※この作品はR-18です。

錬金術のアトリエ M,Re 1   作:東京のぷるぷる

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ザールブルグの街〜凱旋 1


錬金術のアトリエ M RE 8

8

 

 

「ともかく、色んな事は追々考えてもらうとして、まずは小屋へと送るよ」

銀の髪の女の子は、そう言うと片手を上げる。

空に向けて光の雨が……

……サークル全体から?空へと飛んで行き、マルローネの身体が、徐々に軽くなっていく。

「おおっ!?」

空へと飛べる期待感に胸を膨らませて、マルローネは身構える。

「更に軽くなったら、飛べば飛べるよ。広いけど、結局はあの釜へと続いてるから」

銀の髪の女の子も、少し膝を曲げて構える。

「私は、シアに会いに行く!そして錬金術士になってみせる!」

マルローネも、その姿を真似する。

空を飛ぶ気は、満々だ。

 

「うひょ〜っ!」

先にマルローネがジャンプして、空へと飛んで行く。というか、吸い込まれて行くような……

しかし、ある程度の高さでゆっくりとなる。

そこを、銀の髪の女の子が追い越して行った。

しかも、くるくる回りながら追い越した。しかも、そこそこ遠いし。

マルローネは高く飛ぼうと上を向く。

すると、身体が上へとふわ〜っと昇って行く。

……降りる時も、やたらゆっくりになってしまっていた事を思い出す……

 

下を見ながら昇って行く高等技術も会得しつつ、マルローネは昇ってゆく。

草世界は見えるものの、光の雨が邪魔をして、七色タベクサ世界の木は見えない。

少し探すと、銀の髪の女の子は少し下に居て、いつ追い越したのか……

ともかく、これまた結構な時間、昇り続ける。

時折、横から風が吹き抜けて行く。

銀の髪の女の子が横に並び、マルローネが手を伸ばすと、銀の髪の女の子の細い手も伸びて、手を繋ぐ。

「何処まで昇るの〜!?」

マルローネが尋ねる。

「もうすぐだと思うけど、空が高くなってるから、まだかかるのかも」

銀の髪の女の子は、可愛い声でそう話す。

……性格的には、マナノハシラみたいだ。

 

意図せず、昇り続ける身体が右に振られて、振られ続ける。

光の雨も、収束している感じになっている。

そして、吸い込まれて行く。

マルローネは光の収束の先の、眩しさに怯む。

怯むと、足裏に地面を感じて、強く目を閉じているのを緩める。

眩しいのは無くなっている感じがして、マルローネは目を開ける。

なんか、狭い場所に居て……

真上にはすぐ近くに、明るい穴があり、その先には天井が見える。

……小屋の錬金釜の中に居る……?

マルローネはジャンプし、穴のフチに手を掛ける。そして腕の力で身体を引き上げると、穴から顔を出す。

「帰って来た!」

マルローネは錬金釜から這い出しながら、落ち着いた色合いの部屋を見回す。

 

ずるりと落ちるように地面に降り立つ。

ドアの方を見ると、その横にイングリド先生から貰った錬金術衣装が、何事も無かったかのように掛けてある。

「そこに緑のプニを置いておくね。服を着たら、それの頭をナデナデすると、ここはアトリエになるよ。その逆も出来るから、またね」

不意に可愛い声がして、マルローネは声のする方を見る。

すぐ近く、錬金釜へと登る階段みたいな場所に、銀の髪の女の子が居て、マルローネを見ていた。

……なんか、向きを変えて見れば、目の前だった。

それと、マルローネは階段ではない所から這い出したもんだから、落ちるように出たけど、この階段から出ればもっとスムーズだった……

そして、ドアの横、服とは反対側には3冊の本が積まれていて、その上に口の無い、小さな緑プニが鎮座していた。

「あなたはどうするの?」

マルローネは、銀の髪の女の子に尋ねる。

「僕は帰らなきゃ。まだアッチの世界は荷が重そうだから」

そう言うと、銀の髪の女の子は階段をもう1段登り、そして錬金釜の中へと消えて行った。

「あ……行っちゃった……」

 

なんか、またも急に1人にされる。

このマナノハシラ……主とか言っておきながら、

すぐに1人にするもので……

ともかく、服を着る事にする。

ハダカで居るのが長すぎたし、エロエロ魔人に仲間入りさせられたし……

かつての自分を取り戻さないと的な感じがする。

 

