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ジグザール王国の首都、ザールブルグ。
ここには1件の工房がある。
……350年程前から工房の姿をした、悪魔の釜がある。
毎年、1人の人間を生贄として捧げ、その代わりにその釜は、首都、ザールブルグを魔物から守ると言われている。
実際に、捧げなかった年には魔物の侵入が多く確認されており、誰にも知られる事なく、秘密裏に1人、この釜に放り込まれる。
また、魔力を発生させる釜でもあり、生贄を捧げた年は、魔力を用いて道具を作る、「錬金術」もこのザールブルグにおいて捗る事となった。
人々は錬金術に勤しみ、アカデミーを作り、そうしてザールブルグは賑やかな都市となっていった。
田舎から、アカデミーに人が集まり、いつしかそこのアカデミーの成績最下位の者が工房へと入る慣わしとなった。
そして今年8月、アカデミー創立以来最低という、ぶっ壊れた成績を残したマルローネという女が、工房送りとなった。
「え?こんな良い服、くれるんですか?」
そんな事を知らないマルローネは、いつになく優しいイングリド先生に明るい笑顔を向ける。
頭には、派手な玉を左右にあしらった帽子。
なんかエロく胸元の空いた布面積が少ないながらも、オシャレなシャツ、それでいて荘厳な感じもするコート(ド派手な袖!)
スポーティーなスパッツに、コートに合わせた前隠し……
「マルローネ、あなたはもういっそカタチから入ったら、きっと成績も上がるわ。この上に更にあの封印された工房を与えるわ」
イングリド先生は優しくマルローネに伝える。
死地に向かわせる者への、せめてもの優しさである。
なんか豪華な夕飯まで、アカデミーの秘密の食事部屋でご馳走になり、すっかり暗くなってしまった。
そうして……
特に噂も流れる事の無い、封印されし工房の鍵を受け取り、マルローネはイングリド先生に案内されて、工房へと入る。
「すっかり遅くなったわね……ベッドもあるし、手入れもされてる工房だから、ゆっくり休んでから、また頑張りなさい。私は帰るわね」
イングリド先生は工房に入る事なく、帰って行った。少しお酒が過ぎたのか、心なしふらついているような足取りを、マルローネは見送る。
「私も、もう寝る時間かなぁ……」
マルローネは工房のドアをパタンと閉める。
カチャッ、と勝手に鍵の掛かる音がした。
「………………?」
マルローネは振り返り、ドアを開けようと試みる。
ガチャガチャ……開かない。
「え?何?なんで……?」
部屋は赤い明かりが照らし、マルローネはそんな明かりに照らされたドアを見て、そして振り返る。
……部屋には巨大な錬金釜……
この部屋、あとはオマケみたいな感じで、中央に巨大な錬金釜が鎮座している。
この部屋の30%くらいかと思うけれど、中央にあるのだから、ほぼほぼこの釜の為の部屋、建物みたいな感じなのだ。
かっ……
釜の中から何者かが出てこようとしているのか、手が現れると、釜のフチを掴んだ。
「うぎゃあああああああ!!」
マルローネは叫び、飛び退くように後ずさりすると、ドアに背中と後頭部を強打して、気を失って倒れた。
「きゅううぅ……」
……目を覚ますと、見慣れない天井が見える。
ベッドに横になっているみたいで、マルローネは目を覚ました。
……やはりなんか、赤い景色。
「……ん?」
ハダカで仰向けに寝ていて、なんか青プニが乗っかっていて、その青プニは寝ている。
……どういう状況なのか。
……ぺちぺち。
とりあえず、青プニのほっぺたを叩いてみる。
「……んあ?」
青プニは目を覚ます。
「うわあ!魔物が目覚めた!」
自分で起こしておきながら、マルローネは驚き、飛び起きて素早く距離を取る。
青プニは転げて落ちた。
「……痛たたた……」
転げて逆さまになった青プニは、落ち着いてころん、と回転すると、下が下になった。
「喋るプニ?」
ハダカで、戦う構えのマルローネが言う。
「プニの姿をしているだけで、プニじゃないよ。僕はこの国の魔力となっている生き物だよ。人間の姿だと、気を失うくらい驚くみたいだから、こうしてプニの姿にしたんだけど」
青プニは、縦に伸びたり縮んだりしながら、そう話す。
話す時は、そういう動きになるのか……
