「...ところで中西さんって彼氏いるんですか?」
中西理沙がファミレスで学生4人組に出会ってから一週間くらいしてからのことだった。中西理沙は、あの日のことが忘れられず、思い切って高瀬さやかにメッセージを送ったことがきっかけとなり、二人でしばらくメッセージのやり取りが続いた後、そういうことならとファミレスでのメンバー全員でドラマについてのコアな会話を楽しむグループを作ることになった。そして、中西理沙がある程度打ち解けてきたある日、先の質問が投稿された。投稿主は三木朱梨だった。
「うん、いるよ。」
「ああ、そんな感じしてました、中西さんって話をしていても楽しいですし、それに綺麗ですし。」
「あー、やっぱり。だと思ってましたー、中西さんてきっとモテるなって。」
同性、しかも年下の二人から綺麗とかかわいいとか言われるのは、中西理沙にとってあまり経験のないことではあった、勿論悪い気はしない。
「えーっ、残念。もしフリーだったら彼氏エントリーしようと思ってたのに。」
すかさず小泉が冗談交じりの投稿をする。小泉にとっては本気半分の投稿だったが、彼の普段の言動からその他のメンバーは場を盛り上げるための冗談だと受け取った。
木村は沈黙を守った、というより気の利いた返しを思いつかなかった。このような場面では、何を言っても問題はないのだが、特に発言したいこともなく、何かを発言しなくても問題にはならない状況であれば、何も発言しなくても良い、木村はそう考えていた。
中西理沙の恋愛事情についてはこれ以上誰も深入りはせず、また、中西理沙も惚気話をする気もなく、すぐに放映直後のドラマに話題が移った。
それから半日ほど経って、小泉は、ある飲み会の席で大場が自分の好みの女性の外見的特徴について話していたことを思い出していた。そして、中西理沙はその特徴を程よく満たしているように思えた。大葉の本命彼女はおそらくC大、中西理沙もC大、単なる偶然に過ぎない可能性は高い。そんな事を考えていたとき、たまたまそのタイミングで後輩からの電話があったこともあり、そのまま中西理沙の件は忘れてしまった。
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「理沙~、最近楽しそうに見えるけど何かあったのか?」
大場は、自分の部屋でシチューを作っている中西理沙に話しかけた。この日は、二人は大場の部屋で過ごす約束になっていた。今晩一緒に見るドラマの録画チェックのために大場は録画機器の操作をしている。一人で見る時は配信で済ませる大場だが、どういうわけか中西理沙が録画にこだわるので、彼女が部屋に来るときのために彼女の好きなドラマはわざわざ予約録画をしている。
「あ、バレた? 実は最近友達ができて。ファミレスで偶然知り合った人たちなんだけど話をしていて凄く楽しいっていうか...うん、とにかく楽しいんだよ。」
予約録画したドラマがちゃんと録れていることを確認しながら大場が答える。
「何だ? 結局楽しいってことしか分からないけど、まあいいや。」
中西理沙は、シチューを盛り付けたり忙しそうに動き回っている。大場の問いに対して話したいことはたくさんあるが、今は言いたいことを整理したり言葉を探している余裕はない。
「うん、説明が難しいんだけど、昔憧れていたような会話ができる友達っていうか...」
「いいって、理沙が楽しいなら...」
食事の準備を整えた中西理沙が、録画の確認の後なんとなくニュースを見ている大場に声をかけた。大場は、テーブルに向かいながら先程の話題を続けた。
「で、一応聞くけどそれって男だったりする?」
「うん、男子二人と女子二人。そのうち一組の男女は付き合ってるみたい。なんかさー、その二人が最近付き合い始めたみたいでなんだか初々しいんだよね。」
「あー、そういう感じか。同じ大学の人?」
「他の大学...詳しくは知らないけどA大とかS大とか言ってたら全員が同じ大学ってわけでもないみたい。バイト仲間だって言っていたけど。」
「バイト仲間なら仲良くなって一緒に飯食ったり飲んだりすることはあるよ。俺もたまにそういうのあるし。」
「学もそうなんだ。私はバイト先でそこまで仲の良い友達ってできたことないんだよね。」
「いいじゃん、別に。バイトから帰れば俺がいるし。」
「でも学はバイト先にそういう友達いるんでしょ? なんかズルい。」
「それにしても、その人達とどうやって仲良くなったんだ? その人達のテーブルに突撃したとか?」
「あはは、まあそんな感じ。」
マジかよ、冗談で言ったつもりの問いを肯定された大場は驚きを隠そうともしなかった。
「えっ?! それって相手の人達に引かれなかった?」
「あー、最初は凄く驚いていたようだったけど...」
中西理沙は、その時の大まかな経緯について大場に話した。中西理沙が、ドラマについて小難しい話をするといったことに憧れを抱いていたことに意外性を感じた大場だったが、それ以上何か思うこともなかった。
中西理沙との夕食を終え、彼女と体を寄せ合うようにドラマを見始めた大場だが、そこで異変を感じた。大場の求めに対して、中西理沙が拒絶したのである。
「ごめん、ちょっとこのドラマは本気で視たいから...」
(本気って...)