錬金術士の衣装を身に着けたマルローネは、3冊の本の上に乗る、小さな緑プニに向けてしゃがむ。そして、その頭を撫でる。

つるんつるんな触り心地……

そう思いながら撫でると、緑プニは硬くなり、石になった。

マルローネは、その3冊の本の先に、本棚が現れたのを見て、振り返る。

小屋の中央の錬金釜は小さくなり……とは言ってもあの入り口よりは……ってだけで、巨大なんだけど。

そして錬金釜の周りに、机やらベッドやらがある。

……どうやら、本格的に帰って来れたみたいだった。

 

そして、ドアに手を掛ける。

……普通に開き、ザールブルグの町に出る。

晴れた空、眩しい、白い石畳の街並み、行き交う人々……

……これは、本当に帰って来れたみたいだ。

マルローネは外へ出る。

新しい錬金術衣装の、この靴もいい感じだ。

……今がいつなのか……

この街から自分が姿を消して、一体どれくらいの時間が流れた事やら……

ともかく、噴水広場を目指して歩く。

 

相変わらず、水がキラキラの噴水広場……

なんか、噴水の勢いが、前よりも強いような気がする。

今日は角刈りの槍兵士、ハレッシュ一等兵が居た。

「ハレッシュ一等兵〜!」

せっかく居たのだから、声を掛けてみる。

子供大好きハレッシュ一等兵は、マルローネも含めて子供界隈に懐かれがちなので、声も掛け易い。

「おお、マリーか。最近見なかったけれど、アカデミーの試験でもあったりしたのか?」

ハレッシュ一等兵は、気さくにそう話して、綺麗な歯を見せて笑う。

槍兵士の冒険者なのに、なんか好青年なのだ。

「最近?最後に会ったのは、どのくらい前だっけ?」

マルローネは、自然に探りを入れてみる。

「まあ、春には会ったよな……いや、あれはシアの方だったか……?最近は忙しくもあるんだよ。護衛の仕事が入る事も多くなってな」

……これは頼りにならないヤツだった。

そして、今は夏だ。

「ん〜……確かに、ハレッシュ一等兵は冒険に出ちゃう事も多いもんねぇ……」

マルローネも首を傾げる。

なんか、子供大好きハレッシュ一等兵と他愛もない会話をしてると、なんか帰って来た感じがして安心出来る。

 

シアの住む、ドナースターク家の向こう、北の地区に第3ダムまで完成したらしく、釣り堀として休暇中の騎士団の人や、ドナースターク建設の職人さんなんかが、釣りに行ってるらしい。

釣り竿の貸し出しなんかもしている……との話を聞いて、ハレッシュ一等兵とは別れた。

 

マルローネの足は、北のダム地区へと向かう。

シアはよく第1ダム、第2ダムと、その辺りの川で釣りをしていたり、虫取りをしている事が多いし、マルローネとしても、この辺りに良く通っていた。

そのおかげで、歴代成績最低を叩き出しているのだけど、もう何日もお肉ディナーにありつけていないのだから、ここらでデカいウシガエル様を調達したくもあり……

足が向いてしまった次第でもある。

 

第3ダムに、シアと休暇の騎士団、冒険者と釣り糸を垂らしていた。

「シア〜!」

マルローネは早速、シアに歩み寄る。

「あら、マリー。なんか立派な錬金術士様になってるじゃない?なんか、凄い成績でも修めたの?」

いつもの民族衣装に、麦わら帽子のシアはそう言うと、マルローネに微笑み掛ける。

「ほお……これは立派な衣装だな。そんなお腹出しちゃって……」

隣りのおじさんも、マルローネの衣装に微笑み、そう言った。

「一応、イングリド先生から貰ったんだけど〜……」

マルローネは、錬金コートを閉じてお腹を隠しながら、バツが悪そうに笑う。

 

この衣装を貰う前の日は、ここの面々の釣ったギル、バス、コイの焼き物煮物の、豪華ディナーだった。

……というか、そのパターンが多く、マルローネも、その辺りの調理は慣れたモノだ。

「マリーはまた、カエル探しするのかい?その衣装で」

休暇の騎士団のお兄さん、エグルドレイブさんが笑い掛ける。

この場所で時折見掛ける釣りの人だ。

今日も自慢のマイロッド、青い竿が光る。

「そうだね〜。こんな服だけど、結局はカエル探ししちゃうかな〜……」

マルローネはそう言って苦笑いする。

いつも釣りはせず、川の方に行ってカエル探し専門だ。

大当たりの日には、川ネズミが採れる。

 

