雷夏先生とゆく、緑蜜高等学校ダンジョン部!!! 作:山下敬雄
(あの先生が不在だった日、シデン・レイラさんが助けに来なければ俺と月山さんがかなり死にかけた日)
(聞きたかったことがあって、野暮用のことや、あのちょっと強いらしいビームを撃てた白い盾のレアチップの話)
(を聞いたはずが…昔話? を聞かされていた気がする。けっこう、ながいながい……)
(なんとなくは聞かされてはいたけど、今回よりくわしく……先生の中に眠るという古い刀、【
(そんなモノを平然と持って使っている…斬っている。雷夏先生はもっとすごい人な気がしてきた……)
あれからシデン・レイラは結局雷夏の猛追から逃げおおせたらしく。その後時間が余ったので、楽天海都と二人きりになった雷夏先生は生徒からの「夏ちゃん質問タイム」を設けていた。
その特別に設けられた質問タイムでは気前よくなんでも答えてくれるのだと。しかし、途中からかパワーバランスがいつもの雷夏色に逆転し、一方的な自分語りがつづき、今やっとライバルである赤髪の剣士、流水の美剣士ムスイをけちょんけちょんに怒涛の91連勝でやっつけたという……ひとつのエピソードが区切りよく終わったのであった。
よく喋り倒したものだが、さすがに雷夏も人間である、これ以上しゃべるにも息継ぎが必要だ。
過去語りの第二幕が始まってはいけないので、海都はここでタイミングよく先生に聞きたかったことを質問した。
「で、あのぉ先生の野暮用って結局なんだったんですか…?」
「んや? それはな、──これだ」
「夏ちゃんの大好物、【夏ちゃんゼリー】だ」
「ゼリー? クレー…」
どこから出したのか手を伸ばし、「ぽん」と手渡された、大好物【夏ちゃんゼリー】。しかしそれはゼリーに見えない。形は円錐台であり、焼き目のついた山吹色をしている。パッと見でそれをゼリーと言う人はいないだろう。
しかし──
「あぁ!? これ俺、家で食べましたよ! え、え? え?」
海都生徒は知っていた。昨日まったく同じ形のソレを食べさせられたので当然知っていたのだ。ちょうど、母さんにもこんな風に突然部屋に無断で押しかけられて、脈絡なくこの見覚えある品を手渡されたのであった。
母さんにも。そう──
「ってなんで母さんいんの!? ダンジョンに!?」
例のホームセンターで買ってきたビーチチェアーを並べゆったりと寝そべり、楽天海都と雷夏の先生と生徒コンビが語り合っていたところ。遠目の砂浜に見覚えある紫のエプロン姿が、楽天海都の母さんが、手を振っている。
『夏ちゃんのいるだんじょん…?っておうちはどこかしら?』ということで、先に帰っていた牛頭梢と月山が品を運んでいた海都の母親とばったり出会い、配達先の体育倉庫内のここまで案内したらしい。
「なんでも最近ここに越してきた〝新参〟の方のクレープ屋というじゃないか、カイトママ。だからその腕を見込んでママには【夏ちゃんゼリー】を開発してもらおうと思ってな。恥ずかしがってかゼンゼンじぶんから身の上話をしないから気付かなかったぞ夏ちゃん! っもう、水臭いなぁ♡」
「え、意味がわからないっすけど…そりゃクレープ以外もたまにつくってますけど…え、いつ、いつの間に…」
「分かれよ、こう見えてナントナ…──夏ちゃんはゼリーには目がないんだぞぉ!」
「え、そうなんすか?(てっきり好物は餃子や焼きそばだとばかりに思ってた?) でもうちクレープ屋で、クレープ以外はそんなに扱っては」
「フ、だから焼いて巻いてもらったのさ、それすなわちクレープ、クレープ&ゼリー! inぜりいいい!」
「あはは、それはハイ、知ってますけど……これ先生の案だったんすね!」
「フフフちがうぞ、カイト生徒の案だ」
「俺? なななんでぇ…?」
「カイト生徒が不味いと言ったものは店で出さないとカイトママは言っていたぞ♡つまりカイト生徒お墨付きの〝クレープカンパニー〟の【夏ちゃんゼリー】だ!」
