雷夏先生とゆく、緑蜜高等学校ダンジョン部!!! 作:山下敬雄
出会いがあれば別れもある。
思いがけない出会いが連なり、繋がる。繋げた本人の思いもよらぬ方向へと事態が進むこともある。
部室ビーチに佇み見合う男がふたり。
紫エプロン姿の若者と、たくさんの部下をもつ小麦色のスーツを纏った大人の男がいる。
大人の男は神妙な顔でもう一度若い彼に確認した。
横柄な態度ではない、とてもしたてに出た丁寧な態度で社長は一介の従業員である彼の意志に変わりはないか、今一度問うた。
「良かったのかね。君の苦労し苦労し焼き重ね改良を重ね考案した……ッ、大事なクレープと顧客貝間のクレープデータを我々が引き継いでも?」
「はい、それで今より美味しくなるなら。ていうのも今回のダンジョンで実感したんす、俺は……クレープ職人としてもまだまだ…なんだって。社長の絶賛されていたメニューのひとつの【食感天国】も実はぁ…参考にさせてもらったキラーラさんのやつほぼそのまんまレシピ通りに使わせてもらってるんで、あはは…。それに自分1人のつくったクレープが1番美味しいなんてそれってきっと思い込みの驕りかなって、これぇ怒らないで聞いてほしいんすけどアッチで不味いクレープ野郎ってけっこう言われてぇ、はは、あそこまで落ち込んでそれでもめげずにっ、美味しくするためにどうすればいいか考えたのも人生ではじめてぐらいのことでぇ。……ハイ。──だから──少しでも俺が考えたクレープがデータが役立つんなら、あっちでも本当に美味しいCGGのクレープがお客様にご提供できれば、それでいいっす! CGGの…母さんのクレープはこれよりもっと美味いはずなんで! これ以上のクレープがきっとありますから!」
「フム……………………ということだ
「承知しました。ではその方針でぬかりなく」
秘書の丸夜麻は社長に会釈し、次に海都の方を見て会釈。
さっそくかき集めた資料データ、海都のウロボロシーでのクレープ開発日誌を手元に、働き動き出した。
「ところで君の母親は……ぁ。最近どうかね? なにか変わりあるかね?」
「えっといつも通りっすね。あ、俺も毎日あたらしいレシピ覚えるのが正直大変っす、あはは」
「ふふ、そうか。────────本当に、そうかね?」
「え、はい?? んとぉ…──本当にっす!」
「「あはははははははっは」」
海都の出張CGGウロボロシー店はCGG社長自ら海都本人への交渉を通して、本社の精鋭クレープ開発チームと精鋭販売員が引き継ぐことになった。
ちなみにカイトママはというと息子の海都の意志を尊重し、開発チームのチーフとして引き継ぐという社長の打診を断った。
丸夜麻秘書は鯛貝笑海エベザリスとの商談を社長に代わり済ませ、その間にも栃木緑蜜市のダンジョンへと特別チームが到着した。先ずは現地調査という名目で、巨大ウミウシ船へと次々と乗り込んでいく従業員たち。そして秘書、社長までを最後に功労者の海都に手を熱く振りながら……海の彼方へと沈んでいった……。
一方──千葉からはるばるやってきたものがいれば、兵庫へとそろそろ帰る者もいる。
「ん、もう帰るのジーナ? ダンジョン部は? まだチュートリアルなのに」
「馬鹿言えこれ以上あのギラつく赤目に付きまとわれる前にお前も帰るんだよ。考えてみろよアレと毎日はちょっと重てぇ。毎日が夏祭りじゃこっちの体力がもたねぇ。それこそワタシは元気なのより夏の終わりの雨の音の方が好きなんだ」
「────ちょっとナニ言ってるかわかんない音楽雑誌ライター」
「お前根に持ってるだろ?」
ダンジョン部顧問雷夏のダンジョン戦闘チュートリアルを既に絡まれ受けていた
三女のサンはこのダンジョンゲームのつづきが少し気になったものの、次女のジーナにいつものように引っ張られて同じく帰りの支度を始めた。
そして長女もまた、あおい道着から白いワンピースへと着替え終えて────
「追い越すまで鍛錬せずに待っててね、スゥちゃん」
「うん、これ以上勇者のレベル上げはいらないよスイレン、うん、面白かったサンおすすめゲームセットあげる」
「あーあ田舎道場に負けたとなったらパパにしばかれるなー。まぁ次は勝つだろうけどな。97.8点でいとけよ? ふたりそろってな」
「フッ、それはできないな」
流水流の三姉妹はそろって見知った赤髪の剣士にしばしの別れを告げた。再戦のにおいを仄めかして……。
そして一方──ダンジョン部の絶対的顧問雷夏はというと。
今日という日は彼女にとってよりどりみどりのスカウト日和。
栃木の地に踏み入ってからずっと目を付けていた興味津々の三姉妹よりも、恐れを知らない彼女は惹きつけられたより恐き存在をスカウトしはじめるという……畏れ多い暴挙に出た。
「わかったわかった、しぃぃいつこいのぉーー。──ふぅ、おぬしがワシに勝てたらその実のない提案も考えてやろう」
「おおぉおお!! 言ったなぁ?」
「馬鹿かおぬしは。夢物語じゃぞ」
「あぁわかってる、竜宮城だろ! この夏ちゃんが亀でもなんでも倒してッすぐに辿り着くさッッ、絶対的に!!」
「ハッハッハ。さっきのワシは半分ほども本気ではなかったがのぉ(リューグージョ? 何を言っておるコイツは。────じゃが、この鋭い青のオーラ……同じように見どころがないわけではないのぉ)」
結局スカウトはウツボ姫の余裕ある対応でかわされ失敗し、だが雷夏のオーラと魂はより一層青く燃えたぎった。
見つめて離さないその青髪赤目の獣女の視線に、ウツボ姫は鋭い牙をみせ笑い、オーラで固めた煙雲に優雅に乗りながら穏やかにゆらめく海の中へと消え入った。
出会いがあれば別れもある。
されど出会い、学び、試し、闘い、笑い、またしばしお別れ……。
これまで以上に強くなった緑蜜高校ダンジョン部はよりダンジョンの未知の深みへと進みゆくのであった──────。