9
「マリーとは、貴方でしょうか?」
青いメガネの男の子は、マルローネにそう尋ねる。
「そ、そうだけど?あなたは?」
マルローネは怪訝そうな顔で尋ねる。経緯から、あまり機嫌も良くないし。
「イングリド先生に依頼されました。クライス・キュールという名前の生徒です。あなたの今日のディナーが芳しくないようであれば、呼んで来て欲しいと言われまして」
メガネに手を掛けながら、クライスは言う。
……なんかいけ好かない空気があるな……
マルローネはそう感じて、でもイングリド先生からの呼び出しで、しかも好意っぽいし……
「まあ、芳しくないのは確かだし、のこのこ付いて行くわ」
マルローネは不満を顕にする。
ともかく、アカデミーへと歩き戻るハメになる。
言葉もなく歩き、またアカデミーが見えて来る。
そして、学生宿舎のエリアへと案内される。
「では、私はこれで。自分の錬金術がありますので」
クライスはそう言うと、歩き去って行った。
……いけ好かない男を見送るマルローネ。
そして学生宿舎エリアの、食堂へと行く。
あからさまに、ディナーには早い時間なんだけれども。
それに、この場所でのディナーは寂しいばっかりだから、好きじゃない。
「ぅおうっ!?」
なんか生徒的な衣装の、ツインテールのイングリド先生が現れて、マルローネは大いに怯む。
「まあ、そういう反応よね。あなたは私に怯えてる所があるから、和ませようと思ったんだけど〜……みたいな?」
イングリド先生は、手に持つ水瓶をテーブルに乗せる。
そして銀のコップを2つ、並べた。
「いや〜……いつもそんな感じでしたら、もっと気さくに話せると思うんですけど」
マルローネは、微妙な笑顔でそう話す。
「じゃあ、今日は気さくに話せそうね」
イングリド先生は、2つのコップに水を入れる。しかし、お洒落豪華なコップだ。
「そ、そうですね……一応、あの……錬金術士を目指してますので……」
お洒落豪華なコップを手に、マルローネは言う。銀のコップは手に冷たい。
「本当かしら?ただ、学生宿舎で寝泊まりする為に入学してるんじゃないか……と睨んでるんだけど?」
イングリド先生は伏し目がちに微笑み、そう言う。
……実際、日々のディナーの事ばかり追い掛けていて、あまり錬金術の勉強なんてしていない日々なので、否定も出来ない。
「まあ、でもこれからはマリー。あなたが錬金術士になりたいのなら、ウチの優等生、クライスに専属として錬金術を見て貰うとしましょう。アカデミーの嫌われ者だけど、ひょっとしたらあなたの錬金術に火がつくかも知れない……し」
イングリド先生は、やたらとまっすぐにマルローネを見る。
「クライスって、さっき会ったいけ好かない……?」
マルローネは拒絶の構えになる。
「錬金術士になりたい、のであれば見て貰いなさい。彼は何人もの生徒の助けになって来てる、実績のある生徒よ」
ツインテールイングリド先生は、マルローネに微笑みかけると、無情にもそう話す。
「あ……えへへ……」
マルローネはバツが悪そうに笑う。
……別に錬金術士になるとか、あんまり執着していないのがバレてる感じがするのだ……
あくまで、学生宿舎で夜を明かし続けるのが目的で在籍してるし……
「あと、あなたに渡した服もあのアトリエも、正式にあなたの物として使っていいわ。こちらでその手続きもしておく事になっているわ」
イングリド先生はそう言うと、水に口をつけた。
「ええ!?いいんですか!?」
マルローネは、目を見開いて喜ぶ。
……当然、追い出されると思ったし。
「マナの柱の世界に行き来する何かが……あなたの話では、錬金釜から行き来出来るらしいけれど……こちらとしては、あなたに行き来して欲しいのよ」
イングリド先生は、そう話す。
そして、それはそれとして……マルローネと気さくに、最近の街の様子の話もする。
ダム付近の話やら噴水広場辺りの話は、マルローネとしても得意なので、色々と話は尽きない。
ツインテールのイングリド先生も、なんか今回は気さくに話をしてくれて、マルローネの話も聞いてくれて……
少し寂しいハズの場所なのに、楽しく過ごせて夕方になる。
そして色んな生徒が、草花や葉っぱなんかを持ち寄って来た。
何でも、毒を抜く錬金術に掛けて、食べられるようにしてある物なんだとか。