遠くで月山と牛頭と三人でだべるカイトママは、夏ちゃんの放ったウインクをお茶目なウインクで返した。
乙女なら顔を覆いたくなるような事態であるが、男子苦笑いにとどめ、海都は一応自分にとってそれを訂正するのは大事なことなのでツッコんでおいた。
「〝クレープグレープグループ〟ですけど…(え、そんな単純なシステムだったの…店のメニュー決めるのって…)」
「はっはっは、そうとも言うな。んー、カリぷるで美味い! ──おっ? これ生クリームが入っている? んや、もしかするとこれはカイト生徒のアレンジか? なんとナナナイスだ! これは──そうだなっうん、これも正解だぞカイト生徒ォォォ」
「あっす…あそれ、はい! ゼリーだけだとどうも、ちょっと食べ続けたときに味気なかったんで俺が一応ちょっと注文つけた通りになってるみたいっす…(きのうよりも──う、うまい)」
「なにこの変なの、たしかにカリぷるでヤぁバいわ、うんうんなるほど──生クリームなかったらヤバイね、クリームヒット、クリーンヒット、クリームヒルト、ってなんだっけ? はは、」
「え、えっ? だれ!?(俺のゼリーが……)」
「そいつはさっき話した〝ド神子〟だな。はむはむかりぷる────」
「どみこ? ってたしか当主代行とかいう…」
「そっド神子よろしく。げんぞうくん、アレっ。ジョリってない、ジョリ皆無のつるってん、ぉぉぉ」
チェアーから上体を起こし、海都が夏ちゃんゼリーを口に入れようとしていたところ──現れた。
不意に現れた黒髪ショート、ビーチにも関らず黒パジャマ姿の奇抜な格好の人物が彼の背後、同じチェアーにいつのまにか座っている。
その者は海都からかっぱらった【クレープ巻き生クリーム入りゼリー】を勝手に食べて、海都は彼女の変わった咀嚼音を耳元後ろで聞かされている。そして軽い自己紹介をしたと思えば、チェアーの前方に乗る海都は何故か顎を飼い猫のように撫でられている。その髭もまだ生えていない若々しい顎肉の触感が気に入ったのか、何度もまさぐる手つきがお構いなしに往復している。
食べ物を盗まれる、
背後に何かがいる、
それがさっきの先生の話で出てきたどみこである、
何故か顎周りを撫でられている。
初対面にしてはあまりにも情報過多で分からないので、とりあえず好きに撫でられながらも、海都はひとつまた些細だが大事なことなので訂正だけをしておいた。
「えっと…げんぞうじゃなくて、楽天海都っす…」
「あーぁ、やばっ、ごめっ。──だれかしらないしどっちでもいいわ、仮眠室どこ?(これもういらない)」
「ハイ? ……?(えと、これ2ミリぐらいのクレープしかないんすけど……)」
2ミリの食べかすを彼の手のひらに乗せた……黒髪黒目の男の背後にあらわれた黒髪黒目の女。
そんな2人を笑い見つめる雷夏先生は顎に手を当て、あらぬことを冗談交じりに言う。
「んや、ひょっとして姉弟か?」
「まじ、生き別れのおとうとやぁばいわ、てんぞう、だっけ? そういやじじいから聞いたかもだわ」
「いや違うかと…、楽天海都っす…(これは食べるべきか…捨てるべきか…)」
もはや今日が日亜国民の花見の日であるとは誰も覚えていない。
シデン・レイラからはじまり思いもよらない登場人物のバーゲンセールである今日日、部室ビーチはあちこちまた集いだした者たちの声で騒がしくなってきた。
ちなみに【夏ちゃんゼリー】は夏みかん味で、構想当初はゼリーを丸ごとカリカリに焼いたクレープに包んだものを珍し気な食感勝負で売りにする予定だったが、試食した海都生徒が指摘・提案した「みんな大好きな生クリームを中に詰める案」がカイトママに見事採用され、その大幅改修に伴いゼリーも老若男女が食べやすいように小さく等分された。
直前で路線を大きくアレンジした…されど味のバランスはより良くなった。本日道の駅クレープグレープグループで新発売の夏ちゃんゼリーは、初陣で見事本日目標分を完売したのであった。
現在、今後の売れ行きしだいでは他の味の販売も検討中である。
