「小泉さん...」
名前を呼ばれて小泉が振り返ると、そこには三木朱梨が立っていた。
「ん、なーに?」
「小泉さんは、大場さんの彼女さんに会ったことありますか?」
「いや、それどころか大場さんに彼女がいるのを知らなかったよ。いそうだとは思っていたけど...」
「そうですか...」
そう言って立ち去ろうとする三木朱梨を、今度は小泉が呼び止める。
「三木さん...」「大場さんの彼女ってどこの誰だか知ってるの?」
「いえ、私も知らないんですが、私の友達が見たっていうので...」
「ほぅ、やはり大場さんの彼女は実在したのか...」
「どういうことなんです? 実在って。」
「ああ、大場さんは自分で『本命の彼女がいる』って話をよくしてるんだけど、俺達の中にはその話を胡散臭いって思っている人がいてね。それで、大場さんの本命彼女は実在するか否かで時々盛り上がるんだよ。本人のいないところで。」
「そういうことだったんですね。でしたら、その問題は『実在する』で間違いないです。私自身の目で見たわけではないですけどね。」
「ところで、その目撃情報だけど、場所と状況について教えてもらえないかな?」
「情報といっても大した内容じゃないですけど、T駅近くの通りを大場さんと彼女が楽しそうに歩いていた、って友達が言ってました。」
「ちなみに、その友達って俺の知ってる人?」
「?? いえ、多分知らないと思います、ここの子じゃありませんし。」
「そっか、ありがと。」
「あの! 小泉さんも大場さんの彼女さんについて調べてるんですか?」
「調べてる、っていうか大場さんの彼女いる、いない疑惑の真相が知りたい、ってスタンスかな。できるだけ大場さんに気づかれないように、ね。」「それと、『も』ってことは三木さんも同じってことでいいんだよね。」
「...はい。」
「じゃ、何か分かったら教えるよ。」
「わ、私の方でも、追加情報があったらお伝えしますね。」
二人は会話を終えるとすぐに仕事に戻った。
(ふむ、T駅の近くで目撃情報ありか...)
小泉は、まず最初の手がかりが得られたことに満足しながらいくつかの可能性について考えていた。
まずT駅近くの通りだが、わざわざ訪れる場所ではないので、大場の家か彼女の家か、彼女の大学の近くだと考えてみた。大場はB大学の学生で、T駅が最寄りではないので可能性からは除外していいだろう。T駅付近に大学はないが、二駅行った所にC大学があるから、もしかすると大場の彼女はC大学生で、T駅は彼女の家の近くと考えられなくもない。
いずれにせよ、情報が少ないので聞き込みは続行だ。
(それにしても、三木さんがなぜ大場さんの本命彼女に興味があるのか?)
小泉としては、こちらの方がより興味を引く。三木朱梨の言う「友人」が高瀬さやかでないのは間違いないだろう、だとすると大学の友達だとして、彼女は大場と同じB大学だからその友達もB大学生。大場が同じ大学の娘に手を出すだろうかという疑問はあるが、とりあえず可能性の一つとして残しておくことにした。
「小泉さん...」
作業の手を止めて、声の方を振り向くと三木朱梨がいた。
「ん? なにか困ったことでもあった?」
彼女の表情から、何かトラブルがあったと感じ取った小泉はこう答えたが、彼女が口にしたのは以外なことだった。
「あのー、木村さんって彼女いるんですか?」
「!!....えっ?」
「その...木村さんって...」
「いや、その、三木さんは、その、木村さん狙いなの?」
「え? いや、そうじゃな...私じゃ、私じゃないんですっ!。」
「あ、あー、なるほど。うん、分かった。木村さんは今フリーだよ。」「友達にもそう伝えてあげるといいよ。」
「はい、そうします。ありがとうございます。」
...
