10
……夜。
お決まりのディナータイムから、マルローネはアトリエへと帰る。
今日も充実の1日となったし、満足な帰り道。
アトリエが見えるか見えないかの所から、アトリエ前に何者かが居る事が分かる。
夜だから、暗い。
この辺りは街の出入り口への道でもあるので、灯火台が幾つも並んでいたりする。
けれど、充分に暗い。
だから、何者かが居る事は分かるのだけど、全く見えない。
……今までに無かった、不思議な感覚。
アトリエに近づくと、それがクライスという、変な髪型メガネの、イングリド先生の手先である事が分かった。
……少し気分が曇るマルローネ。
そしてアトリエの前へと辿り着くと、足を止める。
「な、何か用かしら?」
考えたら、錬金術を教えてくれるとか、食べ物を作る研究をしてるとか、別に悪く思う必要はないよな……と、思い直す。
「待った!ちょっとやり直す!……何か用かしら?」
マルローネは、なんか謎にやり直す。
ちょっとだけエレガントにしてみた。
「……な、やり直した割には、違いが分かりませんでしたが……こんな夜に押し掛けて、失礼なのは承知なのですが……実は貴女にお願いがありまして……」
クライスは頭を掻き、ぎこちなく話し出す。
内容としては、マルローネがマナの柱の加護を受けた事で、アカデミーから冒険者を雇う費用を出して貰えるようになる……との事で、そこで外へと出る際に、クライスも同行したい……という話だった。
クライスも貧乏学生……
成績が良かった所で、冒険者を雇うなんていうのは、お金には縁が無いので、こんな機会に拾って貰わないと、外に出る目も無いのだと言う。
「……アンタ……クライスも大変なのね?成績がいいなら、それで良いもんかと思ったわ」
マルローネは言う。
……今回は、イングリド先生の手先では無かったみたいで。
「成績なんて、学生時代の話で終わりますから。その先がやはり、人生の本番でしょう」
クライスは、メガネに手をやる。
……どこまでも真面目な男みたいだ。
……2人の間に沈黙の時間が流れる。
「……まあ、どのみち、私が冒険者を雇って外に出るなんて先の話なら……明日はハゲルジムに行かない?外の話も聞けるかも?」
少し沈黙があって、マルローネはそう話す。一緒に外に出るなんて言うのであれば、もはやパーティーメンバーだし。
「ハゲルジム……はて……?」
クライスは首を傾げる。
クライスも知らない場所のようだ。
「じゃあ、明日の朝、ここで。案内してあげるわ」
マルローネは言う。
「分かりました。明日の朝、ここに」
クライスは頷き、2人は別れた。
そしてマルローネはアトリエの裏、井戸で汗を流したりして身繕いをすると、眠りに入る。
……朝、マルローネは、いつものように爆睡からズバ起きる。
一体何時なのか……
今までの狭い学生宿舎の癖で、右を見る。
今のアトリエでは、右が部屋になっており、錬金釜と、壁際の机……その間、向こうの暖炉が見える。
左を見れば、すぐに窓……まだ暗い時分。
取り敢えず、朝はすぐに訪れそうな感じではあるので、井戸に行き身繕いをする事にする。
……アトリエを出ると、なんともう、すぐ向かいの木に寄り掛かるクライスが居た。
「はやっ!」
マルローネは驚いて声を上げる。
その声に、クライスは俯いて寝ていたのか、顔を上げた。
「……少し夜遅くまでやる事がありまして……ベッドで寝ると、起きれそうに無くて……」
クライスはそう言いながら、マルローネに歩み寄る。
「そう。じゃあ、ちょっと身繕いするから、もうちょっと寝てて」
マルローネは手のひらを向けて、言う。
そう言われたクライスはまた、さっきの木に寄り掛かる。
身繕いが終わる頃、朝日が周りを照らし出し、爽やかな明るさがやって来る。
マルローネは、クライスと共にハゲルジムへと向かう。
ザールブルグの白い石畳の道。