イングリド先生とマルローネには、あのいけ好かないクライスが、錬金術ディナーを用意してくれるそうで。
「こんなに気楽にのんびりしてて、いいのかな?」
随分と長くお喋りしてる事に、マルローネは疑問に思う。
「マリー。今のあなたのお尻にムチを打っても、錬金術士にはなれそうもないもの。なら、こんな風に過ごすのも、悪くないわね」
ツインテールのイングリド先生は、伏し目がちにそう言うと、上げた片膝を抱えてリラックスの構えになる。
ツインテールのイングリド先生は、他の生徒からしても珍しいみたいで、注目も質問も浴びていた。
そんなこんなで夜になって行くと、クライスと他の生徒が、ディナーを持って来た。
ベルグラド芋のスープに、なんか貝殻の形のぷるぷるしたのが無数に見える。
「結局はカーボシェルのスープとなりましたが、改良を加えていますので。どうぞ」
クライスはそう言うと、そのスープを2人に供してお辞儀をし、そして去って行く。
「さて、マリーもどうぞ。彼が何故優等生なのかがわかるディナーね」
イングリド先生は、そのスープにスプーンを入れる。
「なんか、初めて見たけど……これは何です?」
マルローネは、カーボシェルと呼ばれてるだろうぷるぷるをスプーンで掬い、イングリド先生に尋ねる。
「パンと同じ栄養素、成分を錬金術で抽出した物で作った食べ物よ。乾いた状態で長持ちして、煮る事で食べられるようになる、保存食ね」
控えめなランプ明かりの、学生宿舎エリアの食堂。
そんなランプの明かりで、ミステリアス美人に見えるイングリド先生は、そう説明する。
ちなみに、保存食とか言う割には、あまりにも美味しい。
「これ、元々は何だったんですか?」
食べつつ、マルローネは尋ねる。
「それは、クライス君に聞いて貰おうかしらね。明日はまた、ドルニエ校長もあなたを待ってるから、明後日からはクライス君に、あなたの錬金術を見て貰おうかしらね」
イングリド先生も、そう言うとスプーンを口許に運ぶ。
「ぅえ〜……」
マルローネは不服そうな顔になり、妙な音を立てる。
「男の子は苦手かしら?アッチの世界でエロエロ魔人にされた分くらいは、平気なんじゃないの?」
イングリド先生は言う。
マルローネも、無邪気にもそんな所まで話していたものだから、イングリド先生も知る所となった。
ただ、それも仕方ない話。
なんでお股の汁で魔力が増幅するのか……というのは聞いてみない訳にも行かない。
そして1時間くらいの短めのディナーの片付けもして、イングリド先生もマルローネも、それぞれ帰る。
アトリエに帰り、マルローネは伸びをして、左右に揺れる。
初めて食べたカーボシェルのディナーが、今身体を駆け巡っているけど、身体のゴキゲンはどうだろう……と、意識しつつ、左右に揺れる。
……なんか、いつもより重い感じがある。
なので、アトリエの中をぐるぐると歩く。
その勢いでドアを開け、まだディナーをしている人がちらほらしてる噴水広場を、ぐるぐるする。
灯火台もかなり減っていて、結構薄暗い噴水広場。
灯火台のある所は、未だディナー組がくだを巻いていたりする。
未だディナー組には近づかないように、噴水側を歩いていたんだけど……
3周くらいで、眠る子供を背負ったお父さんに、声を掛けられた。
「……誰か探しているのかい?」
暗闇で顔は分からない。
そういう男の人が寄ってくるというのは、なんか怖い。
「いえ、食べ過ぎた感じがあるから……ってだけよ?」
マルローネは手のひらをひらひらさせて、そんなお父さんをかわす。
見張りの騎士団の人も少ないみたいだし、アトリエに逃げ帰る事にした。
裏の井戸で、なんか2回目の歯磨きとかして、ベッドに直撃する。
……朝が来て、マルローネはズバ起きる。
今日もアカデミーに行く予定がある……
常に何の予定もないマルローネだから、なんか予定がある……っていうのに違和感を覚える。
……仕方ないので、アカデミーへと向かう。……その前に裏の井戸で水を飲みつつ、タベクサを齧る。
……昨日重い感じしたけど、タベクサを齧る気分になれるあたり、そんな悪い物でも無さそうで。
そしてこの日もアカデミーへと行き、昨日と同じ部屋で、ドルニエ校長とイングリド先生と話す。
昨日の今日だけど、なんか話は弾んだ。
……このドルニエ校長とイングリド先生って、話を引き出したりするのが上手い。
