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黒髪の商人は、竹の筒と白いタベクサを持って戻って来た。
タベクサは、マルローネの田舎でもザールブルグでも食べられる、ディナーまでは食べ放題の木の実。
朝〜夕方くらいまではコレを食べて、ディナーは豪華な食事となる。
これ以外だと、1日1食のディナーだけだ。
……とはいえ、ベルグラドいものスープとか、あまり豪勢でも無い物を、宿舎で食べるぐらいだから、そうならないように日々努力してる訳だけど。
白いタベクサは見た事が無いけれど、やはり手元に来ると、赤い明かりで赤くなる。
ワフールも、竹の筒とタベクサを受け取って、飲み食いしている。
「味はしないが、一応飲み食いしておけば、いい事あるだろう。価値のある人物に巡り会えたのは幸運だったな」
ワフールは商人に話す。
そんな会話を小耳に、マルローネは水とタベクサを楽しむ。
「まあ、そうかもな。だが、これほど価値のある人物が来たとなれば、この世界そのものが大変化を起こすかも知れん」
黒髪の商人は、そう話す。
「大変化?どう変わる?」
ワフールが尋ねる。
「虫や魚が生まれて来れば、輝きの虫で彩られるだろう。太陽も色濃く昇るかも知れん。そうなれば、草木も生い茂るようになるのかもな」
黒髪の商人は、そう話す。
「ありがと。落ち着いたわ」
マルローネは、竹の筒を黒髪の商人に返す。
水は普通に水だし、タベクサは仄かな甘味のある、当たりのタベクサだった。
「外が寒いと聞いた。肌に油を塗れば寒さを防ぐ事が出来るだろう。油の準備もある」
黒髪の商人は、竹の筒を受け取り、話す。
「……油を塗る?私に?」
マルローネは驚き、身体を閉じる。
「寒さを感じるなら、よく使う方法だ。服もあるが、どれだけ厚着をしても、ここの寒さを遮断出来ない。試してみるか?」
黒髪の商人はそう尋ねる。
「……試してみるわ。服があるなら、早く服を着たいものだわ」
マルローネは頷く。
ハダカでうろつくのは趣味じゃないし。
「……やっぱり油にするわ」
黒髪の商人が取り出して持って来た、悲惨な下着上下にコートを見て、マルローネは首を横に振る。
汚れがヤバい。ズタボロ過ぎる服……
こんなものに、袖を通したくない。
「……」
お次の油。
なんか古い鍋が出て来た。
黒髪の商人は、木の穴の中に、その鍋を運び込む。
鍋の中は……
マルローネは鍋の蓋を開ける黒髪の商人を、鍋の中を見守る。
蓋が開くと、赤く濁った油が見える。
……この赤い明かり、邪魔過ぎる。
全部赤く見えるに決まっているのだ。
「む〜……油を塗る……さすがに厳しいわね……」
マルローネは呟く。
これまでの、ハダカで男の前で過ごすというのも、充分過ぎる罰ゲームなのに、更に油を塗るとか……
なんか、生きてるのか死んでるのか分からない男なのが、救いではあるものの……
「ん。やっぱこれは無理だわ。女の子にする事じゃないわ、明らかに」
マルローネは手のひらを向けて、断りを入れる。
「そうか。なら、これは仕舞うとしよう」
黒髪の商人は聞き分け良く、鍋に蓋をする。
「時が経てば、或いは暖かくなる時も来るかも知れないからな」
ワフールも、その片付けを手伝う。
……ちんこぶらぶらさせながら、この男2人は片付けてゆく。
……こんな金髪美少女が、全裸でナイスバディ晒してるってのに……って、魂があやふやな奴らを前にして、そんな事考えても仕方ないのだけど……
……大体……この先に行った所で何があると言うのか。
しかし、戻れるアテも無いし……
マルローネは、腕組みをしながら考える。
片付けて、男2人は木の穴の外に座る。
「あなたたちは、寒くないの?」
マルローネは尋ねる。
「まあ、そうだな」
黒髪の商人は答える。
「そういう感覚が無いというのは、このクソな世界に、長く居すぎたせいだろうな」
ワフールも答える。
「どのくらい居るの?」
マルローネは、黒髪の商人を見る。
顔形は整っているのだけど、目が穴……
「俺は……どれぐらいだ?1年……経つのかどうか……」
ワフールは答える。
「俺はもう50年ぐらい居ると思っているが、そんな記憶も曖昧だから、どうだかな」
黒髪の商人も答える。
「商人って言うけど、お客さんなんて居るの?」
マルローネは更に尋ねる。
客ってなんだ……?