マルローネは、そう思いながら話を聞いた。
「人間の姿もあるの?」
そう、尋ねてみる。
「あるよ。と、いうか中に入ってくれると話が早いんだよね」
青プニはそう言うと、錬金釜の方を向く。
……静かに鎮座する錬金釜は、相変わらずデカい。そして、階段が釜の入り口くらいまで伸びている。
「錬金釜の中に入るの?」
マルローネは尋ねる。
へっぽこ錬金術士として2年くらいアカデミーに在籍しているけれど、錬金釜の中に自分が入るなんて言うのは、聞いた事もない。
「僕の中に入れるよ。食事なんかも取れて、暫くはマルローネの話を聞こうかな。色々と為になる話とか、ありそうだもんね」
青プニは言う。
「ところで、ハダカじゃないとダメなの?貰った服、お気に入りなんだけど」
マルローネは、ベッドの壁に掛かっている衣装を見る。
イングリド先生に貰った、なんかオシャレ錬金術士っぽい衣装。
「着てもいいけど、布は、汚れちゃうよ?」
青プニは言う。
「ふーん。じゃあ、しょうがないか……」
マルローネは階段に足を乗せる。
巨大錬金釜の口へと続く階段……
巨大錬金釜の口には、虹色に輝く水面。
見慣れた水面ではある。
……少し手を入れてみる。
別に沸かしてる訳でもないから、今居る場所と、あまり変わりがない感覚。
水の中、という感じでもない。
「中に入ると、空を飛ぶ……みたいな感じになるよ」
青プニが、そう話す。
「空を!?それはちょっと飛んでみたいかも」
マルローネは目を輝かせる。
そして、大胆に錬金釜に飛び込んだ。
虹色の境界線を抜けると、少し落下して、そんな落下が一気に緩む。
「うおおぉ……!」
マルローネは下に目を向ける。
一面緑の地面に、木々が生い茂る平原。
幾筋も通る川。
錬金釜の中……「僕の中」……
全く別の世界が広がるのはいいのだけど、マルローネの住んでいた田舎よりも更に田舎……というか未開拓地だ。
都会に憧れてザールブルグに来て、都会の暮らしを満喫して約2年……
何が悲しくて、未開拓地に来なければならないのかと思うと……
マルローネはため息を吐く。
そんなこんな思いを巡らせても、まだ地面は遠い。
……これ、戻れるのだろうか。
目を輝かせるには充分な空中遊泳……
地上はまだ遠い……
マルローネは上を見上げてもみる。
空が広がっていて、どこがあの錬金釜の口だったのかは、もはや分からない。
……色んなポーズをとってみる。
足も自由に、手も自由に動かせるし、何も着てない、何も持ってない状態なのだから、身軽だ。
……30分程経っただろうか。
まだ地上は遠い。
これ、ゆっくり過ぎるんじゃないだろうか……
景色が近付いた感覚もない。
「おーい」
遠くから声が聞こえて、マルローネは、そちらを見る。
……少し上の方?
下ばかり見ていたから、死角から訪れる声。
そちらを見ると、緑色の髪をオールバックに決めた男の人が近付いてくる。
これも全裸なんだけど、マルローネは身体を閉じて、隠して身構える。
……そういや人間も居るとか……なんか聞いたような……
あの錬金釜の内側から手を掛けたのは、コイツなのかも……
そんな事を思いながらも、ソイツを見る。
緑の髪のそいつは、結構なスピードで接近して来た。
「飛ぶのは不慣れだと聞いた。なぜか迎えに行くように言われてな」
男は手を伸ばし、マルローネはその手を取る。
顔を見ると、目の中に緑プニが居る感じなので、なんかハダカを隠すのも、ばからしくなった。
……人間のカタチをしているだけで、明らかに人間ではない。
「あなたは?」
マルローネは尋ねる。
暇だったものだから、話し相手が居るのは有り難い。
「……以前はワフール・ハイラムって名前だった。捕虜となり、この夢のようなクソな世界に閉じ込められている」
緑の男は答える。
「……以前は?」
マルローネは尋ねる。
「……おそらく、俺は死ぬ事も出来ずに、この場所に閉じ込められている。こんないい、若い女のハダカを目にするのは、久しぶりだが、心が何の反応もしない」
男は自分の股間を指す。
もじゃもじゃの股間に埋もれた、しぼんだペニスを見せる。
「……それは寂しいわね。私もそうなるのかしら?」
マルローネは、繋いだ手を握り直す。
……彼は、30を越えたくらいの年だろうか?
