「高瀬さん... 高瀬さん...」
「ん? んーっ.... あっ、木村さん。」
「あ、起きた? 俺達あのまま寝ちゃったみたいだね。」
「ああっ、すみません、ずっと上に乗ったままで、苦しくなかったですか?」
そう言って、高瀬さやかは慌てて木村の上から降りた。木村も、体を起こしてテーブルの前に座る。
「ああ、大丈夫大丈夫、高瀬さん軽いから...」
「それにもう朝...帰ってきてそのままだし歯も磨いてないし...髪もこんなでもう恥ずかしいです。」
「それはお互い様だよ。俺、臭くなかった? 大丈夫?」
「いえ、全然、私の方こそ臭くなかったですか...あー、恥ずかしいです。」
「ははは、そういう時の高瀬さんってなんかカワイイな。」
「えー、木村さんってそういう事言う人でしたっけ? お酒の影響がまだ残ってるんですか? お酒は心を変えるって木村さん言ってましたよね。」
「あー、これは心が変わったんじゃなくて、俺の本心が出ただけだよ。それに、今まで高瀬さんのこんなプライベートな表情を見ることは出来なかったからね。」「そういえば、高瀬さんは体調どう? 気持ち悪いとか頭が痛いとかない?」
「ははは、やっぱりお酒の影響残ってそうですね。」「でも、心配してくださってありがとうございます。体調は...なんともないです、いたって普通です。」
「それは良かった、昨日は結構いいペースで飲んでいたので心配していたんだ。多分、高瀬さんは体質的にお酒には強いんだと思う。」
「そう...だといいですね。木村さんの飲みにできるだけ付き合いたいですから。」「ところで木村さんも昨日からそのままなので気持ち悪いんじゃないですか? シャワーでもどうです?」
「それなら高瀬さんが先のほうがいいんじゃないか? 俺は別に気にならないし。」「俺は、自分の部屋に風呂があるわけじゃなくて、毎日風呂に入らなくても別に平気だから。」
「えっ? 木村さんの部屋にはお風呂場がないんですか?」
「ああ、昔からある下宿ってやつで、トイレもシャワーも共同なんだよ。」
「えーっ。それ、ちょっと見てみたいです。今度木村さんのアパートに連れてってくださいよ。」
「いいけど本当に何もないよ。ここみたいにきれいじゃないし。」「それで、高瀬さん先にシャワー浴びてサッパリしてくるといいよ。」
「うーん、じゃあお言葉に甘えてお先に入らせていただきます。」
「自分の家なんだし俺に気を使わなくていいって。じゃ、行ってらっしゃい。」
こんなやり取りがあって二人がシャワーを済ませた後、木村が話を切り出した
「高瀬さん、今日は何か予定入ってる?」
「いえ、今日は何もないですけど、何かあるんですか?」
「うん、折角高瀬さんと仲良くなれたし、どこか行こうかなって。高瀬さんが得意そうなところで、博物館とか。」
「あー、そういうことでしたら建造物めぐりとかしてみたいって思ってました。橋とか建物とか。」「全部は無理でしょうけど...あと...」
「あと?」
「木村さんのアパートも行きたいです。」
「え? 何の準備もしてないし、散らかってるしちょっと...」
「あはは、じゃあ私は外で待ってるので、着替えだけでも済ませちゃってください。同じ服を着てるのイヤですよね。」
「あー、実は全然イヤじゃないけど、まあいいや。いいよ、部屋見せるよ。」
「やった、ありがとうございます。それから...」
「それから?」
「折角お互い好きって分かったので、その...呼び方...高瀬さん、じゃなくてさやか、って呼んでほしいです。」
「えっ!? それはハードル高いなぁ...」
「ダメですか?」
「さやかちゃん、じゃダメ?」
「それでもいいです。それじゃ私も和志さん、で良いですか?」
「なんかその呼ばれ方も恥ずかしいな、でもまあ良いよ。...その、さやかちゃんの好きな呼び方で...」「やっぱり恥ずかしいな...」
「あはは、和志さんのその照れた感じがいいです。」
「和志さんって呼ばれるのも照れるな...」
「慣れてくださいね、和志さん」
「もしかして俺のことからかってる?」
「そんなことありませんよ、本当に。今までこういうのにちょっと憧れあったから...」
「んー、じゃそろそろ出られそう?」
「あっ、すみません、もう少し待っていただけますか?」
「女の人って出かける時色々大変なんだな。子供の頃、なんで出かける準備にこんなに時間がかかるんだ?って思ってたよ。」「まあ、今もだけどな。」
「えー、多分私は相当短いほうだと思いますよ、準備時間。」「はい、おまたせしました。」
「じゃ、行こうか。」
「その前に...んーっ」
高瀬さやかは、目をつぶって口づけを待つ仕草をした
(しょうがないな...)
