17
結局はコテンパンにされて、マルローネは眠った。
赤いプニプニベッドは、そんなマルローネをしっかり温めていた。
「……んはっ!」
朝になり、マルローネはズバ起きる。
心得ているワフールは離れて過ごしており、そんなマルローネを眺める。
「おはよう」
白と青と橙色の3色テントの中、ワフールは窓というか、外に向けて開いた丸い口から、外の景色を眺めていた。
「おはよ〜……結局コテンパンのコテンパンにされたわ。なんか凄く気分がいいけど」
マルローネも、外を見ようとテントの壁に顔を向ける。
ぽこぽこと口が開いた。
1つ口を選んで外を見る。
そこの口は大きく開き、他の口は閉じていく。
そして、森の上的な場所だった。
「んな!?テントごと移動してる!?しかも空中じゃない!?」
マルローネは驚きの声を上げる。
……いつの間にか赤茶色のローブになっているし。
「クライスの坊やに、マリーの大騒ぎが聞こえても良くないだろうから、移動したそうだが」
ワフールはそう話す。
……年季の入ったシャツに、だぼっとしたズボン……謎に2本の剣を差しているのも格好いい。
「ふむ。私もローブよりもこういう服がいいかな……」
マルローネは考える。
赤いプニプニベッドが変形して服になっているのだから、変化も出来るハズ。
そしてあーでもないこーでもないを始める。
テントの壁も、鏡になってみたりして。
マナちゃんと2人で服の改造、アクセサリー部分までこだわりがどこまでも続く。
ワフールは窓から飛び出し、適当な場所で走り込みに出掛ける。
………………
クライスも目を覚ます。
紫のテントに1人……
「おはよう」
黄色いプニプニはそう言うと、プニプニ的笑顔をクライスに向けた。
「おはようございます……非常に深く眠れました」
クライスは身体を起こす。
青いローブは後ろがベッドになっていて、身体を起こすとベッド部分が服へと戻っていく。
「それは良かった。マリーをコテンパンにしたのはいいけど、クライスもコテンパンになっていたからね。これからは暫く回復に専念させる予定かな」
黄色いプニプニは、そう話す。
クライスは紫のテントを出る。
日陰ばかりの野営地は、誰も居ない。
急に1人にされた寂しさを思う。
……あまりに1人だったように思う。こうした寂しい気分というのも久しぶりだ。
紫のテントはプニプニに戻り、プニプニ的笑顔で留まっている。
黄色いプニプニも、同じように留まっている。
「さて、この1日をどう過ごしたものか……」
クライスは呟く。
「あの7色タベクサの洞窟で、朝のタベクサを齧る所から始めるのはどうだろう?」
黄色いプニプニが、その呟きを拾う。
……初めてマルローネと身体を重ねた、7色タベクサに溢れる寝室……確かに洞窟の入り口だ。
「確かに。そうしておきましょうか」
クライスは洞窟へと歩みを進める。
「食べる事は大事だからね〜……」
今度は、服となっている青いプニプニから声がした。
背丈の低い花々の絨毯を歩き、洞窟の中へ……
マルローネの錬金コートと錬金帽子、クライスのローブが預けられている場所を通り過ぎ、相変わらず7色の光をそこらじゅうに湛える場所へ。
青いプニプニの靴で守られて地面の硬さは分からないけれど、泥みたいな地面だ。
……地面を考えると、2人で大騒ぎしている場所でもないのだけど、白いプニプニが平たく地面として在ったから、大騒ぎした場所、となった訳だ。
黄色いタベクサを手に取り、齧る。
やはり、瑞々しいコーン的な甘さ……非常に美味しい。
「さて……ここからどうしたものか……」
食べ終えて、クライスは呟く。
「魔法の訓練としとく?結局ジャンプ大会になっただけだし」
青いローブから声がする。
「それがありましたね。是非やりましょう」
クライスは乗り気で言う。
「コッチの世界で魔法を馴染ませても、地上に出れば10倍くらいしんどいみたいだし、効果も10分の1くらいになるみたいだからね」
