雷夏先生とゆく、緑蜜高等学校ダンジョン部!!! 作:山下敬雄
放課後の理科室は夕暮れと金色の髪が行き来する。
時が経つにつれ、その興味深い授業の席につく者の数が増えた。
そして今またこの前に見たような面子が集まり。
既に冬虫夏草の説明からはじまった授業の理解度はみな一定水準以上に上がり訪れたダンジョン部の面々に共有された。
「あのお蔵入り映像にあった森の中の一等高い大樹に上っていたのは一見不可解な行動に思えるが、この地の特異なきのこの生存戦略にのっとりとりあえず動かされていたとも考えられるね。寄生されたアリが高い葉の裏にかみつきとどまるのと似たようなことだろう」
「ってことは?? うらみとかは関係なくて、その今まで習ったきのこの菌に人間が寄生されたからってこと?」
「それはわからない。ワタシはダイバーじゃないからね。その辺の判断はキミたちに委ねよう。ただ、これはホットなニュースだが。つい先日きみのボーイフレンドの回復オーラをかりて治療した患者の体からこんな興味深いものを発見してね」
質問者の月山は少し顔を赤らめながら博士からひじょうに興味深い話のつづきを聞いた。
そして博士が取り出した人間の内部を映したひとつの参考写真とともに話された事は一介の可愛い女子高生にとっては顔を顰めたくなるようなとても刺激的な内容であった。
「─────この写真を見ても少しわかるように筋肉の損傷自体はさほどなかった。ただこのきのこ菌はすでに寄生していたのだよ本来は寄生できないはずの天敵である人の手足全身にその免疫を抑制して。おそらく患者、栃木きのこ狩り連盟の人達がその嗜好からすすんで菌を内に取り入れてこうわかりやすくなってしまったのだろうね」
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自信を取り戻した様子でシデンレイラはこれまで得た情報をまとめ、今度は以前よりも質のある推論を唱えた。
「この世界はガライアにくらべてオーラが薄いサ、各々が発揮できるオーラも弱まるサ。ナラバと寄生させたきのこの菌を媒介にしオーラの精度と伝達力を賢く高めたということかい、それがわれわ…キミたちの食と薬とするものから厄介をひろげつつある毒になった」
「賢いものの真似をするのはワタシの立場から言わせてもらってもそれは理にかなっていると思うね。菌類のきのこは約三万種、ニチア国内だけでも三千種はある、まだ名前の付けられていないものを含めると想像以上のもっとさ」
オーラの薄いこの世界においてダイバーたちが発揮できる自身のオーラの力はダンジョンに比べ弱まるのは、ダンジョン部彼らの経験上日常においても明らかである。
きのこ菌、菌糸を媒介にすることで未知の敵はそのオーラの力を高めた…博士の導きだしたひとつの答えを経てシデンレイラはそう考えた。
「よーーーし、敵のこともあらかた分かったな! マリア博士さっそくその敵のきのこの位置をいつものDORAちゃんで調べてくれ!」
「「え」」
海都と月山がひとこと驚き振り向くも、もう既にダンジョン部の顧問で部長の青髪は次に向かい動き出していた。
「もうすでにやっている最中でね。解析結果待ちといったところかな、ナツ雷」
冬虫夏草というたった四文字の漢字からはじまった授業はまだスペースの空いていた黒板を余すことなくチョークの文字で埋め尽くした。
未知だった敵のことこの世界に起きた原因不明の災害の要因は黒板一杯ほどに分かった、ならばあとはと──
白衣の肩に青ジャージ裾の片手をおき、両者は視線を絡ませる。意外な阿吽の呼吸をみせる2人であった。
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一同は廊下をゆく白衣の後にぞろぞろとついていき、やがて跳び箱を超え青い草原をあるき訪れた……
▼部室魔王城▼にて
かつて崩壊した王の間は既に綺麗に修復されていた。ここであった心骨の女王との激しい戦いの痕は、貫いた天に赤い太陽を描き印象的に描き残されている。
そんな厳かな空間にピコピコと騒がしく可愛らしい電子音が鳴り響いた────
円盤型のアタマがかわいい亜空間万能通信機器のDORAYAKIからせり出したキーボードを打ち、明智マリア博士は立ち上げたモニターを確認する。
「おや、どうやら? 逆探知に成功したみたいだね」
「逆探知?? ど、どどうやってっすか??」
さらりと逆探知に成功したと言う。リアクションが控え目であった博士のかわりのように海都は驚いた。