カリぷるな食感がたのしい…春を追い越せ、夏ちゃんゼリーイベントは終わり────
事前に雷夏がシデン・レイラに頼み込み、シデン・レイラから預かったその置き土産を、雷夏は次に絶対的に信頼のおける人物へとまた託し手渡した。
あとは任せると、勝手にバトンタッチし。
雷夏はカイトママを仲良くだべり連れ、一旦ダンジョンで勝ち取った私有地である部室ビーチから共に抜け出していった。夏ちゃんゼリーの今後の展望について語り合う、ゼリーに目がない彼女にとってそれは優先順位の高い事なのである。
雷夏に丸投げ、託されたその人物は、あくびをしながら黒髪をぼさぼさと掻いていく。手渡されたのは3枚の折り紙、青、緑、灰色の3体のグリフォンを平面な紙切れへと戻して記されていた口伝を確認していく。
燦々な陽射しに打たれ黒髪は灼かれていく。いかにも眠気オーラ全開でありながらも、仕方なしに子供たちの面倒を見なければならなくなったので……。
彼女は集めた。自分の元へと、
『育成いべんとぉ先着3めいまでっ、はっじまっるよぉ~、いーーち、に────』気の入っていない、ほわっとしたその声をいつもより少し張り、──集めた。
そして黒パジャマの裸足のつま先前まで集められた生徒たちの「育成イベント」が唐突に始まってしまった。
「はぁ? さっきアレとチャンバラやったばかりなんだけど…ちょっと…」
「っすね…(アレ…)」
「おぉ、育成いべんとぉ?」
「さぁーーーー、おっす。きたじゃん、こなけりゃやめてたのに」
「はぁ?」
「なんとぉー罠ぁ?」
「っすね…」
「『はぁ?』『なんとぉ?』『っすね…』カピバラちゃんそんな前歯で威圧しないでさ、さっき変な青いのに凝った紙貰ったんだわ、ほい、これが君らの【育成めにゅー】。おにゅー」
【青のグリフォン】月山雨楽楽
・剣術修行(今はとにかくチャンバラだ!)
・的当て(缶々をカンカン…ってね)
・筋トレ(筋トレ)
・走り込み(走り込み)
・ストレッチ(ストレーーーーーーーッち!)
・オーラ量UP(やかんの水は好きかい?)
・テトラ超え(あなたと越えたい)
ひとこと
自分というブロックを見つけるべし
【緑のグリフォン】楽天海都
・的当て
・新技開発
ひとこと
今よりいっそう仲間をたより、必ずそれを助けるべし
【灰のグリフォン】牛頭梢
・オーラ、武器チップの操作精度を高める
ひとこと
なにもなし、あるがままに
各々くしゃついた色紙を、この場で一番年上で偉い古井戸神子から手渡された。その裏白に書かれていた内容を────広げて各々の色をした目で読み取っていく。
「カピバラって……────────は? なんで私だけこんなフルコースなの? はぁあ?? テトラ超えってナニ? 意味不明なんだけど、とくに()ってふざけてんのぉッ? はぁ?? はぁ??? ねぇ、楽天くんッッ」
記載されていたメニューを読み、やがて他の部員たちのものとも比較した──月山雨楽楽はすぐにおかしいバランスの悪い不平等さに気付いた。多すぎる、自分だけ明らかにメニューがフルコースものなのだ。
さすがに彼女はこのふざけた不平等に怒り、噛みつく先を探し、いつものように楽天くんへと気の利いた言を促す。
「!?ええ? いや、えっと俺もそれは分かんないっすけど、あっ! えっとたぶん種類が多いフルコースなだけで量は俺と変わらないん…」
「なわけないよね??? はぁ??? なんで剣術修行サボってんの?? 筋トレ走り込みもストレっ…オーラ量UPやかんナニソレはぁ!?? はぁ…──はい、これ楽天くんの分ね」
「え、いや…これは月山さんのらしいので勝手には、そそそれに!! 聖タクのシデン・レイラさんが直々に考えたメニューなら間違いないかと、グリーンキャップのときも死にかけから助けられましたし……あっっ聖タクでもたしか、こんな感じのグリフォンの折り紙にして…主人公らグリフォン部隊の育成メニューを春風のまじないで飛ばしてプレゼントしてました!! こ、これはグリフォンかどうか知らないっすけどッ…」
