クライスとマナの柱の中 1
11
夕食が終わり、マルローネはクライスと一緒にアトリエへと帰る。
夜、もうすっかり暗くなっている道。
「本当に、僕もコッチで寝るのですか?」
少し戸惑いながら、クライスはマルローネについて歩く。
泊まらないにしても封印されたアトリエは、このチャンスに、ひと目見ておきたいと考えながら。
「実際、旅先じゃ一緒の宿になる訳だし。しかも大体の宿は、かなり粗末らしいわ。それにクライスも足が痛いとか言ってたし、明日の朝は錬金術だし……」
夕食、おじさん軍団に色々と言われて……でも旅のパーティーを変えるつもりも無いマルローネは、少し混乱気味でクライスを連れ込む事にした。
「……なんと!あなた専用の錬金釜があるのですか!?」
アトリエに帰り、クライスを招き入れると、クライスは錬金釜に食いついた。
「クライスは優等生なんだから、錬金釜ないの?」
マルローネは尋ねる。
成績により、寮のグレードも上がる話を、どっかで聞いた事があるし。
「ある訳ないですね。生徒の数が多いですし、アカデミーの錬金釜を、常に順番待ちした挙句、あまりよろしくない錬金釜に当たったりしますね。これはあまりに見事な錬金釜ですよ……」
クライスは巨大錬金釜を、すべすべと撫で回りながら、目を輝かせて話す。
「まあ、気持ちは分かるわ。私もなんか素晴らしい網とか見たら、そうなるものね」
マルローネは、撫で回るクライスにそう、声を掛ける。
「あなたは、心の底からハンターなんですね。この錬金釜に無関心とは……」
クライスが、メガネに手をやりつつ、マルローネの方に向き直る。
……なんか、我に帰ったみたいだ。
「あ!この錬金釜、更に大きくなるんだよ?」
マルローネはこの部屋のギミックを思い出し、イタズラっ子の笑みを浮かべる。
「既に特大サイズなのに、更に!?」
クライスはまた、目を輝かせる。
……なんかキャラまで変わった。
そこまで期待されると、引っ込みもつかない。
そしてマルローネは、ドアの横、3冊の本の上の、口の無い、小さな緑プニを見つめる。
……確かナデナデすると……
マルローネは、小さな緑プニの頭を撫でる。
「ぉうわっ!」
デカくなる錬金釜に押されて、クライスが壁に押し出された。
マルローネはそんな声のする方を見てみるものの、錬金釜の影となっているみたいだった。
「おかえり。マリー」
そして錬金釜の口に腰掛けている、銀髪の女の子が見下ろし、微笑み掛けた。
「本当にこんなに大きくなるなんて……」
錬金釜の影から、クライスがマルローネの方に顔を出す。
そして全裸の銀髪の女の子を見ると、また錬金釜の影に隠れた。
「服は作れないの?」
そんなクライスを見て、マルローネが尋ねる。
「まだ獣的な生き物が、出て来てないんだよね。巨大ヘビ君は居るけど、元気に生きてるからなぁ……」
銀髪の女の子は、そう答える。そして、錬金釜の影に隠れてるクライスに顔を向けた。
「あ。彼はこれからパーティーメンバー予定の、アカデミー優等生のクライスよ」
そう、マルローネが紹介すると、銀髪の女の子はマルローネに向く。
「なんとなく経緯は知ってるよ。マリーの感じる事は、僕も共有できるもんだからね」
銀髪の女の子の可愛い声。でも口調は男っぽい。
「どゆこと?」
マルローネは首を傾げる。
「言った通りの事だけども」
銀髪の女の子も、冷やかし笑いを浮かべて、首を傾げる。
「つまり、説明不要ってこと?」
マルローネは、自分より高い場所に座る銀髪の女の子の身体を眺めつつ、尋ねる。
……しかし、細くて華奢な身体だ。
「そうだね。ウォルフ王の話とかも、知ってるね。マリーの体験は、僕の体験でもある感じだと思って貰えればいいかな」
そんなマルローネの視線を眺めながら、銀髪の女の子は淡々と話す。
「……いつの間に、そんなに一心同体に……!?」
マルローネは、驚きに少し後ずさりする。
「いや、マナの柱と主の関係って、そういう物なんだよね」
銀髪の女の子は、そう言うと微笑んで見せた。
そう話すマナの柱に向けて、クライスが姿を現す。
マルローネも、おずおずと出て来たクライスを見る。
「マナの柱……?あなたが魔力の源の……?」
クライスが尋ねる。
「まあ、この姿は大昔に死んじゃった子の身体を借りて動かしてるんだけどね。僕はほら、人間と比べると大き過ぎるから」