それに、今日は近くの森にあるウルフ亭という場所で、ディナーにするという。
マルローネをきっかけに、そんな気分になったみたいで。
ザールブルグの外……
一応冒険者の護衛をつけて、その場所へと行くのだと言う話で、マルローネの浮かない気分も、ワクワクに変わる。
それだけ、マナの柱の活性化というのは、ザールブルグの街にとって、大きい事なのだという話をされた。
少し日が傾いた頃、ドルニエ校長もイングリド先生も、外行きの服装に着替える。
マルローネは、特にこれ以外の服も無いんだけど……
また新しく冒険衣装をくれると言うので、貰う事にする。
「おお!やはりなんか落ち着く……!」
貰った冒険者の服をアトリエで着たマルローネが、1人、目を輝かせる。
今まで着ていた、滅びた冒険者の服は、どうやら捨てられてしまっているみたいなので、新品のやつだ。
……やっぱりお腹が露出していないのは良い。
錬金術の帽子よりも、冒険者の服のフードの方が色々と落ち着くけれど、折角、ふわふわロングの金髪がボリュームアップしてるので、そこはアピールしとく。
……となると錬金術の帽子……
ドルニエ校長とイングリド先生と一緒な訳だし、帽子だけ錬金術士になっておく事にする。
ザールブルグの南門から、念願の外へと出る。
ここから外に出るのにも許可が必要だし、この許可というのがもう……
良く分からないけれど、戦闘能力試験とかいうのが……
なんかあるみたいだけど、良く分からないまんまだった。
なのに、こんなにあっさり通れるなんて……!
南門で、門番の騎士団の人の書類に何やら書いて……
そしてザールブルグの外へと出る。
「うわあぁぁ……ドナースターク道路で働いてた頃を思い出すよぉ」
マルローネは、満面の笑みを浮かべて得意の伸びをすると、左右に揺れる。
「まあ、歩いて2時間程の道のりだから、マリー君には物足りないだろうけれどね」
ドルニエ校長は、マルローネにつられた笑顔を浮かべて、そう言った。
「あなたの村からこのザールブルグまで、ドナースターク道路で、働きながら来たんだったわね。それだと、どのくらいの時間が掛かるものなのかしら?」
冒険者を先頭に、合計4人で歩き始めて、イングリド先生が尋ねる。
「1年とちょっと掛かりました!……てゆうか、シアが病気になって身請けされたので、一緒にザールブルグ送りになった……ってゆう顛末ですけれど」
マルローネは、あっけらかんと答える。
なんかやたらと使われている道みたいで、幾つもの轍が見て取れる。
轍が出来ては埋められ……出来ては埋められ……を繰り返しているみたいな、そんな森の中の広い道。
道を外れれば、木と草の世界が続いている。
そしてその境界線には、幾つもの杭と魔物避けのロープが張られていて、最上級の立派な道だ。
他にもこの道を行く人が見られて、冒険者の護衛も付いている。
マルローネ達よりも歩くのが早くて、それを見送る。
冒険者のお兄さん以外は、談笑しつつ歩く2時間の道。
その2時間で、3つのパーティーに追い抜かされながら、のんびり歩く。
……のんびり歩いても2時間……
その先に、大きな途中まで石造り、そこから上は木造の建物、街道宿、ウルフ亭が現れた。
その周りにも数軒の小屋が見られて、街道の町といった感じになっている。
「ここは久しぶりだな。随分と前よりも立派になっているんだね」
ドルニエ校長は、感心しながら建物を見上げる。
「ここに通った時期も、ありましたわね。あの頃みたいに、ウルフステーキに齧り付いて、エールで乾杯……というキャラでは無くなってしまいましたが」
イングリド先生が、しみじみと話す。
「宿でもあるんですね。ここから先へも道があるんですか?」
マルローネは尋ねる。
「ウルフ亭の西となると、途端に荒れた道となる。冒険者のレベルも上げて臨まないといけない道だね」
ドルニエ校長は、そう話した。
このウルフ亭までは、温泉宿という事もあり、駆け出し冒険者の修練場としても人気で、人々が行き交うらしい。
けれど、この先の道は、ガチの人でないと厳しい道になるみたいだ。
ともかく、ディナーにも早いので温泉、という運びになる。
ちゃんと女湯、男湯と別れてる。
イングリド先生と、マルローネで女湯へと行く。
「冒険者って、こんな感じのお風呂とか行けるんですね〜……」
マルローネは、感嘆の声を上げる。
