雷夏先生とゆく、緑蜜高等学校ダンジョン部!!! 作:山下敬雄
何事にも始まりがあれば終わりもある。だがしかし、一度終わってしまえばおおくのことで再びその熱が始まることはない。
注目されることもない。
脚光を浴びることもない。
限りなく多くの者たちにひとつの今をすすむおおきな時の流れが共有されるように、過去へ過去へ些細なひずみは流されてゆく。大河は流れつづける、何事もなかったかのように。
しかし、一部の人間にはあるらしい。
忘れたくても忘れられない、不可能を可能にする、ときに恐るべきに立ち向かいときに執着し恐るべき考えにまで深め至る、内から湧き出る原動力が。
それをあなたは知っているだろうか?
いやきっと天使や悪魔もその秘めし美しき宝のありかを知らない、気付きはしない。だからこそ彼はその美しき宝がはたしてどんな痺れる味をしているのか、
彼は我儘な王様だ。だが旅をする。
いずれは招かれたこの自分の趣味ではない華美なだけの劇場だけではなく、自分だけの楽園を築くのだといつも言っていた。そんな自由気ままに生き、気に入った仲間を幕の内に加えてはまた愉快な旅をする彼に彼女もきっと惹かれてしまうことだろう。
そんな忘れずにいた彼の物語と忘れられた彼女の物語のつづきは薄暗い月明かりに集った……何も知らない者たちの調子のいい台詞から始まる────。
『イチバン乗りぃ~~!』
『貴様はあいにくの二番だったな』
『おぅムゥちゃんもういたのか! んやんや? なんだか息が上がってェ?』
『フザケルな青い負け犬』
『はははは、じゃあそのがんばりに免じて順位はつけないであげるか? 夏ちゃんなでなでもあるぞ』
『ふざけた運動会のつもりか──いらん』
『はぁはぁはぁぁ……ちょ…ちょっとふざけてないで!!』
『おぅツッキー!! 信じていたぞ、よしよしよしなでなでぇ~なでなでぇ~夏ちゃんなでなでぇ~♡』
『ってなでなくていいから!! ってそうじゃない!! 信じていたとかなでなでとかそんなのいらないから必要なときに必要なことだけやって!!』
『ははははは、こりゃ一本食わされた。んや、わかった。絶対的にそう約束するぞツッキー生徒』
『ほんとうに分かってんのぉー……はぁ……。ま、ちょっとは遅れても…別にいいけど…』
『先生!ムスイさん! やっぱ先にいた!!』
『おや、カイト生徒もいたか?? よぉーし夏っちゃんナ──』
『あのぉー今はいいっす…!?」
『フッ、当然だ。海都、お前はずいぶんと傷だらけのようだが──ふ、それは治さなくていいのか?』
『いやぁーはは……なんかこれぐらいで回復にオーラを使うのはもったいないかなぁって思ってぇ…ハイ。それに月山さんとも運よく途中で会えて! そうそう!! それで今回先生たちぐらい早く来れたのかなぁって? ────あ…』
『『ほぉ……ずいぶんとえらくなったものだな』』
『いや、そういう意味とはちがくてぇ……』
『って楽天くん! 運よく会えて…じゃなくて運がよくなくても助けに来なきゃでしょ!!!』
『え!?? 月山さん!?? 今そこは……』
『は????』
『あはは……ってさっきからここってぇ…なんかここ暗くないすか…?』
『そういえばそうだけど?? って楽天く──』
『シッ────静かにしろ女子高生』
『どうやら今度は間に合ったようかい、あの幕が開けるとどんなお宝を見せてくれるのかな』
『あぁ、もうビリビリと待ち飽きたオーラをかんじるぞ。いちばんいいダ〜ンジョンの予感だ…』
これから楽しみにしていた舞台の公演でも始まるのか、騒いでいた若者たちは暗がりの中に灯った仄かな光に注目した。
すると舞台袖から現れた────スタイルのいい女性──ではなく人型のきのこ。光にさえ目立たない暗い衣装を纏い、狂言回しのようにだが少しまだおぼつかない人語で語り出した。
『カワいそうなハイエナダ』
『ムゴタラシクモやされたんだと』
『ミイラ取りがミイラになるどころか黒焦げだ!』
『ジゴウジトク』
『骨を投げたら尻尾ふって咥えそうだな? ハハハ!』
『イヌミミをたててバリゾウゴンにかみつこうとしたハイエナはいかれるキバをしまい、にげおおせたチのイコクの王サマにイヌミミをたれこんがんしました』
『妹を焼き殺したイカれた奴らに復讐を! そのためならァァ、オレはオレたちはなァんだってする! 今まで集めただいじな宝もゼンブあんたにヤル!! だから、だからこそ奴らに復讐ヲおぉ……!!』
『ソレをきいた王サマはほおづえをつきながらイイマシタ』
『薄汚れた宝はいらない。まずは浮世でお前たちが好き勝手してきたその醜く曲がった魂を贖え……と』
『しかしその手をその魂まで穢し染めたお前たちは今さら贖うその真っ当な術を知らないだろう。ならば──盗み返すといい、そこにしかお前たちの術はない。盗人が盗人の宝に手をつけることを我は禁じぬ、その鼻で悪臭を嗅ぎ探し、その牙で笑う賊の首を穿ち、そ奴らの全てが余さず血もない骨になるまで追いかけるのだ。これよりももっと多くの汚れた宝を我の前に捧げてみせるのだ』
『そのかわり我はその卑しき復讐心への理解を示し、そのためのチカラをそなたらに惜しみなく捧げよう』
『王サマはハイエナたちにヤツらにフクシューするためのチカラを与えた。しかしそれだけではドーチューさみしいものだろうと、ナきイモウトのタマシイとカレらがともにあることをユルした』
『そして──ヤツらのニオイをかぎついにひみつのアジトにたどりついたハイエナたちはしたたるヨダレもぬぐわずにほえる』
『とぎれとぎれおぼろげなツキアカリがてらすコヨイ…くらい王ザでたたずむかのくにの王サマはほおづえをくずさない。やがて、じゅうたんにしたたりおちたスイテキの音がしずかにはじまりをつげた』
『さぁはじめよう。あわれなさんびきのハイエナとこれから欠けゆく青月の盗賊団の話を────!!!』
舞台袖のきのこのドクピィはどこからか響く表現感情豊かな声とともに間違えなく読み上げた。最後にこの空間中に響いた両の耳まで呑み込むような迫力の声とともに、秘められていた景色が今明らかになる。
スポットライトに照らされた5人の人間と、
唸りあらわれた三匹のハイエナ。
隙間から金色がこぼれ、やがて黄金に光る金銀財宝の舞台が彩りを放つ。スポットライトすら意味がなくなるほどの眩さの中に客席にいた人間たちは放り込まれた。
突如煌びやか盛大に開かれた幕と、思いもよらない狗顔との再開とその高まる悪しきオーラに…………知らない部室へと招かれたダンジョン部の者たちはすでに武器を構えそれぞれのオーラを鮮やかに漲らせた────────。