海都が折り目にそい、器用にも折り直したそれはグリフォンというよりはただの鶴であった。
「はぁあ?? ……。……楽天くんも筋トレ走り込みしてよねッ!」
聖タクのシデン・レイラ。たしかにその物語の中の人物は実在し、あのとき大ピンチを助けられたのも事実。アレ…雷夏よりも無茶ではない、無茶苦茶ではない。思い返せばおどけた人物であったが、割と言う事はまともでもあったので、クラスメイトの楽天海都の顔面をじっと睨みつつも、月山はやがて沈黙し仕方なくこのボリューム満点のメニューのことを一時納得した。
最後にしれっと彼も自分のフルコースに巻き込みつつ、
「ええ!? イヤ、俺っ」
「はぁあ!!! ナニが毎回ええ!?イヤ、俺っ、なの??? ダッサイんだけどッ!」
「えぇ…いや、──あっ…」
「おぉ、そこのおふたりさん、わたし牛頭梢の番無視しないで。ちょっこし『なにもなし、あるがままに』、どゆこと?」
まだ噛みつく…いちゃつく…月山と海都の水着姿の男女カップルの痴話喧嘩に「そろそろいいですかな?」と混じる。灰色のグリフォンをいただいた、牛頭梢。
その呼び声に一瞬ながながと振り向いた男女2人は、しかし──
また月山が彼の方へと向き、ガミガミと不満の言葉の羅列で噛みつき始めたようだ。
首をこてっと傾げたまま止まった牛頭梢が次に見つめるのは、余った黒パジャマのひと。見つめたそれが視線に気付いたようで、ゆっくりとした足取りで一歩二歩灰色の子へと近づいてきた。
そして眠気眼を7割ほどの目一杯見開き、自分より背のおおきな灰色髪の子供に彼女は改めてさっぱりこう言ってあげた。
「あるがままでいんじゃん」
「おぉ、あるがまま」
なんと御大層にゆっくり近づいてきた古井戸神子は、〝それ〟だけで終わろうとした。
黒パジャマと黄ビキニを纏う、両者沈黙をつくり見つめ合う中、
この種類の沈黙も別に苦ではない牛頭梢はマイペースなタイミングでつづけた。
腰に手を当ててノッポさんを見つめたまま時が止まっていた古井戸神子も彼女にこたえていく。
「たとえば、どゆこと?」
「──なんかキャラ被っててめんどくさいわ、とか」
「おぉ? そゆこと? 被ってるならばっちゃり変える?」
「それもバッチャンめんどくさいわ、色違いでいんじゃない?」
「ちょっこし?」
「ドッコシ?」
「なにそれ」
「ド神子だからね」
「牛頭梢だけど」
「まじ、ド神子とゴ頭子とかもう姉妹じゃん」
「ゴ頭子? それ、ちょっこしいいじゃん?」
「ドっこし良過ぎたかも、やっぱしなしで」
「おぉ? いけずぅ?」
「いんや、じゃんけん」
「「さいしょは」」
「って何グダグダやってんの! そんだけ喋ってビックリするぐらい中身ないんだけど…!」
今度はあまりにも中身がなさすぎる灰髪と黒髪女子たちのぬるいテンポの会話中に、砂を蹴り上げながら近づき噛みついた。
その意味のない、ついに謎のじゃんけんまで始まりそうになっていた会話劇に、片耳に聞き、片目に気にし見ていた月山雨楽楽はついに耐えかねたのだ。
そして神子と梢、2人はやっとやってきた彼女に待っていたとばかりに、2人で用意していた同じ台詞を告げる。
「「ツッコミまち」」
「だとしたらバカでしょッッ!!! ほんとなにやってんの…はぁさいあく」
「「はぁさいあく」」
「真似しないでいいから…」
「「真似しないでいいから…」」
「あの、やめてくれる? マジでそんなキャラじゃないんだけど私? 普通、小学生じゃないならそういうの、一回まででやめるのに、
あまりにもくだらなくて、さすがにあきれ顔を披露した。隣に並ぶ馬と鹿らしき女子たちの顔をちょんちょんと二度指差し、無意味な突っ込みのボランティアをしてしまった月山はしんどそうな徒労の溜息を吐く。
「「キャラ、かぶってるから(馬じゃないよ牛だよ、鹿じゃないよド神子だよ)」」
