※この作品はR-18です。

月岡恋鐘さんいわく「長崎で逆レ●プが人気? そんなわけ無かよー」   作:ふりーじ屋/家庭内禁書

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初出だと前後編の区切りがないのですが、できれば※22でいったん区切りを入れたいので区切っています。

全編※01-35までありますが、エロは ※12 から始まります。
前置き不要、というかたはページ内検索で飛ばしてください。


月岡恋鐘さんいわく「長崎で逆レ●プが人気? そんなわけ無かよー」(前編)

 

※01

 

「んふふ~、こがんやらしか女の子と、真夏の無人島で二人きり……

 なーんて、いくらプロデューサーでも経験なかろ~♪」

 

 俺の担当アイドルである月岡恋鐘は、空と海の青を背負って、つば広の白い帽子をかぶり、

 白のベースカラーに赤のワンポイントでフリルをふんだんにあしらったビキニ、

 そして溢れるような笑みを見せつける。

 

「……恋鐘の言うとおり、はじめてだ。たぶん他の場所で、他の人と経験することもないだろう」

 

 俺はぎりぎりまで言葉を選んで返事した。

 『やらしか』というのが、恋鐘のお国言葉で「かわいい」を意味すると思い出すのに時間がかかったせいだ。

 

「そうやろ~? ま、砂浜はないから『追いかけて~逃げるフリをして~♪』とはいかんけれど」

 

 恋鐘がゆっくりとした足運びで回ると、

 ちょうど潮風がふわりと軽く流れてきて、白い大ぶりなフリルがはためいた。

 足元は護岸工事もされていない手つかずの磯なので、足運びがくるくる……とはいかない。

 フリルは、恋鐘の曲線美を「ちらちら」程度に隠していて、金魚を連想させた。

 そういえば、かつてここは豪奢な白いヒレのある金魚の産地でもあった。

 

 長崎県佐世保市、九十九島。

 よそ者の感覚だと「つくもしま」と呼びたくなるが、時代によって読み方は揺れている。

 伊能忠敬が「七十に近き春にぞあいの浦 九十九島をいきの松原」と詠んだ例もあり、

 地元では「くじゅうくしま」と呼ぶことが多いようだ。

 

 佐世保は、恋鐘が生まれ育ち、今もアイドルとしての仕事でたびたび帰ってくる地であった。

 

「恋鐘は、友達と来たことがあるのか?」

「ぜーんぜん! ……ホントよ? うちも、はじめてっ」

 

 九十九島というのは、九州最西端にあたる佐世保市の、

 (恋鐘いわく、西隣の平戸市は「島」なので別カウントらしい)

 日本海だか東シナ海だかに面する西海岸に点在する208の群島の総称とのことだった。

 

 208のうち有人島は、かつて潜伏キリシタンが信仰をつないでいた国重文の黒島天主堂がある黒島など4つ。

 俺も恋鐘もクリスチャンではないが、観光協会がらみの仕事で足を運んだことがある。

 

 残りの204は無人島だ。

 事前に約束をとっておけば、瀬渡し船で適当な島に送り迎えしてもらえる。

 時間限定とは言え、文字通り「無人島に二人きり」を堪能できるのだ。

 

 

※02

 

「海遊びなら、わざわざお船まで頼んでこっちゃん来んでも、手前に海岸があるけん」

「なるほど」

「……まぁ、こっちにも趣はあるんよ? 例えば~」

 

 恋鐘が手招きしてきたので、俺も足元に気をつけながら歩み寄る。

 すると、

 

「……こがんくっついても、誰にも冷やかされんねっ」

 

 恋鐘がいきなりこちらに向けてダイブ――とっさに腕を伸ばし足を踏みしめて備える。

 けっこうな勢いで体が傾ぎかけ……ぎりぎり間に合って、どうにかこうにか受け止める。

 

「……んふふ~♪」

「んふふ~、じゃない。危ないだろう」

 

 こちらは心の準備もなしに、恋鐘の体を――数値にして93-60-91という圧倒的なスタイルも、夏の暑気にしっとりと立ち上り肌や髪の毛に纏わされた汗も、海気に立ち上る甘い体臭も――すべて無防備に押し付けられる。

 

「恋鐘が、運動神経がある割に、妙に転ぶ理由がわかった。こういうこと考えてるからだ」

「嬉しか? ねー、嬉しか?」

 

 恋鐘は俺の文句などどこ吹く風で、思いっきり体をこっちに密着させたままこすりつけてくる。

 頭の後ろのほうや、ノドの周りが震えてしまう。

 

「う、嬉しい。嬉しいよ、恋鐘」

「ほんとー?」

 

 これを続けられて勃たないオトコは、ホモと不能以外にいないだろう。

 そして俺はどちらでもなかった。服も恋鐘にあわせて薄着であったので、隠すすべもなかった。

 

「嬉しかみたいね~。プロデューサーも、オトコの単純なサガからは逃れられんのねっ」

 

 わざわざ耳元でくすくす笑いを流し込んでくる。

 恋鐘は「誰にも冷やかされんねっ」と言いながら、俺を冷やかしやがる。

 

「……前は、もっと慎み深かったのになぁ」

「プロデューサーの色に染められたんよ~♪」

 

 283プロのオーディションで出会ったときと比べると、

 恋鐘とはだいぶ気安いやり取りができるようになった。

 ……恋鐘は、もともと誰にでも陽気に振る舞うほうではあったが、さらに遠慮が無くなった。

 

 

※03

 

「燃ーえろよ燃えろーよー♪ ……っていうには、ささやかな炎やけど、じゅうぶんたい!」

 

 恋鐘は荷物からインスタントコンロを取り出して包装ビニールを引き裂き、ガスライターで火を点けた。

 冬場にコンビニなどで売っているアルミ鍋の鍋焼きうどんに使われているような容器の中に、

 網と木炭と着火剤が入っていて、屋外で気楽にグリルが楽しめるシロモノだ。

 

「クーラーボックスやなんやら抱えてたから、釣りでもするのかと思ったが……そういうことだったのか」

 

 瀬渡し船に乗る前、恋鐘はクーラーボックスや大きなリュックを抱えていた。

 見かねて荷物を肩代わりしたところ、それなりの重さだったので「何の荷物だ……?」と思っていたら、

 

「和牛日本一の平戸牛、波佐見の肉厚シイタケっ。

 ジャガイモ玉ねぎニンジンも俵ヶ浦の赤土で甘ぁか育っとるっ。

 な・に・よ・り~……おっちゃんおばちゃんがしっかり育ててくれとるから、

 夏だって、ばぁりうまか九十九島カキもあるたい!」

 

 恋鐘は無人島で地元の食材(こういうとき、恋鐘はちゃっかり平戸や波佐見を地元に含める)を使ったバーベキューと洒落込むつもりだったらしい。

 俺もすでにヨダレが口中に沁みだしてしまっている。なんだかくやしい。

 

「んふふ~、んふふ~♪ みぃんなよか子やけん、どんどん美味しかぁなってなぁ~♪」

 

 俺は手伝おうとしたが、野菜も肉もすでにカットされたりタレに漬けこまれたりしてパックされており、

 恋鐘に「プロデューサーは黙って見とるよー」と押し切られ、座り込んで恋鐘を眺めていた。

 