高瀬さやかは、三木朱梨に大場のことを話した日以降メッセージには応じていない。来たメッセージに対して返信しないのはいつもの高瀬さやからしくないが、これは三木朱梨の入れ知恵である。別れ話を切り出しにくいという高瀬さやかの言葉に対して、三木朱梨は
「もう連絡切っちゃったら? 絶対に返事しないし反応もしない。もう部屋にも上げない、っていうか会わない。」
「でもそれって酷くない? やっぱりちゃんと会って話をすべきものなんじゃないの?」
「一般論としてはそうだけどね。でもさやか、大場さんと二人で会って別れ話切り出せる? 大場さん、適当なこと言って関係を継続しようとしたとき、さやかはそれでもNoって言える?」
「うーん...」
「そもそも、お互い同意して真っ当に付き合って、話せば分かる相手だと分かった上でなら、直接会って誠意を見せるべきって話になるよ。」「でも、大場さんはどうだった? 本命の彼女がいる身で、明らかに体目当てでしょ。うぶなさやかを騙すようにして無理やりヤッて、「付き合ってくれ」って言われたのも殆放心状態だったんでしょ? そんなの同意とは言えないって。」「そんな相手に誠意を見せるよりも、さやか、自分の安全をまずは考えなきゃ。」
「でもそれじゃあ...」
「あーもー、どうしてもこちらから誠意を見せたいのなら、メールとかメッセージで別れればいいよ。」「それがこっちからの精一杯の誠意だよ。」
「うーん、分かった。じゃ、とりあえず大場さんからの連絡には返信しないようにして、できるだけ早いタイミングでメッセージで別れる話をするよ。」
「うん、それがいいって。」「そして、大場さんのことは忘れてもっと楽しいことを探せばいいって。」
そんなことになっているとは知らず、大場は高瀬さやかからメッセージが返ってこないことに僅かな違和感を覚えながらも、いつも通り簡単なメッセージを入れて高瀬さやかのアパートに向かっていた。
ところが、実際に高瀬さやかの部屋の前でドアホンを鳴らしてもドアが開く気配がない。窓からは部屋の明かりが漏れているので中に人がいるのは分かる、だが、何度ドアホンを鳴らしても反応がない。
「高瀬、ドアを開けろ! いるのは分かってるんだ。」
ここで初めて、最近メッセージの返事がないことに思い至った。理由は分からないが、俺は高瀬さやかに嫌われた、少なくとも会いたくないと思われている、と。
それでも
(高瀬は、頼みを断ることのできない女だ。ここで粘れば必ずドアを開ける。)
そうたかを括っていた。ところが、ドアホンを数分にわたって何度も鳴らしても高瀬さやかはドアを開けない、ドアの前で大声で呼んでもドアを開けない。
(これ以上ドアの前で騒ぐのは得策じゃない、誰かに通報されて警察沙汰になるのはまずい。)
大場は冷静にその場を立ち去ることに決めた。
(セフレは高瀬だけじゃない...)
大場は、自分にそう言い聞かせながら帰りの電車の中で考えていた。まずは、高瀬さやかの部屋の前にあれ以上長居しなかったのは賢明だった。本命でもない高瀬にしつこくつきまとって表沙汰になれば、当然理沙の知る所になるだろう。そうなったら最悪だ。
次に大場は、高瀬さやかの態度が急変した理由について考えた。
(こないだ高瀬の家でヤッたときは、あんなに気持ち良さげに腰を振っていたのに...)
これまで大場とのセックスの味を知った女は、決まって大場にハマっていった。高瀬さやかもそうだった...はずなのだが。それが、今日になっていきなりメッセージの既読スルーに居留守である。思い当たることは何もない。
(今度バイトで会ったら、真意を聞き出してやる。)
色々と考えてはみたものの結局何の心当たりもなく、実際に高瀬さやか本人に会って聞いてみるしかなかった。
次の日、バイトではシフトが合わず高瀬さやかと会えずじまいだったが、夜になって大場のスマホに高瀬さやかからのメッセージが届いた。
「折角好きだと言ってくださったのに、これ以上今の関係を続けていくことはお互いのためにならないと思うようになりました。大場さんとは、お別れしたく思いメッセージを送りました。ごめんなさい。」「今の彼女さんを大切にしてあげてください。」
(バレていたのか...)
大場は、自分とのセックスに堕ちていく女を眺めることに興奮を覚えていたので、完全に堕ちた女には興味がない。そういう意味では、高瀬さやかもそろそろ用済みだと大場は考えていたが、行為の最中に木村の名前を出すことでもう少し楽しめると思っていた。ところが、大場にとっての賞味期限切れを待たずに、高瀬さやかの方から関係を切られた形になったのである。
(いずれは切るつもりだった。だから、こっちから切る手間が省けたといえばそうなのだが...)
一般的に、「付き合う」関係になった女と揉め事なしに別れるのは難しい。大場にしてもそれは例外ではなく、相手の方から別れてくれるのであれば彼にとってはありがたい展開である。ところが、今回の顛末は、振られたり切られたりという経験のなかった彼の心に、棘が刺さったかのような小さな痛みを残した。
大場には一つ分からないことがあった、
(何故理沙のことが高瀬に知られたんだ?)