青いローブは、そう話す。
……野営地から川の中を通り、そして広い草原へと移動する。
その移動には、橙色のプニプニと、黄色いプニプニも付いて来た。
「ドコでやりますか?」
クライスはこの辺りか、と思いつつ、尋ねる。
「中心地から離れた場所が適してるね。マリーも離れた場所に移動中かな。中心地だと、僕の心臓部の魔力が乗るから、魔法を使うのがラクになり過ぎちゃうからね」
青いプニプニは、そう話す。
……それから、草原をひたすら進み、森を越えて森を越えて……桜の木々の草原を抜ける。
咲いてる桜があり、葉桜があり、枝だけの桜があり、なんか季節が狂っているのを目の当たりにする。
……いずれ整っていくらしいけれど……
そうして進み続け、クライスは汗だくになる。
空中飛び跳ね放題だとしても、1日移動だけ……というのはキツイものがある。
昼にはタベクサを齧ったけれど、それはいつもの感じだった。
あの中心地の緑の柱の辺りだけ、7色のタベクサがあるそうで。
「今日は、あそこの沼までにしようか。夕飯に出来そうな生き物も居そうだし」
青いプニプニが言い出したのは、もう夜になろうとしてる頃だった。
「はぁ〜っ……ふぅ……回復になるとか聞いて油断しましたが、こんな移動になるとは……」
クライスは脱力する。
脱力すると、青いローブが空中に座るように固定されて、リラックスできる感じになる。
火照る身体も冷やしてくれるのだから、快適だ。
「じゃあ、夕食を作るから、待っててね」
青いローブから声がすると、橙のプニプニは沼へと向かい、黄色いプニプニはベッドとなる。
「……こんなに至れり尽くせりされていて、いいものでしょうか……」
クライスは暮れゆく空を見上げて呟く。
「クライスは僕の期待に応えてくれてるからね。マリーと一緒にここへ飛び込んで来てくれたのは、本当に有り難いんだよね」
青いローブからの声。そして、これがマナノハシラの声。
「期待に応えていますか……あまり自覚はありませんが」
クライスは呟く。
アカデミーの錬金術の勉強も実践も、成績も。本当に自分がすべき事なのかは確信を持てない感じがある。
「今日も、1日中、真面目に移動してたじゃない。マリーの思う通り、素直で真面目な男なんじゃない?」
マナノハシラは言う。
「……まあ、素直で真面目……と言われても……何か嬉しくないのは、何故でしょうかね?」
クライスは尋ねる。
「ヒネくれた人生、ヒネくれた先の世界線に憧れがあったりするんじゃない?素直で真面目な世界線ばかりだから」
マナノハシラは答える。
「……世界線?」
クライスは考える。
橙色のプニプニが戻り、夕食にする。
焼けた魚と蓮の根……という食事が出て来た。
橙色のプニプニがテーブルとなり、服の袖がフォークになり、上質な食事に驚くばかりのクライス。
しかも、量も丁度いい。
そんな食事中に、世界線の話も聞ける。
世界線とは、クライスが身を置く世界の事。
素直で真面目で、アカデミーの優等生になり、マルローネにパーティー志願して、ここに居る。
それが実際の世界線。
でも、過去に違う選択をしたなら……
アカデミーに入らず、田舎で友人と手を取り、そこで家と家を繋ぐ為に結婚とかして、穏やかに暮らす世界線もあったのだろう……と、想像は出来る。
また、現状に不満があるなしに関わらず想像してしまう。
ただ、世界線は1本だけだ。
クライスはここに居て、ここで夜を迎えている。
そんな、ふわっとした話をされた。
「ご馳走様でした。あまりにも上質な食事に驚きです」
クライスは、夜の闇の中、ぼーっと光る橙色のプニプニに向かって、少し頭を下げる。
「身体が疲れてるだろうから、より深く眠れるんじゃない?口の中とか、メンテナンスは任せて貰って、寝る時間になるね」
マナノハシラは、そう言うと橙色のプニプニの顔の向きを、黄色いプニプニテントへと向けた。
そしてこの1日が終わる……
「んはっ!?」