そう思いながらも、少しずつ攻めていけば体が求めてくるはず、そんな事を考えながら大場は中西理沙に体を寄せてスキンシップを試みる。一方、大場の真意を理解しながらも中西理沙の意識はドラマの考察で手一杯でいちいち大場の行動をたしなめることはなく、それを大場は同意のサインとみなしていた。
「ちょっとぉ! 今はドラマに集中したいから本当にやめて!」
大場の手が中西理沙の敏感な部分に触れた瞬間のことだった、彼女から再び、それも本気の拒絶の言葉を浴びせられることで、大場は戸惑いを覚え始めていた。
(理沙のやつ、どうしたんだ?)
いつもの中西理沙は、眼の前の映像によらず大場との行為に積極的で、映画やドラマの内容については半分も覚えていない、というより見ていないくらいだった。新しくできた友達の影響にしても、この変貌ぶりは異常だと大場には思えた。そして、中西理沙が自分との時間よりもドラマ視聴を優先しているかのような態度に苛立ちを覚え、結果としてそれが大場のスイッチを入れることになった。
(墜としてやる...)
画面に食い入るようにドラマを見ている中西理沙に対し、大場は決定的な拒絶を招かないギリギリの接触を根気よく続けた。中西理沙にしてみれば、今はドラマの考察に集中したいので、大場の刺激に一々反応してはいられない。それを逆手に取った大場は、小さな刺激を重ねることで中西理沙の体の状態を作り上げることにした。もとより、中西理沙の体について大場以上に知るものはいない、次第に彼女の呼吸が早まり顔が赤らんでくるのを大場は感じ取っていた。
(チョロい...)
仕上げ、とばかり大場は中西理沙の股間に手を伸ばし、下着の下に指を忍ばせた。
「ンはぁっ...」
クチュっという手応えとともに中西理沙の口から息が漏れる。先程は拒絶されたが今度は大丈夫。考察だなんだと言いながらも、中西理沙のあそこは既に受け入れの準備が整っていた、大場はびしょびしょになった自分の指を中西理沙の眼の前に持ってきながら意地の悪い笑みを浮かべた。ここまでくれば、もうこっちのものだ。
「やめてっ、今はドラマの考察がっ...」
そう言いながらも先のような抵抗は既になく、そのまま大場のペースに流されるまま肉欲の沼に溺れた。大場は大場で、中西理沙を始めて寝取ったときに似た興奮に満たされていた。結局、その晩はそのまま行為を重ね、いつになく衰え知らずな大場によって中西理沙は何度も絶頂を迎えた。
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大場が朝起きると、いつもは隣にいるはずの中西理沙がいないことに気づいた。起床時は、はち切れんばかりのあそこを鎮めるために横で寝ている中西理沙の体を使うことが大場の常だっただけに、大場はやや意外な面持ちで部屋を見回した。
「おーい、理沙ぁ」
そう呼びかけるも応えを得られないまま更に周囲を見渡すと、テレビ画面の前でリモコン片手に画面にかじりついている中西理沙を見つけた。どうやら昨日見るはずだったドラマを見ているようではあったが、途中、何度も画面を停止、再生を繰り返しながら再生していた。後で聞いた話だと、賞味45分のドラマをたっぷり1時間半かけて見ていたようだ。
「はぁ~ぁ、楽しかった。あ、おはよう。」
そう言った直後、再び難しい表情に戻った中西理沙の顔を見て、大場の中に昨晩の苛立ちが再度沸き起こった。
