※この作品はR-18です。

錬金術のアトリエ M,Re 1   作:東京のぷるぷる

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マナの柱の中 2


錬金術のアトリエ M RE 2

2

 

 

黒髪の商人は、竹の筒と白いタベクサを持って戻って来た。

タベクサは、マルローネの田舎でもザールブルグでも食べられる、ディナーまでは食べ放題の木の実。

朝〜夕方くらいまではコレを食べて、ディナーは豪華な食事となる。

これ以外だと、1日1食のディナーだけだ。

……とはいえ、ベルグラドいものスープとか、あまり豪勢でも無い物を、宿舎で食べるぐらいだから、そうならないように日々努力してる訳だけど。

 

白いタベクサは見た事が無いけれど、やはり手元に来ると、赤い明かりで赤くなる。

ワフールも、竹の筒とタベクサを受け取って、飲み食いしている。

「味はしないが、一応飲み食いしておけば、いい事あるだろう。価値のある人物に巡り会えたのは幸運だったな」

ワフールは商人に話す。

そんな会話を小耳に、マルローネは水とタベクサを楽しむ。

「まあ、そうかもな。だが、これほど価値のある人物が来たとなれば、この世界そのものが大変化を起こすかも知れん」

黒髪の商人は、そう話す。

「大変化?どう変わる?」

ワフールが尋ねる。

「虫や魚が生まれて来れば、輝きの虫で彩られるだろう。太陽も色濃く昇るかも知れん。そうなれば、草木も生い茂るようになるのかもな」

黒髪の商人は、そう話す。

 

「ありがと。落ち着いたわ」

マルローネは、竹の筒を黒髪の商人に返す。

水は普通に水だし、タベクサは仄かな甘味のある、当たりのタベクサだった。

「外が寒いと聞いた。肌に油を塗れば寒さを防ぐ事が出来るだろう。油の準備もある」

黒髪の商人は、竹の筒を受け取り、話す。

「……油を塗る?私に?」

マルローネは驚き、身体を閉じる。

「寒さを感じるなら、よく使う方法だ。服もあるが、どれだけ厚着をしても、ここの寒さを遮断出来ない。試してみるか?」

黒髪の商人はそう尋ねる。

「……試してみるわ。服があるなら、早く服を着たいものだわ」

マルローネは頷く。

ハダカでうろつくのは趣味じゃないし。

 

「……やっぱり油にするわ」

黒髪の商人が取り出して持って来た、悲惨な下着上下にコートを見て、マルローネは首を横に振る。

汚れがヤバい。ズタボロ過ぎる服……

こんなものに、袖を通したくない。

 

「……」

お次の油。

なんか古い鍋が出て来た。

黒髪の商人は、木の穴の中に、その鍋を運び込む。

鍋の中は……

マルローネは鍋の蓋を開ける黒髪の商人を、鍋の中を見守る。

蓋が開くと、赤く濁った油が見える。

……この赤い明かり、邪魔過ぎる。

全部赤く見えるに決まっているのだ。

「む〜……油を塗る……さすがに厳しいわね……」

マルローネは呟く。

これまでの、ハダカで男の前で過ごすというのも、充分過ぎる罰ゲームなのに、更に油を塗るとか……

なんか、生きてるのか死んでるのか分からない男なのが、救いではあるものの……

「ん。やっぱこれは無理だわ。女の子にする事じゃないわ、明らかに」

マルローネは手のひらを向けて、断りを入れる。

「そうか。なら、これは仕舞うとしよう」

黒髪の商人は聞き分け良く、鍋に蓋をする。

「時が経てば、或いは暖かくなる時も来るかも知れないからな」

ワフールも、その片付けを手伝う。

 

……ちんこぶらぶらさせながら、この男2人は片付けてゆく。

……こんな金髪美少女が、全裸でナイスバディ晒してるってのに……って、魂があやふやな奴らを前にして、そんな事考えても仕方ないのだけど……

……大体……この先に行った所で何があると言うのか。

しかし、戻れるアテも無いし……

マルローネは、腕組みをしながら考える。

 