マルローネはズバ起きる。
魔法の訓練……と気軽に言うも、その為には中心地から離れなければならない、との事で移動を始めるものの、1日中移動に費やして、それでもまだ中心地が近いらしい。
だけど、この広い世界をひたすら駆け進むのは、なかなか気分の良いもので。
ワフール式早駆け術を学びながら、昨日は走り込みの1日となった。
マナノハシラは、色とりどりのプニプニを移動させている都合で、クライスの場所、マルローネの場所は離れてはいるけれど把握している。
どうやらマルローネの方は、ワフールの早駆け術もあり、クライスの進む倍は進んだようだ。
「クライスが魔法の訓練に入るのは、少し遅れそうだね〜……」
白いジャケットに半ズボン、でかいブーツ……
服の体積が小さいとプニプニ君に負担となるらしく、でかい頭飾りと繋がるケープ……そんな姿に落ち着いたマナちゃんが言う。
「とはいえ、コッチも辿り着いてないからね。今日もとにかく全力で進むしかないよね」
マルローネは、やる気の表情で話す。早駆けの1日はお気に入りだった。
こちらは、明るい赤茶色の錬金コートと頭飾りで体積を稼ぎ、歴戦風のシャツに歴戦風のダメージズボンという格好となった。
シャツとズボンは、道路時代の格好だ。
そして、朝のタベクサを齧ると出発する。
更に気合いの入る早駆けの1日。
マルローネに迫られるワフールがムキになって逃げる所があり、マルローネも必死に追い掛ける都合でそうなる。
「合法的に走り込み出来るとなると、ワフールは生き生きするね〜……」
白いプニプニで移動するマナちゃんは、そんな2人を遅れて追い掛ける。
お昼に差し掛かる辺り、ワフールのスピードもマルローネのスピードも落ちる。
足が、身体が重くなり、疲れも大きくなった。
「中心地から離れると、こうなって行くんだね……」
自分を追い込むのが目的のワフールは走り続け、マルローネは歩き出した。
「まだ影響が強いから、進まなくちゃなんだけどね」
マナノハシラが言う。
マナちゃんはギリギリ見えるくらいに後ろに、白いプニプニに乗っているようだ。
「あそこ、でかい動物が居るような……」
マルローネは緑の薄い土地を眺める。
深い森が深い草原、もしくは川とか湖とか……緑が薄いけど水ではない場所、というのは見受けられなかったから、貴重かも。
「じゃあ、そっちに向かってみよう。ワフールにも伝えておくから」
マナノハシラは言う。
ワフールの服もプニプニちゃんの変形なのだから、伝えるのは容易みたいだ。
マルローネは90度、進行方向を変える。
草木で地平線は見えないのだから、川とかなのかも知れないけれど、やたら大きい生き物が一瞬だけど、遠くに見えたのだ。
「獣的な生き物は確認出来てないけどね……」
マナノハシラが言う。
マルローネもワフールも、移動中も動く物には敏感で、虫と蛙、トカゲに蛇、鳥なんかは数多く認識している。
1番大きいのは、サギ的な鳥と鶏的な鳥を時折確認するくらいのものだった。
とにかく、マルローネは見えた方へと走る。
草の上を走れる、というのは相変わらずなのだけど、身体が重く感じる。
とはいえ、ザールブルグに居る時よりは身体が軽いのだけど。
そして、赤い目をしたネズミを確認する。
全身の茶色の毛が長いネズミ達が、木質化してる草に群がっていて、それらはネズミにしては大きい。
そして、マルローネに気付いたハズなのに、逃げたり隠れたりせずに、それぞれが食事を続けていた。
……違う草にも、それぞれに黒い毛だったり灰色だったり、色違いの同じような姿のネズミが食事をしてる。
かなりネズミ達のエリアとなっている草原だ。
「ふむ……こんな大きさじゃないハズだけど……」
マルローネは更に辺りを眺める。
そして巨大ネズミが、のそのそと動いたのを見つけた。
白い長い毛に全身覆われた、小さいネズミ達と同じ姿の、100倍程あろうかと思われるネズミが草を食べている。
「ぅわ……どういう事!?」