朝日を受ける、鮮やかな緑の木々の光景……
「……クライス、いつもならこの時間、あなたは何をしてるの?」
マルローネは聞いてみる。
「アカデミーの本に、向き合っている頃でしょうか。もしくは錬金術の実践をしているかも知れません」
クライスは答える。
「はえ~……まあ、成績がいいってゆ〜のは、そういう事よね」
マルローネは感心する。
「貴女は……錬金術を成功させた事が無いんでしたね。1度成功まですれば、錬金術も楽しんで貰えると思いますが……明日にでもチャレンジしてみますか?」
クライスはそう言い、マルローネは振り返る。
「え……でも、優等生に見て貰えば、ひょっとしたらひょっとするかも?」
マルローネはニヤケ笑いのような、苦笑いのような笑顔を見せる。
「マナの柱に選ばれた貴女が、錬金術が出来ないとは、考えづらいですから。何かしら引っかかってる所があるのでしょう」
クライスはメガネに手を掛けて、そう話した。
今日、ハゲルは噴水広場に居なかったけれど、マルローネとクライスはハゲルジムへと行く。
武器屋の4倍規模で、外もあるのだから、もはやザールブルグ名物とも言える。
「建物が、森に隠されているみたいな外観なのですね。貧乏学生にとって、鶏肉とミルクにありつける、というのは有り難い限りですが……」
クライスは言う。
クライスにとっても、やはりデカい特典のようだった。
……ここを知ってしまうと、タベクサ生活に戻れなくなりそうでもある。
「アカデミーの生徒さん、来てる人多いって言ってたけど、知らなかったの?」
マルローネは、不思議に思って聞いてみる。
……特に男の子に人気らしいけれど。
「貴女は、まるで部外者のような口ぶりですね。貴女も生徒の筈ですが」
クライスも、不思議そうに返して来た。
ともかく、ハゲルジムへ。
マルローネは女性用の森エリア、クライスは建物の中……と、別れる。
今日もフリージア先生が居て、お喋りに花を咲かせながら、トレーニングをする。
……鶏肉とミルクの為に。
そしてカエルやネズミを狙う為の服なら、武器屋に売っていたりするみたいだし、マルローネはなけなしのお金を、そこに使う事を決める。
お昼くらいにハゲルジムを出ると、クライスは噴水広場で待っていたようで、合流する。
……合流する必要があるのか、疑問ではあるけれど、目の前に居たのに、スルーする訳にも行かない。
「どのくらい待ったの?」
マルローネは聞いてみる。
「ついさっき、ですよ。確かに通う気持ちの分かる場所でしたね」
クライスは答える。
暑苦しい感じのする先生も、クライスに無理をさせる事は無く、程よくヌルいトレーニングを指導するので、心地好い疲れ……と、言った感じだそうで。
クライスとマルローネは、ハゲルジムの感想と鶏肉とミルクの話、明日の話をして別れた。
マルローネは武器屋へ。
そしてなけなしのお金を、全て使う決意を固める。
ところが……
「嬢ちゃんがマルローネって名前のヤツかぁ?」
ハゲルがそう尋ねる。
「そ、そうよ。嬢ちゃんとしか呼ばれてないから、知らなかったのでしょうけど」
マルローネは最近活躍する学生証を見せると、ハゲルは頷く。
「そうかぁ~……いや、アカデミーの先生から嬢ちゃん専用に、旅の服装を仕立ててくれって言われてな?まあ……革で鎧を作っておけば良さそうだよな?」
ハゲルはそう言うと、いつもの感じでニカッと笑う。
「あの……今欲しい服があるんだけど……」
マルローネはそう言うと、ハゲルは片眉を上げた。
「なんだなんだぁ?それ以上にオシャレな服なんて、この店にはないぞぉ?」
ハゲルは言う。マルローネは、カエルやらネズミやらを捕まえるのに、相応しい服が欲しいと話すと、ハゲルはまた笑顔に戻った。
なんか、マルローネに誂える服の代金は、アカデミーに請求出来るらしく、武器屋にあるそれっぽいサイズの、それっぽい服をマルローネに合わせて、それをくれた。
