

下ばかり見ていたから、死角から訪れる声。

そちらを見ると、緑色の髪をオールバックに決めた男の人が近付いてくる。

これも全裸なんだけど、マルローネは身体を閉じて、隠して身構える。

……そういや人間も居るとか……なんか聞いたような……

あの錬金釜の内側から手を掛けたのは、コイツなのかも……

そんな事を思いながらも、ソイツを見る。

緑の髪のそいつは、結構なスピードで接近して来た。

 

「飛ぶのは不慣れだと聞いた。なぜか迎えに行くように言われてな」

男は手を伸ばし、マルローネはその手を取る。

顔を見ると、目の中に緑プニが居る感じなので、なんかハダカを隠すのも、ばからしくなった。

……人間のカタチをしているだけで、明らかに人間ではない。

「あなたは?」

マルローネは尋ねる。

暇だったものだから、話し相手が居るのは有り難い。

「……以前はワフール・ハイラムって名前だった。捕虜となり、この夢のようなクソな世界に閉じ込められている」

緑の男は答える。

「……以前は?」

マルローネは尋ねる。

「……おそらく、俺は死ぬ事も出来ずに、この場所に閉じ込められている。こんないい、若い女のハダカを目にするのは、久しぶりだが、心が何の反応もしない」

男は自分の股間を指す。

もじゃもじゃの股間に埋もれた、しぼんだペニスを見せる。

「……それは寂しいわね。私もそうなるのかしら?」

マルローネは、繋いだ手を握り直す。

……彼は、30を越えたくらいの年だろうか?

「おそらくな。まあ、まずは下に降りるか。まだ腹が減ったり、喉が渇いたりするのだろう?」

男の側からも、繋いだ手を握り直した。

 

落下は早まり、心地好い風が身体を巻き上げる。

「おお〜……」

……これは気分がいい。

股を抜ける風……脇や乳房を下から上へと抜けていく風。

……なんという開放感か。

 

地面は近付いて、一面の緑プニの群れが一面に広がっているのが見える。

一面の緑……こいつらなのか……

マルローネは思う。

どんな夢を見てるのか……

夢じゃないのか……

 

落下はゆっくりになり、地面に足をつける。

辺り一面、緑プニの群れ。緑プニ達はマルローネを眺めている。

1つ1つが膝を超えるくらいの大きさで、凄く草の匂いがしてる。

男と繋いだ手を、マルローネは離した。

「何をするにもカネが必要になる。ここでは、股からの汁がカネになる。遣い果たせば、俺みたいになるかも知れないが、大体はコレになる」

男はそう言うと、一面の緑プニを示し、そして股間に手をやる。

「……股からの汁?なんでそんなものが?」

マルローネも真似をして、股に手をやる。

「血なんだそうだ。股からの汁が出なくなれば、血を求められる。血を抜かれると、ああなる」

男は辺りの緑プニを示し、そして遠くを指差した。

その指先を見ると、一際、大きな木が見える。

「お店みたいなのは、見当たらないけれど?」

マルローネは尋ねる。

カネが血だか汁だかはともかく、そうした取引をしそうな場所は見当たらない。

「街は川の中にある」

男はそう話す。

「なのに、なんで川から離れた所に着地したの?」

マルローネはジト目を向ける。

「さあな。なんとなく、そうしたかったのは、お前さんがイイ女だったからかも知れん」

男は少し笑ったような表情をした……ような。

「褒められるのは嬉しいけれど、謎すぎるわ……」

マルローネは、男の後ろを歩き出す。

「それは冗談でな。ここ辺りに着地するようになっているんだ」

歩き出した男は、少し横を向いて、そう言う。

 

緑プニ達は道を開けて、2人は歩き出す。

結構、遠くに見える大木へと向けて。

「ところで、イイ女に何か質問とかある?」

黙って歩くのも何だし、マルローネは聞いてみる。

「ここは暑いか?俺にはもう、暑いのか寒いのか、それすら感じない」

男は尋ねる。

「イイ女じゃなくても、暑いか寒いかなんて、分かりそうなものですけれど?まあ、ほんの少し寒いのかしら。丁度いい感じね。ここは」

マルローネは答える。

 