マルローネはシア達から離れて、いつもの川辺へと向かう。

釣り人達の会話の感じだと……なんか、長らく居なかった……という感じじゃなかったので、不思議に思う。

まあ、ディナーのタイミングで、もう1回探ってみるか……と、ダムの管理小屋の横、竿置き場へと向かう。

マルローネ専用の手作りボロ網を手に取り、イングリド先生から貰った錬金術士の杖(ただの木の杖)を置く。

 

そして川辺へと歩き、カエルやネズミが潜む茂みを横目に、川辺を歩く。

少し探すと、なんかピピッと来て振り返る。

さっき見た茂みにガサつきがあって、ネズミの感じがした。

ボロ網で捕まえる構えを取る。

ネズミを捕まえられる、という事はまず無いのだけど、見つけたからには狙うしかない。

……そしてなんと網に入る!

せっかくのオシャレ錬金術衣装は、足のとこが泥だらけになったものの、それなりに大物のネズミを採った喜びに、マルローネはシアの所へと戻る。

靴の中まで泥が入った感触がする。

 

「キター!シア!川ネズミ採れた!」

網をもこもこしてる川ネズミを持って、マルローネは釣り人の所へと戻る。

「マリー……泥だらけじゃない!何の為の衣装だったの〜!?」

シアも苦笑いだ。

「しかし、お早いお帰りだなぁ……1発ヒットだったんじゃないか?」

隣りのおじさんが驚く。

「ふへへ〜……今日はピンと来たんだよね〜」

マルローネは得意気に笑う。

 

「まあ、まずはマリーの足でも洗ってから帰るとするか。泥が染み付く前に」

エグルドレイブさんが言い出して、皆でダム水を汲み始める。

釣りは引き上げ時だったみたいで、バケツ総動員でマルローネの泥を落とす事になった。

「あははっ!足の裏はヤバいって!」

マルローネは、座らされて、シアに髪を持たれ、エグルドレイブさんに羽交い締めにされて、釣り人達に股から足までを洗われる。

……バケツを洗うブラシで洗われてる。

 

そして、水びたしではあるけど、泥は綺麗になった。

「……綺麗になったな。ディナーの準備に入らないとだな」

羽交い締めを解いたエグルドレイブさんが、立ち上がる。

「あ〜……でもネズミゲットだからね!おもらいディナー顔してなくていいもんね♪」

マルローネもシアに髪を持たれながら、立ち上がる。

「川ネズミは大物ね!しかも行ってすぐなんて、凄いじゃない」

シアも、そう言ってくれる。

 

特に衣装の話をされながら、噴水広場へと向かう。

ドナースターク家の庭の、隅っこのお決まりの場所へと行き、食材の下拵えをする。

100年続くと言うタベクサ法により皆、朝も昼も食べたりしない。

タベクサを齧るだけだから、この何を食べてもいいと言う、日没後のディナーに気合いが入る。

 

そして焚き火台に集まり、ついでに焚き火でマルローネの足も乾く。

噴水広場に街の人々も集まるので、灯火台も集まってくる。

夜のご飯は、毎日がお祭り騒ぎだ。

そんな賑やかな噴水広場から、丁度良い距離を置いた場所。それがドナースターク家の庭の隅っこ、この場所だったりする。

 

今日の釣りの話とか、いつもの仕事の話とか、男の人が特に盛り上がっていたりする。

このディナーでは、大体誰かしらがお酒も持って来るので、お酒が入ってテンションも上がる。

マルローネとシアはお酒を飲まないので、ちょっと引いた場所で、そんなディナー風景を眺めつつ、夕食を楽しむ。

そんな中、なんかイングリド先生が庭先に現れた。

少しキョロキョロすると、マルローネを発見し、とんでもなく驚いた顔をした。

 

「うげ!イングリド先生!?」

マルローネも驚く。

「何?なんかあるの!?」

シアは、そんな2人に驚く。

「マルローネ!貴方は帰って来れたのね!しかも2日目には帰って来るなんて……!ま、まあ……明日、午前中にアカデミーに顔を出しなさい。ドルニエ校長も、貴方を待っているわ」

イングリド先生は、そう言うと居なくなった。

 

