雷夏先生とゆく、緑蜜高等学校ダンジョン部!!! 作:山下敬雄
開いた宝貝は2つ。
宝珠は4つなくなっていた────────。
海中闘技場は崩壊し真っ只中であった貝柱カップは一時中止をよぎなくされ、開戦海鮮街道もすぐには元通りとはいかなかった。
闘技場以外の各エリアで暴れていた脱獄閉間は海扇部隊が既に鎮圧、サンゴ隊長を心配した部下たちが乗り込んでいたミゾレちゃんの
乗っ取られていた黒海の防衛システムのHITORIDEも全て機能停止、自分の殻に鍵をし閉じこもっていた貝間たちが殻を開き、長かった緊急事態の終わりに安堵の息をついた。
悪は去り、闘技場は壊れ、護水内にもうたたかいの雰囲気はない。
荒れ続けていた外海ウロボロシーにやっとの平穏が戻った。
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▼王海 ウツボ姫の謁見の黄金洞▼にて
黒海の閉間たちが脱獄しウロボロシーを襲った事件から1日後。
この日、当事者で共に娯闘海にて鎮圧にあたっていた海都とサンゴはウロボロシーの支配者であるウツボ姫に呼ばれていた。
「どこからともなく白い大船が闘技場にあらわれ黒海に収監していた海賊団を取り逃がしたか。しかし────よもや此度のことで落ち込んではおらぬな、サンゴよ?」
「────はい。オーラや武具や船のこと、海賊の正体がおぼろげに分かりつつあるので。取り逃しはしましたが……得た情報も多いものかと」
「よかろう。さすが海扇部隊の隊長じゃな」
「ええ、しかし……」
「なんじゃ?」
「少しばかり遅かったように思えるのですが」
「何を言い淀んだかとおもえばハッハッハ、ワシはしばらく寝入るとちゃんとおまえに伝え申したであろう。さいわい被害はそれほどではない。結果オーラのオーライというヤツじゃ。ははははは何はともあれ報告によれば皆無事じゃ、わざと泳がせた海賊以外の閉間たちは元通り黒海にぶちこみなおし、いやいや一石二鳥ワシの海の編成もこれ以上ない緊張感で得難い良い訓練になったことじゃろう? あぁそれとさっそく祝勝会の準備もせねばな、健闘したぬしらの? ハハハハハ────」
ウツボ姫はちくりと毒をみせた部下のサンゴの発言をも快活に笑い飛ばし、明るい材料をどんどん並べてまくしたてた。居合わせていた海都は雷夏先生みたいなことを言うウツボ姫を苦笑いしながら置物のように見守るしかなかった。
その後、ウロボロシーを襲った今回の事件に加担していた残りの者たちの処遇が決まった。
キラーラと戦っていたS級閉間のイカジィは黒海へとおとなしくもどり。
ダーククリーナーたちは事件に加担したものの、最終的にはシャル隊長を含め寝返ったその功績と武勇の一部をたたえ、ウツボ姫の強い計らいで絶対服従を条件に団体の解体のみにとどまった。今後、海の編成に再編成し組み込む予定なのだとか。
▼娯闘海 荒れた開戦海鮮街道▼にて
海都は祝勝会をことわり、運よく無事であった自分の店に戻った。そして鯛貝商海の貝長であるエベザリスに許可を取り今日限り無償でのクレープの提供をはじめた。
「結局今回のことって……なんだったんですかね? …ヘイマでしたっけ? それが脱獄しちゃったのまではわかるんすけど……」
いつもより多い一通りの客足をさばいた海都は、落ち着いた時間帯にクレープを焼きながらそんなことを隣のサンゴにやんわりとうかがっていた。
「噂によると…………私たちの棲むウロボロシーは、黒ウツボ様の力を封印するひとつの蓋になっているのです。今回の事件はその蓋が積もっていた鬱憤とともにすこし震えた程度のものでしょう」
「え? クロウツボ……ぉ……? たしか…それってぇ」