銀髪の女の子は、そう言うと両手を広げて見せる。
死んでいる人とは思えないくらい、肌は瑞々しいし、表情も豊かだ。
「なるほど……人と話す為に人を遣わすとの記述もありましたが……まさかそれを目の前にしようとは……」
クライスはなんか、いつものクライスに戻り、自分のメガネに手をやる、いつものポーズを取った。
「それよりもマリー。僕の中は更に賑やかになってるから、おいでおいで」
銀髪の女の子は、そう言うと笑顔で錬金釜の中を指差す。
マルローネはワフールを思い浮かべつつ、錬金釜を眺める。
……エロエロな予感がする……
まあ、別にそれも悪くないと思う自分も居るのだけれど……
「また、服を脱がないとダメ?」
マルローネは聞いてみる。
「これからは、着たままでも平気だよ。僕とワフールの分も、何か服が欲しいくらいだね」
銀髪の女の子は、表情を変えずに答える。
「どんな服がいいかな?」
「ハゲルオススメの革よろいセットかな。サイズが合っていれば、アレがいいかな」
そんな話し合い。
「クライスも入れる?」
マルローネは、出て来たものの背中を向けているクライスを見る。
……ああ、銀髪の女の子が全裸だからか……と、クライスの後ろ姿を眺める。
「入れるよ。マナの世界に興味あるでしょ?」
そう話すと、クライスは振り返る。
「ほ……本当にマナの世界に……!?」
振り返り、銀髪の女の子に怯みつつ、クライスは言う。
「まあ、どうぞどうぞ」
銀髪の女の子は、錬金釜の中へと、倒れるように落ちて行く。
水の中に飛び込んで行くみたいに。
「……じゃあ、行かなきゃかな」
マルローネも、錬金釜への階段を登る。
「……何か嫌な事がありましたか?」
クライスも後に続く。
「嫌な事は……特に無かったけど……」
マルローネは、そう呟きながら錬金釜の中を眺める。
……相変わらず、先の見えない虹色の水面。
そして、飛び込む。
クライスも、その後に続いて飛び込む。
緑の眩しいお昼の景色の遙か上空に出て、落下が始まる。
ここは涼しい風が吹いて、気持ちが好いのは、相変わらずだ。
マルローネは何となく、あの大木を探す。
……巨大な緑の柱が、どうにもあの大木のような気がする。
巻き上がる雨を纏った、巨大な緑の柱。
もはや大木ですらない……
……そしてクライスを思い出す。
結構上空に取り残されていて、随分離れてしまっていた。
そんなクライスに向かい、下から登って行く銀髪の女の子の姿も見えた。
マルローネは落下をゆっくりにして、そんな2人を待つ。
「空中遊泳の気分はどう?」
銀髪の女の子は、クライスに向けて手を伸ばし、クライスはその手を取る。
「何分、初めてなもので……これは一体……?」
ひどく遠い2人。なのに、そんな言葉のやり取りがマルローネに伝わる。
「初めて……だろうねぇ……僕はマリーっていう主を見つけたからね。だから他の人を僕の中に招待しても、生きて返す事も出来るようになったんだよ」
銀髪の女の子……マナの柱は言う。
「生きて返す……?生きて帰れない話だったのですか?」
クライスはそう尋ねる。
「僕が力を得るのに、人の血が必要だからね。ザールブルグから、人を貰っていたんだよ。主じゃないから、全然物足らなかったけど……魔物を近付けさせないくらいの効果は、あったみたいだよ?」
銀髪の女の子は、そう話しながらクライスの手を引き、マルローネの所へと近づいて来る。
「マリー、君が連れて来たんだから、彼の手を引いてあげて?」
そして、マルローネにクライスの手を渡す。
「え!?ええ!?…………まあ、しょうがないわね……」
マルローネはクライスの手を渡されて、少し戸惑う。
「……先に地上に行ってるね。仲良く後からおいで」
銀髪の女の子は、そう言うと落下していく。
かなり素早く落ちて行った。
「……ま、まあ……行くわよ」
マルローネは、得意のニヤケ苦笑いを見せると、地上へと向けて落ちていく。
銀髪の女の子から比べると、全然遅いのだけど。
「凄く広大な世界ですね。これがマナの柱と言われる世界……」
クライスは半ば放心状態で、そう呟く。
まあ、初めて見たのだから無理もないし、マルローネとしては、更に緑に茂る地上の世界を見て、同じように感心する。
……ん?