裸足に土……なんて思うも、サラサラとした感触がひたすら続く。

生えまくってる草も、ふわふわしているし……

そして緑プニ達はあちらこちらを見ていて、顔の見えるヤツも居るけれど、何を考えているのかは伺い知れない。

「イイ女への質問は、それだけなの?」

会話が途切れて、マルローネはそう聞いた。

「川に近付くとな、朧気な頭が、更に朧気になる。俺もそのうち、コイツらの一員……という事になるんだろう」

男は、そう話す。

なんか、急に弱気になった。

「いつもは何をしているの?ただぼーっとしてるだけだと、コイツらの一員になる〜って事なのかも?」

マルローネは話す。

そして、田舎の家族を思い出す。

田舎の、ぼーっとした暮らし。

この場所も、何をするでもなく過ごすより他に無さそうだ。

 

男は考えているのか、会話は途切れて歩く。

……少し強い風が吹いて、少し寒く思う。

風は吹き去り、また穏やかな風に戻る。

「ちょっと?しっかりしてよ!」

マルローネは、男の背中に身体をくっつける。豊満な胸が腕にくっつき、マルローネが驚いて胸を離す。

「お?おお……しっかりしないとな。お前の出迎えが、ここに来て初めて、求められた仕事だからな」

男は、マルローネの方に振り向く。

「誰に求められたの?」

マルローネは男の腕を掴んだまま、尋ねる。

「空から声がした。このクソな世界の神を気取った奴なんだろう」

男は顔を前に戻して答える。

そして緑プニ達が開けていく道を歩き続ける。

 

 

「あなたは、緑プニになってないわね?何か秘訣でもあるの?」

マルローネは男に尋ねる。

「さあな……素質があると、ここまでで済むとか聞いた事があるが」

男は答える。なんか切れたネジが戻ったみたいな……そんな横顔を見る。

無機質な、つまらなさそうな顔。

「素質?私にも、あるのかしら」

マルローネは、遠くに目指す大木に顔を戻す。

「きっとあるさ。たかが俺だが……出迎えが来るんだから、俺よりも素質ってヤツがあるんだろう」

男は、そう話す。すっかりネジは戻ったみたいで。

「そうなら、緑プニにならずに済むんだけどね」

マルローネは空を見上げる。

事ここに至っては、もう戻る事も叶わないのだろう。

……少なくとも自力では帰れそうにない。

 

……大木は結構遠い。

一面に広がる緑プニ達は、植物なんじゃないかと思うくらい、動きがない。

進む方向の、道を開ける緑プニだけが、動きを見せるだけだ。

ハダカで歩いているけれど、イヤらしい視線というのは、まるで無い。

……ナイスバデーの金髪美少女が、ハダカで歩いているというのに……

マルローネは辺りを見回しつつ、歩く。

サラサラ感のある地面、少し涼しい風。

それほど悪い気はしない。

 

「ワフール?」

マルローネはしばらく考えて、思い出せた名前を呼ぶ。

珍しい名前だとは思うけれど、異国の人なら、馴染みの無い感じになるものだろう。

「ああ……お前の名前は……聞いたか?」

男は少し振り向いて、また前に顔を戻す。

「あなたは私の名前を尋ねてないわ。マルローネよ。マリーって呼んで貰える?」

マルローネは言う。

「そうだったか。マリー……どこかで聞いたような名前だ。お前じゃないが、同じ名前で呼ばれているヤツと会ったような……」

男はそう話す。また、なんかネジが緩んだような感じのする話し方。

 

少しずつ、大木は近付いて来る。

男は話さずに歩き、マルローネもあまり話しかけないようにした。

人間のカタチをした、人間ではない男。

魂が覚束無い感じで、話し掛ける事が負担になっていそうなものだから、遠慮する事にしたのだ。

 

……錬金釜の中の世界……

元気だったのは、そこから出てきたと思われる青プニだけだったような……

ただ、川の中に街があるとか……

賑わっているようには、思えないけれど。

……少し気が滅入る。

 

少し上り坂になり、また少し強い風が吹いて、マルローネは身体を閉じる。

……少し寒いのが強くなったような……

歩く足に力を込めたりしてみる。

動いているのに、身体が熱くなる感じがしないのは、ハダカに風を受けているからかも知れない。

そんな事を思いながら、そんな坂の終わり。

 