「おそらくな。まあ、まずは下に降りるか。まだ腹が減ったり、喉が渇いたりするのだろう?」
男の側からも、繋いだ手を握り直した。
落下は早まり、心地好い風が身体を巻き上げる。
「おお〜……」
……これは気分がいい。
股を抜ける風……脇や乳房を下から上へと抜けていく風。
……なんという開放感か。
地面は近付いて、一面の緑プニの群れが一面に広がっているのが見える。
一面の緑……こいつらなのか……
マルローネは思う。
どんな夢を見てるのか……
夢じゃないのか……
落下はゆっくりになり、地面に足をつける。
辺り一面、緑プニの群れ。緑プニ達はマルローネを眺めている。
1つ1つが膝を超えるくらいの大きさで、凄く草の匂いがしてる。
男と繋いだ手を、マルローネは離した。
「何をするにもカネが必要になる。ここでは、股からの汁がカネになる。遣い果たせば、俺みたいになるかも知れないが、大体はコレになる」
男はそう言うと、一面の緑プニを示し、そして股間に手をやる。
「……股からの汁?なんでそんなものが?」
マルローネも真似をして、股に手をやる。
「血なんだそうだ。股からの汁が出なくなれば、血を求められる。血を抜かれると、ああなる」
男は辺りの緑プニを示し、そして遠くを指差した。
その指先を見ると、一際、大きな木が見える。
「お店みたいなのは、見当たらないけれど?」
マルローネは尋ねる。
カネが血だか汁だかはともかく、そうした取引をしそうな場所は見当たらない。
「街は川の中にある」
男はそう話す。
「なのに、なんで川から離れた所に着地したの?」
マルローネはジト目を向ける。
「さあな。なんとなく、そうしたかったのは、お前さんがイイ女だったからかも知れん」
男は少し笑ったような表情をした……ような。
「褒められるのは嬉しいけれど、謎すぎるわ……」
マルローネは、男の後ろを歩き出す。
「それは冗談でな。ここ辺りに着地するようになっているんだ」
歩き出した男は、少し横を向いて、そう言う。
緑プニ達は道を開けて、2人は歩き出す。
結構、遠くに見える大木へと向けて。
「ところで、イイ女に何か質問とかある?」
黙って歩くのも何だし、マルローネは聞いてみる。
「ここは暑いか?俺にはもう、暑いのか寒いのか、それすら感じない」
男は尋ねる。
「イイ女じゃなくても、暑いか寒いかなんて、分かりそうなものですけれど?まあ、ほんの少し寒いのかしら。丁度いい感じね。ここは」
マルローネは答える。
裸足に土……なんて思うも、サラサラとした感触がひたすら続く。
生えまくってる草も、ふわふわしているし……
そして緑プニ達はあちらこちらを見ていて、顔の見えるヤツも居るけれど、何を考えているのかは伺い知れない。
「イイ女への質問は、それだけなの?」
会話が途切れて、マルローネはそう聞いた。
「川に近付くとな、朧気な頭が、更に朧気になる。俺もそのうち、コイツらの一員……という事になるんだろう」
男は、そう話す。
なんか、急に弱気になった。
「いつもは何をしているの?ただぼーっとしてるだけだと、コイツらの一員になる〜って事なのかも?」
マルローネは話す。
そして、田舎の家族を思い出す。
田舎の、ぼーっとした暮らし。
この場所も、何をするでもなく過ごすより他に無さそうだ。
男は考えているのか、会話は途切れて歩く。
……少し強い風が吹いて、少し寒く思う。
風は吹き去り、また穏やかな風に戻る。
「ちょっと?しっかりしてよ!」
マルローネは、男の背中に身体をくっつける。豊満な胸が腕にくっつき、マルローネが驚いて胸を離す。
「お?おお……しっかりしないとな。お前の出迎えが、ここに来て初めて、求められた仕事だからな」