図体がデカいのも違和感だけど、目がデカい。
草の上を走ったり飛んだり出来る都合で、安全な場所から眺めてる訳だけど、なんか逃げ隠れするのが普通なのに、気付いた上で逃げ隠れしないのは、怖い。
「ネズミが湧いてるのか……獣的生物がちゃんと出てきてるんだね〜」
マナノハシラがマルローネの服から話す。
「あのデカいのは何?」
マルローネは聞いてみる。
「ネズミだけど、牛になるんじゃないかな?確かそういう順番で獣が出てきたハズ……?」
マナノハシラは自信なさそうに話す。
マルローネは、そんなネズミ達を眺め、ワフールの到着を待ち、マナちゃんとも合流する。
「デカいネズミだが……規格外過ぎるのも居るな……」
ワフールもネズミ達を眺めて感心する。
「牛になるとか言ってたけど……」
マルローネは、黄色いプニプニに乗るマナちゃんを見る。
「獣が出る時はネズミから出てくる……という記憶なんだけどね。特に注目する事でもないもんだから、覚えてないんだけどね」
マナちゃんもネズミ達を眺めて話す。
「ふ〜ん……あの100倍ネズミが牛に?……でもなんでネズミから一気に牛なんだろ?」
マルローネは疑問に思い呟く。
「まあ、こんな魔法世界に色んな疑問を持ってもねぇ……」
マナちゃんは苦笑いして言う。
まあ、考えても仕方ないけど、どうせクライスがかなり遅れてるので、夕方までネズミ観察して、夕食にネズミを頂く計画となった。
「まさか昼過ぎから、こんな所でネズミ観察で1日を浪費する道を選ぶとは……」
ワフールは呆れた声で言いながら、黄色いテント辺りで佇む。
マルローネはネズミを眺め続ける。
見慣れると100倍ネズミ……目が大きいし、下ばかり見てるし、可愛く見える。
ひたすら草をむしゃむしゃしてる所を見るに、本当に牛っぽい。
「……100倍ネズミは尻尾短いね。普通のネズミは尻尾長いのにねぇ……」
マルローネが呟く。
「ネズミだけに、無限に居るね〜……」
この辺り、草の根元はネズミだらけなのを眺めて、マナちゃんも感心する。
100倍ネズミは、1匹だけのようだ。
「青い毛のネズミも居るね」
マルローネが青い毛のネズミ軍団を発見する。オレンジ色っぽい集団も居るし……
「シアに見せたら、凄く興味津々で過ごせそう」
マルローネは、そんなネズミ達を眺めて言う。
「シア……病気だって子だね。僕の所に来れば病気も治るね」
マナちゃんは言う。
死んだ人すら蘇るのだから、そうなんだろう。
「でも、ヘンタイにされるからなぁ……」
マルローネは苦笑いを浮かべる。
シアがどう思ったものか。
「ヘンタイは、楽しい事じゃないの?マリーを思うに、楽しそうだけど」
マナちゃんが言う。
「クライスも楽しそう?」
聞いてみる。
「楽しそうだよ。色々とね」
マナちゃんは答える。
「あそこのネズミの気持ちも分かる?楽しいのか、つまらないのか」
マルローネは聞く。
なんとなくの質問だったけれど、聞いてみて、何よりも知りたい事だと思った。
……クライスには後で聞いてみれば分かるかも知れないけど、ネズミの気持ちは難しい。
マナノハシラならば、分かりそうなものだ。
「毛ヅヤの良いネズミは楽しそうなネズミだね。色んな事に夢中だよ。毛ヅヤのイマイチなのは少し辛い思いを抱えていて、毛が落ちてる、ボサついてる群れから離れてるネズミは、辛いばっかりのネズミだね」
マナちゃんが答える。
なるほど、納得の行きやすい答えだ。
「ネズミの世界も色々なんだね?」
マルローネは感心して言う。
「そうだね。死ぬ命ばかりの中、生き延びた所で色々だよね」
マナちゃんは言う。
「!!……虫の気持ちも分かるって事!?」
マルローネは目を見開く。
「知ろうとすれば、分かるけど……彼らはちょっと次元が違うから説明が難しいというか、理解が難しいね」
マナちゃんはそう答えると、100倍ネズミを眺める。
のそのそと次の草へと移動してる。
「草木って、何考えてるの?」