片付けて、男2人は木の穴の外に座る。

「あなたたちは、寒くないの?」

マルローネは尋ねる。

「まあ、そうだな」

黒髪の商人は答える。

「そういう感覚が無いというのは、このクソな世界に、長く居すぎたせいだろうな」

ワフールも答える。

「どのくらい居るの?」

マルローネは、黒髪の商人を見る。

顔形は整っているのだけど、目が穴……

「俺は……どれぐらいだ?1年……経つのかどうか……」

ワフールは答える。

「俺はもう50年ぐらい居ると思っているが、そんな記憶も曖昧だから、どうだかな」

黒髪の商人も答える。

「商人って言うけど、お客さんなんて居るの?」

マルローネは更に尋ねる。

客ってなんだ……?

「あまり居ないな。だから客を見つけるのが一苦労……のんびり生きてるだけだ」

黒髪の商人は答える。そして大蛇を見る。

大蛇は舌をちろちろしてるだけで、大人しいものだ。

 

少し会話が途切れて、マルローネはため息を吐く。

「しかしワフール、まだ人の形で残っているとは思わなかったな。お前はもはや空っぽのハズだがな」

黒髪の商人はそう話す。

「俺も不思議だ。結局は、成るようにしか成らないのだろう」

ワフールはそう話す。

「新しい客人を連れるというのも、それも運命なのかもな……しかし……この風の無い世界はいつまで続く事やら」

黒髪の商人も、そう話す。

……風の無い世界?

「いっそ……いや……ここも変わるかも知れない時に、気持ちを切らすのは良くないな」

ワフールも、そう話す。

 

会話が途切れて、マルローネは目を閉じるも、ついさっき横になって眠ったばかり。

眠る事も出来ない。

「私は、なんでこんな所に来たんだろ……」

そう呟いてみる。

男2人は気付いてか気付いていないのか、そんな呟きを拾う事はなく、座ったまま黙っている。

マルローネは立ち上がり、穴の外へと手を伸ばす。

……相変わらずの冷たさ。

「油を貰える?少し試したいわ」

そして黒髪の商人に言う。

……退屈なこの2人の仲間入りはゴメンだ。

「……また用意しよう」

黒髪の商人は、ゆっくりと立ち上がり、大蛇の荷物へと向かう。

 

そして、また鍋をマルローネの近くに置く。

マルローネはその鍋の蓋を取ると、右手を油の中に入れる。

……ヌルヌル感。

気持ちの悪い感触。確かに油だ。

「少し覚悟を感じるな。いい空気だ」

黒髪の商人が、不思議な事を言う。

マルローネは右手だけに油を塗り、また右手を穴の外へと伸ばす。

……なるほど、何故かは分からないけれど、油の塗られた所は寒さを受けて、暖かくなる。

更に伸ばすと、油の塗れていない場所はキッチリと寒い。

「塗るのを手伝おう。1人でやらせても、寒さが漏れるものだからな」

黒髪の商人は言い、マルローネに近づく。

「……!」

マルローネは身構える。

……生きてるのか死んでるのか……

そんな奴なのだから、この際、手伝ってもらう事にした。

マルローネは階段に座る。

ワフールも来て、マルローネに近付く。

「髪があるからな。頭に特に塗っておかないと、頭から凍える事になるのだろう。俺は頭をやる」

黒髪の商人はそう話し、鍋にあるお玉に油を掬う。

 

……音も無く掬われた油が、頭に掛けられる。

油を擦り込む手のひらの動き。油の気味悪さもあって、マルローネは背中に悪寒を覚える。

「うわあぁぁ……」

思わず声が出るくらい、キモい。

……無茶苦茶キモい。

 