 恋鐘は鼻歌交じりでエプロンがわりらしき上着を羽織ったかと思うと、

 網の上でぱちぱち音を立てる食材たちにあれこれ話しかけながら、

 刷毛でたまり醤油を塗ってガスバーナーで炙ってメイラード反応を煽ったり、

 小鍋に酒を注いでフランベの火柱を立てたり、もはや調理と言うよりパフォーマンスを繰り広げていた。

 

「恋鐘は、本格的にそっち方面で売り出そうか」

「そっち?」

「料理とか、グルメとか、そういう方面だ」

 

 俺の担当アイドルは恋鐘を含め5人いて、アンティーカと名付けたユニットでアイドル活動を進めていた。

 ユニットとしてはゴシック系の路線で、なんとか全国区の知名度を得るまでにはたどり着いているが、

 

「任せるたい! と言いたいところ……だけど、それって、きっと、ソロのお仕事になるんよね」

 

 ゴシック路線は、ユニットの5人がカラオケに行ったときのノリと勢いで決まったもので、

 それもここまである程度は突き進んできた。

 今は、各メンバーにとってほかにベターな売り方があるのでは、と検討する段階に入っていた。

 

 特に恋鐘は、アンティーカの中で(内側から見ていると、精神的支柱を担っているおかげで実感しにくいが)、

 一人だけキャラクターが家庭的で――それ単独ではぜんぜん悪い要素ではないのだが――グループを外から見たとき、いささか浮いているきらいがある。

 

 それもアンティーカという単位なら、ちょうどよいアクセントになっているのだが、

 月岡恋鐘というアイドル個人としてみると、もっとよい道が考えられそうなのだ。

 

 

※04

 

「恋鐘ソロの仕事は、今は地元関係が多いが……料理・グルメなら、全国どこでも狙える」

「まぁ、佐世保が美味しか食べ物いっぱいあるところではあるけど、

 プロデューサーとたくさんお仕事したおかげで、あらかた紹介しきったかもね~」

 

 コンロの網の上がにぎやかになったのと逆に、恋鐘はしみじみとした声音を漏らした。

 

「タイもアジもイワシもサバも、アワビもイサキも、トラフグもイリコも、

 佐々のウニも、佐世保バーガーも、レモンステーキも、

 海軍さんビーフシチューも、洞窟そうめんも、入港ぜんざいもやったたい」

 

 恋鐘が調理の手を止めて、地元でやった仕事を指折り数えていく。

 

「……食べ物ばっかりやっとらん? うちのこと、花より団子なオンナと思っとらん?」

 

 恋鐘は港の定食屋の家に生まれたせいか、海よりの産物を列挙したが、佐世保の市域は山もかなり含む。

 明治時代に海軍の鎮守府ができて人口が急増し、足りなくなった住宅地は山を切り開いて広げているせいか、

 長崎ほどではないが坂の多い街である。

 

「花と言うならハウステンボスの花畑。ほかはセイルタワー、パールシーリゾート、天主堂……

 山の方だって三川内焼とか、とんねる横丁とか、古代洞窟めぐりとか……今だって、そこに石の花が」

「ああっ! ここに石の花がこんなに美味しそうに咲いとー♪ って、石の花はカキたい!」

 

 そのあと、恋鐘も俺もこれという理由なしに絶句した。

 インスタントコンロから飛び散るパチパチ音と、しゅうしゅうと足元から来る潮騒がやけに大きく聞こえた。

 

「プロデューサーとオーディションで初めて会ってから……えっ、4年ぐらい経っとる?」

 

 仕事を数え上げてみると、長いな、と思った。体感ではあっという間だったのに。

 

「花……花、ねぇ……んふふ」

 

 恋鐘は笑みを見せたが、俺はどうも引っかかるものを感じた。

 いつもはニコニコと無邪気な喜色なのに、今の恋鐘は、意味ありげな――それこそアンティーカでの撮影で、うんうんうなってようやくひねり出すような――微笑を、さらりと浮かべていた。

 

 俺の視線から怪訝がる風が伝わってしまったのか、恋鐘は、

 

「さぁ、食べ食べっ! うちに見惚れとったら、食べごろば逃したら承知せんよ?」

 

 と言われると、目線を網の上の食材たちに移すしかなかった。

 

 

 

※05

 

「プロデューサーどの。一献、どがんですか」

 

 夕方、瀬渡し船で無人島から市街へ帰してもらったあと、俺は恋鐘の実家で晩酌のご相伴にあずかっていた。

 珍しいことに、恋鐘の父親からお酒を誘われたのだ。

 

「娘からは、辛党と聞いとりますけん、どこまでお付き合いできるかはわかりませんが」

 

 妙な雰囲気だと思った。

 恋鐘の父親は定食屋を営んでいて、ふだんなら仕事の時間――これはまだ理解できる。きょうは恋鐘が帰省しているとのことで、店をお休みにしたらしかった。

 帰省といっても、佐世保での収録の予備日が余ったので、恋鐘に予定より一日多く実家に泊まらせていくことになった程度であるが。

 

 なお、そのことを恋鐘に提案すると、

 『そんならプロデューサーもうちん泊まっていき! あんたホテル一人で泊まらせたら、

 うちを休ませときながら、自分はパソコンば開いて仕事しかねん!』

 と言われ、強引に月岡家に泊まることにされた。俺はそんなワーカホリックに見えるのか。

 

 それはさておき。やはり妙な雰囲気だった。

 恋鐘の父親の語り口が、かしこまっている――なぜだろう? 娘・恋鐘を預かる身として、俺は父親とサシで話したことも何度かあるが、こんなに固くなっている様子は初めてだ。

 いつもは恋鐘に似て――恋鐘が似た、というべきだが――もっと気さくな物腰の人だった。

 

「お酒は好きで、正直飲むほうですが、一合でも五勺でもそれだけの満足ができます」

 

 と返すと、父親は破顔一笑した。何がそんなに愉快だったんだろう。

 酒の楽しみの多寡は酒量の多寡とぜんぜん違う、というのは上戸によく言われる(そしてよく忘れられる)心得のはず。

 

「プロデューサーどのに恋鐘が世話になってから、もうすぐ4年になると……ですか?」

「そうですね」

 

 やっぱり恋鐘の父親はどこかおかしい。

 初めて俺とオーディションで顔を合わせたときの恋鐘と同じぐらい、ぎこちない。

 

「長いもんですね……おかげさまで、あん子も別人のように立派になりまして」

「性格は、4年前から変わっていない気がします」

「これはご謙遜なされる」

 

 俺や恋鐘からすると4年はあっという間だったが、親から見れば……まったく別の感覚なのだろう。

 

「恋鐘が『アイドル、なるばい!』とか威勢のよかこと地元で言うとったときは、

 恥ずかしながら、おいは本気で言うとると思っておりませんで」

「実際にお仕事してもらうまでは、どれぐらい本気なのか私もわかりかねます」

 

 かつて恋鐘から、父親と『ちょっと喧嘩しとると』『今はちょっとだけすれ違っとるけど……』とこぼされたことがあった。

 どれぐらい前の話だっただろうか。すれ違いってそういうことだったのか。

 

 

※06

 

「……恋鐘と同じぐらいの頃、おいはジョージ・ベンソンにかぶれて、ギターば担いで上京したことがありまして」

「ジャズ、たしなまれるんですか」

「下手の横好きですよ」

 