……なんか、至れり尽くせりになったもので。
まあ、アカデミーの扱いが変わった、アカデミーが、マルローネになら金を払う事を決めた。
と、言うだけの話なんだけど。
「まあ、大したもんじゃないからよ、このオシャレな服も、良ければ預かるぜ?こういうのを磨くのは、俺の趣味みたいなモンだからな!」
そう言うハゲルは、マルローネのオシャレな服も預かってくれると言う。
勿論、預かって貰って、マルローネは武器屋を出る。
少し太めの、膝までのズボンに丈夫な布の服。
革鎧が出来た際には、そのインナーとして着れるという服で、ダムへと向かう。
……この日は、シアは居なくてガッカリするけれど、釣り人達は居た。
「おうマリー。今日はシアちゃんはご隠居様と、ウルフ亭に行くらしいから、見掛けたら声を掛けてくれって言われたよ」
騎士団のお兄さん、エグルドレイブは言う。
「ウルフ亭〜!?でも、声を掛けてくれって事は……チャンスだね!」
せっかくのマルローネ専用の網は、今日も出番が無いようだ。
「そうだな。肉にありついて来いよ〜」
エグルドレイブに手を振られ、マルローネは噴水広場へと戻って行った。
網から手ぶらになり、マルローネは錬金術衣装に戻す為に武器屋へ。
そして錬金術衣装になると、釣り人衣装を仕舞う為にアトリエへ。
なんか、忙しくなって来たもので。
そして、アトリエ近くに見慣れない青い鎧、黒髪長髪の男の人と、シアが居た。
「探したのよマリー。今日はエンデルク様を護衛に、ウルフ亭に行くから、是非お友達も、ってシューマッハーが言うから」
シアは胸の前で指を絡めて、マルローネにそう話す。
「行く行く!エンデルク様ってゆ〜のは……」
マルローネは、黒髪長髪の男の人を見る。
なんか騎士団の偉い人……的なオーラを感じるし、鎧なんかもピッカピカだ……
「なんと可愛らしい娘さんが2人も……!本日は私も休暇……ご隠居様の警護も兼ねて、少し羽を伸ばそうと思った次第。よろしく頼む」
そう言って、エンデルクはぎこちない笑顔を見せた。
……またも街の出入り口。
つい一昨日、イングリド先生とドルニエ校長と一緒に歩いた道を、もう1度歩く。
エンデルク様、というのはどうやら俗称で、女性の憧れの的……みたいな感じで呼ばれるのだけど……
エンデルク本人は、剣の修行に余念がない生活をしているらしい。
道中も、あまりマルローネにもシアにも話し掛けて来る……みたいな事は無い。
話し掛けると、ちゃんと答えてくれるんだけど。
健脚でスタスタ歩く、ご隠居様との会話が弾み、シアもマルローネも、ご隠居様の両脇を固めて歩いた。
……そんな中、マルローネはふと、横を見る。
道路脇の奥で、キツネがふっ、と逃げる。
「なんでか、居る感じがしたら、キツネが居た」
マルローネは呟く。
「最近、マリーが鋭いのよね。前なんて目の前の大きいカエルに気付かないで、遠くばっかり探していたりしたのに」
シアが、そんな呟きを拾う。
「ならば、獲物に困る日も、減ったのかね?」
ご隠居様、シューマッハーが話す。
「これがね〜……鋭くなったと思ったら、ちょっと出番無くなっちゃってるんだよね〜……」
一行はウルフ亭への歩みを進める。
「……よくあのキツネに気付けたものだ……」
3人からは少し離れて、エンデルクは呟く。
そんな呟きに、マルローネは振り返り、エンデルクを見た。
「んなっ……」
聞こえる筈も無さそうだったが、ふとした呟きに気付かれて、エンデルクは怯む。
マルローネはまた前を向いて、ご隠居様と3人での会話に戻り、歩き続ける。
ウルフ亭に到着し、待望のお食事タイム。
この日の大テーブルも賑わっていて、シアとシューマッハーと、シューマッハーの知り合いのおじさん軍団が固まり、エンデルクとマルローネは冒険者集団テーブルへ。