「俺は足からやるか。足の裏は、歩いていると油が乾きそうだが」

ワフールはマルローネの足を見て、黒髪の商人に尋ねる。

「油を塗った後、革袋を履かねば、だったな。髪の油の後、荷物を探して来よう」

黒髪の商人はそう話す。

「地面にある場所は、仕上げに塗る事にしよう」

ワフールはそう言って、油を手に階段に座るマルローネの膝上にまとめて塗り、下へと塗り広げる。

「ま、前は自分で塗るわ。油をちょうだい」

マルローネは言う。

胸だの股だの塗られては適わない。

「そうだな。そうするといい」

ワフールは、鍋をマルローネに寄せる。

「ううぅぅ……」

乳房から、マルローネは自分で油を塗る。

足に塗られる油と、髪に塗り込める油が本当にキモい……

そして髪に油を塗る手が、マルローネの首を撫でた。

「うひゃあぁっ!タンマタンマ!」

許容量を遥かに超えるキモさに、全身がぞわぞわすら超えて、うぞわうぞわさせられて、思わず悲鳴を上げる。

黒髪の商人の動きは止まり、ワフールの動きも止まる。

心も身体も、キモ過ぎてどうにかなりそうだった。

 

「はぅ〜……やっぱり触られるのはキツいわ……」

少し時間を置いて、マルローネはバツが悪そうに笑って、言う。

赤い明かりは白くなり、ワフールは顔を上げる。

そんなワフールと目が合った。

緑プニだった筈の目は、人の目となっていて、黒い瞳の中心に緑の混じる瞳をしていた。

「ちょっと!目が生きてる!」

マルローネは胸を隠し、膝を曲げて大いに怯む。

「……熱い……熱いぞ!」

ワフールは力強く立ち上がり、両手を震わせる。

「な、何?イキナリ何!?」

マルローネはワフールを見る。

……なかなか邪悪な笑みを浮かべていて、悪人の顔だ。

そんなマルローネの首に触れている、黒髪の商人の手は、マルローネの顎のライン、耳を撫でる。

「うひゃあっ!タンマだって!タンマだって!」

身体を縮めたまま、マルローネは声を上げる。

「俺にも熱が入った。お前のおかげ、お前のこの反応のおかげという事だろう。ここは1つ、この世界を壊す程に悶えて貰う」

黒髪の商人は、マルローネの腰、腹に足を絡める。

……悪人に挟まれて捕まった……!

マルローネが捕まったと思った時、黒髪の商人は消えた。

「……?」

マルローネは振り返る。

影も形もない。

「……アイツはようやく天に帰れたか……」

ワフールはそう言うと、膝をついて祈るポーズを取る。

 

ワフールの祈りを見守る時間。

マルローネは、固まってるばかりだった。

「……マリー……だったな……」

ワフールは、その目をマルローネに向ける。

「な、何よ……?」

生きてる男の目に、怯むばかりのマルローネはワフールの顔を見る。

「お前を送り届ける仕事が、俺には残っている。それが残るうちは、俺は天に帰れないのだろう。本当は、俺も天に帰る筈の男だ」

ワフールは片膝を付いたまま、そう話した。

「……あなた、死んでるの?」

マルローネは尋ねる。

「マリー。お前と同じだ。だが、俺はこの世界で凍えて死んだんだ。それでも、この止まった世界に留まる事になった」

ワフールはマルローネを真っ直ぐに見つめる。

「私と……同じ?」

マルローネは尋ねる。

「大釜の家に閉じ込められ、そそのかされて大釜に飛び込んだのだろう?」

ワフールは言う。

マルローネは頷く。

「俺には価値が無いようだが、マリー、お前には溢れんばかりの価値があるようだ。……このクソったれな世界が動き出す程に」

ワフールは言う。

「どういう価値か、私にもさっぱりだけど」

マルローネは、少し不自然な笑顔を浮かべる。

「俺は1つ、世界に無価値と否定されて、こちらでも無価値と否定されるというのに、羨ましい事だ。マリー、お前は男を知っている女か?」

ワフールは言う。

マルローネは固まった笑顔のまま、首を横に振る。

ワフールはかくっ、と項垂れた。

 