 村上龍やら小玉ユキやらが描写している通り、佐世保はジャズが盛んだ。米軍第7艦隊が近いからだろうか。

 フラットファイブなど、恋鐘のお仕事でジャズバーをいくつか紹介した覚えがある。

 

「けっきょく、東京で芽の出ませんで……あん子に、そげん苦労はさせとうなか」

 

 父親の心配は、少なくともまったくの的外れではないと俺は知っている。

 

 なにせ俺との初対面で恋鐘は、

 『オーディションは全部、片っ端から受けとーよ』『それが……なぜか、全部不合格やったばい……』

 とのたまっているぐらいだ。

 

「でも、自分があっちゃん行ったくせに娘に行くなとは言われんけん、止められんで」

「それは……その……」

 

 それは、物分りがいい……と口走りそうになって、あやうく口をつぐむ。

 

「仲間ば連れて1年かそこらで、ちゃんとアイドルになって凱旋されると、

 娘といっても、恐れ入ってぐうの音もなかですよ」

 

 仲間、というのはアンティーカの面々のことだろう。

 アンティーカは結成1年ぐらい経って「W.I.N.G.」をぶんどってから、

 それぞれの地元で里帰りライブを組んでいる。

 北から青森、福島、神奈川、高知、そして恋鐘の長崎と出身地がややバラけているので、

 かなり苦労するのだが、みないつも以上に熱心に取り組んでくれて、期待以上の売上や反響を収めている。

 

 もっとも、ジャズがお好みらしい恋鐘の父親にとって、

 アンティーカのゴシック・メタルがお気に召したかどうかは……。

 

 俺の危惧を知ってか知らずか、父親は急に話題を変えた。

 

「カノコユリ、ご存知ですか?」

 

 恋鐘と出会って初めて知ったのだが、カノコユリは佐世保のシンボルとされている花だ。

 初夏から盛夏にかけてこのあたりの海岸に咲く。漢字で書くと「鹿の子百合」となる通り、

 白い花びらに赤い点々が鹿の子まだらについている。

 

「はい。まだ、咲いていました。きょう、九十九島のほうを歩いたので」

 

 出島に来たシーボルトが「このユリにまさるユリはない」としてヨーロッパに持ち帰り、

 (飛行機もない時代、真水の不足しがちな航海で持ち帰るのはたいそう苦労したらしい)、

 品種改良でカサブランカなどを産んだといわれている。

 

 

※07

 

「カノコユリは……種から、芽を出して、球根になって、花が咲くまで……4年、かかります」

「……存じ上げませんでした。不勉強で」

「だから……まぁ、4年は待っちゃろうと。

 あいは……恋鐘は、プロデューサーどのから見て、咲けておりますか?」

 

 ジャズ好きにありがち(?)な叙情的な言い回しのうえ、さっきベンソンの名前を聞いたせいか、

 『this masquerade』の歌いだしが割り込んでくる。

 Are we really happy here? With this lonely game we play... とかなんとか。

 

 恋鐘は、このままで――

 

「恋鐘さんの花盛りは、まだ先ですよ」

 

 ――自分の妄想を踏み消すように吐き出す。と、

 

「プロデューサーの言(ゆ)うとおり、うちはまだまだこれからたい!」

 

 哀愁漂うベンソンのギターとボーカルは、出し抜けな恋鐘の声で雲散霧消した。

 

「プロデューサーがこっちゃん来とるって話しとったら、

 こんあいだに宣伝で世話になったからって、梅ヶ枝さんとこが焼酎やったたい!

 飲むたい飲むたい! 酒は飲め飲め飲むならば~♪」

「それは福岡の黒田節では……」

「そげん細かかコトよかよか! 佐世保から見たら、博多なんて長崎と距離ば大差なかよ」

 

 恋鐘は焼酎のボトルを抱えて、俺と父親の間にどーんと座ってきた。

 

「さぁ~、オトコふたりの酒席のしんみりは終わり! 花が咲いたけん、もっと明るく明るく!」

 

 恋鐘が成人してから知ったのだが、彼女はお酒もたいそう美味そうに飲む。

 

 やっぱり恋鐘は、料理とか、グルメとかの路線を主とすべきだろう。

 そうすれば、佐世保に立ち寄る機会も増えて、少し寂しげな父親も喜びそうな気がするし。

 

 

 

※08

 

 俺は月岡家の和室――客間なのだろう――に敷かれた布団に寝転がって、

 竿縁天井の暗くて見えるか見えないかという木目をぼうっと眺めていた。

 夕食も入浴も済ませて、いい具合に酒精も入って、心地よくはあるのだが、眠気がない。

 

 というのも、あれから恋鐘と、恋鐘の母親も晩酌に入ってきて、

 ハイペースでお酒が進んで『だいじょうぶか?』と思ったら、

 かなり早くお開きとなり(恋鐘いわく『佐世保が夜は早かよ』とのことだった)、

 だいぶ時間に余裕をもって床に入っていた。

 

 今は、ふだんの俺であればまだ就寝しない――下手をすると、事務所で残業している――時間だった。

 恋鐘が俺をワーカホリック扱いしたのも、こんな時間感覚のギャップのせいかもしれない。

 

 夏の夜なので、掛け布団は畳んだまま。薄物の寝衣とタオルケットでちょうどよかった。

 いつもと違う部屋、担当アイドルと一つ屋根の下というのは……どうかと思ったが、まぁ、田舎だから。

 仕事関係の人間を泊めるぐらいはあるのだろう。九十九島のときと違って、二人きりというわけでもない。

 

 ぼうっとしているうちに、自分の故郷に思考がふらふら飛んでいく。しばらく帰っていない。

 佐世保とは特に共通点もないところなのに、恋鐘と家族を見ているうちに郷愁を催した。

 あの、佐世保を田舎扱いできるほど栄えていると言えるかどうか、という――

 

「……寝とーと?」

 

 するする、という衣擦れのような音は、襖(ふすま)の開閉音だろう。

 声は……恋鐘に違いない。23だか24だかにしては、ちょっと幼く、ころころアメ玉を転がすような……

 

 返事をしようとしたのだが『ん、んんっ』ぐらいの、

 声だか寝息だかよくわからないぐらいの音しか口からでない。

 知らず識らずのうちに俺も疲れていたのか、恋鐘に何も返事してやれない……。

 

 用事か……? 頼むからあしたにしてほしい……。

 

「……から、ゆーたんよ……疲れ……でも、な……」

 

 恋鐘の声が途切れ途切れ。

 なんか足先に触れた気がする。

 

「ぷろでゅーさー……プロデューサー……うち、な……」

 

 どうしてか、金縛りにでもあったように体が動かない。

 するする、するする……襖? いや、これは、本当の、衣擦れ……か。

 

「……そいぎん、うち、プロデューサーに」

 

 ……昼間嗅いだ恋鐘の肌熱(いき)れ。

 

「こがね……恋鐘……ぇ……えっ」

 

 なんだかあんまり寝苦しくなったので目を開けると、

 目を閉じた恋鐘の顔が、吐息の混ざり合ってそうなほどすぐそばにあった。

 

 

※09

 

「……恋鐘っ」

「んふふ~♪ 寝言でまでうちのこと……ばぁり愛されとっちゃ――」

「降りなさい」

「わぷっ!?」

 

