雷夏先生とゆく、緑蜜高等学校ダンジョン部!!! 作:山下敬雄
男には恋人がいた。それはもうたくさん。
それが浮世を舞台に踊る王様としてのつとめだからだ。
彼は人より人を惹きつけてしまうがゆえに彼に焦がれる彼女たちもそれを承知の上だろう。
彼が率いる一行はまたかの国の劇場へと招待された。
この世でもっとも名声高い彼の劇団を招き入れるのはその国にとっても名誉なことであるからだ、劇場はもはやただの娯楽施設にとどまらず国の顔であり彼にみせるために綺麗で華美でおおきいほどいいのだ。
そんなお呼ばれした旅から旅への道中……ある日訪れた田舎町で彼はいつものように気に入った娘を自分の仲間へとスカウトした。純朴で飾り気のないその娘の性格がどこか新鮮で良かったのだろう。その宝石のような目の輝きを見つけてしまった王はいつものように誘い、見つけられてしまった娘もその出会いが当然の運命であったかように彼に急速に惹かれていってしまった。
時が経ち、彼と彼の率いる劇団の名声はより多くの国をまたぎ噂され、より高く高く築かれていった。
あるときおなじ幕の裏の世界の住人はいじわるそうに彼女の耳元にささやく。
なにもしらずついてきた世間知らずの娘は知らなかったのだろう。
王が王であるゆえんを。
彼のことを誰もが道端で噂する。彼のために劇場はひらかれ、彼のために舞台は磨かれる。
どんな王族も招いた彼と会うことをステータスにし、その国で一番のシェフと最高の料理でもてなすことをもいとわない。
知ってしまった娘は森の中のちいさな木の家で今日も待つ。
みどりの木漏れ日が綺麗なそこは、忙しい彼の唯一の憩いの場という。
うれしいのにかなしい。
鳥が止まり木から飛び立つ。彼はきっと取り柄のない端役の自分のことなど忘れてしまうことだろう。
今日は彼がやってくる日、彼女は手を伸ばした。好物であったきのこによく似た妖しげな香りに────
「パスタだったよ!!! 痺れるきのこのな!!! はははははハッハーーーー!!!」
「そいつは狂った。オレを狂わせたあげく、こんな呪いじみたものまでッッ死んでも忌々しい女だ! こんなものがなければ、オレ様はこんな奈落にいない!!」
破かれた黒と白の総身タイツ、その男の生の体には痛々しいあざのようなものが呪いのようにはしっていた。
「憧れていたんだろう! はは! 夏ちゃんにも緑蜜のアザはあるぞ!」
「だまれオンナァ!!!」
空でぶつかり合いながら語らう。王子の愛も怒りも過去も雷獣は笑い飛ばした。
ますますイカれる王は毒の輪をいくら投げつけてもつかまらない娘に痺れを切らして斬りかかった。
「オレののぼっていた塔は崩れた。オレは奈落からソレによじ登る夢をよく見たよ!! だがいつも途中でそのオンナが手を踏みオレを蹴落としぃぃ!!」
「夏ちゃんは崩れない! 絶対的にな!!」
「いいやオレには分かる、お前もいずれ絶対崩れる! だから回って来たのだ!! ソの空虚さを、空の宝を、絶対だと信じて偽りィィィ荒唐無稽な
「はは、いいけど間違えるなよ! 絶対的ぃぃ…… ダァァ!!!」
砕けたふたつの刃、舞散っていく銀色と、睨み合ったお互いの色と熱に誘い誘われた。
のぼりつづける男との闘いのボルテージのままに、惜しみなく顕現した秘刀名刀緑蜜。
腹の底から、胃の底から、天を仰ぎ、喉を灼き、男の中の取り出された毒は人を斬る禍々しいカタチをしていた。
身からさらされた秘刀にオーラは込められ、オーラは高まり、つづける……。
誘いあった二太刀目の予感はもう我慢できない。
焦げ付き崩れゆく塔の前にうかばせた……雷牙と毒牙は────────
見据えた白と青へと、真っ直ぐに噛みついた。
そのとき極大のオーラとオーラは混じり合い……擦り合わせた刃と刃にとてつもない紫電が走った。
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『あなたが手に入らないならいっそ…』
『輝けない星なんていらないじゃない。私、クピィドを出ていかせてもらうわ』
『堕ちたものねぇ、クピィドの王様も』
『あー例の堕ちた王様だっけ。でもわたし今の演技の方が好きかも?』
『ないない。復活公演なんて期待させて、あんな毒々しくて白くて暗いの見てらんない。なんか勘違いってかんじぃ。あ、いっそ死んでしまえば綺麗なままだったのにね、あははは』
『悪りぃけどたのめるか……? ダンジョン部……』
『はぁ……しかたない…これも腐れ縁ね…!! 死んだらあんたが責任取りなさいよね? じゃないと地獄行きよ、ふふっ』
『フッ、何勝手なセリフを言っている。最終話にはまだはやい、勝てば蛇足のエピローグもありだ。まだ俺のゴッチャマグナムはかませるぞサンダーファング。雷龍が禁じ手ばかりの悪を前に電池切れか?』
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⬛︎⬛︎……
発生した痺れるエネルギーに空間は歪み、光の粒が弾け、時を逆行するように流れた夢幻の胞子たちが発芽していく。
「これは…な、なんだこのオーラ……!??」
「それが……それがお前の物語かァァ!! 哀しいなぁッ!!ナッツ・カミナリぃぃ!!!」
歪み観せられた一瞬の夢幻は元の景色へと戻り、重ね合わせた剣が空を落ちてゆく。
そのまざりあったオーラに覗き見たのは誰の夢か、誰の物語か、
時の大河の元ゆく流れに戻り、崩れゆく舞台に最高潮に達した王子の演技は、それはもう泣きながらとても醜い笑顔で何も知らない少女とともに奈落の底へと向かっていった────────────────。