「あまり居ないな。だから客を見つけるのが一苦労……のんびり生きてるだけだ」
黒髪の商人は答える。そして大蛇を見る。
大蛇は舌をちろちろしてるだけで、大人しいものだ。
少し会話が途切れて、マルローネはため息を吐く。
「しかしワフール、まだ人の形で残っているとは思わなかったな。お前はもはや空っぽのハズだがな」
黒髪の商人はそう話す。
「俺も不思議だ。結局は、成るようにしか成らないのだろう」
ワフールはそう話す。
「新しい客人を連れるというのも、それも運命なのかもな……しかし……この風の無い世界はいつまで続く事やら」
黒髪の商人も、そう話す。
……風の無い世界?
「いっそ……いや……ここも変わるかも知れない時に、気持ちを切らすのは良くないな」
ワフールも、そう話す。
会話が途切れて、マルローネは目を閉じるも、ついさっき横になって眠ったばかり。
眠る事も出来ない。
「私は、なんでこんな所に来たんだろ……」
そう呟いてみる。
男2人は気付いてか気付いていないのか、そんな呟きを拾う事はなく、座ったまま黙っている。
マルローネは立ち上がり、穴の外へと手を伸ばす。
……相変わらずの冷たさ。
「油を貰える?少し試したいわ」
そして黒髪の商人に言う。
……退屈なこの2人の仲間入りはゴメンだ。
「……また用意しよう」
黒髪の商人は、ゆっくりと立ち上がり、大蛇の荷物へと向かう。
そして、また鍋をマルローネの近くに置く。
マルローネはその鍋の蓋を取ると、右手を油の中に入れる。
……ヌルヌル感。
気持ちの悪い感触。確かに油だ。
「少し覚悟を感じるな。いい空気だ」
黒髪の商人が、不思議な事を言う。
マルローネは右手だけに油を塗り、また右手を穴の外へと伸ばす。
……なるほど、何故かは分からないけれど、油の塗られた所は寒さを受けて、暖かくなる。
更に伸ばすと、油の塗れていない場所はキッチリと寒い。
「塗るのを手伝おう。1人でやらせても、寒さが漏れるものだからな」
黒髪の商人は言い、マルローネに近づく。
「……!」
マルローネは身構える。
……生きてるのか死んでるのか……
そんな奴なのだから、この際、手伝ってもらう事にした。
マルローネは階段に座る。
ワフールも来て、マルローネに近付く。
「髪があるからな。頭に特に塗っておかないと、頭から凍える事になるのだろう。俺は頭をやる」
黒髪の商人はそう話し、鍋にあるお玉に油を掬う。
……音も無く掬われた油が、頭に掛けられる。
油を擦り込む手のひらの動き。油の気味悪さもあって、マルローネは背中に悪寒を覚える。
「うわあぁぁ……」
思わず声が出るくらい、キモい。
……無茶苦茶キモい。
「俺は足からやるか。足の裏は、歩いていると油が乾きそうだが」
ワフールはマルローネの足を見て、黒髪の商人に尋ねる。
「油を塗った後、革袋を履かねば、だったな。髪の油の後、荷物を探して来よう」
黒髪の商人はそう話す。
「地面にある場所は、仕上げに塗る事にしよう」
ワフールはそう言って、油を手に階段に座るマルローネの膝上にまとめて塗り、下へと塗り広げる。
「ま、前は自分で塗るわ。油をちょうだい」
マルローネは言う。
胸だの股だの塗られては適わない。
「そうだな。そうするといい」
ワフールは、鍋をマルローネに寄せる。
「ううぅぅ……」
乳房から、マルローネは自分で油を塗る。
足に塗られる油と、髪に塗り込める油が本当にキモい……
そして髪に油を塗る手が、マルローネの首を撫でた。
「うひゃあぁっ!タンマタンマ!」