 目と鼻にだけは手を突っ込まないぐらいの、その程度の見当だけつけて、

 のしかかってきていた恋鐘を腕で押し退ける。どうやら口元に引っかかってしまったようだ。

 

「なんばしょらす!?」

 

 恋鐘のおかげで佐世保の人と話す機会があり、少しだけお国言葉も覚えてきた。

 『なんばしょらす』は『なんばしょっとね』のほんの気持ちばかり丁寧な言い方だ。

 

 半覚醒のこちらの頭で考えてみたが、こちらが言うべきセリフではないだろうか。

 

「降りなさい、って言ったんだが」

「やぁん、プロデューサーったらイケズたいっ。オンナに恥をかかせたらならんよ?」

 

 『オンナに恥をかかせたら』とか聞かされる夜が――しかも担当アイドルから!――来るとは思わなかった。

 

「恋鐘」

「んふふ……もっと呼んで……いつもより低くて、胸にとぉんとくる響きたい……♪」

「お前さァ、親が隣ん寝てる部屋にオトコをコキ入れて夜這いかけるオンナがいるかァ?」

「ぴぃぃっ!」

 

 せいいっぱい声のガラを悪くしてやったら、やっと恋鐘がトリップから戻ってきた。

 本当に恋鐘の両親が隣の部屋で寝ていることは、たぶん……ない……はずだった。

 ……恋鐘のココロが帰ってきても、カラダは俺の上にのしかかったままだったが。

 

「恋鐘」

「ぁい」

「お前、他のヒトにこんなんシてないだろうな?」

「あっあたりまえばい! こんなんプロデューサーにしかせんよ!」

「オトコだけじゃなく、オンナにもだぞ」

「ぷっプロデューサーは、うちのコトなんと思っとるね!?」

「……痴女」

 

 両親が同じ家で寝ているときに夫でもないオトコに夜這いをかけるオンナが痴女ではない……?

 とすれば、いったいこの世に痴女は存在しうるだろうか。

 

 恋鐘は頬を膨らませながら俺の首を締めてきやがった。

 息が苦しい……く、苦しい、本当に苦しい。

 ち、力入ってるぞ――は、離せ、恋鐘、こがねっ、やめ――

 

「は、ぁ、ぁあぁ……♥ ふぁ、ぁあっ……♥ プロデューサーって、激しいのが好いとー……?」

「こ、こがね……ちょっと、おちついて、話そう、な? 話せばわかる、わかるはずだ……」

 

 ――本来なら力負けするはずがない恋鐘相手に、俺はゼェゼェ息を切らすほど苦戦して、

 なんとか首を締められ続け窒息するのだけは回避した。俺は、本当に疲れているんだろうか……。

 顔が熱いのも、興奮のせいか窒息のせいかわかったものじゃない。

 

 

 

※10

 

「なぁ恋鐘。あらためて言うことでもないかもしれんが、アイドルがオトコを漁るのはマズイ」

「アサるとか、そんな人聞きの悪い~。うちはプロデューサーだけよー♥」

「特に担当アイドルとプロデューサーは、一発アウトだ」

 

 担当アイドルに手をつけるプロデューサーや、そんな人間を雇っている事務所に、

 自分の娘やアイドル生命を預ける人間がいるだろうか? いないだろう。

 

 プロデューサーは、作詞・作曲のプロ上がりでもない限り、ヒト集め・カネ集めの力量が物を言う。

 信頼を失って立ち行かなくなったら、ほかの何かで取り返すということができない仕事だ。

 

 まぁ……ことさら「いけない」と言われるのは、シたがる人間がいることの裏返しで、

 そういう関係でズブズブになっているのが露見して引き合いを失う連中は、残念ながら多いのだが。

 ただ、少なくとも、俺とアンティーカは……

 

「へー、ほぉー。そいぎん、プロデューサーは、アイドルだから、ダメと?」

「……何をニヤニヤしてるんだ」

 

 恋鐘の笑みは、九十九島で見た意味ありげなソレに似ていた。

 なんだかバカにされている気がする。

 

 夜這いされてからじゃ言えたこっちゃないが、

 恋鐘はそんなヒトをあからさまにあざ笑う性格ではないと思ってたのに……

 

「プロデューサーは、アンティーカのほかの子らにも、冷たかオトコやったもんね~。

 4年もあがんきれか女の子らに囲まれ言い寄られて、よか手を出さんでここまでプロデュース続けてくれたね。

 そこは素直に感心しとるよー」

「なんでそこで、あいつらが……」

 

 恋鐘は俺の問を黙殺する。

 

「確かにアンティーカなら、プロデューサーと浮いた噂がもし出たら大火傷ばい」

「恋鐘、わかっててこんな――」

 

 特にアンティーカは、乱暴に言えば……「カワイイ」「キレイ」がありふれているアイドル界隈でさえ、

 圧倒的な――すれ違った連中の首を捻じ曲げ二度見させたことは数え切れない――ヴィジュアルで殴りつけるユニットだ。

 

 それは強力な武器である反面、使い方を誤ったと見られたときのダメージも大きい。

 

「ばってん、『月岡恋鐘』は、じきにそうじゃなくなるけん、プロデューサーもそう考えとー?」

「いつ、そんなコトを、俺が」

 

 恋鐘が嘘のようなことを言う。

 人の頭のナカ、知ったふうに、勝手に決めやがって。

 いつ俺が、恋鐘とそういう関係になっても問題がないと――

 

「プロデューサーが何を言うても、もう遅かよ。後の祭りたい」

「……なんでお前、そんなに自信満々に……恋鐘にはいつものことかもしれんが」

「うちな、お仕事にかこつけてプロデューサーを佐世保のあっちゃんこっちゃん連れ回したろ?」

「それが、なんで後の祭りに」

 

 恋鐘は、ここにきていきなりきょとんと目を丸くした。

 どうも、話がどこかでつながっていないような……

 

「うちのソロ活動しはじめてここ2~3年もそんなん繰り返してたけん、佐世保どころか、

 平戸や波佐見ぐらいまでは、プロデューサーはうちの良(よ)か人だと思われとーよ……♥」

 

 

※11

 

 ……へぇ。

 長崎県北では、俺が恋鐘の恋人だと思われてる、と。

 

「……冗談じゃないよな?」

「冗談みたいなんはプロデューサーのほうたい!

 プロデューサーったら営業先で、行くとこ行くとこでバッチリかしこまってるもんだから、

 まるで『お嬢さんを僕にください』って頼んどるみたいって評判やったよ?」

 

 恋鐘は、暗い寝室なのにそれと分かるほどキラキラした笑みを浮かべていた。

 こいつ、俺がそう思われてるって知ってて、わざと黙ってたとか……?

 

「いや、そりゃ、あの……俺は、ヨソモノだし、できるだけ気をつけて――」

「――あー! プロデューサーったらもしかして、佐世保をそがん田舎根性まるだしなとこと思っとったー?」

「そこまで言ってないだろ!?」

 

 そこまで言ってはいなかった。

 しかし、そこまで思っていたのは図星だった。

 だって、田舎っていろいろとうるさいものでは……。

 

「佐世保は軍港だけん、ヨソモノには慣れっこたい。

 なんなら、佐世保が市長とかお隣の波佐見育ちやっか。

 ……って、実はプロデューサーの地元こそ、そがん気にする田舎だったり?