広い川に、大木が見える場所。

大木の生えている地面まで見下ろせる場所に来ると、目指している大木が、思った以上の大木であることが判る。

常識外れな高さ、太さなのだ。

更に自由に枝分かれしていて、今まで見た事の無い木である事も判る。

かなり幅の広すぎる……川も見えるようになって来た。

水の匂い、みたいなものはなく、あまり流れているようにも見えないけれど……

 

「ワフール、意識はしっかりしてる?」

マルローネは、男に声を掛ける。

「……ああ、大丈夫だ。……意識?」

ダメそうな返事が返って来た。

「そんなんじゃ、緑プニの仲間入りするわよ?イイ女が声を掛けてるんだから、しっかりしなよ?」

マルローネは足早に、男の前に出る。そして振り返る。

相変わらずの、表情の無い顔。

目玉が緑プニの男。

……全裸の金髪美少女を前にしても、この感じは全く変わらないという事か。

それでも、男はマルローネの足に顔を向けて、かくっ、と顔にその顔を向ける。

不自然な首の動き。

 

「スタイルには自信があるし、みんな褒めてくれるのよ?どう?」

マルローネはポーズを取る。

歩き続ける男に合わせて、ステップを踏む。

なかなか滑稽な全裸ダンスをしている訳なのだけど、男は笑ったりはしない。

「娘が……居たんだ……お前のせいで思い出せた」

男は怪しく呟きながら、マルローネに手を伸ばす。

マルローネはその手を取ると、小脇に抱えた。

「娘さん、何て名前なの?」

男を励ますように声を掛ける。

マルローネは冷たい手を小脇に抱えて、大木に向かって歩く。

「娘さん、何て名前なの?」

もう1度声を掛ける。

「いや……いいんだ。とっくの昔に……奪われたんだ……俺は……1人に……」

マルローネは、小脇に抱えた冷たい手に、反対の手のひらも重ねる。

「迎えに来たなら迎えに来たで、しっかりしてよ!」

そして、男を引っ張って歩く。

……男は歩くには歩いているのだけど。

 

そんな2人に風が吹く。

動いて温まる目論見もあったマルローネだけれど、寒さが強くなって来たのを感じる。

日が傾いてる……

このまま夜になれば、結構な寒さに震える事になりそうだ。

……動いても温まらない違和感。

それなりに近付いている、大木へと急ぐ。

「ちんこ……」

男が話す。

「何?ちんこに反応でもあったの?」

マルローネは、男に振り向く。

「ふふ……ただの強がりだ……」

男は顔を上げる。

「……どういう強がりよ……でもそれでもいいわ。今は強がってて」

心なしか、引っ張ってる身体が、ラクになるような感覚がする。

 

「エローネがな……株を4つ……煮てくれたんだ……俺は株の葉が嫌いでな……」

なんか男は、途切れ途切れに話す。

足取りもしっかりしてきた。

大木に向かって、2人は進んでゆく。

……エローネ……奥さんの名前かしら?

マルローネは思う。

 

「肉は、3切れだ……エールは赤いヤツが……最高だった……」

男はまた、思い出したかのように話し出す。

「それで?赤いヤツは飲めたの?」

マルローネは声を掛けて、男の手を抱き締めて歩く。

 

「ヤギだ……ヤギが見えたら行くぞ……必ずヤギが動きを見せる……」

男はまた、思い出したかのように話し出す。

……夢でも見ているのか……

そしてマルローネの声は、届かないみたいだった。

だが、もう大木の側に来た。緑プニだらけの場所で、緑プニが道を作っている。

大木の裏に回り、大木の穴に向かって、その道は出来ている。

 

大木の中は、赤い明かり。

下へと続く階段が螺旋状に続く感じ。

中に入ると、大木の穴は閉じた。

……ここは暖かい。

「ふーっ……」

マルローネは、ため息をつく。

「ここは……?」

男はネジが直ったのか、しっかりと立って辺りを見回す。

「直ったの?ワフール。直ってくれたのは助かるわ。階段を転げ落ちてもらっても、困るものね」

マルローネは男を見る。

男も、マルローネを見た。

「大木の中……か。ここを降りれば、川の中へと出れる。俺はもう空っぽだが、また来れるとは驚きだ」

なんか、やたらとしっかりとした足取りで、階段を降りる。

マルローネも、階段を降りる事にする。

「暖かいのは助かるわ。日が落ちたら寒さで死んでたかも」

大木の中、木の階段……これは素足には少し痛い感じだけれど、あまりにもふわふわサラサラした感覚ばかりだったから、足元がしっかりしてる感じが好ましい。

「ここは暖かいのか……そうした感覚が無くなって、随分経つような気がするな」

男が早く、マルローネを離してしまっている事に気付いたのか、男は足を止める。

 