「わざと耳打ちして合わせるのを、キャラ被りって言わないんだけど…とにかく2人はなれて…!」
灰髪ノッポと黒パジャマの2人に、そのお互いの近すぎるポジションをはなれるように月山は命令した。1人でも若干おかしいので、2人無理して口調を合わせて集まるから余計におかしくなっている、と言いたげに。
「言われてみればそうだわ、近いしノいてよ
「おぉ? いいじゃんそれ。んじゃ、──ド
「おしんこみたいでやぁばいわ、────はいっ」
「おぉ、──はいっ」
「はいっ」それが古井戸神子と牛頭梢コンビ解消の区切りだったのか。あっさりとその場を離れ、謎の即興コンビは左右に分かれ解散したのであった。
「ほんと何がしたかったの……って楽天くん何突っ立って見てんの!」
「えぇ…だってアレは、どうしようもないですし…」
「それをどうにかするんでしょ! なんで私が突っ込んでんのよ…ほんとさいあく、千葉男子なら東京男子ぐらいしっかりしてよね!」
「え? なんでソレ知って?」
「千葉男子」その言葉が月山から出てくるとは思わなかった。自分から千葉から栃木にやってきたという情報は彼女にはまだ伝えていなかったのである。海都がすこし驚きながら彼女の青いジト目をみつめていると──
「てんぞう、千葉ボーンの千葉ボーイ? やぁばいじゃん、なんで栃木いんの? なにがたのしいかんじ? だいじょうぶ?道場もむ?もまれる?」
「おぉ千葉ボーイ、そういえばさっきらくてんかいとママからきいたじゃん、ちょっこしこしてきたとか」
また戻ってきたあの自称似たモノ同士の2人。また手を繋げるほど近い位置に並列し、この栃木緑蜜の地にはもの珍しい「千葉ボーイ」へと立て続けに問いかけていった。田舎者女子の性であるのかもしれない。
東京に関わりのあるものにあこがれを持つ月山も当然気になっていた。さっき話していたカイトママからの情報だけでは足りない、海都本人に聞きたかったことが腐るほどある。
ぐいぐいと前のめりで迫るエメラルド水着の月山に視線あまりやり場なく、気圧されながら、海都は苦笑いの表情を崩さず答えていく。
「ほんと千葉ボーンのイケてる千葉ボーイから栃木なんて都落ちで大変じゃん楽天くん、なんで来たの?」
「いや、すんません俺もそれは聞かされてないですし、母さんが緑蜜は学校も雰囲気が良さそうだからって…別に都落ちでは…既に都外なんで、ハハ、ハイあんまり変わらないっすよ! 俺の住んでたところは団地ばっかだったんで割と無機質で…むしろここのほうが(千葉ぼーんの千葉ぼーいってナニ…)」
「いやいや何言ってんの、【東京ゴッチャンランド】と【東京ゴッチャンデスシー】のある千葉だよ! 海だよ海ッ【アクアゴッチャライン】もあるじゃん! 何より千葉ってか、かっこいい!(東京、千葉は栃木女子の憧れイチニなんだからね!)」
「えぇ…そりゃぁまぁ【ゴッチャンランド】はちょっとは自慢できますけど…(ロボットものの総合テーマパークなんで女子ウケはそんなにじゃないかな…)千葉にいるから一回行くかぁってぐらいでぇ、それ以外はほんとフツウもフツウなんで、海はほらここにもありますし、なんならここの方がっ」
雷夏と月山の愛読雑誌、週刊ジャイアントにも伝説のロボット漫画「ゴッチャンシリーズ」は今もなお連載されている。
個性豊かなRIKISHIがど迫力の相撲技と怪獣とがっぷり四つに組む死闘熱いたたかい模様が、かっこいいと一部女子たちにものすごく受けているらしい。
「東京ゴッチャンランド」、「東京ゴッチャンデスシー」とは千葉県にある人気ロボットアニメや漫画作品全般をモチーフにしたアトラクションのある総合テーマパークである。(超硬RIKISHIゴッチャンの生みの親の聖地である千葉に建てられた大型施設。千葉なのに東京とついているのは外国の旅行観光客へとアピールしやすいため)
「もうっ分かってないの? 千葉の海だからいいんだからァ!」
「えぇ…!? イヤ、海は繋がってますし同じですよ」