「理沙~、せっかくのドラマなのに全然楽しそうじゃないし、どうしちゃったんだよ?」
「んー、そんなことないよ。すっごい楽しかったよ。でも、色々考えることができちゃって...それでそう見えなかったかも。あのね、このドラマの登場人物の名前って...」
その後、中西理沙は10分くらいにわたってこのドラマについて、自説と他説を織り交ぜながら考察を披露したが、大場はその内容についてよりも何が彼女を変えてしまったのかが気になっていた。
「なあ理沙。理沙がこうなっちゃったのって、やっぱり新しい友達の影響なのか?」
「えっ? こう...って、私は昔からこうだよ、っていうかこういう会話ができる仲間が欲しかったんだ。学はそういうの嫌?」
「嫌っていうか、俺はいつものノリの良い理沙のほうが好きだなって。」
こんなの朝からする会話じゃない、そう思いながら大場は曖昧な返事をする。
「ああ、それは分かる。ああいうノリって楽しいし楽だよね。大学の友達とかそういうノリで話をするのも好きだけど、でもそれだけじゃちょっとつまらないっていうか...」
そのまま中西理沙の話は、友達に関する持論から今の女友達達への愚痴へと移行していったが、それを聞いていた大場は困惑していた。大場自身マンガやアニメやゲームは好きだから、中西理沙にオタク仲間ができたところで特に否定的になる理由はないし、そもそも彼女の趣味に口を出すつもりもない。だが、中西理沙の語るオタク仲間像は、大場にとってなんとも言えない空気感、ある特定のタイプの人間が持つ気配というか匂いというか、そんなものが感じられた。
(菊池君がそんなタイプだったか...)
不意に菊池の顔が大場の脳裏をよぎった。大場は、菊池やそういうタイプの人間が嫌い、ということはなかったが、中西理沙がそうなってしまうのには抵抗があった。外で遊ぶ友人にそういうタイプがいても気にしないが、その友人を交えて食事をしたいとは思わない、これが大場の感覚である。
(ああ、なるほど...)
菊池のことを思い出した次の瞬間、大場は以前から気になっていた疑問、すなわち中西理沙が何故菊池と付き合っていたのかという問いに対して納得の行く回答が得られた気がした。簡単なことだ、中西理沙は意外にも菊池に近い人種だったのだ。
(だが...)
自分はそういう人種ではない、大場がそう思ったとき、今度は彼らしくない別の疑問が湧き上がってきた。中西理沙が大場と付き合っているその理由だ。中西理沙は大場が菊池から寝取った女だ、だから最初のきっかけはセックスだった。しかし、彼女が大場と付き合い続けているのは、それだけでなく他の理由であって欲しい、大場はそう思った。そうでなければ、中西理沙にとって自分は体だけの関係の男、そうなるではないか。
「...ねぇ、学! 話聞いてる?」
「あっ、おっ、おうっ」
大場は、中西理沙の問いにふと我に返った。眼の前には中西理沙の驚いたような表情があった。
「もう、何か黙って話を聞いてくれてるのかと思ってたら、だんだん怖い顔になってきたからびっくりしたよ。どうしたの?」
「そんなに怖い顔だったか...。」
不意に無自覚を指摘されて驚いた大場は、先の疑問を思わず口にしそうになった。だが、聞いてどうする?、大場はそう思い直し、中西理沙への質問を飲み込んだ。