 はー、どーしよっ。うちがお嫁に行くときのために、今から根回ししとかんと」

 

 恋鐘は、夜這いを通り越して押しかけ女房にパワーアップしようとしていた。

 

「だいたい、もうプロデューサーは『詰み』ばい。

 ここでうちが声なんか出したら『何もなかった』で通らんよー♪」

「痴漢冤罪みたいなことするなよ。普通にダメだろ」

「いやー罪なオトコがよう言う、自覚のなかとこが、なおタチ悪かー。

 まー、これからうちがしっかりして、あんたを罪人にはさせんけん、安心するたい!」

 

 一体なにを安心しろというのか。

 

「……そういえば、うち、プロデューサーにこんなハッキリ『ダメ』って言われたん、はじめてね」

「そりゃあ、恋鐘に『ダメ』なんて言いたかない……言いたかなかったからだが」

「じゃあ、プロデューサーはきっと知らんけん、教えちゃろー」

 

 恋鐘が、柔らかく逆らい難いカラダを、ぎゅうっと押し付けてくる。

 感触。汗。匂い。体温。息遣い。恋鐘の気配の何もかもが、

 九十九島のときより、いっそう強く俺に迫り揺さぶってくる。

 

「うち……『ダメ』って言われるほど燃えるっちゃん! よろしゅうねっ」

 

 もしかしたら、地元に居た頃や、上京したばかりの頃の恋鐘は、

 俺と出会ったときのあの魅入られるほどの輝きを、まだ備えていなかったのかもしれない。

 恋鐘の父親の『別人のように』ってそういう意味かもしれない。

 

 そうやって回想で現実逃避するのがせいぜいだった。

 

 

 

※12

 

「プロデューサー、まーだ、自分からは手も回してくれんね?

 まぁ、そういう強情っぱりなとこも、愛しかぁ……♪」

 

 恋鐘に耳元でささやかれると、声が入った代わりに魂を抜かれる気がする。

 たった数呼吸ふれ合っただけで『オトコの単純なサガ』を呼び覚ます恋鐘の魅力は、強く、本当に強く、

 それを磨き上げるためにわずかながら力を貸した俺からすると、身にしみて泣きたくなるほどだった。

 

「あーい、むぎゅ~♪」

「あ……わ、ぁうっ」

 

 今更ながら、ペニスは勃起している。そこに、恋鐘がウエストあたりをぐりぐりこすりつけてくる。

 どうやら恋鐘は、夏物の薄い寝間着と下着ぐらいしか身に着けてない様子。

 俺のオスとしての欲望が、一足先に恋鐘へ靡(なび)いてるのも、肌からバレバレだ。

 

「は、離れ、ろ、恋鐘……離れて、くれ」

「んふふ~♪ プロデューサーはいい子だけん、えらかさんのー!

 口でそげん言うても、嬉しいのは分かっとーよ? そーれ、それっ♥」

 

 狡猾な恋鐘は、あらかじめ『ダメ』という直接的な俺の拒絶を封じている。

 『ダメ』って言われるほど燃えるっちゃん……って、先にそう言っておけば、俺は『ダメ』と言えなくなる。

 言ったら煽ってるととられてしまう。うまいもんだ。前はMCでもよくトチってたのに。

 

「じゃあ、今度は心臓さんに聞いてみよかー? んしょ……んしょ……ムネが、じゃまばい……

 プロデューサーの……はぁ……こうして触ってみると、思っとったより、ずっとたくましか……♥」

「う、ぐっ……こが、ね……」

「あっ……プロデューサーも、ドキドキ、しとるんね……ね、うちのドキドキも、触って……♪」

 

 恋鐘は俺の手を握って、豊かなバストのアンダーに引きずり込んだ。

 狭くて、熱くて、柔らかくて、指先が恋鐘の肋骨か胸郭かなにか奥の硬いものを触り、

 

「あ、ぁ、んっ……♥ こーすれば、伝わって、感じるとー……?」

 

 恋鐘の心臓は、スピードメタルのBPMかと錯覚するほど速く、激しく高鳴っている。

 興奮してオカしくなっているのか、心臓「さん」とか、いつもではありえない語彙がちらつきだした。

 

「んーでも、プロデューサーは、こっちのが露骨たい。

 へその下で、びくびくしとる、おちんぽさんが、なー♪」

 

 誰だよ、恋鐘にこんなの吹き込んだのは――「さん」付けだが、霧子じゃあるまいな?

 そう見せかけて摩美々か、あるいは結華か、意外と咲耶か……

 たぶん、連中がわいわい集まって好き勝手ぶち込んだのだろう。

 

 恋鐘、お前はそんなにわかづくりの闇鍋じみた淫語を使わんでも、きっとそのカラダと表情と息遣いだけで、

 とっくに日本全国の精子を天文学的なレベルで無駄死にさせているぞ。

 

 

※13

 

「お腹のあたりに、押し当てられてると、ね。うち、あとのコト、想像しちゃってね。

 きゅん♥ ってするのと、ぞくっ……ってするのが、ぐるぐるシてて……

 ずーっと、ナカで、ぐるぐるシて……オカしゅーなりそーよ……っ」

「……それなら、俺は、もう先にオカしくなってるよ」

 

 やけっぱちがくちびるから出てしまう。

 

 俺が、恋鐘を含めたアンティーカの面々を、なるべく性的な目で見ないよう心がけていたのは、

 そういうオナニー猿――失礼!――もとい、ホモ・不能を除く男性ファンと自分を差別化したかったから、

 より正確に言えば、「自分は違う」と自分に言い聞かせるためだった。

 

 それを3年も4年も続けられたのは、彼女らが外見抜きでも輝かしく魅力的だったから。

 

 またその意地っ張りな感覚を保っていたからこそ、アンティーカのセックス・アピール抜きの魅力を見逃さず、

 女性からの支持も得られるプロデュースができたんだ……という自負(あるいは思い込み)のおかげ。

 

「手で、触ると、あっつぅ……ヌルヌル、しとる……♥

 プロデューサーも、コーフンしとるよね……ねーっ……」

 

 その自負だか思い込みだかは、こうして恋鐘にメチャクチャにされている。

 踏みにじられている……いや、恋鐘の全身によってすり潰されている。

 

「恋鐘……こが、ね……」

「だーいぶ、優しい声音になっとーね……嬉しかよ。そいのが、うち、耳慣れてて、安心するたい」

 

 恋鐘のことを拒絶できない。

 今さっき付きまとってきた睡魔よりも抗いがたいぐらいだ。

 

「安心させてくれて、ありがとね……ほら、うちドジばかりするし」

「……いっそ、2回でも3回でも失敗してくれ」

 

 いっそ最後までしくじってくれたほうが、うまくやられるよりも、

 次の日から恋鐘とうまくやっていける気がした。本当に、少しだけ。

 

「もー、プロデューサーっ、うち、気にしとるんよー?