男は、マルローネの方に振り向く。
「誰に求められたの?」
マルローネは男の腕を掴んだまま、尋ねる。
「空から声がした。このクソな世界の神を気取った奴なんだろう」
男は顔を前に戻して答える。
そして緑プニ達が開けていく道を歩き続ける。
「あなたは、緑プニになってないわね?何か秘訣でもあるの?」
マルローネは男に尋ねる。
「さあな……素質があると、ここまでで済むとか聞いた事があるが」
男は答える。なんか切れたネジが戻ったみたいな……そんな横顔を見る。
無機質な、つまらなさそうな顔。
「素質?私にも、あるのかしら」
マルローネは、遠くに目指す大木に顔を戻す。
「きっとあるさ。たかが俺だが……出迎えが来るんだから、俺よりも素質ってヤツがあるんだろう」
男は、そう話す。すっかりネジは戻ったみたいで。
「そうなら、緑プニにならずに済むんだけどね」
マルローネは空を見上げる。
事ここに至っては、もう戻る事も叶わないのだろう。
……少なくとも自力では帰れそうにない。
……大木は結構遠い。
一面に広がる緑プニ達は、植物なんじゃないかと思うくらい、動きがない。
進む方向の、道を開ける緑プニだけが、動きを見せるだけだ。
ハダカで歩いているけれど、イヤらしい視線というのは、まるで無い。
……ナイスバデーの金髪美少女が、ハダカで歩いているというのに……
マルローネは辺りを見回しつつ、歩く。
サラサラ感のある地面、少し涼しい風。
それほど悪い気はしない。
「ワフール?」
マルローネはしばらく考えて、思い出せた名前を呼ぶ。
珍しい名前だとは思うけれど、異国の人なら、馴染みの無い感じになるものだろう。
「ああ……お前の名前は……聞いたか?」
男は少し振り向いて、また前に顔を戻す。
「あなたは私の名前を尋ねてないわ。マルローネよ。マリーって呼んで貰える?」
マルローネは言う。
「そうだったか。マリー……どこかで聞いたような名前だ。お前じゃないが、同じ名前で呼ばれているヤツと会ったような……」
男はそう話す。また、なんかネジが緩んだような感じのする話し方。
少しずつ、大木は近付いて来る。
男は話さずに歩き、マルローネもあまり話しかけないようにした。
人間のカタチをした、人間ではない男。
魂が覚束無い感じで、話し掛ける事が負担になっていそうなものだから、遠慮する事にしたのだ。
……錬金釜の中の世界……
元気だったのは、そこから出てきたと思われる青プニだけだったような……
ただ、川の中に街があるとか……
賑わっているようには、思えないけれど。
……少し気が滅入る。
少し上り坂になり、また少し強い風が吹いて、マルローネは身体を閉じる。
……少し寒いのが強くなったような……
歩く足に力を込めたりしてみる。
動いているのに、身体が熱くなる感じがしないのは、ハダカに風を受けているからかも知れない。
そんな事を思いながら、そんな坂の終わり。
広い川に、大木が見える場所。
大木の生えている地面まで見下ろせる場所に来ると、目指している大木が、思った以上の大木であることが判る。
常識外れな高さ、太さなのだ。
更に自由に枝分かれしていて、今まで見た事の無い木である事も判る。
かなり幅の広すぎる……川も見えるようになって来た。
水の匂い、みたいなものはなく、あまり流れているようにも見えないけれど……
「ワフール、意識はしっかりしてる?」
マルローネは、男に声を掛ける。
「……ああ、大丈夫だ。……意識?」
ダメそうな返事が返って来た。
「そんなんじゃ、緑プニの仲間入りするわよ?イイ女が声を掛けてるんだから、しっかりしなよ?」
マルローネは足早に、男の前に出る。そして振り返る。