脱衣所には、冒険者の物と思われる鎧に、剣が置いてあった。
……しかも、2つ。
女の冒険者というのも来ているみたいで。
森の中の温泉……
ともかく、脱衣所で全部を預け、全裸突撃をする。
夕方になろうとするこの時間の温泉は、女の冒険者の他にも、おばあちゃんとおばさんが入っていて、マルローネは温泉の脇に置いてある手桶を見つめる。
「マリーは、温泉は初めてかしら?」
イングリド先生が尋ねる。
「初めてじゃないですけど、お湯を掛けてから入るルールなのか、そうじゃないのか……って考えてました」
マルローネは答える。
ドナースターク道路時代、温泉は結構あったけど、色々とルールが違うのだ。
「ここは、特に酷い汚れが無ければ、入るだけだったハズだけど……」
イングリド先生は、ちょうど温泉から上がる、おばあちゃんに尋ねる。
結果、ここはそのまま入っているみたいで、そのまま入る事に。
少し熱いお風呂は、どうやら最近、熱を上げたそうで。
おばさんとやたらと仲良くなったマルローネは、そんな話を聞く。
おばさんのマシンガントークによると、おばさんはこの付近に住んでいて、お肉の下拵えと加工を仕事にしているらしいけど、今日はお休みなんだとか。
木の実と野草の加工もしている、職人さんなのだとか、話を聞いた。
長話、長湯になってしまった温泉を出ると、日は沈んでいて、夜……
いよいよディナータイムとなる。
2階のバルコニーが食事のテーブル、なんかスペシャルなディナー……
ウォルフ肉のステーキに、煮物がやって来る。
イングリド先生にはエール酒が来て、ドルニエ校長にはワインが来る。
マルローネにも、でかい樽ジョッキに、熱いお茶が来た。
「うひょ~っ!何これ!?何これ!?」
はしゃぐマルローネ。冒険者やら旅人やらで賑わうバルコニーの大テーブルで、じゃんじゃん料理が運ばれて来るのだ。
エールもワインも、お茶も、人の数だけ用意されるし、炎の暑苦しさが微妙に伝わって来る厨房では今、まさに肉を焼いていたりするし。
「今日もウルフ亭に!」
「乾杯!」
「乾杯~!」
噴水広場のディナーよりは、さすがに小規模だけど、こちらも良い賑わいで、活気も溢れる。
マルローネ達を護衛していた冒険者のお兄さんも、この時は無礼講だ。
というか、行きと帰りに付き添うだけが仕事のようで。
料理は肉、肉、肉。
マルローネの前にも、ウォルフステーキがやって来る。
人の数だけ、ウォルフステーキが並ぶ。
……なんとテンションの上がる風景か。
マルローネは、思わず隣の冒険者のお兄さんを見る。
「初めてだと、結構衝撃的だろ?しかも、飛翔亭からの荷運び依頼と共に来ると、タダでありつけるんだぜ?」
そんな、とんでもない耳寄り情報を話した。
「え!?それ本当に!?」
マルローネは驚く。
「本当だけど、3人くらいは必要だし、気合いも必要な荷物だからな?冒険者を雇う事になって、その分の出費は掛かるかな」
冒険者のお兄さんは、マルローネにそう話した。
「やりたいな~……ヒマを見つけたらやりたいな~……これ、クセになるよねっ!?」
マルローネは、目を輝かせる。
「なら、飛翔亭で俺にも声を掛けてくれよ。ルーウェンって名前だし、結構ふらふらしてるからさ。護衛賃、安くしとくぜ?」
ルーウェンと名乗った冒険者のお兄さんは、そう言ってウィンクして見せた。
なんか……ナイスガイだ。
そんなこんなで、話の弾む、食欲も弾むディナーとなった。
そして帰る。
なんと、夜道を帰るコースなのだ。
歩いて2時間程の道な訳だし、帰るとしても無理はない。
空の荷車を託され、その空の荷車には立派なランプが鎮座しており、充分に夜道を照らす。
荷車を引くのではなく、押す事で、その立派なランプを先頭にして歩く事が出来る。
マルローネが左側を、ルーウェンが右側を押して、その後をドルニエ校長、イングリド先生が歩いて行く道。
……この荷車は、今日みたいな素敵ディナーを繰り返す為に、マルローネも慣れておいた方がいい……と、ルーウェンと一緒に押す運びとなった。
……2時間の道のりを、ランプ荷車と共に帰るパーティーは他にも居て、これまたマルローネ達は抜かれて行く。
「タダになったりするなら、人気だよね~……」
マルローネは、そう呟く。
「まあ、今のパーティーだと、銀貨払って楽しんで来た……って感じだけど。このパーティーも、そうだよな?」