 でも、前、そうやって、いっしょうけんめいやればよかよ、みんな好いとくれる……って、教えてくれたけん。

 んふふ……うちも、好いとー……好いとっちゃ……プロデューサーぁ……っ♥」

 

 

※14

 

 恋鐘は、こっちが出せる言葉をすべてぶつけても、止まりそうもなかった。

 何を言っても倍返しのカウンターを食らわされる。

 

 糸屋の娘は目だけで男を殺したと聞くが、メシ屋の娘に俺はカラダもコトバも使わせた。

 それで死ぬなら結構じゃないか。

 そう思ってしまうぐらい、プロデューサーとしての俺はさくさくと崩れていく。

 

「まー、こんぐらいなら九十九島で済んどるねっ。

 うちに任せてな。プロデューサーは天井のシミでも数えてればよかよー」

 

 気も骨も抜けていた俺は、頬だけだがつい笑ってしまった。

 誰に吹き込まれた。それはふつう男のほうが言うセリフだ。

 

「あーっ、笑うなんてひどかよ……! ま、その余裕も、いつまで続くかねっ」

 

 俺からすると驚くべきことに、恋鐘はまだ俺が何か抵抗するのではと警戒しているらしい。

 

「あんまり買い被るなよ。恋鐘の言う通り、俺は『詰み』だ」

「いいや、これからたい。将棋じゃなかけん、投了って言うまでは盤面ひっくり返せるばい」

 

 俺はそんな無体をする男だと思われているのか。

 

「ぜったい、参ったって言わせるんよ」

 

 ……無体というのも今更だった。

 恋鐘がシてくれたコトと、そしてこれからシてくれるであろうコトを思えば、

 俺たちの間にあったはずのルールは、無残な横紙破りにされていたし、これからもされるだろうと思えた。

 

 

 

※15

 

「んふふ……♪ ん、んっ……んぁあっ♥ コレ、思ったより、しやすーねぇ……

 プロデューサーのおかげで、いーい感じに、滑って……あ――ひぁ、んくぅっ……!」

 

 しゅる、しゅる、しゅる、と恋鐘は、俺の勃起したペニスをカラダにこすりつけている。

 下着はあっさり脱ぎ、俺のものもあっさり脱がした。

 音を立ててるのは、薄い寝間着や、俺のちゃんと処理してない体毛か。

 

「プロデューサーのおちんぽさんも、嬉しか? 大きくなって、素直やねー。

 うち、あんたのご主人さまのおかげで、ムネばっかりか、脚やお尻もへんな目で見られるよーなって。

 その……んんぅ、ぁ、ふあっ……♥ こ、困っとるんのよ。ね。セキニン、とって……あ、んんっ……っ」

 

 グラビアで全国の健全な男子の精子をしこたま絞ったであろう太腿とお尻が俺を責める。

 ヌルヌルの先走りをうまく使われて、デリケートですべすべな肌を堪能させられる。

 ムニムニと柔らかい脂肪、ピンと緊張をはらむ筋肉、夏よりも蠱惑的な汗が、否応なく折り重なってくる。

 

「ん、ぅ、ふぁ、あっ……感触も、そーだけど……なんだか、これ、動きも、すけべたい……♥」

 

 そう言いつつ恋鐘は、上半身の胸をゆさゆさと見せつけてくる。

 ブラを外しているので、その稜線はあらわだった。

 

 白い肌に、うっすらビキニの日焼け跡がついている。

 ここから先は、本当は見てはいけない部分だったんだよ、と教えてくれる。

 乳首は、バストのボリュームに相応な気がするが、乳輪の色素が薄く境目もあいまいで、夜目にはわからない。

 その下、さっき触れたアンダーバストもまた白いまま。乳輪と比べると境目がくっきりしていた。

 俺は、恋鐘の見るべからざる部分を見るどころか、そこに触れてしまってもいた。

 

「そがん目で……じっと、見た、らぁ……♥ くすぐったくて、ん、ぁぅううっ……♥」

 

 俺が見上げているだけで、恋鐘は不可視の手にもてあそばれているよう悶え、鎖骨や首筋を浮き沈みさせる。

 アイドルは、自分がどんな目線を浴びせられているかを知って、それを操る商売だ。

 それで研ぎ澄まされた官能が仇になって、俺の視線を感じてしまうのかもしれない。

 

「だからっ……あっ――♥ だからぁ、プロデューサーは、油断、ならないんよ……。

 ちょ、ちょっと恥ずかしいから……こっち、ね……♥」

 

 恋鐘は両肩・骨盤を横に――俺の両肩と骨盤から見て直角に――ずらす。

 俺の網膜には、恋鐘の横顔と二の腕、下ろしたロングストレートが背中に絡む様、

 アングルの絵のようにゆったりと長い尻・太腿・膝裏・ふくらはぎの流れが焼き付く。

 

「御所車だか、宝船だか」

「ん~、プロデューサー、何か言うた? こっちのが好みたい?」

 

 どうやらアンティーカにその知識はないようだった。

 

「……綺麗だな、と思って」

「っんぅ……♥ や、ぁ……不意打ち、なんて……プロデューサーぁ……♥

 ……もー、いつもそんくらいしんみりした声で褒めてほしいたい……♥」

 

 

※16

 

 さっき胸を揺らしながら素股や尻コキをしてくれたのが娼婦の姿なら、

 今のそれは裸婦像というのがお似合いだった。体温も肉感も色気がふんぷんたるばかりなのに、

 それが横から切り取られると、曲線が長くなるせいか、芸術的に「美しい」という感覚が前に出てくる。

 

 まぁ、それを見る俺のペニスは勃ったままなのだが。

 それに気づいて、恋鐘がいたずらっぽく舌を出す。

 

「……でも、これ、キレイだけじゃなかよ?」

 

 ぎゅうっ……と、弾力に満ちつつ俺を呑み込む圧力。

 

「これなら、プロデューサーの顔を足蹴にせんで、両脚でムギュムギュできるたいね~♪」

 

 恋鐘は、自慢のカラダの柔らかさを大いに活用して、

 膝やら股関節をかなり急角度に曲げたり戻したりしながら、

 涼しい顔でヌチャヌチャとペニス摩擦を展開する。

 

「んっ、あっ♥ あんっ……プロデューサーぁ……気持ち、よかぁ……?」

 

 腿やヴァギナや下腹で愛撫するのは言うに及ばず、膝裏できゅうきゅうと締め付けたり、

 楽な体勢では、支えの手を外して指で、そろそろ、つつつぅっと勃起を撫でたりする。

 

 こんなやり口を恋鐘に垂れ込んだのは誰だ――と一瞬だけ考えて、それを捨てた。

 誰が俺にこんな真似しようと、恋鐘以上の快楽にはなるまい。

 

「ふ、ぅ……え、へ……えへへっ……おちんぽさんは、いつだって素直だなぁ……♥

 ほーんと、可愛かよ……こんなんで、されたら……ぁあっ♥ また、想像、シただけなんにぃ……♥」

 

 このままだと、恋鐘はナカにまで入れてくるだろう。

 

「あつくって、びくっ、びくってシてぇ……っ! これぇ、危なかよっ♥

 うちをオカしくするんだからぁ……もー、可愛さ余って憎さ百倍たい!」

 

 正直、恋鐘に煽られ続けて、射精が近い。しかし、射精を我慢するのか迷う。

 

 射精をすると、恋鐘の愛撫の前に、男として明らかな白旗を上げたことになる。

 しかし、いつまでも素股やら足コキやらでの射精を我慢していると、

 俺が「恋鐘には膣内射精シたい、膣内射精じゃなきゃイヤだ」と、

 駄々をこねてるふうに取られかねない――今の恋鐘なら、間違いなくそう取るだろう。

 

 もう余裕はなかった。

 

 

※17

 

「恋鐘……その、もうすぐ、出る、出てしまう、から……」

「ほんと――っ♥ 出しっ、うちの前で出しっ♥ ドロドロのおもらししたらよかよーっ。

 ぴゅっぴゅシて、パンツでもお布団でも、汚したら、うちが洗ってあげるけん……♥」

 

 俺は精通直後の少年か。

 

「ほら……ほらぁ♥ ええと……はぁい、がんばれ♥ がんばれ♥

 プロデューサーもおちんぽさんも、うちといっしょにがんばるたいっ♥」

 

 このボキャブラリーが恋鐘にあるっておかしいだろ……?