木村は、半ば仕方ないと諦めつつ残りの半分は新鮮な喜びを持って高瀬さやかを抱きしめ、口づけをした。
お互い顔を見合わせた時の高瀬さやかは、本当に幸せそうな顔をしていた。
....
「へーぇ、男の人の部屋ってこんな感じなんですね。」「あ、でもさすが木村さん、本がたくさんありますね。」
いつの間にか呼び方が「木村さん」に戻っていることを指摘したい木村だったが、彼としては「木村さん」と呼ばれたほうが安心できることもあってあえて指摘しなかった。
「本は読んでも読まなくてもどんどん貯まるからね。」
「男の人って変な本とか隠し持ってるって、木村さんはそういうのないんですか?」
「あったら高瀬さんを連れてこないって...」
「さやか...でお願いします。」
「あはは、まあ部屋中ひっくり返して探すのは勘弁して欲しいかな、片付けるのが面倒だから。」
「その時は一緒に手伝いますよ。」「でも、思ったよりも片付いてると思います。ごみ袋は少し溜まってるみたいですが。」
「ああ、週に2回なんだけど面倒くさくて、週1回くらいしか出さないんだよね。元々ゴミの量が少ないってのもあるけど。」
「トイレとかは? 特に私が来た時とか。」
「え? また来るつもりなの?」
「ダメですか?」
「ダメじゃないけど、さやかちゃんはこういうところはあんまり好きじゃないと思ってたから。」「ホラ、きれいな部屋借りてるし。」
「そうですね、まあ自分が住む部屋はそれなりに揃ったところがいいですけど、だからといってこういう所に来るのが嫌ってことはないですよ。」「でも女子は安全上の問題もあるって言われましたし。」
「あー、それは確かに。」「それに、この下宿の作りは女子が来ることをあまり想定していないかな。」「トイレあんまりきれいじゃないよ。」
「和式とか?」
「いや、流石に今は洋式だよ。3年前に改装したから。」
「あー、それでも3年前なんですね。」「でも良いじゃないですか、昭和って感じで。」
「そうだね、さやかちゃんにそう言ってもらえたのがちょっと意外だけど。まあ古臭い感じだけど俺が住むには十分だし家賃も安いし気に入ってるよ。」
そんな話をしながら木村が着替えを始めた。何の予告もなしに着替えることに文句を言いながら高瀬さやかは木村に背を向ける。
木村が着替え終わるのを待って、二人は木村の部屋を後にした。
....
二人が地下鉄の駅を降り、地上に出てから10分くらい歩いたところで高瀬さやかが興奮気味に話題を変えた
「木村さん、あれ、あれ。あの橋ですよ。」「ずっと見てみたかったんです、実物。」
「あの橋かぁ、遠目には見たことあったけどこうして近づくのは初めてだな。」
二人、特に高瀬さやかは橋に近づくにつれ興奮度合いが高まってゆく。
「木村さん、凄い凄い、いやホント大きいですよ。遠くで見てると少し儚げな感じに見えましたけど、近くに来ると一つ一つの鉄骨が太くて、本当に建造物って感じがしますね。」
「この橋が儚げに見えていたのか、さやかちゃんの感じ方は面白いな。」
「橋のたもとに公園みたいなのがありますね、あそこいきましょう。」
高瀬さやかは木村の手を握ったかと思うと、今にも走らんばかりの勢いでペースを上げた。不意に手を握られて一瞬木村が怯んだが、高瀬さやかのての感触を確かめる間もなくグイグイ引っ張られる。
公園に着いた時には、二人共息が上がっていた。
「はぁ はぁ さやかちゃん、ちょっと疲れたよ。」
「すみません、橋に近づいたらもっと近づきたくなっちゃって...」
ようやく木村の手を話した高瀬さやかは公園から見える橋を堪能している。橋に近づいたら、高瀬さやかはどんなに雄弁に語ることになるのかと身構えていた木村だったが、意外にも高瀬さやかが無言で橋を眺めていることに少しだけ拍子抜けしていた。