許容量を遥かに超えるキモさに、全身がぞわぞわすら超えて、うぞわうぞわさせられて、思わず悲鳴を上げる。
黒髪の商人の動きは止まり、ワフールの動きも止まる。
心も身体も、キモ過ぎてどうにかなりそうだった。
「はぅ〜……やっぱり触られるのはキツいわ……」
少し時間を置いて、マルローネはバツが悪そうに笑って、言う。
赤い明かりは白くなり、ワフールは顔を上げる。
そんなワフールと目が合った。
緑プニだった筈の目は、人の目となっていて、黒い瞳の中心に緑の混じる瞳をしていた。
「ちょっと!目が生きてる!」
マルローネは胸を隠し、膝を曲げて大いに怯む。
「……熱い……熱いぞ!」
ワフールは力強く立ち上がり、両手を震わせる。
「な、何?イキナリ何!?」
マルローネはワフールを見る。
……なかなか邪悪な笑みを浮かべていて、悪人の顔だ。
そんなマルローネの首に触れている、黒髪の商人の手は、マルローネの顎のライン、耳を撫でる。
「うひゃあっ!タンマだって!タンマだって!」
身体を縮めたまま、マルローネは声を上げる。
「俺にも熱が入った。お前のおかげ、お前のこの反応のおかげという事だろう。ここは1つ、この世界を壊す程に悶えて貰う」
黒髪の商人は、マルローネの腰、腹に足を絡める。
……悪人に挟まれて捕まった……!
マルローネが捕まったと思った時、黒髪の商人は消えた。
「……?」
マルローネは振り返る。
影も形もない。
「……アイツはようやく天に帰れたか……」
ワフールはそう言うと、膝をついて祈るポーズを取る。
ワフールの祈りを見守る時間。
マルローネは、固まってるばかりだった。
「……マリー……だったな……」
ワフールは、その目をマルローネに向ける。
「な、何よ……?」
生きてる男の目に、怯むばかりのマルローネはワフールの顔を見る。
「お前を送り届ける仕事が、俺には残っている。それが残るうちは、俺は天に帰れないのだろう。本当は、俺も天に帰る筈の男だ」
ワフールは片膝を付いたまま、そう話した。
「……あなた、死んでるの?」
マルローネは尋ねる。
「マリー。お前と同じだ。だが、俺はこの世界で凍えて死んだんだ。それでも、この止まった世界に留まる事になった」
ワフールはマルローネを真っ直ぐに見つめる。
「私と……同じ?」
マルローネは尋ねる。
「大釜の家に閉じ込められ、そそのかされて大釜に飛び込んだのだろう?」
ワフールは言う。
マルローネは頷く。
「俺には価値が無いようだが、マリー、お前には溢れんばかりの価値があるようだ。……このクソったれな世界が動き出す程に」
ワフールは言う。
「どういう価値か、私にもさっぱりだけど」
マルローネは、少し不自然な笑顔を浮かべる。
「俺は1つ、世界に無価値と否定されて、こちらでも無価値と否定されるというのに、羨ましい事だ。マリー、お前は男を知っている女か?」
ワフールは言う。
マルローネは固まった笑顔のまま、首を横に振る。
ワフールはかくっ、と項垂れた。
「……そんな気はしていた。行こう。俺は務めを果たして、天に帰らねばならん」
少し間があって、ワフールは立ち上がる。
「……男を知っていれば、貴方を助けられたの?」
マルローネは、そんなワフールを眺める。
ボオオオオォォォ……
強く風が吹き上がり、低い音が頭上に響いた。
「男を知っているなら、ついでかと思っただけだ。どうであれ、俺は天に帰る事になるのだろう。無価値である事に、変わりはないだろうからな」
ワフールは話しながら、穴から少し踏み出す。
マルローネも立ち上がる。