「ここ意味不明なダンジョン、繋がってないし! こんなのノーカンだから、何言ってんのバカなの?」
「いやちょっと落ち着いてくださいよ月山さんっ! 千葉なんて」
「はぁあ?」
「いや、えっと…栃木には」
「栃木には?」
「…だだ、ダンジョンがありますし!」
「なに、雷先生みたいなこと言ってんの…さいあく、しね」
「し、し、しね…!?? え、月山さん???? マッ────」
男女なぞの口喧嘩して走り出す。男子はむすっとして不意に海へと走り出した黒髪の美少女を、あわてて追いかけていく。
そんな2人の激しさと対照的にマイペース組の彼女らはおいてけぼりをくらったか、その走り出した髪の靡く光景を並び黙って見つめる────
「さいきんの青春やぁばいじゃん、うしあたま」
「やぁばいね、どしんこ」
「てかツキヤマ、しゃべりすぎだわ(斬る隙ゼロじゃん)」
「ツキヤマに突っ込める部員、募集中でぇす」
「でぇす?」
「おぉ?」
「そんな引き出しあんの、かわいいじゃん」
「おぉ? おぉ、ちょっこし忘れてた、牛頭梢でぇす」
「ふぅーん。──古井戸神子でぇす。────30はやぁばい、きぃついわ。──────いまの墓までたのむわ」
「ド神子。──『なにもなし、あるがままに』……でぇすっ」
「いい言葉だわ、それ、──わたしじゃん」
海を見つめる、いつの間にか水をかけあう。さっきまで口喧嘩していた男女こどもたち、とヤドカリ…がいる。
そのキラキラした様がひじょうにうらやましいものであったので────似たモノ同士の2人は横向き頷き合い────ひかる青春の波打ち際までまっすぐ裸足で、駆け出していった。
キャッキャウフフと海遊び。緑蜜高校、ひみつの部室内で繰り広げられるダンジョン部青春の水かけ模様の一幕は──
ふと、一緒にはしゃいでいたヤドカリモンスターのヤドコンちゃんから、そのハサミの手で手渡された……。水に濡れた一枚の手書きの地図にて、ちょっきり幕切れ。
────真顔にもどった月山雨楽楽は、一人、ふざけたそのラクガキの記された場所へと溜息まじりに予定のバスで向かった。
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▽▽▽
【育成イベント月山編】
道場の真ん中で木剣を素振りする、落ち着いた深い色合いの赤髪がいる。
何か気配を察したのか、赤髪の剣士はピタリと動きを止め、入場してきたぎこちなく会釈する異物、緑ブレザーを見つめる。
みずいろのタオルで鍛錬でながした汗を拭いていく。独りでの鍛錬中に思わぬ水を差された赤髪は、自分の動作・作業に移行しながら、突如15時半ばのしずかな道場に舞い込んできた子供の客の話をながら聞きする。
「はぁ、育成メニュー、剣術修行…何を言っている? ──いや待て、またアイツか…」
(突然尋ねてきた緑のブレザーと何故か鼻につく黒縁メガネ。夜の道場にもこの年頃の子はいない。なんでか知らないが増えたのは毛むくじゃらの熊と鶏みたいな男たちばかりだ。青いアレが…何か吹き込んだんだろう、あれもこれも)
「あいにく今は3時の鍛錬、私の貸切時間だ。フン、絶妙にタイミングが悪かったな。なのにわざわざ緑蜜からここに遣わされたか、──どうせアレの被害者なんだろ」
みずいろタオルで顔を拭いながら、動作を止めてチラリ。月山を見つめる湖の瞳がある。笑ってはいないが、怒ってもいない、淡々と語り見つめてすべての汗を拭き終えた。
なぜかその女剣士のラフなのか鋭いのかの間の様がすこし、格好良くみえて、この道場のまったくの客である月山はゾクゾクとしてしまった。
「! ──はい青いアレ…。はぁ…ごめんなさい、そうですね出直して来ますっ、じゃなくて出てい──」
ここまで身一つでやって来たものの、思い返せばそもそもの問題としてそこまで熱心に食らいつく必要はない。ダンジョン部入りたての月山雨楽楽は雷先生とこの赤髪の人物との間になにか食い違いがあったとして、その問題を執着する必要も解決する必要もないので、大人しくその場を立ち去ろうとした、そのとき。