「……どういう事なの?」

シアが尋ねる。

「実はね……私、アカデミーで最低成績でね?」

マルローネは答える。

「それは知ってるわ。アカデミーで貼り出されているもの」

こんがり焼けてる川ネズミの足を齧りつつ、シアは言う。

シアは、動物図鑑なんかを調べるのに、アカデミーに頻繁に訪れるので、目にも入る。

「ま、まあ、そうなんだけど、最低成績の人って謎の小屋に送られるみたいで、謎の小屋に送られたのよ……」

マルローネも、こんがり焼けてる川ネズミの足を齧りつつ、話す。

食事の中での、会話のネタが出来た的な感じでもある。

 

「そしたらね、でっかい錬金釜があって〜……その中に入ったら〜……そう!空を飛べるって聞いたから、言われた通りに全部ハダカになって飛び込んだのよ!」

マルローネは話を続ける。

「え、待って?誰に言われたの?」

シアはその話に驚き、食事の手も止める。

「誰って、なんか青いプニが居て、そのプニに言われたのよ」

マルローネはそう話す。

……なんか、夢でも見て来ましたみたいな話だと、喋っている自分でも感じる。

 

「で、飛び込んだら空を飛べたの?」

シアは食事の手を動かし始める。

マルローネも、煮物の器に手を伸ばす。

「飛べた!めっちゃ空高い所から落ちる感じだったんだけど、すごいゆっくりで〜……そこに案内人の男の人も出てきたんだけど、なんか目が緑プニみたいな、意識がどっか飛んでる人がね、地上に送り届けてくれたんだけど〜……」

衝撃的な出来事だったものだから、なんか事細かに覚えていたりするものだ。

そのことを、マルローネは話す。

 

「ん?ハダカなのに、男の人が来たの?」

シアは少し目を大きくして驚く。

「そう!そうなのよ〜!でも意識がイマイチだった場合って、あまり気にしなくていっか〜……って感じになったけどね?」

マルローネは煮物を食べつつ、話す。

夜のザールブルグ、灯火台の火の明かりの色、火の色の慣れた世界は、なんかリラックスできる。

「それはマリーだからじゃない?」

シアは、コロコロと笑う。

「い〜や、シアだってそうなるって。なんか心配になるし、隠すのってそれはそれで疲れるじゃん!」

マルローネも、笑いながら話す。

 

……食事が終わるまで、やたらと時間はある。

周りの人々は、お酒も呑みながら過ごしているのだから、早くて2時間くらいだ。

夜中までディナーしてる人も居たりする。

 

なので、マルローネは、今までの経緯をすっかりシアに話す。

……ワフールというエロエロ魔人が居た事。

……向こうで7日くらい過ごして、すっかりエロエロ魔人にされた事。

……股から出るエロ汁が、魔力の増幅になって、向こうの世界が変わり、マナノハシラが大喜びしてる事。

……いつでも行き来できるから、またマナノハシラの世界に行ける事。

そんな話を、マルローネはすっかり話す。

シアは凄く驚いたりしながら、その話を聞いた。

 

「昨日1日で、そんなに沢山の事があったなんて……マナノハシラの魔力が〜……って所で、明日アカデミーに呼ばれてるのかしらね?」

シアは少し顔を赤くして、そう言って微妙な笑顔を見せる。

「私が居なかったのは、昨日だけなんて驚きだよね……」

マルローネは呟く。

シアの話によると、昨日は見かけなかったけれど、一昨日はここで一緒にディナーをしていたらしいのだ。

 

「私はそれよりも、エロエロ魔人にエロエロ魔人にされた話の方が、興味があるわ」

シアは素直にそう話す。

「そう?でもハダカで居たし、ワフールの意識が戻っちゃうし、なんか素敵な場所だったのよね〜。素敵な場所ってのが、凄い大事なんだとおもうんだよね〜」

マルローネは少し離れた場所に見える、灯火台の炎を眺めながら、そう言う。

「でも、ワフールさんって人が上手いんじゃないかしら。私も、なんかムズムズする事があるし、月に1度、血が出るじゃない?カエルとか魚で言う所の産卵期みたいな衝動じゃないかと思うのよね」

シアはそう話すと、腕組みをして、考えるポーズになる。

「生き物学者っぽいね〜……エロエロ魔人とめっちゃ交尾したよ!でも、ワフールは、血が巡ってないらしくて、代わりに魔力が巡っているんだって。だから、子供は出来ないみたいなんだけど」

マルローネはそう話す。

 