 と突っ込みそうになるが、その疑問は恋鐘の糸を引きそうな声音の甘さに即時封殺される。

 恋鐘は真剣にやってくれているおかげで、そうでなければ笑って済ませてしまうセリフが、

 素晴らしく響いてしまう。ペニスだか精巣だか心臓だか大脳皮質だかいろんなところにキてしまう。

 

「は、ぁ――んんっ、うちも、気持ちよかよぉ……がんばれぇ♥ ぷろでゅーさー、がんばれっ♥」

「う、うぅ……恋鐘、こがねぇ……もう、出る、出てしまう、からっ……!」

 

 ぬっちゅ、ずっちゅ、ぱんぱんっ……と、恋鐘のストロークもボルテージが上がっている。

 頑張って出すどころか、頑張らないと次の瞬間終わり。

 たぶん恋鐘の手や胸にぶっかけてしまうことになる。

 

 一方的に搾精されるばかりか、それが無駄撃ち射精。

 交尾が終われば被捕食者のオスカマキリより無残。

 プロデューサーとしても負け、オスとしても負け。

 

 もう俺は、何をしても恋鐘にはかなわないのでは……。

 

「プロデューサー……っ♥ プロデューサーぁ……♥」

「ん――ぐっ、恋鐘、こが、ねっ――で、出る……ッ!」

 

 恋鐘の肌だか、粘膜だか、筋肉だか、脂肪だか、とにかく柔らかい圧迫感によって、俺は射精させられた。

 今までシたどんな射精よりも――精通よりも、夢精よりも――快楽と無力感に満ち満ちた射精だった。

 

「うっ――はぁあ……っ、なるほど……イカ臭いって、こういう……? んふふ~。

 こいは、悪くなったイカさんやね~? 勉強させてもらったばい! あんがとね、プロデューサー♥」

 

 精液がイカ臭い、というのはアンモニアのせいらしい。

 イカは長時間輸送されるなどしてストレスを感じるとアンモニアを発散させ、それが風味を損なうのだそうな。

 その知見が、いつか恋鐘の役に立つ日が来るというのだろうか。

 その日が来るなら、俺はその日より前に死んでおきたい。

 

「んんーっ、べっとべとにされて、うちも、すっかりすけべたい……♥」

 

 気がつくと、恋鐘は俺と向き合って俺の腰にまたがる体勢に戻っていた。

 何やら例の大きなバストを手で抱えて、ムニュムニュ揺らしたり、ずらしたり……。

 俺はその手の動きが、胸に飛び散った精液を拭おうとするものと思っていた。

 

 

※18

 

 しかし、恋鐘は精液が手についても「くさい、くさぁい♥」とつぶやきながら、

 そのまま胸を揉んだり、首をあっちこっち捻じ曲げたり、肩を傾けたり……。

 

「うーん、胸が大きいと、こんな不便もあるんね、知らんとー……」

 

 恋鐘は何をしようとしているんだろう。

 

「ナニって……プロデューサー。もう終わりと思っちゃ……おらんよ、ねぇ?」

 

 俺の視線を読み取ったか、恋鐘は精液よりもべとついた眼差しで俺を絡め取り、

 意味ありげに自分の――先走りでネトネトになっている――下腹部を撫で擦った。

 

「ほら、おちんぽさんは、まだまだ余裕ーって、言うてくれとーよー♥」

 

 俺のペニスは、俺の意志に反して勃起を続けている。

 

「……待て。恋鐘……待ってくれ、頼む」

「うん。うちも、ちょっと待ってほしいんよ。胸で視界が狭くって、おまんことおちんぽさんが見えにくーて」

「違う、そうじゃない――せ、せめてゴムを」

「おやおや~、最初はキスもダメって言ったおクチが、今は、着けときゃえっちもよかよかーって言うん?

 んふふ~、おかしか~♪ ばぁり、おかしか~♪」

 

 からから、けたけたと軽い声を立てたあと、恋鐘はバストを両手で抱えてぷるぷると揺らす。

 

「長崎は坂の街で有名ね。でも、佐世保にも坂があるんよ」

 

 それは知っている。

 佐世保は、恋鐘の家があるこの港のほうだけじゃなく、山のほうも行ったことがある。

 恋鐘と一緒に。そのせいでこの有様なんだが。

 

「佐世保には3つの坂があるねー」

 

 3つ? もっと、あったはずでは……。

 

「まずは、上り坂」

 

 恋鐘は、アンダーバストから乳頭に向かって、自分の指でバストを撫で上げる。

 

「次に、下り坂」

 

 乳頭をくすぐった指が、するすると鎖骨を目指して降りていく。

 

「最後は」

 

 恋鐘は腰を浮かせて、膣口で俺の鈴口を、亀頭を、それからカリ首も捉え、

 

「ま・さ・か……たいっ♥」

 

 どうやら、恋鐘の闇鍋に何かを放り込んだ人間のなかに、

 アンティーカの面々よりも、だいぶお年を召した方がおられたようだった。

 

 

※19

 

「んぁあ゛ぅうっ――や、ぁあッ! へ、へんなこえ、でちゃ――!

 ひっ、えぁ――きゃぁ――んんんんぅっ♥ お、おく、あたってぅっ……!」

 

 ナカはキツキツ。温度はちょっと温かいお風呂ぐらいで心地いいが、とにかくキツい。

 余裕がない。素股のときに見せてくれた柔軟性が嘘のようだ。

 

「はあっ、はぁあぁっ、あっ♥ ふ、んふっ、んふふーっ……♥

 おおきかよー、でも、ぴったり入ったばい、プロデューサーの……♪」

 

 眩暈がする。

 ぐちぐちぱんぱんとやかましい結合部、どたぷんどたぷんと視界を貪欲に占領しようとする恋鐘の胸、

 それらから目線を上げて、恋鐘を見つめ返してやるだけで、信じられないぐらい気力が薄まる。

 

「ぁ――あっ、あっ、あっあぁっ……♥ く、くぅ、なにか、来るの、だ、めぇっ!

 やだやだ、やだぁあっ♥ おちんぽさぁんやぁっ♥ こんなん、だめなんっ、

 かってに、ナカ、ぎゅうって♥ とまら、な――あっ……♥」

 

 恋鐘は、自分で『ダメ』と言われると燃えるとか言ってたが、

 自分の口からも『いや』とか『ダメ』とか言う。

 俺の意識はさらに霞む。血圧、落ちてるのか?