所々に塗られたままの油を気にしながら。
「今は寒くないな。俺も風を感じる事が出来るようになった」
ワフールは穴から出る。
「本当に?」
マルローネも続く。確かに寒くないし、明るい。
そして、無数に居た青プニ達は、居なくなっていた。
大蛇も荷物も消えている。
「どこに送り届けたら、いいのやら」
ワフールは両手を広げて、肩を竦めて見せる。
「知らないの?」
マルローネは驚く。
「そりゃ、空から声がしただけだからな」
ワフールはマルローネに背中を向けて、そう話す。
「そっかぁ……そうだよね……」
……そんな話だったなぁ……とマルローネも思う。
そして、道を作っていた青プニ達は、消えてしまっている。
分からないのも無理はない。
遠くを見る。川幅と思われる壁と壁はかなり広く、上流方向も下流方向も、果ては見えない。
ワフールは上を見上げていたり。
「川の上に行けば、水は飲めそうじゃないか?」
ワフールは言う。
「それは確かにそうかも」
マルローネは、その話に同意する。
ワフールは穴へと戻る。
階段を登り返す事になった。
「いつまで彷徨うのか分からないなら、水や食料の場所は押さえておきたい」
裸のワフールの後に、マルローネも続く。
生きてるとなると、なんか意識してしまう。
相変わらず、温い風が吹き上がる大木の中の螺旋階段。
ボオオオオォォォ……
と、心地好い低音が鳴る。
……降りた時よりも長いと思う階段を、2人は黙々と登る。
しかし、服を着ていない世界というのが、やたら心細く感じる。
ワフールの目が緑プニだった時には、あまり感じなかったのだが……
思わず胸を隠す腕を、意識的に降ろす。手すりを掴む。
そんなこんなしていると、ワフールは立ち止まり、壁を触る。
もやもやしながら、足元への注意がバッチリなマルローネが、近付き過ぎてから、そんなワフールにびっくりする。
「え!?何!?」
なんか、変な声が出た。
「おお!?いや……ここにあった穴を通ったような気がしたんだがな」
ワフールはそんなマルローネを見て、そして壁に顔を戻す。
ほんの少しだけの穴が空いていて、それはわずかに外が見えるだけ……片目程度の大きさしかない。
「まだ階段は続いてるけど……」
マルローネは上を見る。
階段も、なんか毛が生えていたり、縮こまった新芽が見れたりした。
この大木の螺旋階段も、来た時とは変わっている。
「とにかく、上に行ってみるか。引き返すのは癪だからな」
ワフールは動き出す。
「それは賛成だわ。また喉渇いたし」
マルローネも続く。
……螺旋が小さくなっていくのか、階段はカーブが急になっていく。
開いてる葉っぱが見られるようになった。
……木の内側って……葉っぱがあるものなのか……
マルローネは思う。
そして階段は登り坂となり、外へと出た。
枝が複雑に強固に絡み、地面を作っていて、びっしりと葉っぱを付けている。
その葉っぱ1つ1つに、白いタベクサを付けている。
「こんなに丈夫なものなのか?」
そのタベクサの葉を触り引っ張り、ワフールが言う。
「どれどれ……」
マルローネも触ってみる。
確かにある程度柔らかいのだけれど、とんでもなく強い感じがする。
2人して、木から出て葉っぱ地帯の上に足を踏み出す。
「……これは……」
木の上からの景色が、そんな葉っぱ地帯の隙間から見える。
地面も、横も、上も……タベクサの木ってこんなに巨大になるのか……いや、それはこのふざけた世界だけの話だろう。
「川は遠いようだが、食べ物にはありつけそうだな」
