雷夏先生とゆく、緑蜜高等学校ダンジョン部!!! 作:山下敬雄
議論が白熱する。
かつてこれほどダンジョン部が敵のオーラの共通概念について推して考えたことはない。
だがここにいる各々は、もはや全員一から説明するレベルのビギナーではない。ダンジョンを知り、オーラを知り、戦ってきた者たちだからこそできる話は長々とつづいていた。
「盛り上がっているようだね。あと、言い忘れていたのだけどここにもうひとつの資料映像があるんだが? なんでも日亜の日常ゾンビものでね、ワタシは最近これにけっこうフフっ……ハマっていてね」
「え、日亜にも?? ゾンビ? それってまた現実って…ことすか?」
「なわけないでしょ楽天くん? って。なにかと思えばてくてくチューブ?(そんなの見るの意外なんだけど)」
「ハマってるのってそのハイシンシャのことすか…? って、え……」
てくてくチューブお蔵入り映像①と書かれたファイルをひらき、海都と月山が受け取ったタブレットに映像は流れる。そして海都はおもわず表情をヘンに歪めた。どこかで見たことがあるようなベージュ、ハーフパンツ、茶髪が────
⬜︎てくてくチューブ チャンネル登録者数4805人
「はいだだだだだだだだだんおねぇーーー!!!」
「ゼェハァゼェハァ……まったりひとり女子キャンプ動画がおもったより伸びずぅ……急遽禁断のきのこ動画に手を出し始めたただの
「というわけでいつも通りやってくわけですけどね。ってここどこだーーーい! も・り・の・な・か────はい」
「はいはいはいはいハイきのこ! そうきのこ! きのこ狩り動画はだぁれがやってもなぞに伸びるってことで今回待望のその第2弾! いやーやっぱりね、このコンテンツ…きのこンテンツのコンテンツ力よ、このかぐわしぃ魔力よ、かぐわ姫。はいはいはいアイ♡前回とってきたきのこ焼いてみただけで2日で5万再生よ! 食材費ただ! いるのは七輪と炭と醤油だけ! 学びもあって、出会いもある! ついでにいうと毒もある! これよこれこれ笑いあり涙ありなぜかワライがとまらん!っててぇい毒じゃねぇよ!幻覚じゃねぇ!ワライタケじゃねぇ!素だよ!元祖スマイル娘のダンおねだよ!つまぁぁりきのこ動画がろうにゃくにゃんッ……最強なわけさね! はい、一同、大地に感謝。(ア、どんぐりみっけラッキーィィ)」
「てへっ★てなわけでね。今回も前回に引き続き栃木きのこ狩り連盟のみなさんと待ち合わせしておりますが。ははーん、これわかったぞー。まーたダンおねに隠れてきのこに擬態しているなー?? はいだだーーーん!!」
「どんぐりころころどーこだ、ダンおねハマってさぁ再生、さんふん見たならもう信者ぁ〜、チャンネル登録しちゃいましょっ! 今切ったやつドイツだぁー? みてんからなー?みてんからなー??通知きてんかんなぁーダンおねのこのぱっちりお目目が
「揺れっ!?はいはいはいアイ♡きたきたきた今回のきのこさんは木のぼりが得意なようですねぇえ?? てことでさっそくぅ……みいぃいいぃーーーーっ!!!」
「ケっ!? コ…………んぎゃーーーー!??」
「ぎゃーーー!!!!! なんじゃらほいのなんじゃこれぇい!!!!! 上から降ってき、ぅおわっぁ!!!? ちょっぶねぇ!!? こらこらァァ! 元気と抜き打ちサプライズはよろしいがこの売り出し中のダンおねの吐信を乗っ取ろぅなんざ…ってありゃ? こ・れ・き・の・こ・の・ま? ヲッ────────」
⬜︎
映像はまだ喚きながらつづく、やがてカメラは転がり地を映し、キッズ層の視聴者には決して見せられない……殴打音がボコスカ鳴り響いていた。
ダンおねがスクリームする前にタブレットに流れた内容は言うと──
最近始めて自身の稼ぎにしていたてくてくチューブの動画撮影のためにきのこ狩りに森へときたハイシンシャ、ダンおね。
自己紹介も程々に栃木きのこ狩り連盟と待ち合わせしていたダンおねはさっそくいつものようにきのこに化けた彼らのことを探すが……。
その動画撮影のオープニングを飾る予定であったかくれんぼの結末は────よじ登っていた大樹から一斉に落ちてくる。正気を失った栃木きのこ狩り連盟の姿、ハイシンシャに襲いかかる彼らの姿であった。
「これってぇ……うらみ……?」
「んや? これはさっきのゾンビと似た動きか」
「みたいだな。しかしこの国にゾンビが出るのは──フッ、馬鹿げた設定ちがいというものだ」
「未発見の死体が森に埋まってたりぃ…」
「無理あるでしょ楽天くん。栃木きのこ狩り連盟とか言ってたし、なんか降ってきたし、しらないけど、なんなのこれ…」
死者の弔い方が違う日亜とアーメリガ。
日亜にゾンビが出ることは説明がつかない。
そして共通する恨み、その設定もあやしく思えてきた。
一同がヒソヒソとダンおねのお蔵入り映像を巻き戻し見ながら話し合い、やがて1人離れて突っ立つオーラに関してはその博識っぷりをみせていたシデンレイラの方を一斉に見た。
「きのこ、どく……きの毒といったところサ」
「「「「…………」」」」
バッチリメイクした白黒毛の得意気な顔も、立てたその人差し指も。彼女ら一同を惹きつけたのは数秒のことであった。
ばさりと波立てたマントはやがてむなしく凪ぎ……。シデンレイラは大人しくその辺の変哲のない丸椅子に腰を下ろした。
「出演料の未払い」
「前回の動画に看過できないやらせがあった?」
「ここに来る前、ある武闘家とのコラボを受けたことはあるがそのときは先にギャラをいくらか貰えたな」
「てかダンおねさん大丈夫なんすか…これ…」
「さぁ…? だけど一旦みんな〝うらみ〟から離れない…?」
「「だな」」
「っすねぇ…」
「じゃぁ設定した共通概念はとりあえず〝きのこ〟だ!」
「余計意味わかんないんだけど……」
「時間の無駄だな。そろそろ鍛錬に行かせてもらう」
〝うらみ〟しかし何度映像を見返してもそこに共通する〝うらみ〟を見つけることはできない。共通しているのはみな操られたゾンビのように人に襲いかかるということだけである。しかも新しく見せられた方の映像は死体などではない、だがその動きはアーメリガの墓地のゾンビ映像と酷似している。
結局この日せっかく集結するもダンジョン部はこの世界に何らかの悪影響を及ぼしていると考えられる…未知の敵の正体をつかむことはできなかった。