「……そんな気はしていた。行こう。俺は務めを果たして、天に帰らねばならん」

少し間があって、ワフールは立ち上がる。

「……男を知っていれば、貴方を助けられたの?」

マルローネは、そんなワフールを眺める。

ボオオオオォォォ……

強く風が吹き上がり、低い音が頭上に響いた。

「男を知っているなら、ついでかと思っただけだ。どうであれ、俺は天に帰る事になるのだろう。無価値である事に、変わりはないだろうからな」

ワフールは話しながら、穴から少し踏み出す。

マルローネも立ち上がる。

所々に塗られたままの油を気にしながら。

「今は寒くないな。俺も風を感じる事が出来るようになった」

ワフールは穴から出る。

「本当に?」

マルローネも続く。確かに寒くないし、明るい。

そして、無数に居た青プニ達は、居なくなっていた。

大蛇も荷物も消えている。

 

「どこに送り届けたら、いいのやら」

ワフールは両手を広げて、肩を竦めて見せる。

「知らないの?」

マルローネは驚く。

「そりゃ、空から声がしただけだからな」

ワフールはマルローネに背中を向けて、そう話す。

「そっかぁ……そうだよね……」

……そんな話だったなぁ……とマルローネも思う。

そして、道を作っていた青プニ達は、消えてしまっている。

分からないのも無理はない。

遠くを見る。川幅と思われる壁と壁はかなり広く、上流方向も下流方向も、果ては見えない。

ワフールは上を見上げていたり。

「川の上に行けば、水は飲めそうじゃないか?」

ワフールは言う。

「それは確かにそうかも」

マルローネは、その話に同意する。

 

ワフールは穴へと戻る。

階段を登り返す事になった。

「いつまで彷徨うのか分からないなら、水や食料の場所は押さえておきたい」

裸のワフールの後に、マルローネも続く。

生きてるとなると、なんか意識してしまう。

相変わらず、温い風が吹き上がる大木の中の螺旋階段。

ボオオオオォォォ……

と、心地好い低音が鳴る。

 

……降りた時よりも長いと思う階段を、2人は黙々と登る。

しかし、服を着ていない世界というのが、やたら心細く感じる。

ワフールの目が緑プニだった時には、あまり感じなかったのだが……

思わず胸を隠す腕を、意識的に降ろす。手すりを掴む。

 

そんなこんなしていると、ワフールは立ち止まり、壁を触る。

もやもやしながら、足元への注意がバッチリなマルローネが、近付き過ぎてから、そんなワフールにびっくりする。

「え!?何!?」

なんか、変な声が出た。

「おお!?いや……ここにあった穴を通ったような気がしたんだがな」

ワフールはそんなマルローネを見て、そして壁に顔を戻す。

ほんの少しだけの穴が空いていて、それはわずかに外が見えるだけ……片目程度の大きさしかない。

「まだ階段は続いてるけど……」

マルローネは上を見る。

階段も、なんか毛が生えていたり、縮こまった新芽が見れたりした。

この大木の螺旋階段も、来た時とは変わっている。

「とにかく、上に行ってみるか。引き返すのは癪だからな」

ワフールは動き出す。

「それは賛成だわ。また喉渇いたし」

マルローネも続く。

 

……螺旋が小さくなっていくのか、階段はカーブが急になっていく。

開いてる葉っぱが見られるようになった。

……木の内側って……葉っぱがあるものなのか……

マルローネは思う。

そして階段は登り坂となり、外へと出た。

 

枝が複雑に強固に絡み、地面を作っていて、びっしりと葉っぱを付けている。

その葉っぱ1つ1つに、白いタベクサを付けている。

「こんなに丈夫なものなのか?」

そのタベクサの葉を触り引っ張り、ワフールが言う。

「どれどれ……」

マルローネも触ってみる。

確かにある程度柔らかいのだけれど、とんでもなく強い感じがする。

 