「例の患者たちに付着していた胞子を発芽させて育ててみたのだよ。オーラで変異した細胞とくに菌糸のネットワークには他のきのこと判別しやすい同一の特徴があってね。それとこれは後でわかったことだが、最近落雷が世界各地で多く見られていてね。知っているかい落雷現象のあとは何故かその地のきのこが良く育つのさ、そこももろもろ踏まえて────」
「と、とにかく! (何言ってるか全然わからないけど)その敵の場所が本当にわかッ……てしまったの!??」
月山はまだ半信半疑である。そもそも今まで皆でしていたのは推論であり、進めていたのも推論の域をまだでていない。どこかまだ彼女にとって遠くの不思議なニュースだったことを、今はアーメリガから栃木、学校、そしてダンジョンの中へと進み実際の検証を急速にはじめているのだ。
「こちらの登録したダンジョンでの活動エリアも君たちの活躍で以前より広がったことだからね。あぁそうだ、この前やった巨人の帽子探しをもう少し範囲をひろげ難しくした感じだろうか? とにかくさっき言った類似性をDORAYAKIに検索させれば────このようにすぐまとめてヒットする(帽子ではなく傘だったかな)」
月山、海都、そしてここにいるダンジョン部一同。頭をちかく並べて食い入るように見つめるのは、かつて部室エリアに侵入してきた骨の軍勢の居場所を確認したグリッドマップのアップグレード版。
ダンジョンの探索を進め、女王不在の骨の領域の調査もし以前より広がったそのマップには、灰色の未開のモヤが晴れ……検索にヒットした赤く灯る幾多の反応がまとまり記されていた。
「フッ。むやみな攻撃は相応のリスクも孕むということだな」
「その通りだね。最も栄養の供給のほとんどを外部から行うきのこにとって敵も味方の区別もないといったところかね。なぜ食用と別に毒をもつ種もあるかに関してはまだまだ研究不足で注意が必要だがね、フフ」
「ダンジョン…まじすか。なんか、すんごく大事じゃないすか…」
「なんだカイト生徒? また自分だけしれぇっっと夏ちゃんに内緒で出掛けて手柄をあげたいってのか?」
「え、ええ!? いやちがくて…ウロボロシーでのアレは緊急事態てきなぁ……あのぉ、それよりせんせい? 本当に?」
「あぁ。ここのところポケット災害警報もニュースやラジオで見かけることも多くなったらしいしな。アーメリガの次はこの調子だと日亜も関係ないわけではないからな、実際ちかくで被害はでている(夏ちゃんは世界にもダンジョン情報電波をはってるぞ!)」
「ワタシの知り合いたちも封鎖活動にいつもより精を出していると聞くよ。熱心に調査を働くなら今をおすすめするよ、ふふふ」
「んや。だからな、動ける夏ちゃんがっ、ダンジョン部がッ、動けるうちにバチバチのバッチリぃぃ動くのがぁぁ──きっとイチバンはやいだろぅ? カイト生徒、はは」
「いちばん…はやい……」
ダンジョンの亜空間が人間たちのかんがえる現世と区分される世界に露出してしまう現象、ポケット災害。
それが今頻度を上げて世界各地で活発になってきているという。WASAサブスペース開発部に属するマリア博士の知り合い、雷夏たちの知り合いでもあるセリーやイザベラもダンジョンの封鎖活動や怪奇現象の解決のために駆り出されているようだ。
(なんかみんな行くかんじのおおごとになってるんだけど……と、とにかく終わらせるならクリスマス前に終わらせないと! うん、それがいいでしょ! ……今回もなんだかんだいけるんでしょ? 前よりなんかみんな強くなった強くなった鍛錬鍛錬!!って耳にたこができるほど言うし! それにわたしもちょっとは)
(クレパの準備も大事だけど…俺は……あ、また迷いから入った!? …………)
「ヒーローになったつもりは欠片もないのだがな。うだうだ理科室で喋っているよりコッチが早いとやらはフッ同意だ。鍛錬の妨げになる厄介ごとは先に絶っておくか。敵が仮にきのこなら剣でも斬れない事はないだろう」
「今度のダンス相手はおゾンビかいおきのこかい。かすめとった財宝は腐らずにいてくれればいいとこどりかい?」
「今度のお土産も期待しているよ」
「はは、やはりダンジョンは────飽きないな!!!」
遠いアーメリガ帝国に発生した怪奇事件がゾンビからきのこへと化けダンジョンにも化けた。
三学期も早々にはじまったダンジョン部のあらたな一大イベント。ダンジョン部の顧問部長である雷夏が迷いなく動き出したのは正義感からか、それともただダンジョンに挑みたいだけなのか。
そんなことは誰にも完全には分からない。
だが、誰にあてられてかその熱とオーラは皆高まりつつある。各々の意志と決意をその胸に、もうここはダンジョン、敵をみつけて引き返すという後ろ向きな選択肢は彼らダンジョン部にはなかった────────。