相変わらずの、表情の無い顔。
目玉が緑プニの男。
……全裸の金髪美少女を前にしても、この感じは全く変わらないという事か。
それでも、男はマルローネの足に顔を向けて、かくっ、と顔にその顔を向ける。
不自然な首の動き。
「スタイルには自信があるし、みんな褒めてくれるのよ?どう?」
マルローネはポーズを取る。
歩き続ける男に合わせて、ステップを踏む。
なかなか滑稽な全裸ダンスをしている訳なのだけど、男は笑ったりはしない。
「娘が……居たんだ……お前のせいで思い出せた」
男は怪しく呟きながら、マルローネに手を伸ばす。
マルローネはその手を取ると、小脇に抱えた。
「娘さん、何て名前なの?」
男を励ますように声を掛ける。
マルローネは冷たい手を小脇に抱えて、大木に向かって歩く。
「娘さん、何て名前なの?」
もう1度声を掛ける。
「いや……いいんだ。とっくの昔に……奪われたんだ……俺は……1人に……」
マルローネは、小脇に抱えた冷たい手に、反対の手のひらも重ねる。
「迎えに来たなら迎えに来たで、しっかりしてよ!」
そして、男を引っ張って歩く。
……男は歩くには歩いているのだけど。
そんな2人に風が吹く。
動いて温まる目論見もあったマルローネだけれど、寒さが強くなって来たのを感じる。
日が傾いてる……
このまま夜になれば、結構な寒さに震える事になりそうだ。
……動いても温まらない違和感。
それなりに近付いている、大木へと急ぐ。
「ちんこ……」
男が話す。
「何?ちんこに反応でもあったの?」
マルローネは、男に振り向く。
「ふふ……ただの強がりだ……」
男は顔を上げる。
「……どういう強がりよ……でもそれでもいいわ。今は強がってて」
心なしか、引っ張ってる身体が、ラクになるような感覚がする。
「エローネがな……株を4つ……煮てくれたんだ……俺は株の葉が嫌いでな……」
なんか男は、途切れ途切れに話す。
足取りもしっかりしてきた。
大木に向かって、2人は進んでゆく。
……エローネ……奥さんの名前かしら?
マルローネは思う。
「肉は、3切れだ……エールは赤いヤツが……最高だった……」
男はまた、思い出したかのように話し出す。
「それで?赤いヤツは飲めたの?」
マルローネは声を掛けて、男の手を抱き締めて歩く。
「ヤギだ……ヤギが見えたら行くぞ……必ずヤギが動きを見せる……」
男はまた、思い出したかのように話し出す。
……夢でも見ているのか……
そしてマルローネの声は、届かないみたいだった。
だが、もう大木の側に来た。緑プニだらけの場所で、緑プニが道を作っている。
大木の裏に回り、大木の穴に向かって、その道は出来ている。
大木の中は、赤い明かり。
下へと続く階段が螺旋状に続く感じ。
中に入ると、大木の穴は閉じた。
……ここは暖かい。
「ふーっ……」
マルローネは、ため息をつく。
「ここは……?」
男はネジが直ったのか、しっかりと立って辺りを見回す。
「直ったの?ワフール。直ってくれたのは助かるわ。階段を転げ落ちてもらっても、困るものね」
マルローネは男を見る。
男も、マルローネを見た。
「大木の中……か。ここを降りれば、川の中へと出れる。俺はもう空っぽだが、また来れるとは驚きだ」
なんか、やたらとしっかりとした足取りで、階段を降りる。
マルローネも、階段を降りる事にする。
「暖かいのは助かるわ。日が落ちたら寒さで死んでたかも」
大木の中、木の階段……これは素足には少し痛い感じだけれど、あまりにもふわふわサラサラした感覚ばかりだったから、足元がしっかりしてる感じが好ましい。
「ここは暖かいのか……そうした感覚が無くなって、随分経つような気がするな」