「今度、私もその釜の中に行ってみたいわ。でもシューマッハーと、ハダカで過ごすってのはあるのよ。お風呂があるから、そこを使う時にね。でも、彼はおじいちゃんだから、交尾をする事は無いわね」

シアはそう話す。

シューマッハー・ドナースタークは、シアと良く一緒に居る、ご隠居様だ。

ご隠居様の道楽で、シアは貰われて行ったみたいなものだ。

そして、こうしてお庭の隅にディナーの場所を用意してくれたり、ダム地区に貸し竿を用意したりしてる。

ご隠居様も、暇があると釣り人達に混じって釣りをしてる事も多い。

 

「じゃあ、今度は一緒に行こうよ。シアもエロエロ魔人になっちゃうのか〜……」

マルローネはそう言い、シアに笑顔を向ける。

「ん〜……今度、というのは、ちょっと来ないかも知れないわね。私がその1歩を踏み出せなさそう」

シアも、そう言って笑顔を返した。

「お皿も空だし、片付けにしちゃおうかしら?」

シアは立ち上がり、マルローネもシアに続く。

お酒に酔う人々のテーブルも片付けていく。

 

そうして、お酒や話を続ける人々と、片付けに歩き回る人々とが行き交う時間になり、片付けがあらかた終わると、噴水広場に銀貨を納めて帰る事になる。

この銀貨は、灯火や噴水広場を準備したり片付けたりする、騎士団の人々へのお礼らしい。

この日も、マルローネの分は、シアが納めてくれた。

そして、この日のマルローネは、いつものようにアカデミーの学生宿舎に戻ろうとして、アトリエのベッドを思い出し、歩みを変える。

 

折角の命がけで貰った家だし……

はっ!もしや……明日には返さないといけないのかも……!?

でも、だったら尚更、今日くらいは寝てやらないと……

そんな事を考えながら、アトリエへと戻る。

裏を見てみれば、ちゃんとした井戸があり、歯を磨いたり出来る。

木の椅子まであるし、気の利いた設備となっている。

トイレと、湯場までちゃんと揃っていた。

 

……ともかく、アトリエに帰る事にする。

ドアに鍵を下ろし、服のまま寝るのもアレなので……いや、こんな下着みたいな服だし、錬金コートだけ掛けて、寝る事にする。

なんか、横になったらすぐに眠れた。

 

 

……ズバッと起きる。

寝ぼけ眼で辺りを見ると、寂しい、錬金釜の目立つアトリエ。

しかも、外は雨のようだ。

……午前中にアカデミー行きだし、別に他に用なんか無いし……

雨の中を、錬金コートと帽子を濡らしながら歩く。

途中の緑が多く、どのタベクサを齧ろうかなと考えたりしながら……

こんな感じが、なんか懐かしく思えるけれど、別に何者かになった訳でも無ければ、ちょっと違う世界に長居してみただけだったり。

 

そしてマルローネがアカデミーに入ると、シアが居たり。

「おはよう、マリー」

お洒落な外套姿のシアは、にこやかに挨拶する。

雨の日だと、少しひんやりするアカデミー。

マルローネの錬金術コートも閉じている。

「おはよう〜……あれ?シアも呼ばれてたり?」

マルローネは、そう疑問を投げかける。

実は生徒であるマルローネよりも、部外者であるシアの方が、アカデミーに足繁く通っていたりする。

「私は、こんな雨の日の午前中は、いつもここで生き物の本を探して貰っていたりするのよ。今日はもう、本を読み始めようと思っているんだけど」

シアはそう言うと、手のひらをひらひらさせて、本の砦の部屋……図書室へと入って行った。

 

マルローネは、売店のお姉さんの所へと行く。

「あら、マリー……半年ぶり?」

売店のお姉さんは、にこやかにそう話し掛ける。

「半年はないよ〜……大体は月に1度くらいは、お家賃納めてるんだから」

マルローネはそう言って笑う。週に2回くらいはこの場所に来て、売店のお姉さんと世間話をして帰る毎日だ。

時々は、錬金術にもチャレンジするのだけど、成功した事はない。

「それより聞いた?褐色の女剣士が、新しくこの辺りに来たらしいのよ?セクシーで、腕も確からしくてさ?」

売店のお姉さんは、すっかり世間話モードになる。

この場所で退屈してるものだから、マルローネとのお喋りも弾む。

 

