雷夏先生とゆく、緑蜜高等学校ダンジョン部!!! 作:山下敬雄
12月に入り本格的な寒さ対策が必要になった。
チアフルウルフとパワフルウルフはサムライ狩りで集めた資金でオーダーメイドした白と黒のヒーロースーツを纏い。深夜のうめき声と踊るクリーチャーの正体を確かめるべく、森の奥に眠る者たちの棲家へとその足を踏み入れた。
奥へ進むたびに空気が冷たくなってきた。
こう寒いと……
地面から手が咲き、土被りの棺桶は開き、亡者たちはお目覚めのダンス相手を探し始める。
「こう寒いと。ゾンビ映画が見たくなってくるよね姉さん!」
「ハッ、絵本代わりにゾンビものを親にせがんでたのが懐かしいぜ」
「あはは、わかる姉さん。背伸びした気分だよ ネ!」
「あぁ? しばく ゾ!」
「ところでこれヤっちゃう前に友達の弁護士に相談した方がいい?」
「その前にクソ
「ははは、さすが姉さん! てシェフ!?どういう意味なの姉さん!? あはははは」
こんな日はゾン日。既に死んでいる相手には無遠慮なヒーロー活動が捗る。
チアフルウルフはキレのあるハイキックで顎骨を砕き、パワフルウルフは手持ちの斧でふらふら踊り誘う穢れた亡者どもを薙ぎ払っていく────。
そんなバイオレンス&ホラー、ちょっぴりコメディーな内容のビデオを理科室で見させられていたダンジョン部、月山雨楽楽はいつものように疑問とツッコミを入れた。
「でこれなんのB級映画なの…?」
「んやんや、動きはA級だったぞ!」
「た、たしかに。あの、これってぇ…スタントはなしっすかね?」
「ってイマそこじゃないでしょ楽天くん!(たぶんなしでしょ、すごいけど)」
「えぇ!? た、たしかに…(すごい役者さんっすね)」
「この映画のような軽口を話す姉弟は映画ではなくて現実の資料映像だよ。アーメリガ帝国のとあるちいさな村の森の奥にたたずむ墓地の出来事らしいが」
一緒にタブレットの映像を観ていた雷夏と海都は役者のアクションに気をとられていたようだが、本題はそこじゃない。
これは何で何故こんなものを見せられているのか月山は質問し直した。
すると用意されていたように明智マリア博士は淡々と答えた。
「「これが現実? アーメリガ?」」
月山と海都は顔を見合わせて、やがて正面を向き直りふたり同時に首を傾げた。
「既に人知れる事態になっているサ。この魔法の鉄板に載っているネットニュースというやつらしいが」
シデンレイラは慣れないらしいスマホを不器用な手つきでいじりながら、その画面を開く。月山と海都も彼女の白黒マントの後ろにひょこっと顔を出してその記事と激写されたらしき画像を覗き込んだ。
「あぁ、こちらがsnsなどの情報をまとめた統計データだ。各々が納得いくまで好きにみてくれたまえ」
「「3876件……え、こんなに??」」
博士はタブレットを操って新たなデータを提示する。聡明な白衣金髪の示すもっともらしい情報に、生徒の2人も神妙な顔つきになってきた。
「それでなんで仰々しく集めよばれたわけだ? 私はそろそろ海中での負荷をかけた鍛錬をしたいのだが」
腕組み目を閉じる道着姿のムスイはデータなどには目もくれず、納得いくここに皆が呼ばれた理由の提示を要求した。
「疑わしいからさ」
「疑わしいだと?」
「そうこわい顔をしなくてもいい。例えば直近の例で言うと────」
博士が指を鳴らし指をさす、すると立て飾られていた理科室の骨格模型が動き出した。そして堂々と歩き出した骨は前に用意されていた椅子へと座った。
『我ではないぞ。そのような不完全で美しくない腐り果てた死肉をあやつるオルラは』
「んや? じゃあまた別のシーズーとかいうやつらか」