高瀬さやかに本命彼女の存在を誰かが教えた可能性について大場は考えてみた。
(一体誰が? バイト先の男子メンバーがそんなことをするメリットはない、木村さん...あの人がそんな事を、ありえない。女子メンバーの誰かが理沙のことを知っていたとすれば、高瀬に話をした可能性は十分ありえる。)
情報の出どころについては女子メンバーだろうと推測したものの、具体的に誰なのかについては心当たりがなかった。そして彼は、女子メンバーから高瀬さやかに中西理沙のことが伝わっていたのであれば、バイト先全員が、高瀬さやかと大場の関係を知っている状況を想定しなければならないことを理解した。
(基本的にこちらから動かなければ問題は起こらないはず。今度バイトに行ったら、高瀬にどうやって理沙のことを知ったのかそれとなく聞いてみるか...)
ところが、その後、どういうわけか高瀬さやかとシフトが合わない。最初は単なる偶然だと思っていたが、その後2週間全くシフトが合わないことから作為的なものを感じるようになった。前日になって急に高瀬さやかとシフトが重なるようずらしてみたが、その後に彼女がシフトをずらしたとかでまたも空振りに終わった。
(高瀬さやかはシフトの入っていない日でも俺のシフト変更を知ることができた。多分、彼女には協力者がいる...)
そう推察したが、高瀬さやかが会いたくないというのであれば無理に会う必要もない。協力者の存在は不気味だが、高瀬さやかに会えないこと自体は問題にならない、大場はそう考えた。
その後、大場の周囲で妙なことあった。バイト先での女子メンバーを含む飲み会に誘われたが、それが2回ほど流れた。後日、再度その飲み会が企画され、それが大場の知らないうちに行われていた。大場がそのことを知ったのは、大場がバイトの同僚に飲み会のことを尋ね、その飲み会が数日前に催されたという話を聞いたときだ。
(なんだよ、俺のいない間に勝手に...)
そう思っては見たものの、まあたまたまそんなタイミングだったのだろうと思うことにした。
その更に後、男子メンバーの飲み会に参加していた大場が
「あー、男ばっかじゃなくて女子呼びてーな。」
と、後輩メンバーに誰か女子メンバーを呼ぶように言っても誰も動こうとしなかったことがあった。大場が、イライラし始めるのを見て小泉が事情を話しだした
「大場さん。ちょっと大場さんには話しにくいことなんですけど...」
「え? なんだよ。」
「こないだの飲み会が2回流れたじゃないですか、あれ、女子メンバーを誘ったときに彼女達が男子の参加メンバーを聞いてきたんですよ。で、参加予定メンバーを伝えたところ、女子メンバー全員がキャンセルしたってことがあって。それが2回も。」「ところが、3度目に企画したときには、女子メンバーがキャンセルしなかったんでそのまま開催となったわけなんですが...」
「それは、俺が知らないうちに終わってたやつだろ?」
「そうです。」「それで、俺らで可能性を考えてみたんですが、ある特定の男子メンバーが参加表明しているとキャンセルするよう女子メンバー間で協定が結ばれているんじゃないか、という仮説を立ててみたんですよ。」
「誰かが女子メンバー全員に嫌われてるってか?」
「そういうことになりますね。」
「なんで?」
「いやぁ、それはまだ分かりません。」「それで、キャンセルされた2回に予定していた参加メンバーリストに名前があって、開催されたときにその名前がなかったメンバーが3人いたんですね。」
「そこに俺の名前もあったってことだな。」「それで、その3人が参加する飲み会には女子が来ないってことか。」
「はい、そうなんですが、俺も気になって調べてみたんですよ。その3人のうち誰なのかって。」
「そしたら?」
「まだ完全に確定じゃないんですが、少なくともその3人のうちの一人は違うことが分かって、あとは二人残っている状態です。」「なんせ、偽の飲み会の企画を立てるってやりかたで調べてるんで、そんなに頻繁に飲み会の企画なんて不自然ですしすぐに答えは...」
「それで、俺はその二人のうちの一人ってことなんだな。」
「そうなんです。それで...申し訳ないんですが、俺の見立てだと大場さんじゃないかと思ってるんですよ。」
「え? 何で俺なんだ?」