「あまり気にしないことです。ここで暮らす貝間たちにも知らない者の方が多いのですから。とにかく悪が悪を扇動した、真相は難しくないそれだけのことでしょう」
「は、はい…」
黒ウツボ、相対していた裏の隊長のシャルからもそのワードを聞いた気がする海都は眉間に皺をよせない頭で考え始めたが……サンゴに言われたとおりに分からないことを邪推することを一旦やめることにした。
この日、彼の店をすすんで手伝っていたサンゴは余計な議題に進むのをやめ、彼に言いそびれていた大事なことを焼き上がったクレープに順番通りトッピングをしながら切り出した。
「それより、伝えそびれていた大事な報告があるのですが。あなたと苺茅さんの今後の処遇についてなのですが、以前におっしゃっていた所属の判明したヤドカリの貝間とのオーラでの通信が────────」
「え? ────────はい? えぇ…まじ…すか!? それは……もちろんッ────────」
海都はサンゴの重要な報告を耳にしたいへん驚きつつも、やがて見開いていた目を輝かせながらふたつの提案のうちのひとつを────おおきく頷き選択した。
▼▼▼
▽▽▽
燦燦の太陽に照らされた熱き海がイマ盛り上がる。
海面に角と顔を出した青い巨体は海坊主でもなく、モンスターでもなく、ミゾレ色の巨大ウミウシ。
ヤドカリのヤドコンちゃんが器用に手持つ合図灯の誘導に従い……
今砂浜へと変わったカタチをした生物船は乗り上げた。
巨大ウミウシは飛行機の翼のように揺らめかせていた鰭を仕舞い、横腹のドアが開く。この地の者でない見知らぬ顔が砂浜へとぞろぞろと降りてきた────
そして──
赤目をギラりと真剣に凝らし見つけた……見知った顔に、激しく靡いた青い髪が飛び込んできた。
「カ、カイト生徒!!! まったくぅどこにいってたんだどこにぃぃいいい夏ちゃんにナイショでええええ」
「痛ててて…!?? せんせ、ぐるじっ……そのまたなんとかみんなに助けられて帰って来れて」
「まぁたそれかあああ!!! このこのこのおおおおお今度こそのダンジョン部顧問夏ちゃん先生の華麗なかっこいいい救出劇のチャンスを台無しにいいいい」
「ちゃ、ちゃんす……!? って……あのほんとにぐるじっ……」
海と砂浜の部室エリアにて、楽天海都は雷夏と久々の再開を果たした。
待ち受けていた先生の痛いぐらいの熱烈なハグに、黒髪をわしゃわしゃと撫でられ、生徒の匂いをホンモノか…深く吸い込むまでのしまつ。
何はともあれ海都はまた元の懐かしのエリア、雷夏先生のもとへと無事に、ウミウシの船に乗って海から海を渡り帰って来れたのであった。
そして時と場同じく、こちらも久々のご対面。
道着を着た赤髪、海風に揺らぐ白いワンピースと水色髪は抱擁はなしに久々のお互いの姿を見つめ合っていた。
「泣くのはもう疲れ飽きたか?」
「うん。もう、──泣かないよ」
「フッ、そうか────」
そんなひとことふたことを、2人の間合いで、剣もなしにお互い穏やかな様子で交わし合った。
そして、ムスイは手持っていた竹皮の包みをゆっくりと近づいた苺茅へと手渡した。
苺茅はしばらくそれで離れたムスイのことを見つめたのちに、その包みの紐をほどいた。
中の綺麗な三角の白は、とても懐かしいそんな形と艶をしていた。苺茅はおもむろにそのひとつに手を伸ばし────
「スゥちゃんの味…………でもちょっと…いつもより…しょっぱいかも…」
しょっぱいのは流す涙か、頬張る米粒か、わからなくなるぐらいに。
苺茅は離れている間もずっと欲していた遂簾のにぎったおにぎりを、ぐしゃぐしゃむしゃむしゃと泣きながら、クールに微笑う赤髪に見守られながら、頬張っていた。
《第2.5章 外海ウロボロシー-完-》