男が早く、マルローネを離してしまっている事に気付いたのか、男は足を止める。
下から上に、温い風が吹き上がる。
ボオオオォォォ……と控えめに、低い音が鳴る。
この大木と螺旋状の階段が、なんか笛みたいな音を立てるのだろう。
「川の中から、風が上がって来るの?」
マルローネは、足を止めてる男に追いつき、話す。
「そうだろうな。川の中は、水の中ではないから」
男は言う。すっかりネジも戻ったみたいで。
「寒かったから、あの川はよく見れなかったわ。魚とか居るのかしら?」
マルローネは手すりの木を掴み、足元を見て慎重に足を運ぶ。
「居ない。虫も居ない。居るのは、あの緑のコロコロしてるやつらだけだ」
男は答える。
「ハリボテね。この世界は」
マルローネは足を運ぶ。
階段が終わり、また木の穴を通ると、空に水の流れがある場所。
「……寒いっ!」
明らかに冷えた空気が流れていて、マルローネは木の穴に戻る。
戻った途端に暖かい。
「そうなのか?俺には分からんからな……」
男は振り向く。
穴の向こう、川の下には、今度は無数の青プニが居て、緑プニと同じように道を開けている。
「これは無理だわ。こんな寒い所をハダカで歩いてたら、すぐに凍えて死んじゃうもの」
マルローネは、階段に腰を降ろす。
「なら、解決する何かがあるかも知れん。探して来る」
男はそう言って、青プニの作る道を行った。
1人ぽつんと階段に座るマルローネ。
穴から顔を出してみると、やはり厳しい冷え込みを感じる。
外に近い場所なんかも寒くなりそうなものだけど、穴を境に暖かい所はキッチリ暖かい。
……木って暖かいものなのか?
そんな事を思う。
ともかく、今はここで待つしかない。
……上の方で、ボオオオォォォ……が鳴ってる。
温い風は、ここよりも更に下から来てる。
階段は続いていない。
ここよりも下には行けないのに、風は上がって来るのだ。
……なんでこんな所に居るんだろう……
そう考える。
工房から青プニにそそのかされて、錬金釜に飛び込んで……
まあ、青プニの言う通り、空中遊泳して地上に降りて……
大木に向かって死にそうになって……
今、大木の中。
これから向かう所は、このふざけた世界の都。
おカネの代わりに、股の汁でどーのこーの。
……股の汁ってなんだ?
……喉乾いたな……
「ん〜☆」
マルローネは立ち上がり、身体を伸ばす。
左右に傾ける。
待ってる時間というのは、とかくヒマだ。
……まだかな〜?
なんて思いながら、木の穴を見る。
階段に座ったまま覗き見えるのは、青プニの群れぐらいで、その向こうは壁みたいだ。
……川があそこまでの幅なのだろう。
ものの5分で戻る……とも考えづらい。
途中でネジが外れてたら……1つ眠ったりしてから考えるか……
……喉乾いた……お腹も減った……
ヒマだとお腹減るよな〜……なんて思う。
足を開いて自分の股を見る。
赤い産毛がちょろちょろして、縦に割れる口がある。
……赤いのは、ここの空間が赤いからか。確か金色だった筈だ。
恐らく、縦に割れる口ってのは、皆そうなんだろう。
金髪ならここも金色……と、みんな髪の色と揃ってるものなのだろうか?
……シアは揃ってるんだよな……
って事は……武器屋のハゲルは、ここもハゲなんだろうか?
「ぷふっ……」
1人で下らない事を考えて、1人で吹き出す。
1人でヒマしてると、ロクな事をしないもんだ。
……まだヒマだ……
男はネジを飛ばさずに、何かしら行動が出来てるのだろうか?
マルローネは、なんとなく全裸待機なのだから……と、お尻の穴も見てみようかと試みる。
……!
そして背中を丸めてから、ハッと気付く。
ネコって1人でヒマだから、こんな事をしてるのか……!?