ワフールはタベクサをちぎり取る。
葉っぱもデカいが、その葉っぱに付けたタベクサも太くて長い。
「ディナーが恋しいけどね」
マルローネも、タベクサをちぎり取る。
……瑞々しい!タベクサが凄く水を抱えていて、かじると、その汁が弾けて零れた。
控えめに青臭い、わずかに甘い水だ。
「マリー!」
不意に呼ばれて、マルローネは齧りかけのタベクサを手に、ワフールを見る。
「な、何?」
「さっきは格好付けたが、やはり俺は盗賊だった男だ。全裸の女を前に、紳士でい続ける事は無理だ!」
ワフールは言う。
……それも、無理の無い話だとは思う。
「まぁ〜……デスヨネ?」
マルローネは苦笑いを返す。
「理解してくれるか!」
ワフールは喜ぶ。
「なんか、ぎこちない感じは息苦しいよね。でも私は初めてだから、ゆっくり優しくね?」
マルローネは、葉っぱだらけの地面に座る。
木の上なのに、草原みたいな地面。四方も天井もタベクサの葉っぱに囲まれた、広い場所。
……ハダカの男女に、場所まで揃ってしまった訳だ。
「……マリー、変な髪型になってるな。さすがに整えようか」
座るマルローネの後ろに、ワフールが来る。
「油塗られてる途中に、イキナリ黒髪商人が消えたからだわ。なんか襲われそうになったし」
ワフールに髪を弄られながら、マルローネは言う。油は残っている。
見れば、自分で塗った乳房が、手と右足がテカテカしてる。
「男を知らない割に冷静だな?」
髪を整えながら、ワフールが尋ねる。
「連れ込まれた事はあるわ。飛翔亭の向こうなんて、そんな宿ばっかりで、でも汚い部屋が怖くて、全力ダッシュで逃げたわね」
マルローネは黒歴史を語る。
……1日1回のディナーは賑わうものだし、お酒も入るものだから、そういう流れもある。
「50コールの宿か?」
ワフールは、笑ったような声で尋ねる。
「詳しく値段まで知らないけど、あの辺りはトラウマね。おかげで、貞操を守る女になっただけだから、この場所なら合格って感じかしら」
マルローネはそう話して、食べかけのタベクサを口にする。
「あの大釜の家に送られた……って事は、マリー、お前はどんな落伍者なんだ?」
マルローネの髪を優しく弄りながら、ワフールは尋ねる。
……もぐもぐ。……落伍者ってなんだろ?
マルローネは、タベクサを飲み込む。
太くて長いと、1本が多い。
「アカデミーで成績が最低だったのよ。お店をくれるとか言ってたけれど……ワフールもアカデミー……じゃないわよね?」
髪を弄る手が首に触れる。
マルローネは思わず、それに肩を竦める。
ぴくっ、とする。
「俺は戦争捕虜だ。誤解なんだがな……ジグザール王国にとって、あの大釜が何なのかは分からんが、人を捨てる場所のようだった」
ワフールはマルローネの長い髪に、油を伸ばす。あまり1つの所に固まられても、汚らしいものだから、伸ばして広げて誤魔化しておく。
「落伍者ってのは、捨てられる人って事?」
マルローネは、齧りかけのタベクサを眺めて尋ねる。
肩を竦めたり、楽にしたり……
でも、男だから身構えなきゃ的な息苦しさは、ラクになった気がする。
「捨てる程に不要な人間って感じだな。落ちこぼれってやつだ」
ワフールはそう話す。
……アカデミーは別に入学した者を全員、錬金術士にする場所ではない。
向いていない生徒なら、去っていく。
……それが当たり前の場所だし、そういう生徒をマルローネも脇目に見てきたハズだ。
歴代最低の成績のマルローネに、やたらと目を掛ける必要など、どこにもない。