マルローネは聞く。昔、シアと一緒に考えた事。
答えなんて出るハズもない疑問。
「草木は分からないね。ザールブルグって何考えてるの?って質問と同じだから。草木はそれぞれが世界だから、そこに生きてる無数の命が無数の思いをしているよ」
マナちゃんはあっさりと答える。
「無数の命!?マナノハシラは何でも知ってるの!?」
マルローネは驚いてマナちゃんを見る。
「知ってる事は多いんだろうけど、何でもと言われるとどうなんだろうね?」
マナちゃんはそう言って空を見上げる。
分厚い雲が、雨を降らせながらこちらに迫って来ていた。
……夕方が来る前に、分厚い雲と雨が来て、黄色いテントの光に頼る事になった。
結構、大粒の雨を草地の上に展開されたテントで防ぎ、ワフールとマルローネ、マナちゃんの3人は雨の景色を眺める。
マナちゃんの緑のプニプニは、夕飯の準備として、外に出ていく。
テント地面から、たるみたいなのが生えて来て、ハダカのマナちゃんは、そこに入ってリラックスポーズになる。
「羞恥心的な話か?」
ワフールが訊ねる。
「いや、ハダカで居られても落ち着かないのかな、と」
マナちゃんは変形する黄色く光るたるごと、少しうにょうにょされながら答える。
「その動きも落ち着かないけどね。でもなんか気持ち良さそう……かな?」
マルローネは、そんなマナちゃんを笑顔で眺める。
黄色く光るたるに、うにょうにょされてるのが、2人に増えた。
やたらと雨の音がして……
ドバーン!
「うきゃあぁぁっ!?」
一瞬、世界が青白い光と、轟音だけになる。
驚き叫んで、たるから飛び出そうとしたマルローネは、キッチリたるに捕まって、元居た場所に戻る。
「ここに落ちるんじゃないか?」
音と光が同時……つまりかなり近くに雷が落ちた。
ワフールも少し慌てて、マナちゃんに聞く。
雨の音も強くなった。
「夕飯準備のプニプニちゃんで処理したけど……おかげで夕飯は準備出来てないね。もうちょっと距離を作るかな」
マナちゃんは言う。
そして黄色いテントは、すす〜っと動き出し、バサバサと音を立てる。
テントから見える景色が、草だけになっていて、低い場所になっている感じだ。
「まだ雷が起きそうだねぇ……こんなリスクがあったとは驚きだね」
マナちゃんが言う。黄色いたるに掴まった姿勢のままだけど、うにょうにょは止まっていた。
「深刻な事態か?」
そんなマナちゃんを見て、ワフールが言う。
「まあ〜……とはいえ、遠ざかっているし、雲はここから離れて行く感じだから、峠は越えた感じだね」
マナちゃんはそう言うと、またゆらゆらと揺れ出した。
そして、雨音だけの時間……
マナちゃんとマルローネは、音もなくゆらゆらうにょうにょと揺れて、リラックスしてるだけの時間。
ワフールは外を眺めたまま、座ったまま。
雨音は弱くなり……
また強くなり……
……何となく、こんな雨が近い時には、道路時代の事を思い出す。
こんな暗い時間の雨の時、マルローネとシア、2人のお気に入りのおじいちゃんと一緒の事が多かった。
不安に思う時も多かったけれど、黙って寄りかかっていられるおじいちゃんに寄りかかっていると、どこか安心出来た。
仲間のおじちゃん達は、10コール賭けのサイコロに興じている事が多く、少し騒がしかった。
寝室は2階の端で、そこは静かで不安になるものだから、シアと2人、騒がしい場所の程近くを好んだ。
そして、眠気が限界になると、おじいちゃんに連れられて寝室へと行ったものだった。
……雨音だけの空間。
テント全部が光ってるという、非常識な明かりも、慣れてしまえば驚きも無くなる。
たるみたいな筒に身体を掴まれて、ゆっくりとふにゃふにゃされてるのが、なんか不安が紛れる。
テントの外は、草の根元しか見えないし。
……雨音は少し強くなり……そしてまた弱くなった。
……雨音は、止んで来たりして、黄色いテントはまた草地の上へと浮かび上がる。