目の前。いきなり回転しながら飛んできた──それはテトマズのブロックではない。
「!? …テトっ!? ぼくとう??(ッ──ていうかめちゃくちゃ手痛いんだけど…なにしてくれてんのこの人…はぁ?)」
月山の手元に一瞬で落ちてきた、木のブロック。木剣が手元にある、咄嗟の攻撃に反応しつい握っている。
さらに月山はキャッチした手の痛みのほかに、少し湿った……。さっきまで赤髪の剣士が振るっていたと思われる、手にしたことのない、生々しい剣の感覚を、その己のまだ綺麗な手に、指先に、感じ取ってしまった。
「何も知らないその髪の色がムカついた」
「はぁ?? えっちょっとぉ!? なんの意味の構えそれぇ…?」
披露された美しい正眼の構え、その切先は月山のメガネ目元を刺している。
向けられた剣になんの意味かと動転しつつも問うと、少女の「黒い髪の色がムカついた」というどうしようもない理由で、赤髪の剣士は構えているのだという。
今向けられている鋭い眼光は子供に向けていいものではない。至ってこの大人の女は真剣なのか、それともふざけてそうしているのか、月山には判断不可能である。だが青いアレとは違う意味がその剣には宿っていると、分からずとも少女は感じざるをえなかった。
そして何故かその向けられた切先に操り人形のように、手足を動かされてしまい────構えずにはいられなかった。
「そうだすこし構えてみろ──構えたな、来いっ小さき獣。野ウサギなら晩飯の足しにする」
もはや月山は自分自身でも何が起きていて何をさせられているのか理解不能だが、不思議と…
誘う────この赤髪の表情と構えと、細やかにリズム打つ正眼の切先には、叩き込まないと気が済まない気がしてきた。
「う、うさ!? はぁもう……あちこち振り回されて……わたしはウサギでも晩飯でもッカピバラじゃないんだからァ! みんなツッコミ待ちで寝ぼけてんのォっ!!!」
目一杯、力一杯、言われた通りに何も考えず叫んだままに叩き込む。小さき獣は、溢れん、発するなないろのオーラを、木の刃にノセて。
「! ────オーラとかいう…ッまた訳の分からない剣が来たかッ!」
「日中からお休みまで訳が分からないのはこっちなんだからァ! 来いって言ったのそっちでしょおおお(このタイミングっ)【テクニカルスピン】──アレ? きゃっ──」
「なんだそれは? 気を抜くと…こっちの番もある! 野ウサギでも思いっきり蹴られると少しは痛いからなっ」
「やっぱ栃木って、ヤだァッ──はああァァァ!!!」
アソビなのか真剣なのかなんなのか、剣を交えている月山雨楽楽にはわからない。だがすこし楽しいのかもしれない。偶然でも道場で言われた通りに剣を握ったからには、目一杯振って目の前の同じ剣を構える赤いお相手にぶつけるしかない。
ムスイと月山、雷夏のいたずらか…巡り合った女子2人のそこそこハードな剣術修行が始まってしまった。
▽
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【育成イベント海都編】
「新技のコツねぇ、……──ごめっ。忘れたわ、そんなむかしのひっそりー、ひすとりー」
「あのぉ、ハイ…えっと…近いんですけど、てかなんで俺まで寝て……」
ビーチに佇む例のスイカテント内は、あずかった折り鶴を渡し伝言の役目を無事終えた……古井戸神子の仮眠室(仮)として占拠されていた。
月山が自分のメニューをこなすため、溜息まじりに部室エリアを出ていくのを見送った海都はというと──
育成メニューにあった新技開発のヒント・コツを得るために、今はこの場にいない雷夏先生の話の中ではすごいスペックの高い傑物だと評されていた古井戸神子、神牙流その当主代行に質問をしにいったはずが……。
何故かその閉ざされた暗幕の中に海都もお供しており、現在ぜっさん寝入る黒パジャマに抱き枕扱いで背中に抱きつかれている。意味が分からず困惑するが、彼はいつも通りに状況に身をまかせるしかないのであった。