……私のエロ汁で、こうなったとかいう話なのか?
マルローネは、眉間に皺を寄せる。
……まあ、寒々しいマナの柱世界で、ワフールみたいに彷徨い歩く死人みたいになるよりは、今現在の方が恵まれている……
「むむむ?」
マルローネは、なんか色々と考え出す。
「ところで、どこに落ちるのです?ここまで広大だと、落ちた先から何処へ向かうのかも分かりませんけれど……」
放心状態のクライスも、しばらくすると、落ち着いて来た。
そして、そう尋ねる。
「まあ、なんか落ちる場所は決まっていたような……そもそもこれが2回目だし、1回目とは随分と様子が違うし……」
マルローネは答える。
「落ちる場所が決まっている……とはいえ、どう帰ればいいのか分からないというのは、不安なものですね……」
手を繋ぐ2人は、まだ遠い地上を眺める。
「……もうすぐですね。手を繋がせてしまって、なんだか申し訳ありませんでした」
地上が近づいてきて、クライスは言う。
……丁寧なんだけど、なんだか距離を感じる男なのは、優等生という事なのだろう。
「まあ、なりゆきだし……そんなそんな触りたくもない……みたいな感じでもないから、気にしなくても大丈夫よ」
マルローネは、また例のニヤケ苦笑いをクライスに向ける。
そして、ゆっくりと地上に降りた。
地上には、でかいプニプニが待っていて、その中に銀髪の女の子が入っている。
近づいてみると、マルローネに向けて、顔だけプニプニから飛び出してた。
「ここの着地の所だけ、草とか生えてないのね」
マルローネは、辺りの草を眺めて言う。
マルローネよりも、クライスよりも背の高い草が密集していて、もう遠くなんて見えない。
……というのは、前回帰る時と変わっていないのだけど。
「待っていたよ。また主様のエネルギーを頂きたくてね。それに男の子持参なんてマリー……気が利いてるじゃない」
銀髪の女の子は、そう言うと笑う。
すっごく笑顔だ。
「え!?いや、中を見せるだけで来てるんだけど!そんなつもりじゃないし!」
マルローネは力強く否定する。
「そうなの?……でも旅立ちの前に主様の命が欲しいんだよね。子供って事なんだけど。ワフールは基本死んでるし、血が無いから、子供出来ないしさ」
否定されると、銀髪の女の子は困った顔になった。
「主様のエネルギーというのは?」
クライスが尋ねる。
マルローネは途端に顔を赤くして、プニプニから離れた。
「帰る!絶対帰る!」
マルローネは着地場所の円の、真ん中へと走る。
「帰さないよ〜……希望だけ見せておあずけなんて、そんな残酷な事、しないでしょ?」
銀髪の女の子の乗ったでかいプニプニは、クライスを取り込みつつ、マルローネを追い掛ける。
別に急ぐでもなく、ゆっくり進めば、走るマルローネに余裕で追いつく感じだ。
しかも、円の中心に行った所で空へ飛べるかどうかは、マナの柱の思惑次第。
マナの柱が許さなければ、マルローネは帰れないのだ。
「ご馳走が用意されてるよマリー。だからおいでよ。それに、僕の話をもうちょっと聞いてよ?」
マルローネに迫ったプニプニ、そこから顔を出す銀髪の女の子は、そう言って手招きする。
マルローネとしても、円の中心まで来たものの、飛び立てる気配はないので、応じるしかない。
「ぐぬぬ……」
プニプニの中で逆さになって遊泳しているクライスを睨みながら、マルローネは唸る。
「話は、移動中でいいかな。結構時間が掛かるからね」
そしてマルローネもプニプニに取り込まれると、でかいプニプニは、また草密度マックスの大草原の上にぽんと飛び上がり、大草原の上を進み始める。
「さてさて、旅をするのはいいんだけど、僕としては、主様に死なれるのが、本当に困るんだよね。それは分かってもらえるかな?」
進むプニプニの中で、銀髪の女の子が話す。
3人取り込んでもまだ、スペース的には余裕がある。でっかいプニプニだ。
緑に溢れた地面は流れていく。どこもかしこも草密度が高い。そして、木の集合体もちらほら見える。
「確かに。私が死んだらエネルギーも取れなくなるものね。それに、私だって死にたくはないわ」
マルローネは、少しヘソを曲げてる感じで話す。
「で、子供が1つ貰えたら、マリーの影として付いて行けるんだよね。そうしたら、死んでも回収して、僕の中に持って来れるんだ。持って来れたなら、生き返らせる事が出来る分、安心出来るという訳なんだけど」
銀髪の女の子は話す。
子供が1つ……なんか、どうとゆう事もないモノみたいな言い方だ……
「死んでも生き返らせる事が出来る!?」
クライスが食いつく。
……確かに、そこも気になる所ではある。
「僕の中に来れたらね。野ざらしになっちゃうと、ダメなんだよね」
銀髪の女の子が答える。
「……子供って、どういう事?」
マルローネも尋ねる。
子供を1つくれ、というのはかなりショックな話じゃないか。
「マリーは、生理が来てるよね?それって子供なんだよね。……出来損ないのタマゴだけど。交尾をしたら、子供になって……お腹が膨らむ前に僕が吸収出来るんだ。マリーが子供を産まなくても、僕が使えるんだよ」
銀髪の女の子は、そう話す。
……子供を吸収?