追い抜いたパーティーを眺めて、ルーウェンが言う。
確かに、今回はドルニエ校長のポケットマネーで、温泉とディナーを楽しんできた訳だし。
「銀貨だと、どれくらいするの?」
マルローネは、ルーウェンに尋ねる。
「確か、1人70枚とか聞いたなぁ……」
ランプ荷車を見つめたまま、ルーウェンは答える。
……帰り道も、穏やかな時間が流れて、そしてマルローネはアトリエへと帰る。
そしてまた眠る。
……朝。
今日もマルローネは、ズバ起きる。
今日こそ何の予定も無い1日……
マルローネはアトリエの中を、キョロキョロする。
……本棚を物色してみる。
歴史書みたいな分厚い本が並び、マルローネの興味を引くような本は無いみたいだ。
……机を物色してみる。
無造作に転がる銀貨が、何枚も見つかる。
焼け焦げて、半分無くなったみたいな、古い羊皮紙なんかと、なんか高級そうな紙の巻物……
マルローネにとっては、あまりにも馴染みの無い物が見つかる。
……そして、外に出て裏の井戸へ。
身だしなみを整えて、ザールブルグを徘徊でもしようと歩き出す。
……心地好く晴れた、いい天気……
取り敢えず、井戸の近くのタベクサを齧り、井戸の水を飲む朝の腹拵えをして、マルローネは噴水広場へと歩き出した。
朝の光というのは、どこか涼しげで気分が良くなる。
小さい雲が時折、空を泳いでいるような晴れた空を、マルローネは見上げる。
肌を露出させている部分が目立つ、イングリド先生から貰った服は、まだ外では着慣れない感じがあり、肌に触れる風が気になる。
……まあ、それも新鮮な感じなので、そのまま歩いて行く。
この衣装をお披露目したくて、出歩いている部分もあるし。
そして噴水広場へと出る。
朝の噴水広場は、ぽつぽつと人が居る。
ディナータイムだと煩雑に賑わう噴水広場も、朝は落ち着いた佇まいで、朝の光を湛えている。
そんな噴水広場に、浅黒い輝く頭が見えた。
武器屋のハゲルが、朝日に輝く噴水を眺めていたのだ。
「おう!嬢ちゃん!なんか最近攻めた服装になったじゃねえか!」
恐ろしく完成度の高い筋肉のカット……肌の浅黒さも、そんな筋肉を飾るような……ハゲルがいつもの笑顔を、マルローネに向けた。
「ふふん、イングリド先生に貰ったんだよ?アカデミーも公認の錬金術衣装なんだから!」
マルローネはセクシーポーズを取りながら、ハゲルにウィンクして見せる。
「そうなのか!?ってゆうか嬢ちゃん。いつも錬金術が出来ないとか言ってたのになぁ……そんな変化があっただなんて……」
ハゲルは考えるポーズで話す。
「錬金術は出来てないわよ?私は私だからね!」
マルローネは言い放つ。
ハゲルは、かくっ、とずっこけた。
「なんだい。まあ、そうだよな。いつの間にか随分な時間が経ったのかと思っちまったよ。まあ、嬢ちゃんは嬢ちゃんだよな」
ハゲルはそう言って笑う。
そして、ハゲルは少し考え込み、マルローネの露出部分を凝視する。
「な、何!?そのイヤらしい視線は!?」
なんか、堂々と凝視するハゲルに、マルローネは怯む。
「しっかしアレだな。そんな格好なら、ハゲルジムも行っておくといいかもな。ちょっと線が緩いトコがあるからよ。その格好に免じて案内してやるよ」
ハゲルはそう言うと、踵を返す。
「ハゲルジム?何それ~?」
マルローネは初めて聞く単語に興味を示し、ハゲルについて行く。
……武器屋の裏に、なんかもう1つの建物があり、ハゲルはそこに案内する。
建物の中に入ると、色々な形状の鉄の塊がそれぞれ、専用の棚に丁寧に収められて並んだ空間。
そして、冒険者や騎士団の人が、鉄の塊で運動をしている空間だった。
……換気はちゃんとしているけれど、恐ろしく汗くさい。
……のこのこと付いて来てしまった事を、後悔する。
「な、何ここ!?」
さすがのマルローネも、大いに怯む。
「ハッハッハッ!人間の身体を鍛える場所だ。とは言え無理をすると、いとも簡単に人の身体は壊れちまうからな!ちゃんと嬢ちゃんの目的に合わせたプログラムで頑張れる場所だぜ?」
ハゲルは見事なポージングをしながら、このハゲルジムを紹介する。
……ここの先生にトレーニングプログラムを立ててもらい、トレーニングをする。
特典として、トレーニング後になんと、焼いた鶏肉を食べる事が出来る!