「おそらくシーズーではなくシーズさカミナリナツ」
「フッ言われてみれば、スケルトンではなくアレはゾンビだからな。動きも重鈍で歯ごたえはなさそうに見えたな」
「ってちょとちょとちょっとおお! なんで普通に喋ってるわけ!? だ、だってこれって──」
『我はボーンクイーン、久方ぶりだな小娘ども。フッフッフ』
「ってやっぱりいいいい!! はぁ!? なんなのなんでなの!? はぁ!?」
「ただの玩具だ。恐れるに足らんだろ女子高生」
「わ、わたしは大丈夫だけど!」
「俺は…だだ、大丈夫っすすけどど!!」
「すでに大丈夫じゃなさそうなんだけど!」
骨格標本に宿った喋るそれは、まさかのボーンクイーン。かの夏のダンジョン、ダンジョン部総員で倒した心骨の女王であった。
動く骨と普通に話し始めた大人たちに月山は叫ぶが、大人たちはそのことを知っていたかのように動じずにいた。
そして月山は海都の顔をうかがう。
既に強張ったその表情は見るからになんとか強気のフリをしようとして、できていない顔であった。
『己の意志をもたぬ死肉などいくら操ってもおもしろくはない。出来損ないの操り人形に我の心骨が疼かされることはないのだ、フッフ』
「んや、たしかにイカした連中を従えていたようだが」
「あぁ、まったく手に余りそうなものばかりだったな。名ばかりの骨の女王の破滅は必然だな、フッ」
『フッフッフ、言いよる。我は貴様らに負けたわけではないぞ! ──ン? 貴様らの世界の剣聖はどこにいった』
「あいにく当主代行は貴様なんかに構っている時間などない。貴様はただの剣の糧だ、フッ良かったなカルシウムオンナ」
「フッフッフ相変わらず貴様らは戯言が上手なようだな。そしてやはり我の目に──狂いはないようだな? フフフフフ」
挑発的な赤髪に、相変わらずのギラつく目をした青髪、それだけではなくボーンクイーンの視界に映る以前戦った全ての者がその身に秘めるオーラの質が以前とは別物になっているのを感じ取った。
「その節穴で今頃敗因を探しているのか?」
「ちょっとちょっと! そんなことよりなんでまた倒した敵を呼んだりしてるの!??」
「次に起こりうるこういった不可解な事態にそなえて丁重に保管していたのだよ。ダンジョンは不明なことの方が多い、数少ない手がかりを手放すのはやはりニチア風の言葉で言うと〝もったいない〟からね」
「た、たしかにヒントにはなるかもだけど……」
「ということだ女子高生。なに簡単なことだ。コイツに直接口を割らせればいい。さっさと吐け、時間が惜しい」
おもむろに近づき寄ったムスイは足組み座る骨格標本の喉元へと木剣を向けた。
『フッフッフ相変わらず剣にしか能のない奴らめ。だが────フフフ。我とすこしばかり手を組むというのならばかんが』
そのとき、雷が走り抜けた。
走り抜けた雷は座る骨の腰椎を瞬く間に抜き去り、その手に掴んでいた。
「面接は失敗か。よぉくかんがえなくても、さすがにダンジョン部に骨だけ人間はなしだなァ」
「驚かせてしまったなカイト生徒、事前に言っとくべきだったか? それとこのしゃべる骨の研究は後にまわしてくれマリア。ムゥちゃんもお遊びがすぎるぞ、ははは」
先生っぽいことをしている……
月山と海都はぼーっと顔を見合わせながら、一瞬でしゃべる骨を黙らせた雷夏先生の様に呆気に取られそう思ってしまった。
どさりと生気なく、骨格標本はおじぎをしながら椅子から前へと転げ落ちていく。
悪と手を組むことはない。ダンジョン部顧問として、緑蜜高校の先生として、雷夏は笑いながらこれ以上用のない灼けた骨を机の上に置いた。