「何故大場さんなのかは俺にもわからないんですが、消去法的にどうしてもそうなるっていうか...」「もう一人が木村さんなんですよ。最近木村さん忙しいらしくて飲み会誘っても全然来てくれないから...」
大場が周囲を見回した時、小泉以外のメンバーもどうやら彼と同じ考えのようだった。中には小泉の話に相槌を打つように聞いているやつもいる。
「まあ、中には院生メンバー怖いから、ってのがあるかも知れないんですが、他の院生メンバーに関してはシロなんで、そういう理由で木村さんって線はないと思います。」
「でも、なんで俺なんだ?」
「それは俺にもわかんないっすね。」「それで、逆に大場さんに聞いてみたかったんですけど、何か心当たりないんですか?」
一瞬、大場の頭の中に、高瀬さやかとの顛末が脳裏をよぎったが、それが原因だとすると高瀬さやかだけでなく女子全員に避けられる説明がつかない。
「やっぱり大場が高瀬と付き合い始めたって話じゃないかなぁ。」
大場の同僚の一人がそう言った
「でもなぁ、バイト先の誰かと付き合うなんて普通にあるだろ。別に、俺に限った話じゃないぜ。」
「大場が本命と高瀬と二股かけてるって話なら? 女子はそういうのって敬遠するだろ?。」
「でも、俺、女子には高瀬の話はしてないし、彼女がいるって話もしてないぜ。」
「でもお前、いつもモテ自慢みたいな話ししてんじゃん、女子の前でも。だから彼女がいる、って思われてても仕方ないんじゃないか?」
「あー、そういうのはあるかもな。」「でも高瀬の話は女子にはしてないし、誰か、女子に高瀬のこと喋ったやつがいるのか?」
大場は、折角だから高瀬さやかの件について少し探りを入れてみようと考えた。高瀬さやかが急に離れていったことについてもなにか分かるかも知れない。
「そういえば...」
ここで例の小泉が話の流れを一度切った。
「そもそも大場さんって、本命の彼女っているんスか?」
「え? そりゃいるよ。そう話しただろ?」
「ええ、でも、俺たちに紹介してくれることもないし、それどころか俺たちの中で大場さんの彼女見たことあるって人いなかったんで、本当に彼女いるのかな?って話があるんですよ。」「彼女さんの写真とかないんですか?」
「写真は持ち歩かないよ、そんな事したらセフレにバレんじゃん。」
「えー、本当はいないんじゃないですか、彼女。」「それなら正直にそう言っていれば、今回みたいな誤解を招かずに済んだんじゃないですかね。」
その場にいた2年生メンバーがそう言っては大場に睨まれた。
「じゃあ、大場さんには彼女がいるってことで。いいですね。」
そう言って小泉が周囲を確認するように見回した。特に『大場に彼女がいない説』の信奉者には念入りに目を合わせて。
「なんだよ小泉、なんかちょっと今の変じゃないか? 俺に彼女がいるってだけの話でみんなに確認取るような...」
「ええ、ちょっと白状しちゃうとですね...」
ここで周囲から小泉を制止する声が2, 3挙がったが小泉は気にすることなく話を続けた
「大場さんに彼女がいるって話が嘘くさいってんで、大場さんには彼女なんていないんじゃないか、って説があったんですよ。」「俺は大場さんには本命がいると思ってましたけどね。」
「お前ら...俺の話が嘘だって思ってたのか?」
「いえ、セフレが云々って話は動画付きで細かく話してくれていたのでみんな信じてますけど、その一方で本命彼女の話って写真ですら見せてくれないじゃないですか?」「そこで、ね、妙だなって思う人もいるんですよ。俺もその気持は分かる。」
「あーもー面倒臭い奴らだなー! だったらいいよ、本命彼女いないってことで。」「これでどうだ?」
「だとすると、今は高瀬さんがイチオシのセフレってことでいいですか?」
「高瀬? あいつは...」
ここで、大場がピンときた
「小泉ぃ、お前だったのか、高瀬に何か吹き込んだろ?」
「吹き込む...って、何をですか?」「っていうか、高瀬さんとあれから何かあったんですか?...」
「高瀬に俺の本命彼女のことバラしただろ?」
そういった瞬間、大場は自分が口を滑らせたことに気づいた。が、時既に遅し、小泉に絶好の餌を提供する結果となった
「え? 高瀬さん、大場さんの彼女さんのこと知ってたんですか?」「つか、大場さんやっぱり本命彼女いるんじゃないですか。」
