雷夏先生とゆく、緑蜜高等学校ダンジョン部!!! 作:山下敬雄
塔は焼け落ち、崩れ散らばった広大な景色だけが広がっている。
巨大茸のオーラ胞子のみせていた夢幻の軍勢は光の粒と消え去った。
暗雲が立ち込めていた空はいつの間にか青く染まり……
振り返って笑顔でダンジョン部の者たちを遠目に眺めていた雷夏は、また彼の方を向いた。
「そういえば、──その錆びついた鍵はまだ手元にあるのか?」
「なに? ……甘い蜜のかほりはしないぞ。それでも求めるのか……ハミングバード?」
「あぁ、それでも構わない。嘘かまことか気になってしまったからな! 一度気になってしまったらそれこそっ! 忘れられないだろ? ははは」
「ならもっとよく見せろ」
「あぁ、好きなだけ見ていいぞ、そんなに夏ちゃんが気に入ったならなははは」
ボロついたジャージ姿と、台無しになった舞台衣装。
そんな女と男は顔と顔をちかく向かい合った。
雷夏は頭へと伸ばす男の手を遮ることもなく、真っすぐにその赤の瞳で見つめている。
さっきまで命と命をぶつけ空で闘っていたそんなこともすっかり忘れたかのように。
毒を恐れない彼女の言動と表情その瞳に……毒気を抜かれてしまった黒幕王子は青い頭の上に手をそっと置いた。
「フッ、そうさせてもら────」
「んや? どうし」
王子がよく覗き込んだその赤い瞳の奥には……
より鮮明に、かかっていたモヤがやがて晴れて……
そのおぼろげな存在が明るみになる……
モヤを晴らして、そのシルエットが、少女の記憶と少女の視界にダイブしていた王子の視界へと、コツコツと妖しげな足音をたてて近づいてくる…………。
【憎悪のエネルギーですか。それは興味深い────】
目と目が合う。それはおぼろげではなく、追体験でもなく、今まさに味わうリアルのように。
少女の記憶の中を歩き、彼へと問いかけるその未知の存在が────ワラった。
「記憶が見ているッッありえな……!!! オーラ攻撃!!? まずいっ!!?」
そのとき青ざめた王子の体が咄嗟にとった行動は、記憶の中で見た男とデジャヴするように。
なんとしても守ると、思ったからだろう。
それは前触れのわずかな突如のことだった。
妖しい風が通り抜け、とつぜん前から突き飛ばされた雷夏は倒れた地から何事かと立ち上がった。
雷夏が表情を変え唖然と見つめるそこには立つ男がいた。左の腹をひどく抉られながらも、うなだれ立つ黒幕王子の姿があった。
王子はよろよろと歩き近付きながらも唇は何かをつぶやこうと……驚いた彼女はそんな今にも倒れそうな彼を支えようとした──そのとき。
「おい雷夏ッッ!!! 大丈夫か!!!」
飛ぶ犬首を斬りつけた。
異変と殺気に駆けつけたムスイが、2人に襲い掛かってきた空を泳ぐ謎の犬首をその剣で割り込み追い返した。
「あぁ……すまないムゥちゃん終わったとばかりに油断した。カイト生徒、黒幕王子をたのめるか」
「は、ハイ!!! す、すぐに回復します!!!」
雷夏はそう言うと、遅れて駆けつけた海都に酷いダメージを受けた王子のからだを預けた。
そして雷夏と黒幕王子、2人を襲った空をとてつもない速度で泳ぐ3つの正体が────ひとつに集い、地に落ちた。
「これは、な、なに???」
「────ケルベロス、ひょっとするとさんびきのハイエナの恨みかい」
とても綺麗とはいえない恨みのオーラで混ざり、顕現した──
月山がうろたえたその化物の正体をシデンレイラは【ケルベロス】と、その三つ首がひとつの生命となった姿から名付け形容した。
「雷夏、ソイツを倒すのに秘刀をたっぷり使ったろ。集中力を欠いた貴様はさがっていろ。ボスおわりのボス級だ、コイツは私がヤル!」
「黒幕王子に庇われたんだ、そうも言っていられない。だけど、んや、──しばらく前は任せた。息とオーラを少しととのえるまでな」
「フッ、そのぐらいの冷静さはあったか。あぁ、引っ込んでまかせておけ! 魑魅魍魎の奈落とやらでは斬り足りぬと思っていたところだ」
「って、こ、こんなの相手じゃ…援護射撃ぐらい必要な感じでしょ! ……でしょ……?」
「このオーラ……伊達じゃないってやつかい? 相手はいっぴきのさんびき、なら右の首はワタシが受け持ったほうがよさそうかい!!(死の…オーラ? いや、混沌としたこれはいったい……本当に恨みに噛みつかれたというのかい)」
疲れのみえる青髪に代わり、赤髪の剣士が前へと躍り出てその剣を巨躯の三つ首へと構えた。
このダンジョンの支配者との決着をつけた……その直後に突如現れたのはまさかの遅ればせの、三匹のハイエナたちの恨みか。
それが今集い、赤黒く渦巻いたオーラの渦と共に、恐ろしい地獄の番犬となりダンジョン部の前へと立ちはだかった。
その三つ首の咆哮が耳をつんざき、空をふたたび灰色の暗雲へと染め上げる。
空気を震わせ……緊張感を高める……見たこともないモンスターのご挨拶に、ムスイを先頭にダンジョン部の者たちは武器を取り、誘われた予期せぬ舞台への番犬へと──オーラを振り絞り立ち向かった────────。