下から上に、温い風が吹き上がる。

ボオオオォォォ……と控えめに、低い音が鳴る。

この大木と螺旋状の階段が、なんか笛みたいな音を立てるのだろう。

「川の中から、風が上がって来るの?」

マルローネは、足を止めてる男に追いつき、話す。

「そうだろうな。川の中は、水の中ではないから」

男は言う。すっかりネジも戻ったみたいで。

「寒かったから、あの川はよく見れなかったわ。魚とか居るのかしら?」

マルローネは手すりの木を掴み、足元を見て慎重に足を運ぶ。

「居ない。虫も居ない。居るのは、あの緑のコロコロしてるやつらだけだ」

男は答える。

「ハリボテね。この世界は」

マルローネは足を運ぶ。

 

階段が終わり、また木の穴を通ると、空に水の流れがある場所。

「……寒いっ!」

明らかに冷えた空気が流れていて、マルローネは木の穴に戻る。

戻った途端に暖かい。

「そうなのか?俺には分からんからな……」

男は振り向く。

穴の向こう、川の下には、今度は無数の青プニが居て、緑プニと同じように道を開けている。

「これは無理だわ。こんな寒い所をハダカで歩いてたら、すぐに凍えて死んじゃうもの」

マルローネは、階段に腰を降ろす。

「なら、解決する何かがあるかも知れん。探して来る」

男はそう言って、青プニの作る道を行った。

 

1人ぽつんと階段に座るマルローネ。

穴から顔を出してみると、やはり厳しい冷え込みを感じる。

外に近い場所なんかも寒くなりそうなものだけど、穴を境に暖かい所はキッチリ暖かい。

……木って暖かいものなのか?

そんな事を思う。

ともかく、今はここで待つしかない。

 

……上の方で、ボオオオォォォ……が鳴ってる。

温い風は、ここよりも更に下から来てる。

階段は続いていない。

ここよりも下には行けないのに、風は上がって来るのだ。

 

……なんでこんな所に居るんだろう……

そう考える。

工房から青プニにそそのかされて、錬金釜に飛び込んで……

まあ、青プニの言う通り、空中遊泳して地上に降りて……

大木に向かって死にそうになって……

今、大木の中。

これから向かう所は、このふざけた世界の都。

おカネの代わりに、股の汁でどーのこーの。

……股の汁ってなんだ?

……喉乾いたな……

「ん〜☆」

マルローネは立ち上がり、身体を伸ばす。

左右に傾ける。

待ってる時間というのは、とかくヒマだ。

 

……まだかな〜?

なんて思いながら、木の穴を見る。

階段に座ったまま覗き見えるのは、青プニの群れぐらいで、その向こうは壁みたいだ。

……川があそこまでの幅なのだろう。

ものの5分で戻る……とも考えづらい。

途中でネジが外れてたら……1つ眠ったりしてから考えるか……

……喉乾いた……お腹も減った……

 

ヒマだとお腹減るよな〜……なんて思う。

足を開いて自分の股を見る。

赤い産毛がちょろちょろして、縦に割れる口がある。

……赤いのは、ここの空間が赤いからか。確か金色だった筈だ。

恐らく、縦に割れる口ってのは、皆そうなんだろう。

金髪ならここも金色……と、みんな髪の色と揃ってるものなのだろうか?

……シアは揃ってるんだよな……

って事は……武器屋のハゲルは、ここもハゲなんだろうか?

「ぷふっ……」

1人で下らない事を考えて、1人で吹き出す。

1人でヒマしてると、ロクな事をしないもんだ。

 

……まだヒマだ……

男はネジを飛ばさずに、何かしら行動が出来てるのだろうか?

マルローネは、なんとなく全裸待機なのだから……と、お尻の穴も見てみようかと試みる。

……!

そして背中を丸めてから、ハッと気付く。

ネコって1人でヒマだから、こんな事をしてるのか……!?