「あっ!」
いつぞや、闇の宿屋通りに連れ込まれそうになった男が、冒険者として、同席している。
10人、10人が向かい合う大テーブルなので、そういう事もあるのか。
……まだまだ狭い世界である。
「おっ!?」
斜向かいの冒険者の男も気付く。
気付くと、ジョッキをマルローネに向けた。
「お嬢さん、エンデルク様の隣とはラッキーだな!」
少しジョッキを上げて、マルローネに笑みを向けると、隣の冒険者へと顔を戻す。
……気付いた訳でも思い出した訳でも無かったみたいで。
大テーブルに大皿に乗せられてやって来る、焼いた肉料理。
マルローネのジレンマとしては、これを切り分けるのが慣れていない事だ。
その隣で、エンデルクが鮮やかなナイフ捌きで肉を切り分けている。
マルローネは、そのお手本を見て真似てみたり。
ここの冒険者は、このお肉の切り分けが上手いものだけど、エンデルクのナイフ捌きが別格だった。
なんか、少し盛り上がりに欠ける冒険者テーブル。
なんでも、今日この日にウォルフ王が出て、2人の冒険者が犠牲となった話が、漏れ聞こえて来る。
隣のエンデルクと冒険者との話なんだけど。
そんな話をしているものだから、エンデルクはマルローネの方を見る事は無かった。
日帰り予定のマルローネとシア、シューマッハーはお泊まりとなり、明日の朝、冒険者と共に帰る事になった。
エンデルク様が、明日の朝からウォルフ王の討伐に行かないと行けなくなったので……という変更だ。
……夜。
ウルフ亭の2階の少し広めの部屋に、シューマッハー、マルローネ、シアと泊まる事に。
この日はお泊まりになったお客さんが多く、1番の大部屋を勧められたものの、シューマッハーが断って、この部屋となった。
「懐かしいな。俺が若い時に想い人と泊まった部屋だ、ここは」
シューマッハーは部屋に入るなり、窓を眺め、天井を見上げ、そしてぐるりと、部屋を眺めて回る。
……その場でくるくるしてる。
「思い出の部屋なのね?」
3人では狭い感じのする部屋。小さめベッドも2つだし、それしか無い部屋だ。
そんなベッドに座り、シアが言う。
「あの頃は若かったからな。俺の倅もぐるんぐるんしてたもんさ。今日だって美女2人だろ?若ければなあ……」
シューマッハーはテンション高めで、そう話す。
「ぐるんぐるんするには、狭いような……」
マルローネは、苦笑いを浮かべる。
「ベッド合体で使うんだよ。今日も、ベッド合体すれば、3人寝れるだろう」
シューマッハーは言う。
なんかしないのなら、マルローネとしては別に問題ない。
窓際壁際大好きシア、真ん中でうつ伏せのマルローネ、崖っぷちを椅子でフォローして、シューマッハーが寝る事になった。
「……マリーはうつ伏せじゃないと寝れないのか?」
シューマッハーが尋ねる。
「昔っからそうよね?なんか死体のポーズで寝てるのよ」
シアが答える。
「あの頃の夢でも見るか……」
シューマッハーが呟き、3人は眠る。
……朝になり、マルローネがズバっと起きる。
「おおぅ!?」
隣のシューマッハーも、それに驚いて起きた。
「……シアから聞いてはいたけれど、本当に爆発的な目覚めなんだな……」
少し寝ぼけながら、シューマッハーはベッドを降りる。
「ん〜……?」
シアはゆっくりと目覚める。
朝のタベクサをそれぞれ齧ったりして、身繕いをすると、お客さんが纏まり、駆け出しの冒険者の数名の護衛で帰る。
「朝帰りも、いいもんですな」
シューマッハーの友達おじいちゃんが、そう話す。
この日は天気も良くて、朝日に照らされた森が眩しい。
「ウォルフ王が2匹……エンデルクは討伐に目を輝かせてましたな」
シューマッハーは、そう話す。
「彼は昔から、ツワモノの匂いがすると、そうなりますな」
友達おじいちゃんも、相槌を打つ。
「あ!クライスが待ってるかもだわ」