「毛布ないんだわ、」
「? そりゃビーチには絶対ないんじゃ…」
「ないと寒いんだわ、まじ、」
「いや熱くないすか…フツウに手汗かいてますけど…」
「ほんとだ汗やぁば、でもなんか被ってないと心臓が4つとびでそうで寝れないんだわ、」
「それはしらないっすけど…え、どゆこと…」
「うるさい、」
「え、うわ!?」
金玉を、ちんちんを、まさぐられている。ゆるーい雰囲気の他愛ない会話からの突然すぎる、その一手。背後から伸びたながいながいまさぐる一手が、海都のアソコにぬくもり纏う。
「そういや棒状のナニか握ってないと寝れないんだわ、当主代行だけに、」
「ええ!? どみこさん、ちょっ!」
「いっちょまえにくそ硬っ、じゃ、しょーがない、えっちすんわ、」
「え、え、ハイ!?? ッて!??」
「ハイってるわこれ…、かんぜんに。あーぁ」
「ああああ」
いつの間にやら既に、体勢を変えられてひょいと跨られている。さっきまで「ごろん」、「だらだら」と寝ていたド神子が────────ハイっている。暗がりに突然押し寄せてきた快楽が、みっちりと包み込んでいる。
「ああああーーあー。でも期待してたじゃん、ハイって3秒で全快に勃ってたじゃん、夜這いする気マンマンじゃん、このドえろいテントで、ド神子を、めちゃくちゃに、(ひるだけど)」
「え!? いやちが、あっああああ♡」
「てかわたしが上なのかぁー。これ、──だぁーるいわ、あ、いっかい終わらそ、」
上に跨るド神子はしゃべりながら黒髪を掻き終え、うごきはじめた。
終始ぼーっとしていた昼行灯の黒髪女が、男の上になった途端何を思い立ったのか急に存分にヤル気を見せ始める。
「あっあっあああ♡♡♡♡」
はげしく手早く尻肉を打ち付けながら、射精をうながすための動きをする。杭打つような攻撃力のたかい騎乗位の動きに、くわえて──
跨られて効き目抜群な雄のダメな顔をして欲しがっていた海都の左乳首に、吸い付いていった。
黒髪を乱し垂らしながら、腰は尻をおとし、なおもはげしいピストンをつづける。乱した髪から覗く黒目は同じ色をした海都の黒目を、表情をじとっと睨み見つめる。
その昼行灯が到底するとは思えなかった、謎のスイッチの入った、男を乗りこなす女のギャップに。
淡々と、されど激しく一方的に与えられる刺激。立つ水音激しく、その女体全体の巧い身のこなしで打ち込まれ、打ち寄せる快感の波の繰り返しに……海都生徒が耐えられるはずもなく。
「で、でちゃっ…あっあああああああ♡♡♡♡」
状況を飲み込む暇もなく、一連の性技を受けつづけ射精させられてしまった。
跨られてその行為がはじまってから終始くらいつづけ喘ぐしかなかった。
乱れた黒髪のショートカットは乱れたまま気にもとめない。
ド神子は膣内に染み渡っていく予想外のオーラ熱量を思わず目を閉じ、かみしめながら、それまで漏らすことのなかったちいさく喘ぐ艶っぽい吐息を漏らす。
ふくんでしゃっぶり舐めていた左乳首から、唾液の糸をつなげたらして……さっき入れていた攻撃スイッチがもう壊れたのか、口元をぬぐうこともしない。
「ぢゅぶるぷるじゅじゅ────。なんかコレ染みてきてぽかぽかで…やぁばいわ、まじ。ふぅぅ…………ふつうにイっちゃったド神子、はっず、はは。……じゃ──次、ピッチャー交代しよ、てんぞうくん」
陽光透ける果肉の赤を背景に、ほのかに微笑い見下ろす──。
窮屈だった黒パジャマの前ボタンをはずしながら、汗ばむ身体をパタパタと襟元の薄布を手持ち扇いでいる。
幸か不幸か登場人物はかわり、シチュエーションは見知らぬ年上女となかでふたりきり。今もまだ初めましての性器と性器で深く愛液と我慢汁を混ぜ合いながら、それでもとてもあたたかく、心地いい体温を共有し繋がっている……。
楽天海都はまたも例のスイカテントで、シミつく男女密着の行為に及ぶのであった。