「あ〜あ。まあ、そうだよね。私なんて要らないよね」
少し険しい顔で固まっていたマルローネは、顔を上げて、上の葉っぱワールドを見上げる。
……葉っぱを繁らせてる、常識外れの大木の、その葉っぱ世界の中に居るのだから、上も下も葉っぱワールド、という訳だ。
「まあ、落伍者同士、仲良くやろう」
ワフールの顔が、マルローネの顔のすぐ隣に現れる。
マルローネはびくっ、と怯んでから、その顔に手をやると、顔を寄せた。
「……せっかくだし、楽しまないとだね」
そう強がる。
ワフールはマルローネの首筋にキスをして、両肩を撫でる。
「あう〜……」
マルローネは目を強く閉じる。
キモすぎてうぞわうぞわする、あの感覚で、全身がぞわぞわする。
……そこまでキモく思ってる訳でもないけれど、抵抗はある。というか、抵抗しかない。
「可愛い反応だな。マリー。乳房と乳首を油で装飾して、俺を誘ってくれるとは、身に余る光栄というヤツだな」
ワフールは言い、肩を撫でる手をおっぱいへと移す。
「油は成り行き……ぃいんっ!」
おっぱいを掴まれて、マルローネは身体を捩る。
身体を触られる抵抗にうぞわうぞわさせて、更に涙が滲んで来た。
そんな時に風が吹いて、タベクサを抱えた葉っぱ達が、音を立てて揺れる。
葉っぱの隙間を貫いて、幾筋もの強い光が差して来た。
「ははっ!今、凄い顔してたぞ」
ワフールは手を離し、マルローネから少し離れて座る。
マルローネは離れてくれた事に安堵して、横から来てるだろう幾筋もの光を眺める。
「はうぅ〜……ふは〜……」
存分に安堵のため息をつく。
そして、いたずらっ子な感じで笑うワフールを見る。
「そ、そりゃそうなるでしょ……笑うトコなの?」
背中を丸めておっぱいを守る構え……無意識にそんな感じになりながら、なんか上擦った声が出る。
「そうだな。それが可愛くて仕方なかった。今も可愛い顔をしてるぞ?」
ワフールはそう言って、今度は正面から近寄って来る。
マルローネは2人を支える、葉っぱの地面を見る。
絡み合って重なり合った、一面のタベクサの葉っぱは、とんでもない弾力で、人間の重さなどどこ吹く風なのか……
「丈夫な葉っぱねぇ……」
ごまかし笑いを浮かべて、マルローネは顔を上げる。
「ありがたい限りだな」
ワフールの顔が、マルローネの頬の横ぐらいに来て、両手が腰に伸びる。
マルローネの腰の左右に、ワフールの手のひらが取り付く。
「な、何?」
油っぽい金の髪を挟んで、触ってる近さのワフールを感じながら、マルローネは目を閉じる。
「可愛い顔を見たくてな。もう少し、おちょくりたくなった」
凄く近いワフールの声。
「おちょくられるの?」
おっぱいを守る両手は、なんか固まってて動かせない。
……マルローネはその姿勢のまま、少し目を開ける。
「少しおちょくってから、繋がった方がいいだろ?時間もありそうだし、な」
ワフールはそう言うと、腰の手のひらを、上へと撫で上げる。
「いいっ!」
身体のぞわぞわに震え上がる感覚に、マルローネは珍妙な声を上げる。
その声が無駄に大きくて、自分でも驚く。
そして、その拍子に後ろに倒れた。
「さて……」
ワフールはマルローネに覆いかぶさり、尻を太腿を揉むように、手のひらを動かす。
「タンマタンマ!それ……結構ダメ!」
マルローネは膝を立てて、悶える。
「子供の反応をするなぁ……」
ワフールは、マルローネの首に手のひらを掛ける。
どこをくすぐられても、マルローネは過剰に反応する。
「マリー、キスはした事があるか?」