もう半分以上沈んだ夕日が、暗い雲も多めの素敵な景色を明るいオレンジ色と、深い黒で彩っていた。
黄色いたるみたいなやつは解けて、マルローネはテントから出る。
雨の後と匂いが残る素敵な景色は、思い出していた道路時代の事なんて吹き飛ばして、マルローネを夢中にさせた。
「すっごい景色!」
思わず口に出て、テントの方を振り返る。
ワフールはテントから出ていて、マナちゃんはテントの中でうねうねされてるまんまだった。
「雨上がりは、いつだって外に出たくさせるな」
ワフールはそう言うと、ぽんと飛んで、ぽんと飛んで……それを繰り返して夕日を眺める。
マルローネも真似をする。飛び放題な世界だし、飛び上がる事で沈む夕日が、ちょっとだけ大きく顔を覗かせる。
大袈裟な錬金コートが、ちゃんとふわふわする。
元はプニプニちゃんなのに、良く出来てる。
……なんか、そんな事を思いながら、垂直飛びをぽんぽんしながら、ワフールと夕日を眺める。
夕日は、それでも沈んでしまう。
オレンジ色は細くなり、そして遠くだけがオレンジ色になったかと思うと、暗くなる。
黄色いテントの明かりだけが頼りになった。
テントの入り口側で、佇む事にする。
「もうすぐ夕飯になるかな。緑のプニプニちゃんが帰って来るよ」
マナちゃんが言う。
「夕飯は……ネズミか?」
ワフールが訊ねる。
「そうだね。ここの名産品ってコトで」
マナちゃんは答える。
「ネズミは……色々と病気を持っていて……いや、この場合は平気なのか」
ワフールが呟く。
マルローネとしては、ダムで良く取れるので食べ慣れていたりするけれども。
「病気持ちじゃないのを獲ってるから平気かな。まだそういう病気が蔓延する程、ここは複雑な世界じゃないし」
マナちゃんが言った所で、緑に光るプニプニちゃんが帰って来た。
「ハーブ煮込みとは、驚きだな……」
夕飯は、緑色のプニプニちゃん製のテーブルに皿、スプーンと共に供される。
葉っぱと木の実と共に、美味しそうなお肉がゴロゴロの熱いスープ。
「2匹分?」
「いや、2人分で1匹だね。彼等は食べるには大きいサイズだもんね」
マナちゃんは、ハダカでテーブルに向かう。
緑色のプニプニちゃんから、マントが出てきてフォローされた。
「しかし、器用なプニプニだな……」
ワフールが、色々とプニプニボディーから飛び出してる姿を見て呟く。
「マリーのエネルギーをプニプニちゃんに集中してるからね」
マナちゃんは言う。
コテンパンの産物が、このプニプニちゃんという事らしい。
「おお〜……ハーブの香りにお肉の甘み……」
また、ポイントの高い夕飯を食べる。
「これはまた上品に仕上げて来たな……」
ワフールも唸る。
プニプニちゃんの中で、しっかり分解調理されるらしく、マナノハシラ的には何て事もない作業らしい。
そんな夕飯を楽しみ、後は身体のメンテナンスをされながら寝るだけだ。
歯磨きなんかもしてくれるものだから、ラクで仕方がない。
明日はまた、1日中移動……なのかも知れない。
マルローネの赤茶色の服は、赤いプニプニに変化して、マルローネはテントの隅っこで寝る構えに。
赤いプニプニも大きくなるものだから、テントに専用の穴が出来て、そこから赤いプニプニははみ出している。
ワフールの紫っぽい服も、プニプニになって逆の隅っこ、はみ出しベッドとなり、取り込まれて寝る構えに。
体温より少し温かいプニプニベッドは、寝るのに快適だ。
うつ伏せでも、顔がラクだし、呼吸もスムーズ……しかも心地好い温かさ……
マルローネは眠りに落ちて行く。
オリンジン・グランド、フリージア先生
ハゲルジムに居る、トレーニングの先生。
シューマッハー・ドナースターク
ドナースターク家のご隠居様。
エグルドレイブ・ハーレイス
釣り人 騎士団のお兄さん。
ワフール・ハイラム
異世界のエロ魔人
デイドリオン
デイドリオン・アイン
デイドリオン・ツヴァイ
コカイ・シボッカ 道路時代のおじいちゃん