雷夏先生とゆく、緑蜜高等学校ダンジョン部!!! 作:山下敬雄
「沈黙の領主マハルドの身をバラバラにし絶世の美女ガネーシャとその永遠の命をはこび盗んだブルームーン盗賊団は青い月夜に唄いながら夜道を歩む。その後の彼らの行方を知る者はいない……」
「なぞ、デジャヴる」
「なはは、デジャヴってるぅ~~」
灰髪と銀髪が立ち読みしながら、並んでいる。
本棚の掃除をするかわりに好きに立ち読みする許可を老店主からもらったのだ。
休日をともにする牛頭梢と小谷螺夢はまた盗賊団のストーリーを追いながら、隣町の古本屋で見つけたいくつかの気に入った本を互いにプレゼントしあった。
巨大ウミウシの船から降りると、そこは青い海の中。
CGG社員たちは教え上手なピンク髪のインストラクターの指示に従う。水中での呼吸法を学ばない限り異国のクレープ調査への道は開かれないのだ。
そして社長も秘書もまたCGGの従業員である海都が開いた新たなクレープ道のために、この特殊環境に慣れようとしていた。
「ごぽごぽごぽ……まるやまくん……オーラというヤツを私も感じられてきごぽごぽごぽ…ようだ」
「はい流石ですCGGごぽごぽごぽ……」
「「ごぽぽごぽぽごぽぽぽぽぽ」」
空気のある部屋から外の海へと、何度も繰り返しては人間たちは上達していく。
呼吸法を教えていた貝間のサンゴはふとこの間のことを思い出し、微笑った。
「これは鍛錬になるな」
「なるほどこれはカイト生徒のオーラがぐんぐんパワーアップしたのもわかるな」
「盲点だった。海の中が闘いの舞台とはナ!!」
「あぁ、竜宮城もだーーんじょんっ!!」
「あのふたり何やってんの…海の中でありえないんだけど…はぁ…」
「つ、月山さんも…(もうふつうに喋ってる…俺より、早い……)」
雷夏とムスイはさっそく海都が持ち帰ったあらたな鍛錬法を嬉々として取り込んだ。いつもと違うこの海中での鍛錬法はダンジョン部の者たちの奥底に眠っていたオーラを引き出し、また自身の強化へと繋がるのであった。
打ち込み、鍛錬を重ね、危機を乗り越え、思わぬ出会いから更なる学びを得て……
こうして迎えた緑蜜高等学校の三学期────。
「何やらいい傾向のようですね。勉学も体育の成績も文武両道、ただしい精神で臨めている証拠です」
(ダンジョン部……ここ1年足らずで予想以上の成長スピード。今まではしれっと彼らに教える立場でしたが、これはロートルの私はこの調子だと……そのうち戦力外になりそうなのでは? ふふふふ。やはりクラブ活動において頭角を表してきたダイヤの原石たちの輝きに負けないと!羨望するハートだけではなく、スペードをじょっ、じょっ……さて、聖タクにも彼の話していた海中都市の宝をめぐる攻防戦を取り入────)
「あのぉー、岬先生?」
「おっと、そうでした。と、とにかく三学期も業務ノート通りに頼みましたよ。さすればあなたの学生生活も順風満帆にいくはずです」
「はい。三学期も…! 俺、手抜かないっす!」
はじまった三学期も呼ばれた職員室で担任の岬麗先生にご挨拶をしっかりと済ませて、1-D楽天海都は暖房の効いた部屋を一礼とともにあとにした。
廊下を歩くと澄んだ寒空の景色が窓々に移る。
彼はまたいつかのように思いを巡らせながら、その廊下をひとり歩いていく。
(ダンジョンでもうすこし強くなりたい)
(と思っちゃいけないんだろうか。まだまだ先生には歯が立たないし、それでもダンジョンで足を引っ張らないぐらいには……自分のことが自分でできるぐらいには強くなりたいのかもしれない?)
(今まではなんとなくでつづけてたけど……あ、俺も鍛錬ってやつなのかなぁ? ──って俺また迷ってる……?)