「でも、それって子供が可哀想……あんまりじゃない?」
マルローネはそう思って、そう言う。
「出来損ないのタマゴも命。僕に吸収されるのも命だね。マリー、君も500くらいのタマゴを作るんだよ。でも子沢山だとしても、せいぜい10人くらいでしょ?命って、あんまりな事がほぼ全てなんだよね」
銀髪の女の子は言う。
生理を1つ、マナの柱に使う、と考えると……なんて事のない話なのか……
「……でも子供って……」
マルローネは唸る。
「交尾したら、子供になるから、人間になるよ」
銀髪の女の子は事も無げに言い、クライスを見る。
「……命というテーマの話なら、男の側の方が何万という命を出すと、習いました……もしくは、本に記載がありましたね」
クライスは少し戸惑いつつ、何か話せ的な2人に話す。
「命を寄越せ的な話が残酷に聞こえる、という事だから、僕はそう話した。でもマリー……君も食事の度に、命を食べているんじゃない?」
銀髪の女の子は、そう言って笑いかける。
少し、沈黙になり、プニプニはひたすら草地帯の上を進む。
高い草、ちょっと低い草と棲み分けがされてるみたいで、歩いて通れそうな場所も、あったりする。
「……私が、クライスと交尾しなきゃ的な流れになるの?」
その少しの沈黙を破って、マルローネが言う。
「まあ結局は、そういう事だね。マリーには別に想ってる人は居ないし、素敵なお部屋が準備出来てるよ」
銀髪の女の子が言う。
「あー……こほん、私にも選ぶ権利があるのではないでしょうか?」
クライスも言う。
「マリーじゃ不服なの?」
銀髪の女の子は、呆れ顔をクライスに向けた。
「いや……そういう訳では……」
クライスは怯む。
「いや、不服って言っときなさいよ!」
マリーも呆れ顔になる。
「まあ、男の子って誰でもいい的なトコロがあるよね……女の子の方でも、まあ誰でもいいんだけどさ」
銀髪の女の子は、そう話す。
3人を取り込んでる、でかいプニプニは、ひたすらに進む。
「そういう事なら、マナの柱の方が、主探しが大変そうね」
マリーはそう言ってみる。
……誰でもいい……確かにそうなんだと思う。
……不覚にもワフールと……ただれた7日を過ごしている訳だし。
……あの7日、めちゃくちゃ長かった……
「まあ、誰でもいいという事でなければ、種の存続が危ぶまれる事態となりかねませんから……その中でも、無理な人というのはありますが」
クライスはメガネに手をやる、いつもの癖を出しながら、そう話す。
「優等生語で喋られてもなぁ……」
マリーはジト目を向ける。
「な……優等生語!?」
クライスは驚きに目を見開く。
……でかいプニプニは進む。
特に話す事も無くなって、マルローネはプニプニの中から、外の景色を眺める。
相変わらず、様々な草がめちゃくちゃ生えてる世界。
遠くには歪な木々が見れる。
……やたら真っ直ぐで左右対称の奴もある。
そしていい天気。
ザールブルグで見る空と、あまり変わらない空に、思い思いの形の雲が泳いでいる。
……あまりにも快適なプニプニの中……それでいて進む景色も変わり映えしないものだから……
マルローネは、うとうとする。
クライスも、眠る。
「これ、あの柱に向かってるの?」
しばらくすると、プニプニから見れる景色に、迫る巨大な緑の柱に気付いて、マルローネは尋ねる。
「今回はそこの、川の中だね。根っこの辺りじゃないと、登る滝で近寄れない感じになってるんだ」
銀髪の女の子は答え、そして進む先の方へと顔を向ける。
……なんとなく、マルローネはその銀髪の女の子の裸体を眺める。
おっぱいは小さいし、下の毛も生えていない。