2人して、木から出て葉っぱ地帯の上に足を踏み出す。

「……これは……」

木の上からの景色が、そんな葉っぱ地帯の隙間から見える。

地面も、横も、上も……タベクサの木ってこんなに巨大になるのか……いや、それはこのふざけた世界だけの話だろう。

「川は遠いようだが、食べ物にはありつけそうだな」

ワフールはタベクサをちぎり取る。

葉っぱもデカいが、その葉っぱに付けたタベクサも太くて長い。

「ディナーが恋しいけどね」

マルローネも、タベクサをちぎり取る。

 

……瑞々しい!タベクサが凄く水を抱えていて、かじると、その汁が弾けて零れた。

控えめに青臭い、わずかに甘い水だ。

「マリー!」

不意に呼ばれて、マルローネは齧りかけのタベクサを手に、ワフールを見る。

「な、何?」

「さっきは格好付けたが、やはり俺は盗賊だった男だ。全裸の女を前に、紳士でい続ける事は無理だ!」

ワフールは言う。

……それも、無理の無い話だとは思う。

「まぁ〜……デスヨネ?」

マルローネは苦笑いを返す。

「理解してくれるか!」

ワフールは喜ぶ。

「なんか、ぎこちない感じは息苦しいよね。でも私は初めてだから、ゆっくり優しくね?」

マルローネは、葉っぱだらけの地面に座る。

木の上なのに、草原みたいな地面。四方も天井もタベクサの葉っぱに囲まれた、広い場所。

……ハダカの男女に、場所まで揃ってしまった訳だ。

 

「……マリー、変な髪型になってるな。さすがに整えようか」

座るマルローネの後ろに、ワフールが来る。

「油塗られてる途中に、イキナリ黒髪商人が消えたからだわ。なんか襲われそうになったし」

ワフールに髪を弄られながら、マルローネは言う。油は残っている。

見れば、自分で塗った乳房が、手と右足がテカテカしてる。

「男を知らない割に冷静だな?」

髪を整えながら、ワフールが尋ねる。

「連れ込まれた事はあるわ。飛翔亭の向こうなんて、そんな宿ばっかりで、でも汚い部屋が怖くて、全力ダッシュで逃げたわね」

マルローネは黒歴史を語る。

 

……1日1回のディナーは賑わうものだし、お酒も入るものだから、そういう流れもある。

「50コールの宿か?」

ワフールは、笑ったような声で尋ねる。

「詳しく値段まで知らないけど、あの辺りはトラウマね。おかげで、貞操を守る女になっただけだから、この場所なら合格って感じかしら」

マルローネはそう話して、食べかけのタベクサを口にする。

「あの大釜の家に送られた……って事は、マリー、お前はどんな落伍者なんだ?」

マルローネの髪を優しく弄りながら、ワフールは尋ねる。

 

……もぐもぐ。……落伍者ってなんだろ?

マルローネは、タベクサを飲み込む。

太くて長いと、1本が多い。

「アカデミーで成績が最低だったのよ。お店をくれるとか言ってたけれど……ワフールもアカデミー……じゃないわよね?」

髪を弄る手が首に触れる。

マルローネは思わず、それに肩を竦める。

ぴくっ、とする。

「俺は戦争捕虜だ。誤解なんだがな……ジグザール王国にとって、あの大釜が何なのかは分からんが、人を捨てる場所のようだった」

ワフールはマルローネの長い髪に、油を伸ばす。あまり1つの所に固まられても、汚らしいものだから、伸ばして広げて誤魔化しておく。

「落伍者ってのは、捨てられる人って事?」

マルローネは、齧りかけのタベクサを眺めて尋ねる。

肩を竦めたり、楽にしたり……

でも、男だから身構えなきゃ的な息苦しさは、ラクになった気がする。

「捨てる程に不要な人間って感じだな。落ちこぼれってやつだ」

ワフールはそう話す。

……アカデミーは別に入学した者を全員、錬金術士にする場所ではない。

向いていない生徒なら、去っていく。

……それが当たり前の場所だし、そういう生徒をマルローネも脇目に見てきたハズだ。

歴代最低の成績のマルローネに、やたらと目を掛ける必要など、どこにもない。

 