「....遂にここに来ちゃいました....」
そう呟いたかと思うと、高瀬さやかはすぐに木村のそばを離れ、場所を変えながら橋の写真を取り始めていた。ぽつんと一人になった木村は、子供のようにはしゃぎながら橋の撮影をしている高瀬さやかをぼんやりと見ていた
(あーあ、子供みたいに...高瀬さんにもこういう一面があるんだな。)
高瀬さやかの楽しそうな様子を眺めながら、木村は子供を見守る親のような気持ちになっていた。
「木村さん、今度は対岸からこの橋を見ませんか?」
「えー、これ渡るの?」
「いえ、この橋は歩行者は渡れないので、一度駅まで戻って電車に乗って対岸に行くんです。」
「えっ?」
その後、対岸に行くために15分歩いて駅に行き一駅区間乗車後更に20分歩いた。木村は、高瀬さやかのアウトドアな一面を見た気がした。いや、好きなもののためなら労力を厭わない、それはそれで彼女らしい。
(マニアだ...)
「わぁ、こっちから見る景色もいいなぁ...」
木村は、今度は高瀬さやかと一緒に歩きながら、自分なりに気に入ったアングルで橋を、また周囲の景色を撮っていた。そして、気になったことを高瀬さやかに尋ねた。
「ところで、あの橋はなんであんな形になったんだ? 普通に吊り橋にすればいいと思うんだけど。」
「ああ、あれはですね。あのくらいのスパンの橋は確かに斜張橋にすることが多いんですけど、この近くに空港があって、あんまり高い建造物を建てることができないんですよ。」「しかも、橋の下を船が通るんで、道路の高さはある程度以上高くしないといけないって制限があって...」
「結構条件が厳しいんだな...なるほど、橋と言ってもそれぞれ事情があって形が決まるってことか。」
「そう、それが面白いんですよ。いろんな制約があってその中で設計者が形を決めるから、橋はそれぞれ個性的なんですよ。構造とか詳しいことは私もまだこれからなんですけど、ああいう大きい建造物って見てるだけで『凄い』って思えてくるから楽しいですよね。」
「そういう話を聞くと見る目が変わるな。当たり前の話だけど、こうやって作られたものってのは、作った人や、それを最初に考えて設計する人がいるってことだからな。」「そういう人たちの思いを拾っていくのは結構面白いかも知れない。」
「そう言っていただけると一緒に見に来た甲斐がありました。」
「いやいや、こっちこそ良いものと、それからいい話を聞かせてもらって楽しいよ。」
その後、二人は駅の近くのレストランで昼食を取り、午後はビルなどの建築物を見て回った。途中、展望台を兼ねたビルの喫茶店があったので、そこで一休みしたがそれ意外はほぼずっと歩き続けていた。
「木村さん、今日は色々付き合ってくださってありがとうございます。木村さん結構タフですね、私なんかもうクタクタですよ。」
「俺も疲れたよ、高瀬さん体力あるなぁって感心してたところだよ。今日は、色々興味深いことにも出会えたし、何より楽しかった。」
呼び方が「高瀬さん」に戻ってしまっていたが、高瀬さやかの方でも特に気にしていないようだった。
「またこういうの誘っていいですか?」
「勿論、大歓迎だよ。」
「それで、これからどうします?」
「あー、今日は俺が言い出したことだし、高瀬さんの家まで送るよ。」「あと、駅近くの店で一緒に食べない?」「もっと高瀬さんと話がしたくて...」
「あっ、私ももう少しって思ってました、夕食ご一緒します。」
「じゃあ、高瀬さんとこの駅近くの喫茶店とかどうかな?。昨日行きそびれたところ。」
「いいですね、あそこは木村さんに誘われて行った最初の店だから思い入れあるんですよ。」
「そういやそうだった、じゃ決まりだね。」
....