「……ごちそうって……何だろ?」
マルローネは進む先の緑の柱に視線を移し、聞いてみる。
「川の中に住んでる黒い蛇だよ。ワフールは女の子だけじゃなくて、食べる物を料理するのも、得意みたいでね。ふわっとしてトロっとしてる感じだから、舌に心地好いよ」
銀髪の女の子は答える。
「ぅわ……ワフールのおじさん、レベル高いんじゃない?」
マルローネは驚く。
……実際にご馳走のようで。
そして、プニプニは川の中へ。
川の中でも、変わらずに呼吸が出来る不思議。
でかいプニプニは川の中、川の底へと沈んで行く。
一気に暗くなるけど、まだ色々と見える。
でかい魚が泳いでいたりしたのが見えた。
ナマズが石の影に隠れた。
それは、どれもほんの一瞬で、なんでかこういうのに気付けるようになったな……
と、マルローネは思う。
そしてプニプニは、川底の洞窟へと入って行く。
また、入り口のでかい洞窟で、行き止まりへと着くと、今度は浮き上がって行く。
「……どういう道順なのこれ!?」
マルローネも驚く。
しかも、結構長く浮き上がって行くと、木の中の川の水面よりも上に出た。
木の洞穴の前には、光る鈴みたいなのを付けた花が咲き乱れていて、それらはどれも膝よりも低い草。
歩きやすそうな地面が広がっていた。
「……ぅわあ……死んだら、こういう所に行きそう……」
マルローネは、自分の口に手を当てて驚く。
プニプニはそこで止まり、銀髪の女の子はプニプニから出て、そんな地面に足を降ろす。
クライスも、マルローネも、プニプニから出て地面に立つ。
「……おお……今まで浮いてたから、ふらふらする……」
マルローネは、そう言ってよろける。
「確かに。こんな感覚も初めてですね……」
クライスはしっかり立って、足を踏みしめて呟く。
「しかし、あの入り口から遠すぎるんだよね。マリーのエネルギーでめちゃくちゃ成長した訳なんだけど、ここからのエネルギーでさ、もっとスマートな感じになれたら……って期待してるんだよ」
銀髪の女の子は、そう言うと素敵な笑顔を2人に向けた。
「ぐぬぬ……」
なんか、ちょっと期待までしちゃってるマルローネは唸る。
木の洞穴から、下り坂を降りる。
巨大な木の中、勿論……枝なのか根っこなのか、木肌が地面となっていて、平たい訳じゃあない。
しかも緑にぼんやり光る苔とか、青く光る杖みたいに先がぐるぐるしてる草とか生えてる。
下り続けると、また行き止まりになり、振り返ると、左隅に木の穴……
何とか通れる木の穴を通ると、あの強靭な葉っぱ世界が広がっていた。
しかも、なんか若草色でぼんやりと光っていて、凄い綺麗な空間なのだ。
しかも、色とりどりのタベクサが光ってる。
赤、黄色、紫、黒、白、橙色……
「うわぁ……」
マルローネは、思わず感嘆の声を漏らす。
「……あれ?ひょっとして私、実は死んでたりする?」
そして、なんか我に返ってクライスを見る。
「まあ、そう思う気持ちにもなる……かも知れませんが」
クライスもマルローネの方は見ずに、辺りを眺めていて、口も開いていた。
……マルローネも、光る葉っぱ世界に見入る。
「……ここが2人の寝床になるよ。ご馳走は、また戻った所だから、戻ろうか」
銀髪の女の子は、振り返る。
「寝床……ここはまた7日くらい居る感じになるの?」
マルローネは聞いてみる。
「マリーの世界で半日、にしようかな。夜に入って、朝に出れたら都合がいいでしょ?……ここでの時間に直すと……30日くらいだね」
銀髪の女の子は、事も無げに言う。
「はあ!?30日!?」
マルローネは驚く。
トンデモない長期間なのに、半日!?