「あ〜あ。まあ、そうだよね。私なんて要らないよね」

少し険しい顔で固まっていたマルローネは、顔を上げて、上の葉っぱワールドを見上げる。

 

……葉っぱを繁らせてる、常識外れの大木の、その葉っぱ世界の中に居るのだから、上も下も葉っぱワールド、という訳だ。

「まあ、落伍者同士、仲良くやろう」

ワフールの顔が、マルローネの顔のすぐ隣に現れる。

マルローネはびくっ、と怯んでから、その顔に手をやると、顔を寄せた。

「……せっかくだし、楽しまないとだね」

そう強がる。

ワフールはマルローネの首筋にキスをして、両肩を撫でる。

「あう〜……」

マルローネは目を強く閉じる。

キモすぎてうぞわうぞわする、あの感覚で、全身がぞわぞわする。

……そこまでキモく思ってる訳でもないけれど、抵抗はある。というか、抵抗しかない。

 

「可愛い反応だな。マリー。乳房と乳首を油で装飾して、俺を誘ってくれるとは、身に余る光栄というヤツだな」

ワフールは言い、肩を撫でる手をおっぱいへと移す。

「油は成り行き……ぃいんっ!」

おっぱいを掴まれて、マルローネは身体を捩る。

身体を触られる抵抗にうぞわうぞわさせて、更に涙が滲んで来た。

 

そんな時に風が吹いて、タベクサを抱えた葉っぱ達が、音を立てて揺れる。

葉っぱの隙間を貫いて、幾筋もの強い光が差して来た。

 

「ははっ!今、凄い顔してたぞ」

ワフールは手を離し、マルローネから少し離れて座る。

マルローネは離れてくれた事に安堵して、横から来てるだろう幾筋もの光を眺める。

「はうぅ〜……ふは〜……」

存分に安堵のため息をつく。

 

そして、いたずらっ子な感じで笑うワフールを見る。

 

「そ、そりゃそうなるでしょ……笑うトコなの?」

背中を丸めておっぱいを守る構え……無意識にそんな感じになりながら、なんか上擦った声が出る。

「そうだな。それが可愛くて仕方なかった。今も可愛い顔をしてるぞ?」

ワフールはそう言って、今度は正面から近寄って来る。

マルローネは2人を支える、葉っぱの地面を見る。

絡み合って重なり合った、一面のタベクサの葉っぱは、とんでもない弾力で、人間の重さなどどこ吹く風なのか……

 

「丈夫な葉っぱねぇ……」

ごまかし笑いを浮かべて、マルローネは顔を上げる。

「ありがたい限りだな」

ワフールの顔が、マルローネの頬の横ぐらいに来て、両手が腰に伸びる。

マルローネの腰の左右に、ワフールの手のひらが取り付く。

「な、何?」

油っぽい金の髪を挟んで、触ってる近さのワフールを感じながら、マルローネは目を閉じる。

「可愛い顔を見たくてな。もう少し、おちょくりたくなった」

凄く近いワフールの声。

「おちょくられるの?」

おっぱいを守る両手は、なんか固まってて動かせない。

 

……マルローネはその姿勢のまま、少し目を開ける。

「少しおちょくってから、繋がった方がいいだろ?時間もありそうだし、な」

ワフールはそう言うと、腰の手のひらを、上へと撫で上げる。

「いいっ!」

身体のぞわぞわに震え上がる感覚に、マルローネは珍妙な声を上げる。

その声が無駄に大きくて、自分でも驚く。

そして、その拍子に後ろに倒れた。

「さて……」

ワフールはマルローネに覆いかぶさり、尻を太腿を揉むように、手のひらを動かす。

「タンマタンマ!それ……結構ダメ!」

マルローネは膝を立てて、悶える。

「子供の反応をするなぁ……」

ワフールは、マルローネの首に手のひらを掛ける。

どこをくすぐられても、マルローネは過剰に反応する。

 