「あー、うっせーなぁ、ああ、いるよ。彼女はいる。いるとかいないとかお前らが騒ぐからウザくなってさっきは『いない』って言ったけどな。」
「で、高瀬さんはそれを知ってたと?」
「高瀬は...」
そう言って大場は一瞬言葉に詰まった。高瀬さやかから別れ話のメッセージがあったことをカミングアウトすることは、大場のプライドが許さなかった。
「高瀬とは別れた、もう美味しいところは全部いただいたって感じだったからな。」
「で、なんで高瀬さんが大場さんの彼女の存在を知ってたんですかぁ?」
「うっせぇなぁ、俺が高瀬を振るときに話したんだよ。本命の彼女がいる、って。」
「わざわざですかぁ?」
「そうだよ!」
一連のやり取りで、小泉は状況をある程度理解した。大場は既に高瀬さやかとは別れており、おそらく高瀬さやかの方から別れ話を切り出したのだろう。そして、その背後には三木朱梨がいる。おそらく、三木朱梨が高瀬さやかから大場との一件について聞き出したのだろう、どうやって聞き出したかまでは見当がつかないが。そして、もしかすると木村との対話が、高瀬さやかが大場から離れるにあたって何らかの作用を及ぼしたのかも知れない。
その上で、小泉は大場に対してお灸を据えるといった大義名分のもと、少しからかってやろうという気になっていた。
「その本命の彼女って、高瀬さんよりも可愛いですか?」
「そりゃ可愛いよ、スタイルもいいし料理も上手い。一緒にいて楽しいんだ。」
「えー、そんな魅力的な彼女がいるのになんで高瀬さんに浮気したんですかぁ?」「やっぱり、美人は三日で飽きるってアレですか?」
「飽きたわけじゃねぇよ。ただ...」
寝取り属性のことをいうわけにもいかない、咄嗟にそう考えた大場は言葉を濁した。
「その、多様性ってやつかな。要するに、彼女とは違うタイプの女を抱きたくなったっていうか、そんな感じだな。」
「やっぱり彼女さんに飽きてたんじゃないですか。彼女さん可愛そう。」
そう言って小泉は、女子の泣き真似をしてみせた。小泉の発言を受けて、他のバイトのメンバーからも高瀬さやかや大場の彼女に対して同情的な発言が出た。
「もう彼女飽きちゃったんなら俺に紹介してくださいよ。確か俺と同学年でしたよね...」
小泉が冗談めいた調子で申し出ると大場は語気を荒らげて言った。
「お前、冗談も大概にしろよ。そんな事するわけねーだろ?」
「ああ、すみません。ちょっと冗談が過ぎましたね。」「でもどこの大学の娘なんですか? A大?、それともB大? あいや、C大かな?...もしかして、まさかS大? だったら俺、学内のどっかで会ってるかも。」
「小泉ぃ! お前いい加減にしろよ、マジで!」
「あはは、すみません、冗談ですよ。」
「ったく...ホント、いい加減にしてくれよ。」
大場は心底疲れた様子だったが、小泉は大場の様子から彼女についてある程度のあたりをつけていた。
(C大...だな? 多分。)
その後も大場を小泉がいじり、周囲がそれに反応するという形が続いた。
「いやぁ、今日は大場さんが全部話題持ってっちゃいましたねぇ。」
小泉がそんな事を言って今日の総括をする。大場も、いじられ役ながら笑いを取れて結構楽しんだ様子だ。小泉は、大場の隙を見て、C大のメンバーに何やら吹き込んでいた。
「大場さんの彼女、多分C大の2年生です。学内にそれらしい人がいたら教えてください。」
「お前、大場さんに彼女いる派だったよな。やっぱり疑ってるのか?」
「いえいえ、いるとは思ってますが、いたらいたでどんな娘か見てみたいじゃないですか。大場さんがそこまで惚れ込む彼女って、多分美人ですよ...」
「そうだなぁ、でもウチ女子たくさんいるから2年生で美人ってだけじゃ探しようがないぜ。」
「ですから、無理に動かなくていいですよ。ただ「らしい」人を見かけたら教えて欲しいってだけですって。」
「そっか、まあそれっぽいの見かけたら連絡するよ。」
「お願いしまぁす。」
小泉は、C大のメンバー数人に対して仕込みを済ませ終え、ひと仕事した顔をしながら考えていた。
(用心深い大場がC大に顔を出すとは思えないが、とりあえず何らかの手がかりが掴めたら木村さんに報告だな。それにしても、こういう情報戦っていうか、裏工作みたいなのって結構楽しい...)(何か分かったら木村さん達に報告、だな。)