雷夏のことやムスイ、シデンレイラ、サンゴのこと、ウツボ姫のこと、それに絶対存在バウのこと。
思えばずっとダンジョンで闘いながら闘い方をその技、そのオーラ、その精神に至るまで教わってきたと彼は思い──気付かぬうちにちいさく笑っていた。
『楽天くん、楽天く~~ん』
「────え、俺?」
前に歩き進む現実景色より、ふくらむ妄想のイメージに耽っていると。
海都は急に女子生徒の集団に声を掛けられ出くわした。
『このクレパって、楽天くんもその日いるの? 今みんなでクリスマスにクレープなんて珍しくて面白そうだから食べに行こうか話しててさぁはは』
「あぁクレパ!?(あぁCGGのビラだ) もちろん! その日は俺もバリバリいるっすよ! あ、もし。メニューで迷ったら俺になんでもきいてくれれば、はい、いっす!! 来てくれるとめっちゃうれしいっす!」
『えぇー、じゃあちょっといってみようかなぁははは』
ビラを手にしていた女子たちは海都も顔を知っている同じ1年生であった。
クレープ屋の息子である海都に気になったビラにも書いてある〝今年のクリスマスは一味かえてクレパで決まり!〟〝クレパ〟なる限定催しのことを直接聞きにきたようだ。
海都も女子たちの問いかけに目を輝かせた様子で返答する。
クラスメイト学友にいたるまで、人口のさほど多くない緑蜜市でクレープ店を営業する彼にとっては大事なお客様であるからだ。熱く返答した彼の様に、女子たちは笑いながら前向きな返事をし手を振り去っていった。
「はぁ?」
そのしっかりと耳元後ろで聞こえた溜息声は海都の出したものではない。
手を振る手を止め、海都が振り返ると────そこにはもっともっと見知った彼女の顔があった。
「おわっ!?? びっく……つ、月山さんどしたんすか??」
「クレパってなにきいてないんだけど?」
「え、クレープパーティーの略っすよ?」
「だから! そういうことじゃないの!」
「ええ?? あー、(たしかここに…)あった! これクーポン券っす」
「くッ……くぅううぽんけんっ……!?」
「あれ?(あんまり嬉しそうには、みえない?) あのー、使えるのは一枚までなんでぇ…二枚は」
「ちょっとおおそういうことでもなぁい!」
「えぇ……ど、どうしたら…」
「お、クレパか。ははは、夏ちゃんコラボのオレチキクレープたのしみだな」
手渡されたクーポン券を握りしめたまま叫ぶ彼女はあまり嬉しそうを表情には見えない。
男子生徒が黒髪をかきだし困った顔をしていると、また誰かが不意に現れた。
青いジャージの体育教師雷夏であった。いきなり現れては月山にはよくわからないワードを唱えるが、海都はいきなりの先生の登場に驚きつつも、笑いながらゆさゆさと頷いた。
「オレチキクレ、え? あぁー、はいはい、はい!! アレたのしみにしててください! 先に試食したんすけど、もうめっちゃ美味いんで! 先生!」
「ちょっとちょっとなにそれも!? え、────コラボ!?」
目を合わせる二人の分かってる…やり取りと視線の間に月山はおもわず声を張り割り込んだ。
「はい! 前の夏ちゃんゼリーが好評だったんで待望の冬の第二弾っす! 今回は生地にオレンジリキュールを使ったちょっと大人な感じなんすけど、あ、それでも全然食べやすいヤツで! 生地も他にプレーンを選ぶこともできますし! はい! さらに中身はオレンジでしっかりソテーしたチキ」
「はぁもぅ……なんか楽天くんって……クレープのことしか興味ないんだね! 髪に雪が積もってもそのままずっと焼いて巻いてれば!!」
「え、いやいやいや! え、────月山さん? どこに? あのー、え?」
語気を強めた月山雨楽楽は急に廊下に音立て走り去っていった。
楽天海都は手を伸ばすも、一度途中で振り返った彼女は、一瞬睨み、また走り出しもう見えない。
やがてやり場のない手を伸ばす男子生徒の肩には、がっしりと青ジャージ袖の手が置かれた。
「ははははは。────三学期もおもしろくなりそうだな」
「……っすね。(雪が積もったら焼いたらだめ? クレープ? え? なななんでぇ……?)」
ながながと笑う先生に肩を組まれ揺らされながら────
ときは12月半ば、ちょっぴり早い緑蜜高校の三学期は知らず窓外に流れ出した粉雪と、遠のいてゆく怒りの足音ともに、始まってゆくのであった────────。