ドアを開けると、店は満席のようだった。
「店、満席みたいだね、ちょっと待とうか? それとも他の店探す?」
「そうですねぇ...」
高瀬さやかが答えようとしたところに声がかかる。
「今、席がご案内できる準備が整いましたので...」
「あ、席空いたみたいですね、今日はラッキーかも。」
「そうだね、絶妙なタイミングだった。」
二人が通された席は、偶然にも以前木村が高瀬さやかを誘ったときの席と同じだった。
「こんな偶然あるんですね、木村さん、覚えてますこの席。」
「ああ、覚えてるよ。俺が最初に高瀬さんを誘った時の席だ。」「ところで、今日は色々面白いところに連れてってくれてありがとう。さすが高瀬さん、面白かったし勉強にもなった。」
「木村さんにそう言っていただけると嬉しいです。いつか行こうと思ってたところだったんですけど、なかなか機会がなくて。」「それに、一人だと心細い感じもあったので、木村さんに来ていただいて本当に良かったです。」
「そう言ってもらえると嬉しいよ。」「ところで、今日行った中で、一番行きたいと思っていたのはどこなの?」
「そうですね、やっぱり最初に行った橋ですね。」「元々、地元にあった大きい橋を見て『凄い』『綺麗』って思ったのが今の道に進む理由だったので、橋には思い入れがあるんですよ。」
「他にはどんな建造物、建造物以外でもいいんで見に行きたいものってあるの?」
「そうですねえ、とにかく大きい建造物は何でも見てみたいですね。」
「ダムとかは?」
「いいですね、ダム。ちょっと車がないと行きにくいんで、今は無理かなって思ってますけど、車が持てるようになったら行ってみたいです。」「って、その前に免許ですね。」
「あーそうか。免許なら俺持ってるから、レンタカー借りれば...」
「え? 良いんですか、そういうのお願いしちゃって。」
遠慮するような口調ながら、高瀬さやかは行く気満々なオーラを出している。
「ああ、いいよ。今度そういうのやってみようか。建造物見に行くドライブ。」
「いいんですか? そんなの、楽しみすぎます。」
「レンタカー借りるのはいいとして、計画立てないとな。まずは、高瀬さんの行きたいところを聞いておきたいな。」
「そうですね、どの辺までなら行けそうかってのもありそうですし。」
「そうだな、一応日帰り出来る圏内でって考えてみるのが良いけど、俺もその辺のことはよく分からないから調べてみるよ。」
「楽しみです、どこにしようかなぁ...」「ところで、木村さんは免許をいつ取ったんですか?」
「学部の3年生の春休みだったかなぁ、合宿で。」
「合宿ですか...合宿のほうが取りやすいものなんでしょうか? 私が免許取る時の参考にしたいので。」
「そうだな、通いだと車なんかの空き時間がないと教習が受けられなくて、次の教習までの間が空くことが結構あるみたい。それだけ免許を取るまでに時間がかかるってことだな。だけど、合宿だとスケジュールが決まってるので、そういう待ちがない分早く取れる。大体3週間くらいだったかな...」
「なるほど、そういう違いがあるんですね。私も車運転してみたいから免許早く欲しいんですよね。」「そういえば、木村さんはマニュアルで取ったんですか? それともオートマ限定ですか?」
「俺はオートマ限定だな。今どきオートマ車が殆どだからな、よほどのマニアでない限りマニュアルは必要ないと思うし。」
「私はマニュアルで取りたいんですよ。昔、家族でドライブに行くときに父親の運転を見ていて、レバーをガチャガチャやるのに凄く憧れてて。あれ、今でもやってみたいんですよ。」
「ははは、高瀬さんらしいや。」
「まあ、それだけといえばそれだけなんですけどね。車が特に好きってわけでもないですし。」「でも、いつか車は欲しいなって思います、好きなところ行きたいですし。学生のうちは無理ですけどね。」
「そうだなあ、大体車を維持するのに金がかかりすぎるんだよな、学生には辛い。」「ところで、行きたいダムとか、ダムに限らずだけど行きたいとことか具体的にあるの?」
「そうですね、あまり関東の地理には詳しくなくて、どこに何があるとかわからないですし、ダムを見るのは好きなんですが、特にこのダムが見たいってのはないので。とにかく大きい建造物が好きってだけですし。」