……そうして世間話を弾ませていると、イングリド先生が通り掛かった。

「あ……おはようございます」

マルローネは、バツの悪そうな苦笑いで挨拶する。

「あなたは、そんな顔をする必要はないわ。さあ、行きましょうか」

少し浮かない顔をするイングリド先生は、そう言うと、普段は立ち入り禁止の広場へと進む。

マルローネも売店のお姉さんに、手のひらをひらひらさせて、イングリド先生に続く。

立ち入り禁止の先に部屋があり、マルローネも入る。

……個人面談みたいで、なんか嫌なドキドキがある。

 

中には、凄い髭のおじいちゃんが座っていて、イングリド先生とマルローネが入ると、読んでいた分厚い本を置いて立ち上がり、深く頭を下げた。

……え!?何!?

マルローネも不思議な気持ちで、深く頭を下げる。

「私が、校長のドルニエだ。マルローネ君。この度は、君があのアトリエから戻ったと聞いて……ならば、これまでのマナの柱と我々との経緯を、君には話さなければならないと思ったのだ。さあ、お掛けなさい」

ドルニエ校長は、マルローネにソファーに座るように促す。

促されたマルローネは、素直にソファーに座る。

 

マルローネがソファーに座ると、イングリド先生もドルニエ校長も、それぞれのソファーに座る。

部屋はやたらと広く、豪華で、ソファーもやたらと座り心地が良い。

「どこから話したものか……」

ドルニエ校長は言うと、まっすぐにマルローネを見る。

「え〜っと……マナノハシラって何ですか?」

なんかまっすぐ見られて、マルローネは取り敢えず何かしら質問をしてみる。

「マナの柱は、この地域に魔力をもたらす存在。ただし、人を喰らう事で魔力をもたらす。だが、主となれる資質を持った者が居れば、その者は喰らわれる事なく、マナの柱は溢れる魔力をもたらす……とされている」

ドルニエ校長は、そう答える。

どこかしらの本に、そう書いてあるのかな……と、マルローネは感じる。

 

「と、いう事は……私の行った世界は……」

マルローネはそう話し出す。

マルローネの体験した不思議な世界の話は、ドルニエ校長にとってもイングリド先生にとっても、興味深い話……

マルローネも事細かく話し、質問にも何でも正直に答えるものだから、あっという間に昼を過ぎた。

 

場所はアカデミーの教師の庭へと移り、その庭に幾つも見えるタベクサを齧りながら、マルローネの話は続く。

なんか、やたらと細かく話す事になった。

「……ところで、校長ともなると、とんでもなくお金持ちだから、豪華ディナーになったりするんですか?」

そんな中、マルローネはそんな質問をしてみる。

「はっはっはっ……そうだな。生徒達に比べれば私は裕福だが……歳を取ると食欲というものが無くなってしまって……ワインとチーズ、パンを少し食べる程度で、本を読んでいる事が多いかな」

ドルニエ校長はそう話した。

イングリド先生も、そんな保存食を食べる程度で、錬金術の研究をしていると話した。

 

「お昼過ぎなら、もうそろそろダムに行ってディナーの準備に入りたいのですが……」

アカデミー時計を目にしたマルローネは、そう話す。

カエルでもネズミでも調達したりしないと、ベルグラド芋のスープすら口に出来ない、切ないディナーを送る事になりそうで。

「成程。ではまた明日としよう。こちらもまた、時間を作っておくし、明日は君のディナーも考えておくから、是非おいで」

ドルニエ校長はにこやかに言うと、マルローネを解放してくれる。

そしてマルローネは、雨上がりで晴れたザールブルグを走り出す。

 

だけど、この日のダムにはシアが居ない感じで、服装もカエル採りなんかにも向いていないし……

で、途方に暮れる感じになってしまった。

そんなマルローネは、なんか振り向く。

振り向くと、アカデミーの生徒っぽい青い人が、こちらへと向かって来るのが見えた。

……なんか、やたらと気配に敏感になった気がする。

以前はこういうの、全く気付いたりしない鈍感女マルローネだったんだけれど……

「……?あなたも、釣り?」

なんか、釣りに来ました的な感じではなくて、マルローネは青い男の子に聞いてみる。

……マルローネよりも、少し背が高いみたいだけど。

 

 

 

 

 

シューマッハー・ドナースターク

ドナースターク家のご隠居様。

エグルドレイブ・ハーレイス

釣り人 騎士団のお兄さん。

ワフール・ハイラム

デイドリオン

デイドリオン・アイン

デイドリオン・ツヴァイ

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