マルローネは思い出すと、シアに向けて話す。
「クライス……優等生の子?」
シアはキョトンとして返す。
「そうそれ!なんか、旅に出るなら便乗して、外の見聞を広めたい、って言うもんだから、行動を一緒にしてたりするのよ」
それぞれが思い思いに、話しながら歩く道。
2時間の道は、それほど長くない。
何事もなくアトリエに帰って来れたけれど、アトリエ前にクライスは居なかった。
「約束すっぽかしたみたいになっちゃったよぉ……」
マルローネは、バツが悪そうにシアに話す。
「まあ、ウォルフ王が出た経緯を話せば、分かってくれるんじゃない?私も一緒に話してあげるわよ」
マルローネとシアで、アカデミーへと向かう。
もう日も高くなって来ている。
アカデミー生徒の学舎、寮、錬金場と巡り歩き、お昼にアカデミーの売店前で、ようやく出会う事が出来た。
特に不機嫌……という感じでもない感じのクライスに向けて、マルローネは手を合わせる。
「クライスごめん。昨日の夜には帰ってる予定だったんだけど……」
シアとマルローネで、事情を話す。
「そうでしたか……旅先でも色々と予定通りに行かない事はあるのでしょう。いつ頃にここに戻ったのですか?」
クライスは平常心のまま、そう話す。
……なんか、どこか嬉しそうな……
「10時くらいかしら……結構歩き回ったわ」
シアが答える。
「これは……これからは予定通り行かなかった場合も、打ち合わせておかないと、いけませんね。冒険者の方々に、はぐれた場合どうしているのか、学んでおくとしましょう」
クライスはそう言って、メガネに手をやる。どこまでも優等生な男だ。
「じゃあ、私たちは夕食を調達しないと、かな」
錬金術の事など忘れて、マルローネはそう話し出す。
「ふふっ、錬金術の話は、午前中に暇があれば、としましょうか。また明日の朝、アトリエに顔を出しますよ」
クライスは笑い、そう話す。
「忘れてたわ……でも、クライス、あなたはこれから何か予定あるの?」
マルローネは尋ねる。
「いえ……予定を空けてましたので、後輩の様子でも見ておこうか……くらいしかありませんが」
クライスは言葉に詰まり、そう話す。
「なら、一緒に行くわよ。パーティーなんだから。冒険者の話も、貴方が聞くんじゃなくて、一緒に聞いてみるわ。私の旅なんだから」
マルローネはそう、口を尖らせて話す。
「そう来ましたか。歩き回るのは得意ではないのですが……旅の練習という事で、歩き回るとしましょうか」
クライスは素直に応じて、マルローネの後に続く事にした。
まずはハゲルの武器屋で旅衣装に着替え、そしてシアも一緒にダムへと向かう。
錬金術衣装が派手なだけに、この旅衣装の地味さが凄く地味に思える。
「お待たせ〜♪やっぱり、コッチの方がしっくり来るわね」
マルローネはそう言って、地味な旅衣装で出て来る。
「そうね。私もまだ馴染みがあるけれど、派手な衣装の方が釣り人さん達も喜ぶわよ?」
元々が地味な衣装のシアは、そう話す。
「シューマッハーおじいちゃんを喜ばす為に、派手な衣装だったんだけどね?これから夕食を採らないといけないんだから!」
マルローネは笑顔でやる気の構えを取る。
「夕食を採る……ふむ」
クライスはそんな2人を眺めて、そして後をついていく。
晴れた、太陽が眩しいくらいのダムへの道。
綺麗な石造りで、今日は補修のおじさん達が手直ししてる場所も見かけた。
マルローネは、ダム入り口の管理小屋付近のロッカーから、マルローネ専用の網を手に取り、杖を預ける。
「ここは、来た事あるの?」
シアがクライスに尋ねる。
「初めて来ましたが、やはり水場の近くというのは、空気がいい場所ですね」
クライスは辺りを眺めて、答える。
やたらと鳥が多い。
人間くらいの大きさの白い鳥、サギ達が、そこら中に居るのが、目に付く。