「ふーん、だとすると、他の行きたいところを作って、ついでにダムがあれば良しって感じでもいいのかな?」
「いや、もう木村さんとドライブってだけで楽しいと思うので、場所はどこでもいいんですけど。折角だから少し調べてみますよ。」
そう言って、高瀬さやかはスマホを取り出して何やら調べ始めた。
「そう言われると嬉しいな、俺も高瀬さんとドライブならどこでも楽しいと思う...そうだな、俺も自分で興味あるところ探してみるよ。」
「今ちょっと調べてみたんですが、これどうですか?」
高瀬さやかが見せたスマホの画面には谷間にかかる橋の写真があった。
「これ、歩行者専用の橋らしいんですけど、日本一の長さなんだそうです。」
「へぇ、そんなのがあるんだ。でも、歩行者専用ってことは不便じゃない? 車が通れないってことは物流とかどうしてるんだろ?」
「そう言われてみればそうですね....ああ、この橋はそういう実用的なものではなさそうです。橋を渡って対岸に行ったらそのまま戻ってくるってものらしいです。」
「えー、そんなのがあるんだ。なんか無駄っぽいけど面白いね、それどこ?」
「えーっと、茨城県みたいですね。」
「茨城かぁ...ああ、結構北の方だね。」「この辺って、ダムはなさそうだけど滝があるね。」
「ああ、私、滝も好きなんですよね。そこ、有名な滝なんですか?」
「袋田の滝っていう有名な滝だよ。日本三名瀑の一つと言われているらしい。」
「袋田の滝ですか、名前は聞いたことがありますね。ところで、三名瀑の他の2つはどの滝なんでしょうね。」
「うーんと、ああ、華厳の滝と那智の滝のようだね。」
「華厳の滝は日光だから行きやすいですけど、那智の滝は遠いですね。」
「流石に日帰りは無理だね。」
「さっきのドライブですけど、日光をメインでどうでしょう?」「滝もありますし、行ってみたくなりました。橋とかダムがあるかは分かりませんが、少し調べれば何かあると思いますし。なくても面白いと思います。」
「ああ、さっきの茨城の橋って竜神大吊橋のことだと思うんだけど、調べてみると今は長さ日本一じゃなくなってるみたいだよ。」
「そうなんですか...新しい橋が出来たんでしょうか? 今はどこの橋が一番なんですか?」
「三島にある橋が最長らしいよ。」
「三島ですかぁ、富士山見えそうですね。」
「見えるんじゃないかな? かなり大きく。」
「うーん、日光も行きたいですが、富士山も捨てがたいですね。悩みます。」
「まあ一回コッキリってわけでもないし、両方行けばいいよ。」
「あは、確かにそうですね。」「でも楽しみです。木村さんはいつ頃空いてそうですか? 私は週末開けられます、事前にわかっていればシフトもずらせますし。」
「そうだな、俺は年末に向けて後になるほど厳しくなると思うんで早めが良いと思ってる。」「いっそ、来週の土曜日とか行ってみようか。俺の運転練習を兼ねて近場で。」
「あ、それ良いですね。でも近場ですか...」
「場所については今週いっぱいで考えればいいよ。」
「そうですね、今週の平日のシフトをできるだけ合わせるようにして、直接相談できるようにすれば...」
「うん、それがいい。」「明日は俺シフトが入ってるから高瀬さんのシフトに合わせるよ。」
「あ、私も明日はシフトなので、一緒に決めましょう。」
二人は食事が終わった後もドライブの話題で盛り上がり、一通り計画の目処がついたタイミングで店を出た。そして、高瀬さやかの家に向かった。
「それじゃ、今日は楽しかったよ。おやすみ」
高瀬さやかの部屋の玄関で木村がそう言うと
「今日は一日付き合ってくれただけでなく、家まで送っていただいてありがとうございます。」
「うん、それじゃ明日。バイト先で...」
そう言って高瀬さやかが抱擁を求める仕草をした。木村は何も言わずに、彼女を抱きしめ、そのまま二人は名残惜しそうに口づけをした。
そのまま別れがたい気持ちが残っていたが、木村はその気持ちを押し留めて高瀬さやかの部屋を後にした。高瀬さやかにしても、もっと木村と一緒の時間を過ごしたかったが、次の日の講義の予定を考えるとそうも言っていられなかった。
双方にそれなりの事情もあり、その晩、木村はそのまま高瀬さやかの部屋を出て、自分の部屋に戻った。