ワフールはマルローネの首筋を撫でながら、そう尋ねる。
「……まあ、そういう流れよね……無いわ。特に決めた相手なんてのも居ないし」
マルローネはそう答えて、ワフールの顔を見る。
首筋をくすぐられて、目を細めたりしながら。
……ワフールとマルローネは唇を合わせる。
唇を合わせると、ワフールの手は肩を撫で、腕を撫で……また腰へと取り付く。
「んっ!……んっ!」
マルローネは目を閉じて、唇を閉じて……それでも声が上がる。
手のひらは、また脇腹を、背中を……と撫で回る。
「ふあっ……あぅ……ん〜……」
マルローネは堪らず唇を開き、開いた唇を奪われる。
手のひらで肌を撫で回られて、身体をうねうねと悶えさせながら、マルローネは合わせた唇で呼吸をする。
……濡れた唇を感じて、お互いの呼吸を混ぜ合うようなキス?……をする。
する、というか、せざるを得ない。
ひとしきり、うねうねさせられてぞわぞわさせられて、キスは離れる。
手のひらも、マルローネの肌から離れて、マルローネは安堵のため息を吐く。
「……女、といった感じになって来たな。マリー……」
額を合わせたワフールの顔が、少しニヤケたような声で話す。
「はあ……ふ〜っ……」
マルローネは呼吸を整える。
「何だか、エロい気分になったよ……」
マルローネは、ほぼ影となっているワフールの顔を見る。
「まだ始まってもいないけどな。だが、本当に可愛いな。マリー」
ワフールのニヤケたような声は、そう話す。
「うるさい。……可愛いって言われても、なんか……みっともないばっかりだよ」
顔を赤くしてるマリーは、ワフールを真っ直ぐ見てそう話す。
……いずれは誰かと、こうしたりするのだろうけど……
「みっともない?……まあ、そうでもあるかな。だが、俺は光栄に溢れる気持ちだ」
ワフールは話す。
「いい気味ってこと?」
マルローネはワフールを睨む。
「まあ、……それもある。それもあるか」
ワフールはくっ付けた額を、軽くぐりぐりする。
「……それしか無さそうだけど」
マルローネは、少し開いた足を閉じながら、唇を尖らせる。
「それよりも、こうしてる時間は有り難い。マリーが可愛ければ可愛い程に、な」
首を撫でる手は、マルローネの頬を撫でる。
「あ〜……そういう感じが男の子かも。何となくそんな感じする」
頬を撫でられながら、マルローネは言う。
そして思う。
……連れ込まれそうになった時も、鼻の下を伸ばした男だったし。
……貧乏につけ込んで、口説かれる事もあった。劣等生は敷居が低いので、歓迎は出来ない人気なんだと、シアに言われたものだ。
……ヤバい宿……この1点が嫌で嫌で、逃げまくった訳だけど。
ふと、寝転がる自分の左右を見る。
マルローネが不意に顔を左右にするので、ワフールは顔を離した。
……白いタベクサを抱えた葉っぱ、葉っぱ、葉っぱ……
強い光は少し柔らかく差していて、綺麗なものだ。
葉っぱはツルツルしてるし、この葉っぱの集団の上に寝ている訳だけど、肌触りも良い。
……どういう訳なのか……タベクサは程よい硬さなんだけど……
「どうした?」
ワフールは、そんな葉っぱを確かめるマルローネに、声を掛ける。
「こんな場所なら、まあ……いいかな、って思ってた」
マルローネは、ワフールに顔を向ける。
「なるほど。俺もそう感じたな。それと、やはり全裸の金髪美少女を前に、紳士ではいられん、というのも本音だ」
ワフールは、悪人顔の笑みを浮かべる。
「まあ、それから逃げられそうも無いし……」
マルローネも、笑みを浮かべる。
ワフール・ハイラム