閃いて、顔を上げる。
顔を上げると、木の穴から覗いて見える、何を考えてるか分からない青プニの群れが見えるだけだ。
「はぁ〜……」
ため息をつく。
いつまで待つのかは、計り知れない。
ネコ繋がりで、足で頬を掻くという荒業にチャレンジしてみる。
さすがに無理だった。あまりにも無理だこれ。
穴から手を伸ばす。
ものの見事に、穴から出た所だけ寒い。
寒さは、更に厳しくなっているように思う。
温い風は、時折吹き上がる。
足を開き、空を仰ぎ見るポーズで、その風を迎える。
……1人だと、本当にロクな事をしない。
そんなこんなで、うとうととし出して……
階段に座り、なんか眠る。
……どのくらい眠ったのか。
ほんの少しなのか、結構眠ったのか……
マルローネは目を覚ます。
……相変わらずの階段に、木の穴。
穴から覗き見える青プニの群れ。
男はまだ来ていない。
……ほんの少しの時間しか経っていないのか……
……ネジが外れて、さまよっているのか……
穴の外は、相変わらずの寒さだ。
階段じゃない所は、それなりの広さをしている。
もういっそ、その場所にうつ伏せに寝てみる。
地面はサラサラなので、まあ、寝れる。
そして本格的に寝る。
「待たせた。商人を連れて来たぞ」
男の声に、マルローネは目を覚ます。
緑の髪のオールバック、ワフールの隣には、黒髪の若い男が立っている。
目が穴だ……なのに瞼とかは、しっかりしてる。
これまた全裸で、下の毛も黒い。
髪と下の毛同じ色説……と思ったが、ワフールが髪は緑、下は黒い。
人それぞれなのか……上から緑プニに変化しつつあるのか……と考えてみたり。
「支払いから、してもらうかな。どれだけ血に価値があるのか分からないと、計算も立たないからな」
黒髪の商人は言い、マルローネから離れる。
木の穴から覗き見ると、大きな荷物を背負う大蛇が居て、その大蛇と目が合う。
つぶらな瞳が可愛いけど、デカい。頭だけでマルローネの全身ぐらいのサイズだ。
そんな荷物から、小さい青プニを出して来た。
……手のひらサイズだ……
「……股の汁を取るやつ?」
マルローネは後ずさりする。
……股に食いつかれる……のだろう。きっと。
「そうだ。1ついっぱいになると、コイツは離れる。それでまあ、1つ分という事だな」
黒髪の商人は、マルローネに小さい青プニを手渡す。
マルローネは、それを受け取る。
……少し冷たい青プニ……自分でやるのか……
思いつつも、階段に座り、足を開いて青プニを股に付ける。
付けるとすぐに、青プニは股の口を押し広げて、そしてすぐに離れた。
そんなほんのちょっとの事なのに、マルローネの身体はびくん、と大袈裟に震えた。
……思わず声に出る所だった。
……やはり、こんな所は弱点なんだろう。
ともかく、小さい青プニはぽんぽんと跳ねて、黒髪の商人に戻る。
「ええ〜!?臭くて却下みたいな話!?」
そんな青プニの行動に、マルローネはショックを受ける。
黒髪の商人は跳ねて戻る青プニを拾い上げて、大蛇の荷物に戻る。
……なんかフォローとかしてくれないかなあ……
マルローネは思う。
……でもこんな所、誰のでも臭いとは思うんだけど……
……てか、そんな物を通貨にしてるのがオカシイし……
……青プニって匂いとか判るのか?……
そして黒髪の商人が、思い悩むマルローネの元へと戻って来た。
「価値が高すぎるようだ。こんなケチな商人の手に負える価値ではない。出来る限りのフォローをしよう。望むものはなんだ?」
黒髪の商人は、そう話すとマルローネを見る。
……目が穴だけど……
「……喉が渇いたわ。あと、お腹も減ったし」
望むもの……そんな事を伝えてみる。
「お安い御用だ。この場所だと……」
黒髪の商人はまた荷物へと戻る。
「価値が高いの?……まあ、却下じゃなくて助かったのかしらね」
マルローネは、ワフールを見る。
「結構、吸い取られた記憶がある。あまりにも短時間で驚いたな」
ワフールは平常心で話す。
……驚いた感じはしない。
ワフール・ハイラム