 脳ミソか心臓に流れるはずの血液が、たぶんペニスに持っていかれている。

 ペニスも恋鐘の膣内で溶かされてる。

 

「……がね、こが、ね……」

 

 虫の息。

 名前を呼んでやるのも、ままならない。

 

「ひ、あ――へぅうぅ……きゅうきゅうすーの、くるっ……♥

 あ、あ、あっ♥ んぅぅ、ぉ、おぁあぉっ♥ だ、め、ぇ――ぐッ、ふっ♥ あぅっ♥ ふぅううーっ♥」

 

 ずりゅっ、ぷぢゅっ! ぬぷっ、ぱぢゅん――視界が、おちる――ばぷっぷぽっぬり゙ゅ♥

 ぱんっ、ぱんっぱんっ、ぎし、ぎしっ、ぎゅうう――っ♥

 

「ふぎゅ、きゅうっ――うぁあっ! うっ、あうっうっ、ふぶっ、んぅうゔッ♥

 んひぃ、うぐ――おっ♥ ぉくっ、そこ、うち、あ、あっ――おくおくお゙ぐぅ……っ♥

 こんなん、がまん、なんて、む、りぃ――ぁ、また、うごっ……お゙っ!

 ぉおっ、はぁぅう♥ ほぅうっ、うっ、んっぐ、いィいぃっ……!」

 

――ぱぢゅっばちゅ――ちゅっば……ちゅっぱんぱんぱ――ぱんっぱんっ――♥

――ずりゅっ、ずりゅり――ぎしきしっ……ぎゅうっ――きゅううっ――♥

 

「はぁあぁっ♥ はぁっ♥ はぁっ――う、うちの、だいじ、とこ――はぁぅうぁああっ♥

 ひてっ、シてぇ、もっと、ぉおお゛っ♥ あああっ゛ん――ッ♥ ンんっんうう゛っ♥

 い、く――ま、あ、――とま、ら――ちょ……っとぉ、イっ……たぁ……ぁ、ア、あ、ぁあぁあ……♥」

 

――ぱぢゅっ……――ちゅ……ちちゅっぱん……――ぱんっぱんっ……

――ずりゅっ……りゅ――ぎし、きしっ……ぎゅ――……きゅううっ……

 

 

 

※20

 

「はぁ……ぁぅう……あ、あぅう……っ♥」

 

 あたたかい。

 やわらかい。

 くすぐったい。

 

「ぁあ……ぷろ……さーぁ……♥」

 

 目が開けられるようになった。部屋は暗いままだった。

 温かいのも柔らかいのもくすぐったいのも、恋鐘のせいだとわかった。

 

 ペニスはじくじくと甘くしびれていた。

 俺と恋鐘の肌やら粘膜は、汗だかヨダレだか精液だか愛液だかでぐちょぐちょになっていた。

 

 いまはまだシラフになりきっていないので、これでも心持ちも悪くない……が。

 

「朝これで目覚めたら、百年の恋も冷めるわ」

 

 折よく、睡魔が遠のいている。なにか恋鐘の汚れを拭ってやるものはないだろうか。

 目をしょぼつかせながらあたりを見回す。

 開きっぱなしの襖の横に、畳んだタオルらしきものが置いてあった。

 

 恋鐘を起こさないよう慎重にカラダを離し、まだ力の戻らない足腰でいざって、そばへ。

 

 ハンドタオルが、端を内側に隠すように畳まれて2枚重なっている。

 白くて深いお盆? 容器? 触ってみるとプラスチック――おそらく、洗面器だろう。

 

 それから、長径が洗面器と同じぐらいの楕円形の布袋……かと思ったら、

 触ってみると、中はオレンジ色のプラスチック容器。生暖かい。なんかちゃぷちゃぷ音が……液体?

 よく見ると白い蓋がついている。ああ、湯たんぽか。夏なのに。

 

 おそらく、これで濡れタオルこしらえて後始末するつもりで恋鐘が用意したんだろう。

 

「そこまで気を利かせて、襖は締め忘れるんだ。図ったようなドジ踏んで……」

 

 ぼやきながら、洗面器にぬるま湯――恋鐘の体温よりぬるかった――を注いで、

 ハンドタオルを浸して、ギリギリギリっと絞る。

 握力が戻っていなくて、何度か深呼吸して力を込めないと絞りきれなかった。

 

 

※21

 

「ん……ふ……ぅ、ふふ……♥」

 

 寝息を立てる恋鐘の肌を拭ってやる。寝顔は菩薩のように穏やかだ。

 バストとヒップは寝転んでてもしっかり膨らんでいるが、首や手足や肩やウエストを拭いていると、

 華奢なカラダだと思った。自分がこの女に馬乗りにされて好き放題されたのが信じられないぐらいだ。

 たぶん恋鐘に意識が無いから、こんなに無力で無防備に見えるんだろう。目覚めたら、また……

 

「なんで俺、夜這いかけてきた女の後始末をしてやってるんだろ」

 

 恋鐘は外面も内面もいい女だと思う。今だってそう口に出して言える。

 プロデューサーと担当アイドルという間柄でなかったら、俺は口説くチャンスを虎視眈々と狙ってただろう。

 それが叶わなくても夜のおかずにするぐらいはしただろう。

 

 プロデューサーと担当アイドルって間柄じゃなければ。

 そのお題目もさっき恋鐘に粉々にされた。

 

 もう、いいか。

 しょせん俺も、一度はままよ二度はよし……って性根の輩だったんだ。

 浮気しないよう気をつけないとな。

 

「ん、んんぅうぅ……こちょばいかよ~……」

 

 ……待て。『浮気』ってなんだ。

 俺の思考回路が恋鐘の『良か人』のものに書き換えられてる。いつの間にか。

 

「んふ、ふ、ふぇ、えへ、へぅうぅ……う――んんっ? ぷ、プロデューサーっ!?」

「おはよう。という時間でもないが」

 

 枕元の腕時計を見たら、文字盤の長針と短針が3と4の間で重なっていた。

 

「……あがんヨロヨロやったんに、プロデューサーのが先ん目を覚ますなんて……。

 計画がくるったばい……って、もしかして、ヨロヨロだったんは演技!?」

「違う。たぶん、いつもより早く布団に入ったから、いつもより早く目覚めてしまったんだ」

 

 恋鐘を抱き起こして背中を拭いてやると、恋鐘がぽろぽろ涙をこぼしはじめた。

 

「や、ぁ……み、みない、で……」

 

 そういえば、演技以外で恋鐘が泣くのを見るのは、はじめてだった。

 恋鐘は泣き顔を見られたくないらしく、俺の胸元へ顔を押し付けて隠す。

 

「俺、まだ拭いてないから汚いぞ」

「ズル……ズルかよ、プロデューサー……っ!」

 

 恋鐘は『おちんぽさん』を『おまんこ』に咥えこんで腰を振る姿を俺に見せつけた割に、

 泣き顔は断固として俺の目から隠す。

 

「んっ……んふふ……ズルかぁ、ズルかよー……♪ んふふ、ぇへ、えへ……えへへ……♪」

 

 そうと思ったら、今度は……泣いたりののしったり笑ったり、忙しいもんだ。

 

「んふふー、ぇへ、えへ……えへへ……♪」

 

 窓の外が白むまで、恋鐘は忙しくしていた。

 

 

 

※22

 

 月岡家から空港へ出発するとき、恋鐘の父親が、

 

――せからしか娘ですが、何卒、よろしゅう……。

 

 とささやいてきた。

 

 

 

 帰京の機内で、恋鐘に『せからし』の意味を聞いてみた。

 

「せからし……んーとね、まぁ……すごくうるさい、ぐらいの意味ねー」

 

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