閃いて、顔を上げる。

顔を上げると、木の穴から覗いて見える、何を考えてるか分からない青プニの群れが見えるだけだ。

 

「はぁ〜……」

ため息をつく。

いつまで待つのかは、計り知れない。

ネコ繋がりで、足で頬を掻くという荒業にチャレンジしてみる。

さすがに無理だった。あまりにも無理だこれ。

穴から手を伸ばす。

ものの見事に、穴から出た所だけ寒い。

寒さは、更に厳しくなっているように思う。

温い風は、時折吹き上がる。

足を開き、空を仰ぎ見るポーズで、その風を迎える。

……1人だと、本当にロクな事をしない。

 

そんなこんなで、うとうととし出して……

階段に座り、なんか眠る。

 

 

……どのくらい眠ったのか。

ほんの少しなのか、結構眠ったのか……

マルローネは目を覚ます。

……相変わらずの階段に、木の穴。

穴から覗き見える青プニの群れ。

男はまだ来ていない。

……ほんの少しの時間しか経っていないのか……

……ネジが外れて、さまよっているのか……

穴の外は、相変わらずの寒さだ。

 

階段じゃない所は、それなりの広さをしている。

もういっそ、その場所にうつ伏せに寝てみる。

地面はサラサラなので、まあ、寝れる。

そして本格的に寝る。

 

 

「待たせた。商人を連れて来たぞ」

男の声に、マルローネは目を覚ます。

緑の髪のオールバック、ワフールの隣には、黒髪の若い男が立っている。

目が穴だ……なのに瞼とかは、しっかりしてる。

これまた全裸で、下の毛も黒い。

髪と下の毛同じ色説……と思ったが、ワフールが髪は緑、下は黒い。

人それぞれなのか……上から緑プニに変化しつつあるのか……と考えてみたり。

 

「支払いから、してもらうかな。どれだけ血に価値があるのか分からないと、計算も立たないからな」

黒髪の商人は言い、マルローネから離れる。

木の穴から覗き見ると、大きな荷物を背負う大蛇が居て、その大蛇と目が合う。

つぶらな瞳が可愛いけど、デカい。頭だけでマルローネの全身ぐらいのサイズだ。

そんな荷物から、小さい青プニを出して来た。

……手のひらサイズだ……

 

「……股の汁を取るやつ?」

マルローネは後ずさりする。

……股に食いつかれる……のだろう。きっと。

「そうだ。1ついっぱいになると、コイツは離れる。それでまあ、1つ分という事だな」

黒髪の商人は、マルローネに小さい青プニを手渡す。

マルローネは、それを受け取る。

……少し冷たい青プニ……自分でやるのか……

思いつつも、階段に座り、足を開いて青プニを股に付ける。

付けるとすぐに、青プニは股の口を押し広げて、そしてすぐに離れた。

そんなほんのちょっとの事なのに、マルローネの身体はびくん、と大袈裟に震えた。

……思わず声に出る所だった。

……やはり、こんな所は弱点なんだろう。

 

ともかく、小さい青プニはぽんぽんと跳ねて、黒髪の商人に戻る。

「ええ〜!?臭くて却下みたいな話!?」

そんな青プニの行動に、マルローネはショックを受ける。

黒髪の商人は跳ねて戻る青プニを拾い上げて、大蛇の荷物に戻る。

 

……なんかフォローとかしてくれないかなあ……

マルローネは思う。

……でもこんな所、誰のでも臭いとは思うんだけど……

……てか、そんな物を通貨にしてるのがオカシイし……

……青プニって匂いとか判るのか?……

そして黒髪の商人が、思い悩むマルローネの元へと戻って来た。

「価値が高すぎるようだ。こんなケチな商人の手に負える価値ではない。出来る限りのフォローをしよう。望むものはなんだ?」

黒髪の商人は、そう話すとマルローネを見る。

……目が穴だけど……

「……喉が渇いたわ。あと、お腹も減ったし」

望むもの……そんな事を伝えてみる。

「お安い御用だ。この場所だと……」

黒髪の商人はまた荷物へと戻る。

 

「価値が高いの?……まあ、却下じゃなくて助かったのかしらね」

マルローネは、ワフールを見る。

「結構、吸い取られた記憶がある。あまりにも短時間で驚いたな」

ワフールは平常心で話す。

……驚いた感じはしない。

 

 

 

ワフール・ハイラム

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