「都合がどうのって言うのも当たらない訳ですか……魔法の世界というのは、恐ろしいですね」
クライスも、震える手でメガネに手をやった。
今度は下り坂を登り返す。
でかいプニプニが待つ広場へと出て、今度は木の穴の隣、背の高い草地帯へと行く。
近づいてみれば、隙間があってそこに入る。
入ると、背の高い草地帯に、すぐにワフールが居て、キャンプしてる場所みたいになっている。
「おお、俺の妻の到着か」
全裸のワフールが両手を広げて、マルローネの方へと来る。
マルローネは構えながらも、ワフールの抱擁を受ける。
「久しぶり?……でもないかな?」
ぎこちなく、ニヤケ苦笑いでマルローネは言う。
「こっちでは、気が遠くなるくらいの時間が流れているけれどな。で、彼は?」
ワフールは、クライスに目を向ける。
「あ、ああ……これから冒険の旅に出ようかな〜……なんて企んでて、彼はパーティーメンバーとして同行してくれる、って話なの。それで成り行きでここに……ね」
マルローネも、クライスを見る。
「成り行きか……でもここに連れて来てしまった以上、マナの柱としては放ってはおかないだろうな。それにマリー……お前に似合う男じゃないか?」
そう言うと、ワフールは抱擁を放す。
クライスと手を繋いだ時の熱みたいなのは、無かった。
「初めまして。クライス・キュールと言います」
クライスが、そんな2人に歩み寄る。
「ワフール・ハイラムだ。ここの……先住民とでも言っておこうか」
ワフールは、そう言って優しい笑顔を見せた。
そうして、調理場へと向きを変える。
「マリーは食べる事が好きだからな。ザールブルグの、広場での夕食みたいに賑やかではないが、ここの黒蛇は美味いんだ」
ワフールはそう言うと調理場へと歩む。
クライスとマルローネも、それに続いた。
あとは焼くだけになっている、黒蛇と呼ばれる蛇を食べる。
調理場の、火を囲んだ地べた。
一応、地面から覗く根っことか、石が置いてあって座る場所に座る。
「なんか、これから旅をする時も、こうした野営?みたいな事をしそう」
マルローネはそう言って、焼かれた黒蛇に齧り付く。
……1人前がでっかい。
「ザールブルグ近辺なら、1日歩くと宿場があるもんだ。野営は危険だし、大荷物になるからな。あまりオススメは出来ないな」
ワフールが話す。
……齧り付いた黒蛇……これまた美味しい!
齧り付いたマルローネは、目を輝かせる。
「そうなんですか。アテもなく荒野を進む訳で無ければ、色々な人が旅歩いているので、そうなっているのでしょうか?」
クライスがその言葉に、尋ねてみる。
「……ありがたい寺院とか、宿場町、そういうのが点在しているからな」
ワフールは黒蛇を食べ、少し黙っていたけれど、そう答える。
「でも、ワフールはこういう野営がなんか……似合いそう」
マルローネが言う。
「まあ、そうだな。俺は貧しい盗賊団の一端だったから、獲物にありつく為に……また居場所を求めて旅歩いていたけれど、な」
ワフールはそう語る。
「盗賊?盗賊の人なんですか!?」
クライスは驚き、怯む。
「まあ……君の盗賊のイメージから、そうなるんだろうが、実際の盗賊団というものは、そのイメージ通りじゃないな」
ワフールは落ち着いた様子で、クライスを眺める。そして続けた。
「マリーには話した事だが、大多数は悲しい、そして貧しい人間の集まりだ。ザールブルグみたいな場所で産まれていれば、そうもならなかったのだろうけどな」
ワフールはそう話し、黒蛇を食べる。
マルローネは、夢中で食べていたりして、もう食べ終わりそうな感じだ。
銀髪の女の子は、なんだか上の空で食事をしている。
オリンジン・グランド、フリージア先生
ハゲルジムに居る、トレーニングの先生。
シューマッハー・ドナースターク
ドナースターク家のご隠居様。
エグルドレイブ・ハーレイス
釣り人 騎士団のお兄さん。
ワフール・ハイラム
異世界のエロ魔人
デイドリオン
デイドリオン・アイン
デイドリオン・ツヴァイ