タベクサ法の特例として、ここの場所のトレーニング後の食事は、認められているのだと言うのだ。
ここのミルクと鶏肉を目当てに、トレーニングに来る人も少なくない。
なので、結構賑わう場所なのだと言う。
でもハゲルは、武器屋を開ける時間だと言って居なくなり、マルローネはトレーニングを見る先生に引き渡された。
「初めまして。私はオリンジン・グランドと申します。女性の方は外に良い場所がありますので、そちらをご案内致しますよ」
ハゲルと同じような筋肉マンが、柔らかな物腰で話すと、マルローネは外について行く。
お城と武器屋、ジムの間に、木々に挟まれた空間があり、その木々の根元には花壇が並び、花が咲きまくっている。
そこで女性であるフリージア先生に引き渡されると、オリンジン先生は汗くさい建物へと帰って行った。
後悔しながら来てしまった場所だけど、フリージア先生と、トレーニングに来てる女性とのお喋り大会となり、鶏肉とミルクにもありつけて、素敵なひと時を過ごす事が出来た。
先生が5人も居て、そこらじゅうでお喋り大会していた。
これは、噴水広場をふらふらしてるよりも、ずっと有意義だ。
……通ってしまう気持ちも分かる。
トレーニングは、慣れない動きで慣れないトコロがちょっと悲鳴を上げるものの、そんなハードじゃないし。
何よりも昼間から、焼きたての鶏肉とミルクにありつけるのはデカい。
……あまりにも、デカい。
結構沢山の人が訪れるみたいで、用意されている鶏肉とミルクも、かなり大量だ。
……とはいえ、ありつける量は少なかったけれど。
なんかご機嫌で、噴水広場を歩くマルローネ。
ハゲルジムはクセになって、通ってしまいそうなんだけど……
初回こそ無料だけど、2回目以降は銀貨3枚と、有料だったりする。
だがしかし、アカデミーの学生証があると、無料になるらしい。
これは、通う未来しか見えない。
そして、ダムの方へと向かう。
ディナータイムに、カエルやらネズミやらを調達する為に。
この日はシアが居て、釣り人の中にはご隠居様も居た。
みんなで釣り糸を垂らしている、のどかな感じ。
マルローネ用の網を手にするマルローネに、みんなは顔を向ける。
「……なんでその格好でカエルを狙うのかしら」
シアが至極真っ当な事を言う。
「……あ。確かにそうだね……」
マルローネは、言われて初めて気付く。
「ははは、今日は朝から猪が獲れたみたいで、ディナーに皆に振る舞う予定だからね、マリーのネズミとカエルは、今日は許しておやりなさい」
ご隠居様、シューマッハーはそう声を掛けた。
ザールブルグ筆頭貴族だけあって、余裕がある。
「へへへ……なら今日は、止めておこうかな」
マルローネは、シアの後ろに座る事にする。
……そうして夕方くらいまで、釣り人達と、のどかな時間を過ごす。
なんか、いつものパターンになるのは、きっと誰もが仕方ない事だと思う。
なんとなく、そういう1日になるもので。
そして、楽しくディナータイムになる。
それも、いつものパターンだけど、なんか今日はやたらと豪華な感じになった。
流石の猪である。味も濃いからやたらスープも進むし。
オリンジン・グランド、フリージア先生
トレーニングの先生。
シューマッハー・ドナースターク
ドナースターク家のご隠居様。
エグルドレイブ・ハーレイス
釣り人 騎士団のお兄さん。
ワフール・ハイラム
異世界のエロ魔人
デイドリオン
デイドリオン・アイン
デイドリオン・ツヴァイ