「マリー、キスはした事があるか?」

ワフールはマルローネの首筋を撫でながら、そう尋ねる。

「……まあ、そういう流れよね……無いわ。特に決めた相手なんてのも居ないし」

マルローネはそう答えて、ワフールの顔を見る。

首筋をくすぐられて、目を細めたりしながら。

 

……ワフールとマルローネは唇を合わせる。

唇を合わせると、ワフールの手は肩を撫で、腕を撫で……また腰へと取り付く。

「んっ!……んっ!」

マルローネは目を閉じて、唇を閉じて……それでも声が上がる。

手のひらは、また脇腹を、背中を……と撫で回る。

「ふあっ……あぅ……ん〜……」

マルローネは堪らず唇を開き、開いた唇を奪われる。

手のひらで肌を撫で回られて、身体をうねうねと悶えさせながら、マルローネは合わせた唇で呼吸をする。

……濡れた唇を感じて、お互いの呼吸を混ぜ合うようなキス?……をする。

する、というか、せざるを得ない。

 

ひとしきり、うねうねさせられてぞわぞわさせられて、キスは離れる。

手のひらも、マルローネの肌から離れて、マルローネは安堵のため息を吐く。

「……女、といった感じになって来たな。マリー……」

額を合わせたワフールの顔が、少しニヤケたような声で話す。

「はあ……ふ〜っ……」

マルローネは呼吸を整える。

 

「何だか、エロい気分になったよ……」

マルローネは、ほぼ影となっているワフールの顔を見る。

「まだ始まってもいないけどな。だが、本当に可愛いな。マリー」

ワフールのニヤケたような声は、そう話す。

「うるさい。……可愛いって言われても、なんか……みっともないばっかりだよ」

顔を赤くしてるマリーは、ワフールを真っ直ぐ見てそう話す。

 

……いずれは誰かと、こうしたりするのだろうけど……

「みっともない?……まあ、そうでもあるかな。だが、俺は光栄に溢れる気持ちだ」

ワフールは話す。

「いい気味ってこと?」

マルローネはワフールを睨む。

「まあ、……それもある。それもあるか」

ワフールはくっ付けた額を、軽くぐりぐりする。

「……それしか無さそうだけど」

マルローネは、少し開いた足を閉じながら、唇を尖らせる。

「それよりも、こうしてる時間は有り難い。マリーが可愛ければ可愛い程に、な」

首を撫でる手は、マルローネの頬を撫でる。

「あ〜……そういう感じが男の子かも。何となくそんな感じする」

頬を撫でられながら、マルローネは言う。

そして思う。

……連れ込まれそうになった時も、鼻の下を伸ばした男だったし。

……貧乏につけ込んで、口説かれる事もあった。劣等生は敷居が低いので、歓迎は出来ない人気なんだと、シアに言われたものだ。

……ヤバい宿……この1点が嫌で嫌で、逃げまくった訳だけど。

 

ふと、寝転がる自分の左右を見る。

マルローネが不意に顔を左右にするので、ワフールは顔を離した。

……白いタベクサを抱えた葉っぱ、葉っぱ、葉っぱ……

強い光は少し柔らかく差していて、綺麗なものだ。

葉っぱはツルツルしてるし、この葉っぱの集団の上に寝ている訳だけど、肌触りも良い。

……どういう訳なのか……タベクサは程よい硬さなんだけど……

 

「どうした?」

ワフールは、そんな葉っぱを確かめるマルローネに、声を掛ける。

「こんな場所なら、まあ……いいかな、って思ってた」

マルローネは、ワフールに顔を向ける。

「なるほど。俺もそう感じたな。それと、やはり全裸の金髪美少女を前に、紳士ではいられん、というのも本音だ」

ワフールは、悪人顔の笑みを浮かべる。

「まあ、それから逃げられそうも無いし……」

マルローネも、笑みを浮かべる。

 

 

ワフール・ハイラム

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