この日はマルローネの網が大爆発。ダムネズミにウシガエル3匹と、今までにない大漁となった。
そうして、今日は釣果イマイチの釣り人と共に、噴水広場のディナーへと向かう運びになった。
釣果イマイチの騎士団の人も居て、旅の予定が崩れた時の極意も存分に聞く事が出来た。
賑やかな噴水広場。
その賑やかさからは、ちょっとだけ距離を取って落ち着いて過ごせる、ドナースターク家の庭の端っこ。
いつもの場所で、マルローネとシアは夕食の準備に入る。
賑やかだけど、夕食はこれからだ。
「え〜!?噴水広場の夕食、来た事ないの!?そんな事ってある!?」
カエルを捌きながら、マルローネが驚きの声を上げる。
そりゃ、アカデミーの生徒はあまり見かけない場所ではあるけれど、月に1度2度は訪れるもの……というマルローネのアカデミー交友関係者の話もある。
「夕食はカーボシェルばかりで……おかげで改良を繰り返している訳ですが……」
クライスが話す。
カーボシェルの開発なんかで、夕食材料は余っていたりするらしく、アカデミーで食べるに困らない男だったみたいだ。
これからの旅も、カーボシェルを大いに持ち込んで行こうと企んでいる話も聞いた。
「頼れるわね」
マルローネは呟く。
「貴方の手際も、かなり頼れる感じがしますが」
クライスも捌かれたカエル達を見て、少し笑みを浮かべる。
「クライス、アンタもやってみなさいよ」
2匹捌き終えて、マルローネは残り1匹をクライスに任せる。
「ナイフなんてあまり扱わないのですが……」
クライスはマルローネと場所を代わり、カエルに向かう。
「……なんか、あの2人、お似合いなんじゃないか?」
シアと魚を洗う釣り人のおじさんが、マルローネとクライスの後ろ姿を眺めて、シアに話す。
「年の頃が同じくらいだと、そう見えるものよ」
シアは小さく笑い、夕食の準備を進めて行く。
日が沈み、騎士団の人達が、噴水広場に背の高い灯を運んで来る。
幾つも運ばれて来る灯が、今日も夕食の時間を彩る時間。
「……こんなに華やかだったんですね?」
ドナースターク家の庭の端っこ、夕食を囲むクライスは、そんな灯達を眺めて遠い目をする。
マルローネもシアも、馴染みの釣り人達との談笑で忙しいみたいで、クライスは自分に当てられたベルグラド芋のスープを眺める。
ここに肉付きの良い鶏肉が刺さり、魚の身も散りばめられて、豪華なスープとなっている。
この鶏肉にしか見えない肉が、カエルの肉とは信じ難いが、食事となる段階では、美味しそうな感じになっている。
「マリー。彼氏を連れて来るなんて、お前さんも大きくなったって事か?」
お酒を片手に、釣り人のおっちゃんAが話す。
「そうじゃないってば。旅のパーティーメンバーとしてね、どんなヤツか品定めしてる所なのよ。私も品定めされてるってトコね」
マルローネはスープのお椀を手に、唇を尖らせる。
「この年頃の男、ってのはなぁ……夜には狼になるもんだ。宿を一緒にしないと分からん事があるんじゃないか?旅先じゃ、別の部屋なんて、お大尽は出来ないだろう?」
おっちゃんBが話す。
「いやでも、熟練の冒険者に押し倒されるより、あのくらいの兄ちゃんの方が、抵抗出来るんじゃないか?」
おっちゃんCも、そう話す。
「生殺しの旅か……」
そして釣り人おじいちゃんAが、ポツリと呟きながら、ニヤケ笑いを向ける。
「ぐぬぬ……」
反論しようにも、的を射てるとしか思えないマルローネは、変な音を立てる。
そして、ワフールを思い出した。
オリンジン・グランド、フリージア先生
ハゲルジムに居る、トレーニングの先生。
シューマッハー・ドナースターク
ドナースターク家のご隠居様。
エグルドレイブ・ハーレイス
釣り人 騎士団のお兄さん。
ワフール・ハイラム
異世界のエロ魔人
デイドリオン
デイドリオン・アイン
デイドリオン・ツヴァイ